学校のルールが大幅に変わることを伝えられたのは、有栖ちゃんを連れ込んだ翌日だ。
始業式を欠席した俺たちは、他の生徒より遅れてそれを知ることになった。
「すごいことになってるなあ」
「うん。まあ、私たちにはもう……あんまり関係ないけどね」
茶柱から手渡された小冊子をパラパラとめくり、目を通していく。
毎月支給されるポイントの減額、それと引き換えに休日に限り敷地内の施設における「バイト」を許容することなど、この学校の在り方を前提から覆すようなものも散見される。
そして最終ページには、坂柳父に代わる理事長……「月城」による理事長印が押されていた。
「なんか、学校が急に貧乏になった感じだ」
全てにおいて、なるべく出費を抑えようという意図が見える。無料商品の個数制限を厳格化する程度のことは勿論、節電や節水のお願いまで記されている。よっぽど経営が苦しいようだ。
夏休みの客船旅行だって、あの時は俺の「知識」を信じられずにいたが……今思えば、本当に短縮されていたのかもしれない。やれただけマシとも言える。
余談だが、俺と桔梗ちゃんの退学届は問題なく受理された。ここで一悶着あると予想していたので、これまた意外な結果だった。理事長の交代が良い方向に作用したようだ。
……そう、交代である。
昨日行われた理事会で、坂柳理事長の解任が正式に決定したらしい。その理由を説明されることはなかったが、何か学校でとんでもないことが起きていると、生徒全員が察していた。
「……」
今日、綾小路は俺の顔を何度も見つめてきた。俺が首謀者ではないかと疑っているのかもしれないが、残念ながら何もしていない。ただ……
「黒幕が誰かなんて、わかりきってるけど」
「えっ?」
俺の呟きに、桔梗ちゃんは首をかしげた。こういう仕草一つ取っても絵になるからずるい。
「桔梗ちゃんは、心配しなくても大丈夫だよ。つーか、何が起きても俺が絶対守るから」
「ありがと……本当に、あんたっていい彼氏だよね。大好き」
その身体を抱き寄せると、幸せな気持ちになる。桔梗ちゃんも嬉しそうに、俺の胸に顔を擦り付けてくる。あーもう、可愛い!
もしかしたら、こうして運命の相手を見つけることさえ予想通りだったのかもしれない。
……坂柳に対する復讐。彼らに与えるダメージを最大化するために、俺が別の幸せを掴むことが必要だったとすれば?……全ては、あの天才の手のひらの上だったという話になる。
つまり、これから見られるものこそ、「面白いもの」なのだ。
嵐を起こすと噂される男が何をしでかしたのか、楽しみでならない。
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放課後。部屋に戻ると、有栖ちゃんがベッドに座って待っていた。
学校に連れて行くという選択肢はなかった。そんなことをすれば俺の負担が段違いに大きくなるし、そもそも本人が行きたがっていない。今さら他の生徒に合わせる顔もないだろう。
「お、おかえりなさいませ」
微笑んでいるが、どうも元気がない様子。
「もしかして、何も食べてないの?」
「……はい」
桔梗ちゃんの質問に、俯きながら答えた。遠慮していたのか……いや、食べられそうなものがなかったのだろう。カップ麺などのインスタント食品は、自炊するようになってからほとんど買わなくなっていた。まさか料理などできるわけもなく、空腹を耐えながら待っていたというわけだ。
「しょうがない奴だな。少し待ってろ」
俺はそう言って、買ってきた食材をキッチンに広げた。
少し早いが、晩御飯にしよう。栄養不足でぶっ倒れられてもめんどくさいからな。
一時間後。
テーブルに並べた料理が、食欲をそそる香りを放っている。今日のメニューはハンバーグだ。付け合わせのポテトサラダも、コンソメスープも良い感じ。我ながら、うまくできたと思う。
日に日に調理スキルが上がっていることを実感する。中学時代は常に疲れている状態であったため、こういった作業を楽しむという概念がなかった。やはり余裕を持つことは大切だ。
「とても、とても美味しいです……ありがとうございます」
有栖ちゃんは感動しながら、ものすごく美味しそうに頬張っている。こうやって誰かの手料理を食べること自体、かなり久しぶりなのかもしれない。俺としても、こんなに喜んでくれれば作った甲斐があるというものだ。明日は何を作ろうか?
