※この作品はR-18です。

優しさを失った雑魚   作:トラウトサーモン

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 あんまりな終わり方だったので……書きたくなってしまいました。蛇足ってやつです。


番外編・エピローグ

 さらに時が流れ、俺たちは大人になった。

 なんとか留年することなく、二人とも無事に大学を卒業することができた。

 そして、俺は地元の役所へと就職した。筆記試験はともかく、大したエピソードもないのに面接を通過したことについては、事務次官である父の存在が大きかったような気もする。

 ……さすがに圧力はないだろうが、「気を遣う」ぐらいのことはあっただろう。

 

「じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい!頑張ってね!」

 

 満面の笑みで、俺を送り出してくれる妻。

 今もなお、帆波はあの一か月と変わらないレベルで尽くしてくれている。社会人として働く気力を失わなかったことが不思議なぐらい、俺は堕落したプライベートを過ごしていた。

 

 役所までは自転車通勤だ。職住近接は素晴らしい。

 帆波は専業主婦として、明らかにオーバーワークな家事をこなす。そして、どんなときも笑顔で俺を待っていてくれる。その顔を見るたびに、最高の幸せと僅かな罪悪感を覚えるのだ。

 

「課長、おはようございます」

「おはよう高城くん。例の案件のことなんだけど……」

 

 挨拶した直後、いきなり仕事を振られてしまう。

 意外といえば意外だが、俺は「それなりに優秀なヤツ」として職場で認識されていた。帆波と離れると気持ちが締まるというか、本来の自分が戻ってくるような感覚になる。

 

「ああ、入札の話っすね。後で業者にメール返しときます」

「ごめんね~、忙しいのに」

「いえいえ」

 

 もし、この人たちが家での俺を見たらどう思うのか。ドン引きだろうな。

 今の時代、三行半を突き付けられてもおかしくないほどのダメ亭主である。着替えを手伝ってもらったり、風呂で毎日身体を洗ってもらうような男なんて、普通の人間はお断りだ。

 ……俺がまっとうな大人になっている時間は、勤務中だけなのかもしれない。

 自分のデスクに座り、気持ちを切り替えてキーボードを叩く。さあ、仕事だ仕事。

 

 

 

 課せられた業務をそつなくこなしていると、あっという間に夕方となった。

 俺は五時半ごろ退勤して、まっすぐ家へ帰る。今日はノー残業デーなのだ。

 職場のイベントや飲み会は基本的に断っている。送別会など、適切な人間関係を構築する上で必要なものは参加するが、それも一次会のみで帰ることにしている。

 その理由は単純。俺の帰りが遅れると、帆波が見ていられないほど落ち込んでしまうからだ。

 

「おかえりっ!」

 

 ぎゅっと、その美しい身体で抱きしめられる。そして深い深いキスをして、お互いの愛を確かめる。これは就職してから一度も欠かしたことのない習慣だ。

 

「ご飯も作り始めてるけど、まだ六時前だし先にお風呂入ろっか。今日は結構暑かったから……早くすっきりしたいよね」

 

 そう言いながら、俺の服を脱がしていく。その行動に情けなくも股間が反応してしまい……いきなり風呂場で一回戦となった。爛れた関係も、相変わらずである。

 

 

 

 夜中、二人でベッドに横たわる。今日も激しく交わったのでヘトヘトだ。

 ……付き合って以降、生理の時以外はほとんど毎日やっている気がする。学生の頃と違うのは、避妊するかどうかぐらいだ。

 

「そろそろ寝ようか」

「うん、おやすみ」

 

 にこっと笑う顔は、まるで天使のよう。何年経っても可愛い。

 ……生活に対する不満は一切ない。帆波のことは誰よりも愛しているし、一生懸命俺を支え続けてくれることに深く感謝している。浮気や離婚など、一生しないという自信がある。

 

 だが……頭のモヤモヤは、いまだ解消されることはなかった。

 大学時代と比べてもさらに大きくなり、毎日俺を悩ませ続けている。

 答えの出ない問題を考え続ける姿を見て、帆波は心配そうな顔をする。また、そんなことで彼女に不安を与えてしまう自分が、もっと嫌いになっていく……悪循環である。

 

 しかし、ここがターニングポイントとなった。

 俺が全てを取り戻すきっかけとなる言葉を、帆波はもじもじしながら発した。

 

「あ、あのね……晴翔くん」

「どうした?」

 

 顔を真っ赤にして、指をいじらしく動かしている。

 

「私たち、ママとパパになる……かも」

「……えっ」

 

 ……子供?

 その話を聞いた途端、頭の中のスイッチが切り替わった。

 急に、かつてのことを思い出す。誰かのために努力を続けていた、幼少期のこと。何の見返りもないのに、ただ守りたいという思いだけで身体の弱い少女を助けていたこと。

 純粋な気持ちで、頑張っていた。苦しくも尊い思い出が蘇っていく。

 

(……有栖ちゃんが、今の俺を見たらどう思うのだろう)

 

 銀髪の少女の姿が脳裏に浮かぶ。今どこで何をしているのかはわからないが、俺のこんな姿を見たら、きっと嘲笑されてしまうだろう。ああ、恥ずかしい。

 彼女は傲慢であり、性格は悪かった。しかし、その厳しい態度があったからこそ、俺は俺でいられたのだ。それに比べて現状はどうだろう。俺は、子供と向き合える大人になっているだろうか?

 答えはノーだ。……帆波の優しさに甘え続け、怠惰を絵に描いたような人間。こんな男が父親になるなど、許されざることだと思う。

 

 自分を変えないと。いや、取り戻さないといけない。己を恥じると同時に、気持ちを新たにした。今ここで、取り返しのつかないことになる前に気づくことができたのは大変な幸運である。

 ……まだ、天は俺を見放していなかったのかもしれない。

 俺が探し続けていたのは、守るべき相手だった。それは今、愛する妻のお腹の中にいる。そうと知ったら後悔なんてしている暇はない。全力で助け、支えるための準備をしなければならない。

 

「よしっ、明日はみんなでベビー用品を買いに行くぞ。うちの親父も休みだったと思う」

「ええっ!?いいのかな?」

 

 おいおい、楽しいじゃないか。遅かった?いいや、そんなことはない。行動するのに遅すぎるなんてことはない。動こうと思ったその時が、ベストタイミングである。

 止まった時計が、確実に動き始めている。心が明るくなり、頭のモヤモヤが晴れていく。

 

「お義母さんにも報告しないとな。あー、マジでうれしい。これから忙しくなるぞ?」

「そ、そんなに喜んでくれるなんて……」

 

 帆波のことが愛おしくてたまらない。身重の体になるから、今後はできる限り労わらなければならないが、これまでのお礼をできると思えばどうってことない。

 むしろ俺は、感謝の気持ちをカタチにできる日を待ち望んでいたのだ。

 

「ずっと、俺を甘えさせてくれてありがとう。でも……ここからは、お互いに支え合おう」

 

 この時、俺と帆波は本当の意味で結ばれたのかもしれない。

 もう一度言う。この人生だって、一つの正解だ。




 これで本当に終わりです。
 何の計画もない番外編でしたが、書いていて楽しいものでした。
 駄文に付き合っていただいてありがとうございました。

 また何か思いついたら、投稿させていただくかもしれません。
 18禁展開も含め、あまり深く考えず書く場所にしているので、いろいろと粗いかもですが……こちらはこちらで、お付き合いいただけたら幸いです。
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