もはや二次創作である意味がわからないですが、この作品自体が私のチラ裏のようなものということで、どうかお許しください。クソ長い設定資料と思って頂ければ幸いです。
それにしても、あちらの本編を完結させることができるのか心配でなりません。
今日は9月30日、俺が退学する日だ。
ここまで長いようで短かった。
有栖ちゃんの姿はない。よく分からないが、三日ほど前に姿を消したのだ。聞いたところによると、数日前にはすでに退学していたらしい。
もしかして、実は俺たちとは別に頼れる人間でもいたのだろうか。
……違う。だとすれば、なぜあんな状態になったのか説明がつかなくなる。非常に残念ではあるが、何かしらの理由で一時的に離れただけだと考える方が自然か。
クラスメイト達に別れを告げ、手荷物を持って学校を後にする。
もう来ることのない校舎を前にして、俺は思い出に浸る。
「短い間だったが、なんだかんだ楽しかったかもしれない」
「私も楽しかったよ。その記憶のほとんどは、あんたとのものだけど」
俺の最愛の人……桔梗ちゃんに出会えたのは、この学校があったからだ。そこだけは学校の存在に感謝せねばなるまい。
寄り添う彼女にキスをしてから、校舎に背を向ける。
「さらば、高度育成高等学校」
転校先はすでに決まっている。実家近くにある有名私立高校だ。
父が桔梗ちゃんも含めて手配してくれていたらしい。以前にデータを漁っていたのは、このためだったようだ。今度、変な勘違いしてゴメンと謝っておこう。
涼しい風が吹き、グラウンドに砂埃が舞う。
そんな中、夕日が差す校庭にもう一つの人影。
「高城。お前の決意が揺らぐことは、なかったようだな」
いきなり話しかけられて、少し驚いてしまった。
声の方を向くと、そこに立っていたのは綾小路清隆であった。
「決意も何も、最初から決めていたことだ」
「そうか、残念だ」
ここまで無表情だと、本当に残念と思っているのかわからない。
ただ、この男が俺に高い評価をしてくれていたことは事実。お互いの道が交わることは最後までなかったとはいえ、激励の言葉ぐらいはくれてやってもいいのかもしれない。
「この学校はこれから、大きく変わっていくはず。だが、綾小路ほどの実力者であれば、そういった変化さえもうまく活用して必ず自由を得られるだろうと思う。健闘を祈る」
「……オレは」
「おっと、もう時間が無い」
約束の時間が迫っていることに気づき、俺たちは再び身を翻してその場を去った。
最後に綾小路が何を言ったのか、聞くことはできなかった。
「……これで、全部終わったのかな」
一度立ち止まって、桔梗ちゃんが少し不安そうに言った。
「わからん。だけど……」
「だけど?」
「何があっても、桔梗ちゃんは俺が守る」
それに対して口をついたのは、クサい台詞だった。
桔梗ちゃんは驚いてから、顔を真っ赤にする。
「……ばーか」
照れたように前を向く、その動きさえも愛おしい。
本当に一緒になれてよかった。
俺の人生の全ては、この子のために捧げたい。
「俺とずっと一緒にいてくれ」
離れることはないとわかっていても、口に出してしまうのがこの言葉。
……それは、失ったことがあるからだ。
「もちろん。あんたと私は、いつまでも一緒」
にっこりと笑う顔が夕日に映える。
そう、あの日あの子もこんな顔をして……
その瞬間、自分のものではないはずの記憶が突然フラッシュバックした。
これは俺の……高城晴翔ではない、前世の『俺』の記憶だ。
優しかったあの子。守れなかった後悔。人を殺めた罪。自分を殺めた罪。
彼女ではない「誰か」の笑顔が脳裏によぎる。
違う。
違うんだ。
それは全部……
「ちょ、ちょっと。大丈夫?」
心配そうに見つめるのは、誰だ?
桔梗ちゃん。「俺」の大好きな人。
この身体は誰のもの?
俺は「俺」であり、他の誰のものでもない。
「晴翔くん!」
そうだ。
俺は「高城晴翔」だ!
瞼の奥に、再びあの子の笑顔が浮かんだ。
そうか。今までのは全部、君が俺を心配して……
ありがとう。でも、俺はもう大丈夫。
だから……安心して、向こうに行ってくれ。
遠くから意識が戻ってきた。
穏やかな気持ちで、俺は目を開く。
「んん?」
「……はぁ、よかった」
「ごめん、ちょっと急に眩暈がして……」
桔梗ちゃんに心配をかけてしまった。
引っ越し作業で疲れているのかもしれない。家についたらゆっくり休もう。
心なしか、頭が軽くなっているような気がする。
ずっと乗っかっていた重荷が無くなったような……?
というか俺は何を考えていたのだろう?