「この人は私のものだよ?」
「……ごめんなさい」
キラキラした目で俺を見ていたが、桔梗ちゃんからの強い牽制を受けて急に縮こまってしまう。昔では考えられないような、弱々しい態度だ。これはもはや、別人と言っていいレベルである。
彼女の心はすでに折れており、もう戻ることはない。深い絶望というのは、これほどまでに人を変えてしまうのか……と、俺は他人事として考えていた。
食事の後、俺たちは今日も有栖ちゃんを風呂に入れた。
かつてやっていたように、丁寧に丁寧に頭と身体を洗い上げてやる。
……それ自体はいいのだが。
「ムラムラしてる?」
「はい」
にやにやしながら、桔梗ちゃんは硬く大きくなった息子を見る。
ここ最近、風呂で一回戦を行うことは俺たちの日常と化していた。昨日はまだ大丈夫だったが、今日は耐えられそうにない。桔梗ちゃんとの毎日によって増幅した性欲は、たった一日の我慢でも限界を迎えてしまう。その白い素肌、整った顔立ち、大きく柔らかな乳房……彼女の全てに性的な魅力を感じ、目を離せなくなる。
「……あー。そんな風に見られたら、私も我慢できなくなる。有栖ちゃんには悪いけど、ここでやっちゃうから。見たくないなら出てっていいよ」
「だ、大丈夫です……」
返答を聞き終わる前に、桔梗ちゃんは慣れた手つきで俺のモノを膣にあてがう。我慢汁と愛液で、スムーズに奥のほうまで挿入された。気持ち良すぎて暴発しそうになるのを必死で堪え、少し落ち着いてから腰を動かす。これはもう、短期決戦になってしまいそうだ。
「気持ちいい……見られながらするのも、興奮するね」
桔梗ちゃんの顔に浮かぶのは、嗜虐的な笑み。俺はその表情にゾクゾクとしたものを感じて、強引に唇を奪う。突然のことに一瞬驚いた後、楽しそうに舌を絡ませてくる。
その刺激を受けて、腰の動きが自然と早くなり、フィニッシュが近づく。
「ごめん、もういきそうっ」
「うん、いいよ。中に出して?」
「桔梗ちゃん……っ!」
囁くような言葉を受けて、早くも果ててしまった。大量の濃い精液が、どくどくと膣内に流れ込んでいく。一日溜まっただけで、こんなに出るのか……
中の感触をしばらく堪能した後、ゆっくりと引き抜く。この時、桔梗ちゃんは名残惜しそうにキュッと入り口を閉めるクセがある。それがまた、腰が砕けそうになるほど気持ちいいのだ。
「ふふっ、情けない顔しないの」
「いやいや、無理だって」
行為後はイチャイチャしながら、シャワーでお互いの身体についた体液を流していく。
ボディソープを泡立てて、優しく俺のモノを洗ってくれる。幸せすぎて頭がおかしくなりそう。
「……あっ」
ようやく、とろんとした目で俺たちのことを見ている少女に気づいた。
行為に没頭してしまい、つい忘れていた。そういえば、今日は二人きりではなかったな。
「……ふーん」
桔梗ちゃんは有栖ちゃんの様子を見て、何か感じ取ったらしい。
身体を一通り洗い終えた後に湯船へ入り、その隣に座った。そして……
「あっ、やぁ……やめて、ください」
「あんたも興奮してるんだ。わりと意外かも」
悪意たっぷりの笑顔を浮かべ、もぞもぞと下半身をまさぐる。薄く毛の生えた性器を軽く撫でるように、人差し指で刺激を加えている。すると、だんだん有栖ちゃんの顔が紅潮していって……
「はあっ、はあっ……」
「ん?……ああ、限界ってことね。ごめんごめん、上がろっか」
有栖ちゃんが息を切らせ始めたのを見て、手を止めた。心臓が悪いから、そろそろ厳しくなってきたのだろう。桔梗ちゃんはそのまま両脇の下に腕を回し、湯船から抱え上げる。
その行動を受けてさらに有栖ちゃんの顔が赤くなり、恥じらいつつ身体へもたれかかった。
「手伝わなくて大丈夫?」
「これぐらい余裕だよ。この子軽いし……晴翔くんは、ゆっくりつかってから上がって」
「了解、ありがとう」
先ほどとは違う優しい態度で、有栖ちゃんを連れていった。
お言葉に甘えて、二人が上がった後の浴槽に腰を下ろす。
「今は休んでていいけど、後でまた頑張ってね?」
「……はーい、頑張ります」
釘を刺された。やはり、あんな早漏では全然満足できなかったようだ。昨日していないこともあるし、これは一晩中絞り取られるパターンになりそうだ。まあ、その場合は学校を休めばいいか。
風呂場の白い天井を見上げながら、俺は彼女たちのことを考え始めた。
有栖ちゃんは、元理事長の件をどれぐらい知っているのだろうか。かなり追い込まれていることは理解しているようだったが、ずっと一人で引きこもっていたとすれば、いくら父親といってもさほど多くの情報は持っていないのかもしれない。実際、冷たい対応をされたことに傷ついてはいるようだったが、具体的な話を知っている感じではなかった。
だとすれば……あの男が理事長職を首になったことも、伝えておいたほうがいいのか?
それを知ったとき、有栖ちゃんの精神は壊れないままでいられるのだろうか?
……考えなくとも、いずれ知ることか。そもそも既に一度ぶっ壊れている人間だし、今さら気遣ってやる義理もない。俺たちはもう、主人と従者という関係ではないのだから。
俺が考えるべきことは、愛する桔梗ちゃんのこと。しかし、現状あの子は有栖ちゃんとのよく分からない関係を楽しんでいる節があるし、今のところアクションを起こす必要は無さそうだ。
なんだかんだ言っても、有栖ちゃんは頭がいい。観察力とか、人を読む力も高い。桔梗ちゃんの不興を買ったときに起きる事態だって、ある程度想定できているだろう。
自分にはもう選択肢がないことも、さすがにわかっているはず。そして、元理事長の没落を目の当たりにすることで、その認識はより一層強くなると思われる。
「そろそろ、クライマックスだ」
そう結んで、俺は立ち上がった。
最後の一か月。しっかりと、楽しんでいこう。
最近、またあちらの作品でスランプに陥っています……
しばらく、こっちメインになってしまうかもしれません。