※この作品はR-18です。

優しさを失った雑魚   作:トラウトサーモン

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 R-18はまだ先のことです。

 この男の前世とか、設定はあるものの書くつもりのなかった話はこちらに盛り込みます。
 とはいえ、こちらを読まないとダメということは決してありません。だから没にしたのです。


第2話

 部屋に戻った俺は、櫛田から詳細な話を聞き出した。

 

「ふーん、まあ人間そんなもんだろ。別にお前は何も悪くないじゃん」

「……意外。あんたがそんなことを言うとは思わなかった」

「だって事実だし。公園で暴れてたのだって、過去の出来事を教訓にしてるからこそだろ?」

 

 優しくしてみようと思ったが、それ以前の話だった。

 中学時代の事件について、こいつは特に悪くないことがわかった。あえて言うならネットリテラシーが低かったのが問題だが、所詮その程度の話。

 このエピソードを隠そうと思うこと自体、俺にはよくわからなかった。

 

「はあ、入学早々こんな変な奴に捕まるなんて……」

「くくっ、自分の運の無さを呪うんだな。あと一ついいか?」

「何?」

 

 ジトっとした目で俺を睨みながら、櫛田は次の言葉を待った。

 言うべきかどうか一瞬悩んだが、ここで遠慮する必要が全くないことを思い出した。

 

「学校でのお前より、今のお前の方が圧倒的に可愛いぞ。今後、俺の前で演技をするな」

「いきなり何言ってるの?」

「そのままの意味だ。ああ、だけど学校での立場もあるか。俺と二人でいる間だけでもいいから、素の櫛田桔梗を曝け出せ」

「……そんなこと」

 

 めんどくさくなった俺は、櫛田をベッドに押し倒した。

 

「勘違いするな。俺とお前は友達じゃない。さっきお前が話した内容を脚色して、学校中に広めてもいい。そこでお前から反撃されたところで、俺には何の問題もないんだ」

「……どうせ、退学するから?」

「わかってるなら黙って言うことを聞け。お前には、俺の話し相手になってもらいたいと思ってる。半年間ずっと一人で過ごすのは、あまりにも退屈だからな。そして、その相手がずっと『営業モード』では困るんだ。建前で話すような、めんどくさい関係は求めていない」

 

 顔を耳に近づけて話すと、櫛田はぞくぞくっと身体を震わせた。

 少し顔が赤くなっているのがわかった。こう見えて、意外と初心なのかもしれない。

 

「わかったから、離れてよ……私の素顔を知ってる相手に、今さら取り繕っても遅いでしょ。もう諦めてるから、それはいい。だけど、話し相手って何?私が友達じゃダメなわけ?」

「この学校で友達は作らないと決めている。作ったところで、二年以上会えなくなるんだ。いずれ疎遠になることが確定しているのに、仲良くする意味もない」

 

 どうも納得いかないようだが、譲るつもりはない。半年後に退学することは、すでに俺の中では決定事項だ。今日の動きだって、退学が前提でなければできなかっただろう。

 半年というリミットがあるからこそ、何も考えず好き放題することができるのだ。

 

「ほんと、あんたってムカつく」

「おう、その調子だ。お前はそれでいいんだ。マイナスの感情を隠す必要はない」

「うるさいな、死ね」

 

 汚い言葉を吐きつつも、その顔は笑っていた。

 期限付きのパートナーとしては、悪くない相手だと感じた。

 

 

 

 それからというもの、櫛田は毎日欠かさず俺の部屋へやってくるようになった。

 なんだかんだ言っても、話し相手という役割をしっかり遂行してくれている。

 

「それにしても、堀北はマジでうぜえな。お前が嫌う気持ちもよくわかる」

「でしょでしょ!今日のあいつヤバかったよね。『用がないなら話しかけないで』って、誰もお前となんか話したくないっつーの!」

 

 こんな感じで、割と懐かれている。

 話題にあがった堀北という生徒だが、すでにクラスで完全に孤立している。あいつは俺ですら引くレベルで、周囲の人間を突き放す。無視するならまだしも、いちいち癪に触る言葉を用いて罵倒してくるのだからどうしようもない。櫛田がどうというより、今のあいつを好きになる人間がいるのか怪しいレベルだ。

 

 ただ一人例外がいる。綾小路清隆という生徒のみは堀北を拒絶せず、相手してやっている。

 俺にとっては、この綾小路が問題である。今のところ、この男とは一切絡むつもりがない。

 なぜかというと、あいつがこの学校における「主人公」であることを知っているからだ。また、その背景……ホワイトルームという場所で壮絶な教育を受けてきたのも、頭に入っている。

 下手な関わり方をすると、痛い目に遭うことは確実だ。この学校から退場するまで、関係を持たないことが最適であると判断した。

 

「ああ、そうそう。ポイントは無駄遣いしないほうがいいぜ。来月は多分もらえないから」

「そんなわけないでしょ」

 

 あるんだな、それが。

 

 

 

 俺の周辺に異変が起きたのは、四月下旬のことだった。

 その日は普通に学校で一日を過ごし、スーパーで買い物をしてから部屋に戻ってきた。

 すると扉の前に、怪我を負った少女が座り込んでいた。それが誰かというと……

 

「……マジかよ」

 

 ふざけんな、という言葉が出かかった。

 

「あっ」

「お前はもう俺と関係のない人間のはずだ。なぜここにいる?」

 

 俺が十年以上にわたって仕えてきた、元主人だった。

 今さらこいつを恨んでいるということはないが、俺の腸は煮えくり返っている。

 あなたの助けは不要です。そう言われた事実を忘れることはない。二度と関わらないと決めたからこそ、あの酷い言葉だってすんなりと受け入れることができたのだ。なのに、こうして俺の前に現れるなんて、話が違うじゃないか。別れてもなお、俺に苦痛を与えようというのか?

