時が過ぎるのは早いもので、一学期が終わり夏休みとなった。
期末テストでは全教科満点を取ることができたので、非常に良い気分で休暇を迎えられた。
そして、お待ちかねのイベント。
豪華客船によるバカンス期間がやってきた。
「綺麗な景色だね……」
「うん。まあ、桔梗ちゃんの方が綺麗だけど」
「もうっ、恥ずかしいこと言わないでよ。あんたはそういうキャラじゃないでしょ」
俺たちはデッキで二人、ラブラブな時間を過ごしていた。
贅の限りを尽くした旅行。こんな経験はそうそう出来るものではないので、個人的には楽しみにしていたイベントだ。逆に言うと、俺がこの学校に期待しているのはこれだけだったとも言える。
「……また二人の世界に入ってるぞ」
「クソッ……あいつばっかり良い思いしやがって」
男子からの嫉妬の目も、今では全く気にならない。だから、こうやって……
「んんっ……」
堂々とキスをしたりするのも、抵抗がなくなった。
周りの人間なんか、居ても居なくても一緒だ。
「……晴翔くん、最近すごく積極的になったよね」
「俺はもう、桔梗ちゃんのことしか見てないからな」
「嬉しい。ありがとっ!」
俺たちは抱き合って、野次馬どもに関係の強さを見せつける。
一人、また一人と去っていく。だんだんと静かになり、俺たちだけの空間が醸成される。こうすることが、二人きりになる上でも効果的であると理解していた。
……お前ら全員、俺の眼中に無い。言葉にはしないまでも、行動でハッキリと示してやることで、諦める者が増えていくのだ。
まさに幸せの絶頂。最高の気分で、俺は船上生活を楽しんでいた。
しかし、一つだけ気になっていることがあった。
(何か、足りなくない?)
謎の違和感。俺をモヤモヤさせるのは、前世の記憶だ。
無人島という言葉が頭をよぎる。厳しい環境でサバイバルをする試験が、あったような……?
だが、乗船三日目となってもそのようなイベントが行われそうな雰囲気は一切ない。何の不安もなく、各々が全力でバカンスを楽しんでいる。
学期末に旅行期間が一週間であると聞かされた時から、「おや?」と思っていた。決して短くはないし、旅行としては適切な設定なのだが……どうも変な感じだ。
……多分、勘違いだろう。記憶といっても朧げなものだし、そもそも俺の「知識」がこの世界で通用する保障などどこにもない。そう割り切って、思考を止めた。
そのとき、突如その場にいた全員の携帯から甲高い音が響き渡った。
『生徒の皆さんに連絡いたします。先ほど全ての生徒宛に学校から連絡事項を記載したメールを送信いたしました』
このタイミングで、これが来るのか。
優待者を当てる特別試験。桔梗ちゃんと顔を見合わせてから、メールの中身を確認した。
……やっぱり、何か違うような気がした。
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翌日。
昨夜のルール説明を踏まえて、今日から特別試験が始まる。
俺のやる気はゼロに等しい。どうせあと二ヶ月だし、勝とうが負けようがどうでもいい。それより、桔梗ちゃんとの二人の時間が減ることの方が問題だ。
そこで俺は、予想される優待者の名前をメールして、速攻で試験を終わらせた。「知識」に基づくものなので合っているかはわからないが、終わりさえすればなんでもいい。
『兎グループの試験が終了いたしました。兎グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動して下さい』
今回の試験は匿名性が担保されているので、誰がメールしたかはわからない。
同じグループにいた綾小路は不審そうにしていたが、特に気にすることはなかった。
あとは桔梗ちゃんだ……と、思ったのだが。
「私が優待者になっちゃったんだよね……」
「マジか、それはアンラッキーだ」
桔梗ちゃんが振り分けられたグループのディスカッションが終わった後、俺たちはレストランで会っていた。そこで知らされた事実は、考えうる限り最悪なものだった。
「どうしよっか。私も、こんな試験さっさと終わらせたいんだけど」
「うーん……」
当然ながら、優待者はメールを送る権利を持たない。これはもう仕方ないと思うしかない。
では、どうしたものかと考える。さすがに他クラスへバラしてしまうのは、まずいだろうか?
