活動報告に対してむしろこちらの方を楽しみにしていたというご意見もありまして、申し訳ないと思うと同時に嬉しさを感じています。以前と変わらず書きたいように書いているものですので、いろんな部分で粗さが目立つかとは思いますがよろしくお願いいたします。
時の流れは早いもので、退学の日まで一週間となった。
退去の準備も着々と進めており、すでに部屋の荷物は大方段ボールに梱包してある。
坂柳前理事長が検察に起訴されたというニュースが流れたのは、先週のこと。
裏金とか、いろいろと悪いことをしていたのがバレたらしい。
昔から叩けば埃が出る状態だったようだが、なぜ今になって捕まったのかはわからない。
……もっと言えば、あの人以上に悪いことをしている奴はいくらでもいるような気もするけど。
「ふふ……私はこれから、どうすればいいのでしょう?」
その話が世間に知れ渡ってからというもの、有栖ちゃんは全てを諦めたような態度を取るようになった。自慢の親が犯罪者になってしまったのだから、仕方ないのかもしれない。
ここ最近の有栖ちゃんは学校をずっと休んで、引きこもっている。あの人の娘だということは校内でも周知の事実であるから、彼女の性格的に考えても二度と登校することはないだろう。
「うーん、とりあえず晴翔くんのご両親に謝ったら?」
有栖ちゃんの呟きに、桔梗ちゃんが至極まっとうな返しをした。
「許されるとは思えませんが……」
「そうかもね」
ここで否定しないのが桔梗ちゃんらしい。
実際あの二人が有栖ちゃんのことを許すビジョンは全く見えない。特に母は、中学時代から何度も関係を断つことを勧めてくるほど彼女を毛嫌いしていた。
「たとえ許されないとしても、そこから逃げていい理由にはならないんじゃない?」
「はい……」
厳しい正論に有栖ちゃんの表情が曇る。
いずれにせよ、退学後の有栖ちゃんは相当厳しい立場になるだろう。
坂柳父の有罪は免れないという。それどころか、実刑判決の可能性まであり得るらしい。そのような状態では、退学後に頼ることなど夢のまた夢である。
だが、いつまでも俺たちが介護し続けるようでは、中学時代と何ら変わらない。
正直なところ、俺は有栖ちゃんをどうすればいいかわからなかった。桔梗ちゃんの意思もあって再び受け入れたものの、かつての俺のように熱意をもって世話をしてやるつもりには全くならないし、本音を言えば今でさえ労働に対する「対価」が欲しいぐらいだ。
言っちゃ悪いが、俺たちのお荷物になっている。そう思えてしまうぐらいには、彼女の存在は俺の中で小さなものになっていた。
「あ、あの……桔梗さん」
「なーに?もしかして、疼くの?」
そういった俺の冷たい感情を知ってか知らずか、有栖ちゃんはどちらかというと桔梗ちゃんの方に取り入ろうとしている。彼女の優しさで救われている状況であるから、それは正解だといえる。優れた観察力と頭脳を活かして、何とか捨てられないよう考えた結果なのかもしれない。
「……はい。先ほどお二人の行為を見てから、ずっとです」
「そうだよね。あんたは、晴翔くんのことが好きだったんだから」
ちなみに、名前呼びは桔梗ちゃん自身が強制したものである。「そのうち『櫛田さん』じゃなくなるから」と言い放った時の有栖ちゃんの顔は、なかなか……なものであった。
そんな感じで、いい反応をするオモチャとして桔梗ちゃんは有栖ちゃんを飼い続けている。
「まぁ、ざまーみろって感じだけど。あははっ」
そう言って、俺にキスをせがんできた。
見せつけるような口づけには、何とも言えない快感があった。
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翌日のホームルームで、茶柱は俺と桔梗ちゃんが転校することを正式に発表した。
すでにある程度伝わっていることもあり、クラスメイト達に驚きはなかった。
「こんな学校、さっさと辞める方が得かもしれねえな」
須藤が吐き捨てるように言った。
理事長の逮捕など数々のスキャンダルが明るみになったことで、生徒たちの学校に対する失望感は増幅し続けている。ポイント制度などこの学校に通うことによるメリットとなる特典が次々と改悪されていることも、その一因である。特に須藤に関しては、Aクラス特典が望めない場合はバスケの推薦で大学に行くことも考えていただろうし、あまりにも評判が悪くなると困るのだろう。
……そのAクラス特典ですら、最近の情勢を見ていると怪しくなってきたような気がする。
その日の昼休み。
「あたしはどうしよっかなぁ~」
恵ちゃんがパンを頬張りながら、そう言った。