確か、よく夢に出てきた女の子が……
あれ?
記憶に穴があいている。
女の子って誰のことだ?浮気なんてしたつもりはないし、するつもりもないが。
そもそも俺がどんな夢を見ていたのか、何に苦しんでいたのか思い出せない。
……いいや、違う。思い出す必要がなくなったんだ。
「抱きしめても良い?」
「聞く必要ない。私の身体は、晴翔くんだけのものだよ」
大好きな彼女の、白く綺麗な身体。
何度も何度も触れ合った、その肉体を抱きしめる。
「落ち着く……」
温かい。肌から得られる体温が、心の静けさを取り戻す。
これだけでモヤモヤが吹っ飛んでしまう。
「……大丈夫」
「えっ?」
「私のことを守ろうとしないで。お互いに支え合おう?」
抱き合ったまま、桔梗ちゃんはそう言った。
ああ、その通りだと思う。
「そうだよな、ありがとう」
「うん。今までずーっと頑張ってきたんだから、私まで背負う必要はない。さっきの言葉は嬉しかったけど、気持ちだけで十分。それとも、あんたは私を弱い人間だと思ってるの?」
両手で俺の頬に触れながら、強い言葉で引っ張ろうとしてくれる。
まったく、こういうところが最高なんだ。
「あはは、桔梗ちゃんはすごいなあ」
「もちろん。だけど……そんな子を自分のものにした晴翔くんは、もっとすごいと思う。自信を持って、だけど気負わないで。二人で一緒に進めばいい」
優しい笑みを浮かべてから、桔梗ちゃんは歩き始める。
俺の手をしっかりと力強く握って、校門の方へと進んでいく。
そして躊躇なく外と学校の境界を踏み越えて、未来へと向かう。
(これが俺の幸せだ。この世界で手にした、かけがえのないもの……)
今日、前世からの因果を断ち切った。
俺という存在を前世に縛り付けていた鎖を、彼女が解き放ってくれた。
もう悪夢に魘されることはないだろう。
「私のこと、好き?」
「大好き」
「ふふ、ありがと」
だって俺は、彼女と共にあるのだから。
前世が何者かなんて関係ない。高城晴翔は、この世界の住人なのだ。
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敷地を出たところには、二台の車が停まっていた。
そのうち一台は、見慣れた車……実家のミニバンである。
「あー、まだ買い換えてなかったのか」
真っ黒なそれを見て、俺は懐かしさを覚えた。母さんが運転してきたのだろうか?
「私も乗っていいの?」
「ああ。今後の話とか、転校手続きのこととかもあるし。そっちのご家族には、うちの母さんが予め了承を取ってくれてるみたいだよ」
「わかった。ていうか、いつの間にか外堀埋められてるし」
「あの人たちは行動が早すぎるんだよ……よっぽど、桔梗ちゃんのことが気に入ったらしい」
「それは嬉しいかも」
そんな話をしていると、予想外のことが起きた。
ミニバンの数メートル前方に停車していた別の車から、見覚えのある人間が降りてきたのだ。
「高城晴翔くん、だね」
その男は、逮捕・起訴されたはずの坂柳前理事長であった。
スーツ姿の坂柳は車から降りるなり、俺たちに向かって深く頭を下げてきた。
「いきなりどうしたんですか?」
「……君に謝罪をしたい」
「はぁ」
「本当に、申し訳なかった。長年娘の面倒を見させておきながら、あの子が君にした酷い仕打ちを黙認してしまった。親として、大人として最低だったと反省している」
どうやら、俺と有栖ちゃんの十二年を清算しに来たようだ。この人は俺たちとは逆に、今後なかなかシャバに出られなくなる可能性があるから、ケジメをつけようとでも考えたのかもしれない。
だが、今さら謝られたところで困惑するだけだ。別に怒っているわけではないのだから。
「もういいですよ。確かに理不尽だとは思っていましたが、過去の話です。結果的にこうやって大好きな人を見つけることもできたし、終わりよければ全てよしってことで……俺は納得してますよ。俺が許した以上、あなたが謝る理由は無いはずだ」
適当に話を切り上げて、俺はミニバンのトランクを開けた。
重いスーツケースを持ち上げて、乗せていく。
「そう、か……」
俺の意図が伝わらなかったのか、坂柳は話を続けようとしている。正直うざったい。
こうしている間に、桔梗ちゃんは父に手招きされて助手席に乗っていた。迎えにきたのは母ではなかったらしい。父はいつも忙しいから、そんな暇はないかと思っていたので意外だった。この日のために休みを取ってくれたのだろうか?