……いや、それでもいいかもしれない。今さら誰かに目をつけられたところで、大した問題ではない。裏切り者だとバレたとしても、逆に退学しやすくなるぐらいだ。
そんなことを考えていると、一人の男子生徒が話しかけてきた。
「ククッ、熱いなあ」
「誰だお前」
ガラの悪い男が顔を近づけてくる。面識が無い上に、絡まれている意味も分からない。
面倒ごとは避けたいと思っていたところ、桔梗ちゃんが反応した。
「龍園くんだよ。Cクラスの」
「……あぁ、そんなやついたっけ?興味がないから、全然知らなかった」
俺の言葉に、龍園と呼ばれた生徒の顔が歪む。
「いきなり喧嘩を売ってくるとは、いい度胸じゃねえか」
「喧嘩も何も、事実を言っただけだろ」
先ほどから因縁をつけられている。殴ってきそうな雰囲気を感じ取った俺は、少し警戒する。
本気でダルい。これだからチンピラは嫌いなんだ。
「……龍園くんは、私と同じグループになったの。それで話しかけてきたってことだよね?」
にらみ合う俺たちを見て、桔梗ちゃんが話に割り込んでくれた。
これは助かる。こういう気遣いができるのも、本当に好きな部分だ。
「けっ、彼氏がこんな奴だとは思わなかったぜ」
龍園は悪態をつきながら、その場を去ろうとする。
ここで俺は、この男が桔梗ちゃんと同じグループだということを知った。
……好都合なんじゃないか?
「俺がどんな奴だろうと、どうでもいいだろ。それよりお前に一つ教えてやるよ」
「はあ?」
「お前のいるグループ、桔梗ちゃんが優待者だから。ポイントが欲しければ指名しとけ」
「テメェ、マジで頭腐ってんのか?」
龍園に優待者を当てさせてやることにしたのだが、反応は芳しくなかった。
俺の意図を理解できないといった様子。明らかに動揺しているのは、ちょっと想定外だ。
……ああ、こいつ使えねえわ。正直に話を受け取ってくれないタイプの人間。今頃こいつの頭の中では、俺の言っていることはブラフか何かだと考えているはず。
性格がクソで役にも立たないとか、邪魔でしかない存在だ。
「いいから早くメールしろよ。50クラスポイント、必要だろ?」
「馬鹿にするんじゃねえ、カスが」
俺が促しても、突っぱねられてしまう。
これ以上話すつもりもないのか、龍園は再び身を翻した。作戦失敗だ。
はあ……と、ため息をついた。そんな俺を見て、桔梗ちゃんは呆れていた。
「……あんたって、結構突っ走るタイプだよね」
「そうかな?」
言われてみれば、その通りかもしれない。基本的にはめんどくさがりなのだが、何か目的があるとそこへ向かって一直線に動いてしまう傾向がある。
「まあ、そういうところも好きなんだけど。そんなに私と一緒にいたかった?」
「もちろんだ。むしろ、それしか考えてないよ」
「……あー、恥ずかしい」
桔梗ちゃんは照れたように、顔を背ける。嬉しいのが丸わかりだ。
可愛すぎる。早く終わらせたいという気持ちが、より一層強くなった。
それと同時に、お尻を見てムラっときてしまった。四日間も出していないから仕方ない。
だが、船にいる間は禁欲生活を続けなければならない。するとしても、隙を見てセルフ処理する程度のもの。他の生徒との相部屋でおっ始めるわけにもいかないし、我慢我慢だ。
……これまで毎日のようにやり続けてきた、彼女との性交渉。その機会を奪われるというのは、なかなか辛いものがある。バカみたいな話だが、これは俺にとって一番の誤算だった。
あんなにエンジョイしていたのに、今は早く帰りたいという思いが強い。
桔梗ちゃんはどうだろう?彼女なりに、楽しめているのだろうか。
(……あと三日の辛抱だ)
これが二週間とかだったら、桔梗ちゃんを連れて無理やりリタイアしていただろう。三日我慢すればえっちできると思えば、なんとなく頑張れそうな気がしてくる。
終わってからが楽しみだ。死ぬほど気持ちいいだろうなあ……
「さっきから、変な目してる。どうせやりたいんでしょ?」
「うっ、バレた?」
「それぐらいわかるよ。まったく、私も我慢してるんだから……」
内股をもぞもぞと動かしている。これはヤバい。この場で襲ってしまいたくなる。
暴れる性欲をどうにか抑え込むため、心を無にして静かな海を見つめた。
その夜は、ストレスを感じてしまいなかなか寝付けなかった。
気分は薬物中毒者だ。桔梗ちゃん成分が足りないと禁断症状が出てしまう。
あちらも同じ状況になっていることを知ったのは、翌日の朝のことだった。桔梗ちゃんは目の下にクマを作り、終始眠そうにしていた。ムラムラして全く眠れなかったらしい。
……やはり、俺たちはどうしようもないぐらい依存し合っているようだ。