彼女の立ち位置は、俺と桔梗ちゃんに捕まって以降大きく変わっていった。傲岸不遜な態度を改めたことで、どんどん友人が増えていったのだ。今となっては、他クラスにも個人的な友達が何人もいるほどの人気者だ。こうなればもう、俺たちがいなくなっても大丈夫だろう。
「……最初はまた、いじめられるのかなって思った。でも、今では二人には感謝しかない。あたしを寄生させてくれてありがとう」
恵ちゃんは明るく笑うが、その顔は少し寂しそうにも見えた。
「私の腰巾着はもう卒業だね。こちらこそ、今までありがとう」
桔梗ちゃんが優しく抱き寄せて、頭を撫でる。
円満な形で、短い主従関係が終了した。
俺も、主人がこんな風に優しくしてくれていたら……破綻しなかったのかもしれない。
「これからも、友達でいてくれる?」
「もちろん。どっちが上とかじゃない、対等な友達としてね。晴翔くんは私にとってかけがえのない存在だけど、恵ちゃんもまた特別な子だと思ってるから」
恵ちゃんは、桔梗ちゃんが素のままで接することができる数少ない相手だ。
立場的には恵ちゃんが下だったが、俺の手が届かない女子同士の関係において、彼女の存在は桔梗ちゃんとしても相当助かっていると何度も聞いていた。
「俺にとっても、恵ちゃんは大事な友達だ。恵ちゃんがいいなら、今後も仲良くしてほしい」
桔梗ちゃんのストレスの軽減に役立ってくれたことについては感謝しかないし、俺が至らない部分を補助してくれたという点では借りがあるとさえ思っている。
……だから、あの日のことをなあなあにしたまま学校を去るわけにはいかない。
「晴翔くん……」
「恵ちゃんをあんな風に脅したこと、ちゃんと謝らせてほしい。あれはどう考えても許されるものではない。本当に悪かった、申し訳ない」
「急に謝らないでよ。あの時めちゃくちゃにしてくれたおかげで、今があるんだから」
「それでも、人として最低なやり方だったのは事実だ」
「わかったわかった、大丈夫だって!」
恵ちゃんは両手を振りながら、俺に頭を上げるよう促してきた。
簡単に許してくれたものの、やったことに対する申し訳なさは消えない。
友達として付き合っていく中で少しずつ償っていけたらと思う。
「ふふっ、何かあったらいつでも連絡してね」
やや気まずくなったところで、桔梗ちゃんが微笑んだ。勿論、ここで関係をリセットするつもりはない。俺たちの退学後の連絡先はすでに教えてあり、頻繁に連絡を取り合っていく予定だ。
外部の人間との交流が来月から解禁されるという話は、すでに各担任からアナウンスされている。それはこの学校のあり方を根本的に覆すものなのだが、内部が不正だらけだったことが明らかになった以上、「秘密主義」はもう認められない。コストカットのために全寮制が廃止されるという噂さえある今、透明化の流れは誰にも止められないだろう。
「それと、これも」
桔梗ちゃんは鞄から一冊のノートを取り出し、恵ちゃんに渡した。
「これは?」
「周りの目がないところで、読んでみて。きっと面白いよ」
恵ちゃんがチンプンカンプンといった様子で、それを自分の鞄にしまった。
その中身がとんでもない爆弾であることを、俺は知っている。
あれは、桔梗ちゃんが握っている情報をまとめたノートだ。
誰と誰が付き合ってるとか、実は嫌っていてグループから排除しようとしているとか、誰が誰に対していじめ紛いのことをしてるとか、あいつはあいつと仲良くしているけど、本人のいないところではいつも悪口を言ってるとか、そんなことがいっぱい書いてある。桔梗ちゃんの闇の部分を克明に記したノート……ある意味、この半年間の自伝ともいえる内容だ。
「あ、ありがとう……でいいのかな?」
「どう使ってもらっても大丈夫。恵ちゃんの武器にしてほしい」
にっこりと笑う桔梗ちゃんから、清々しさを感じる。
「俺からも一つ。もし恵ちゃんが今後誰かからいじめられるようなことがあったら、迷わず俺たちに連絡してほしい。全力で解決するよ」
「……いいの?」
「もちろん。何なら、ダルくなったら自己判断で退学してもらっても構わない。転校先のことは父親に拝み倒して、土下座してでも絶対にどうにかするから」
退学手続きの関係で父と電話した時、いろいろと恩がある女の子として恵ちゃんのことは話してある。彼女が退学したという話を伝えれば、何かと便宜を図ってくれることだろう。
結局のところ、俺も桔梗ちゃんも軽井沢恵という少女を相当気に入っている。
たった一人の、共通の友達……本当に貴重な存在なのだ。大切にしようと誓った。
そして、ついに退学の日は来た。
一応、残り2話ぐらいで本編は完結となります。