 

「ま、待ってください……」

「それは無理な相談だ」

 

 そう言って、俺は部屋の中へ入り速やかに扉の鍵を閉めた。 

 怪我が痛いのか知らないが、誰かに助けてもらったらいいじゃないか。

 とにかく関わらないでほしい。手に入れた自由を再び失うことは、到底受け入れられない。

 毎朝五時起きの生活。忌々しいとさえ思える記憶が想起される。

 

(本当に、よくやってたよ俺は……)

 

 今でもまだ、前世の未練を完全に断ち切れたわけではない。あいつに捨てられて以降、あの嫌な夢を見る回数は増加した。しかし、それから逃れるための代替品として、あいつを選んだことは間違いなく失敗だったのだ。

 前世の夢によって受ける苦しみと、あいつとの生活で受けた苦しみ。当時は感覚がマヒしていたのでわからなかったが、その二つでは後者の方が辛かったと今は理解している。

 

 夜に櫛田が来てくれたことを、とてもありがたく感じた。来月ポイントが振り込まれないことをわかっているのに、夕飯を奢ってやる程度には嬉しかった。

 やはり、正常なメンタルを保つ上で話し相手の存在は重要だ。堀北のように完全なる孤高を貫くということは、俺みたいな雑魚には無理な芸当であった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 適当な生活を送っているうちに、五月が訪れた。

 今日で定められた期間の六分の一が経過したことになる。

 いやはや、意外と早いものだ。父の言う「面白いもの」はまだ見られていない。それを見る前に終わってしまうのではないかと、逆に心配になってきた。

 

 ポイントが振り込まれていないことで、クラスは阿鼻叫喚となった。

 茶柱の罵倒を落ち着いて聞いているのは、俺と綾小路……それから櫛田のみだった。

 だからといって俺は変わることもなく、ホームルームの終了とともに帰宅した。

 

「……高城が言ってたこと、本当だったんだ。疑ってごめん」

「いいよ別に。あんなことをいきなり言われて、信じる方がどうかしてると思う」

 

 櫛田が謝ってきたが、全く気にしていない。そもそも知っていたのは前世の知識というとんでもないチートがあるからで、俺の実力でもなんでもない。また、そういうのを大っぴらに言って悦に浸る趣味も無いので、櫛田以外には誰にも言っていない。

 

「それにしても、櫛田は律儀な奴だな。俺が弱みを握ってるのは事実だが、毎日来いとは言ってない。今の状況はお前の自由を束縛しているみたいで、さすがに悪い」

 

 こいつはあの日から一日も欠かすことなく、俺の部屋へ来ている。カラオケや食事会で遅くなった日も例外ではない。俺と会話するため、必ず部屋へとやってくるのだ。

 

「……嫌とか思ってないから、気にしないで」

「だが、このイベントのせいでキャンセルした予定だってあるだろう。ルールが必要というなら、今後は二日に一回、いや週に一回でもいい。あくまでも俺が求めていたのは話し相手であって、呼びつけるような意図はなかったんだ」

 

 退学直前まで言うつもりはないが、俺は学校を辞める日に残っているポイントの全額をこいつにくれてやる予定だ。他の誰かと交友を持つ気もないし、別れの品としては悪くないだろう。

 

「私と会うのが嫌ってわけ?」

「そんなわけない。元々俺がお願いしたんだぞ?」

 

 おかげさまで、今のところ退屈していない。

 櫛田には多くの友人がいるため、話のバリエーションが豊富だ。また、こいつの本来の性格……クラスの奴らに対する毒舌っぷりも聞く側としては非常に面白い。他人の悪口というのは、話題としては最上級のものであると実感する日々だ。

 

「じゃあ、毎日でもいいでしょ。本音で話すのに、疲れることもないし」

「……実はお前も楽しんでたりする?」

「さあね」

 

 そう言って横を向いた櫛田は、照れているようにも見えた。

 友達ともいえない不思議な関係。それは案外、心地良いものであった。




 あちらが週1~2回、こちらが月1~2回程度の更新ペースをイメージしています。

 実はちょっとスランプというか、展開は決まっているのですがいい感じに描写できないというのが続いていて……気分転換も兼ねて、この作品を書いています。
 こちらは特に何も意識することなく、最悪設定の矛盾が発生しても後で直せばいいぐらいの勢いで書き上げているので、結構楽しんで制作できています。ある意味、こっちの雑魚くんと似たようなメンタルになっています。

 なので、しばらくこっちの方が頻繫になる可能性もあります。
 だからといってエタることはしないので、そこに関してはご安心ください。
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