車に乗っている二人は、何やら親しげに会話を始めた……父はめちゃくちゃ嬉しそうだ。きっと、可愛い女の子と話せて嬉しいのだろう。女好きは相変わらずか。
「話は終わりで大丈夫ですか?……俺、そろそろ帰りたいんですけど」
俺もさっさとあっちに行きたい。最愛の彼女にツバをつけられる前に。
「ま、待ってほしい。有栖のことを……」
「はぁ?」
この期に及んで何を言うのかと思えば、有栖ちゃんのことだった。
俺は一度ため息をついて、不満を露にする。
「まさか、これからも面倒を見てくれというつもりですか?」
「……恥を忍んで、お願いしたい」
「いや、本当に恥を知ってくださいよ」
ふざけるな、という言葉が口から漏れた。
この家族はどこまで人を馬鹿にすれば気が済むのか。
「君の代わりが務まる人間は、どこにも存在しないんだ……」
「嘘をつかないでください。お金さえ払えば、その道のプロはいくらでもいるでしょう」
埒があかない。
問答を繰り返しているうちに、苛立ちがどんどん募っていく。
もう一方的に切り上げて帰ろうと、そんな風に思ったときだった。
「……お願いします」
坂柳は汚れた路面に膝をつき、頭を擦り付けた。いわゆる土下座というやつだ。
こんなものを見せられてどうすればいいのか。プライドを捨てたことは、理解できるが……
突然のことに俺が固まっていると、父が車から降りてきた。
「父さん、久しぶり」
「くくくっ。ほら、面白いだろ?」
まさか、父が以前に言っていた「面白いもの」って……これのこと!?
この半年間、坂柳を土下座させるために活動していたとでも言うのだろうか。
いや、平気でそういうことをしそうなのが困るんだけど。
「それにしても、良い女の子を見つけたもんだ。実際話してみて、晴翔にぴったりな人間だと確信した。彼女がお前のそばにいてくれれば、俺も母さんも安心だ……どこかの誰かと違ってな」
嫌みったらしく、父は坂柳の頭に向けてそう言った。実に楽しそうだ。
そうだ、うっかり忘れていた。このオヤジは昔からそういう人間だった。
「高城さん……」
「坂柳、ざまあねえな。俺がどれだけキレてるか、そろそろ理解したか?」
「我々に対する復讐だとしても、貴方はここまでしますか」
「言っておくが、俺自身は大して動いてねえぞ。俺がやったことといえば、とある人間にちょっとした情報を提供したぐらいか。知っている『事実』を証拠付きで送っただけ。ショボいだろ?」
「……まさか」
「今まで気づいてなかったのか。今回の件は全て、あの男……綾小路が動いた結果だ。だからお前が訴追されている事に関して俺は何も知らないし、知るつもりもない」
綾小路、という名前が出た。
もちろん俺がさっき出会った男ではなく、奴の父親のことだろう。
それがどういう人物なのか多少知識として持ってはいるが、実際に会った事はない。しかし、他者を陥れることを躊躇しない人間に対して、対立する人間の弱点を提供する……ましてや、違法行為の証拠をリークするような事をすれば、最大限利用されるのは目に見えている。
おそらく父が行ったことはそういうことなのだろうが、それは綾小路父に対して「好きにしろ」と言っているのに等しい。この人が持つ影響力を考えると、直接手を下さなかっただけで、実質的には坂柳潰しに加担したといっていいだろう。
「ぐっ……」
坂柳は唇を噛む。
そもそも、父は大したことをしていないなどと言いつつも、一般出張の建前で部下を高校に送り込んで調査したり、相当ギリギリなことをしていたと思う。事実が明るみになれば立場を失うリスクだってあるのに、それらの行動が全部目の前のオッサンを表舞台から退場させるためだとすれば、身内のことながらあまりにもえげつない悪意だと思う。
けれども、それらは全て俺を思ってのこと。十二年にわたって俺を利用し、都合よく扱ったことの代償……礼を欠いた者に対する制裁と考えれば、正直胸のすく思いでもある。
「奴も相当悪さをしているようだが、それはまた別の話。坂柳、年貢の納め時だぞ」
そう言って、父は俺の背中をポンと叩いた。
俺は頷いてからスライドドアを開き、後部座席へ乗った。
数分後、大人同士の話を終えた父が再び車に乗り込んできた。
外で打ちひしがれる坂柳を見て、残酷な対比だなあと思う。
そしてハンドルを右に切り、坂柳の車を抜き去っていく。
「……」
その瞬間、車の中に少女の姿が見えたような気がした。
父は一瞬だけ残念そうな顔を浮かべて、すぐに視線を前に戻した。
好きな女の子の笑顔で前世の恋人が成仏するというのは、長期連載しないパターンの最終回に用意していた展開です。当初は体育祭ぐらいまでしか続ける気がなかったという……
こちらは詰め込んだ結果超展開になりましたが、個人的には満足です。
ある意味、これが一番幸せな終わり方かもしれません。
次で最終回の予定です。