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黒い薔薇の花言葉―――
永遠の愛
滅びることのない愛
憎しみ
恨み
―――"あなたは 私のもの"
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2118年9月―――
―――15時過ぎ
狡噛舞白
刑事課一係 監視官補佐 勤務最終日
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宜野座が運転する車内にて。
出動要請がかかっていた2人は通常業務を終わらせ、公安局ビルへと向かっていた。
「―――うん。美佳ちゃん
エリアストレスも収束したし、私と宜野座さんはこのまま公安局に戻るね?」
『オーケー。早く戻ってきなさいよ?あんたの上司もお兄さんも待ってるし、寄り道は禁止ね?』
"分かってるよ〜!じゃあね?"と口にするとデバイスを切る舞白。そして運転する宜野座へ視線を向けるといつものように、何ら変わらない笑顔を向ける。
「課長達、迎えに来てくれてるみたい。気が早いよね?本当に……」
「………」
「…宜野座さん…?……」
「………」
何度呼びかけても反応がない。
真っ直ぐと前を見据え、運転に集中しているような。
その表情は険しく、何か考え込んで―――
「宜野座さん?…おーい?
―――ノブ兄!?」
宜野座の顔の横で思いっきり手を叩くとハッとした表情を浮かべ、我に返るような様子を見せる。
「…すまない…ボーっとして…」
「もー…、ビックリするよ?」
助手席から顔を覗き込むと、やはりいつもの様子とは全く違う宜野座の表情になんとなく察する。
今日、舞白が公安局の監視官補佐として勤務するのも最後。それはつまり、この3ヶ月間のように顔を見合わす事が出来なくなるということを意味する。
恋人として、関係を続けようと2人は誓っていた。
しかし、執行官の宜野座、そして外務省へと戻る健常者の舞白。自由に会うことも、2人っきりで会うことも今後は難しいだろう。
舞白は腹を括っていたが、どうやら彼はそうはいかないらしい。小一時間前から様子がおかしかったのは気づいていたが、それを心配するのはお門違いだと舞白は考えていた。
いちばん辛いのは、苦しいのは、彼なのだから―――
暫く沈黙が続く。
舞白は気まずそうに外を見ていると、宜野座がその沈黙を破った。
「…少し、寄りたいところがある。」
突然発せられた言葉。
舞白は外に向けていた視線を再び宜野座へと戻す。
「でも…美佳ちゃんは早く戻ってこいって…」
「少しくらい、構わないだろう?……頼む。」
普段から真面目な宜野座から考えられない発言だった。規律を1番守る彼が、上司でもある霜月の指示を無視しようと言うのだ。
それに、さっきから視線が合わない。
舞白は複雑な思いを抱きながらも、彼のその様子に何も反論できず、小さく頷くのみ。
すると宜野座は公安局ビルへと繋がる道から外れ、江東区方面へと向かう分岐道路へとルートを変えるのであった―――
舞白は何も話さない。時たま横目で彼を見るも、微かに感じるのは、宜野座からの暗い空気。
"怖い"
今までそんなことを感じたことはない。
そんな彼に、何も言葉を掛けられない舞白は、グッと手に力を入れていた。
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―――江東区 潮見廃棄区画
無法地帯のこの地に、一体何の用があるのだろうか?
廃棄区画の近くに車を停めると、宜野座は何も発さず外へと出ていく。
「ちょっと…ノブ兄!?」
慌てて追うように後をついて行くも、相変わらず宜野座は何も話さない。スタスタと廃棄区画の中へと向かうその背中は、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。
早足で追いかけるも、宜野座も歩く速度は早い。必死に追いかける舞白の表情は焦りと疑問に覆われていた。
「ねぇ…ちょっと…、ねぇってば!!待ってよ!ノブ兄…」
スラムの人間たちが行き交う中、舞白はやっと宜野座の服の裾を掴むと、息を切らしながら声をかける。
スーツ姿の2人、1人に関しては公安局のマークが入った監視官ジャケットを身につけていた。周りの人々はそんな目立つ2人をじっと見据えていた。
「……どうしたの?こんな所に…何の用があるの?」
宜野座は立ち止まり、ゆっくりと後ろへと振り向く。
久しぶりに目が合った相手の瞳に、舞白はビクッと体を跳ねさせる。
喪失感
憤怒
哀しみ
孤独
全てが入り交じったような、冷たい瞳。
「……」
宜野座は無言で舞白を見下ろすのみ。
そして心の中で、ある言葉を何度も繰り返していた。
"今しかない"
すると宜野座は舞白の手を振り払い、人混みの中に紛れるかのように姿を消す。舞白はそれに呆気に取られ目を見開くと、必死に相手を追いかける。
「ノブ兄!!待って!!…ッ…宜野座執行官!!!」
そしてふと脳裏に浮かぶ言葉
"失踪"
執行官が監視官の目を欺き、"姿を消す"ということは今まで何度かあったとは聞いたことがある。
今の状況は、それに近いものを感じる。
「((…すぐに連絡を―――))」
舞白は人を避けながらデバイスに触れる。
しかし、ある思いが舞白の行動を止めてしまう。
もし、私が美佳ちゃんや朱さんに連絡したら?
ノブ兄はどうなる?罰せられる?
もっと会いにくい状況になってしまったら?
執行官という立場さえ剥奪されてしまったら―――
宜野座は再び施設に収監されてしまう…
舞白はデバイスから手を離し、応援要請を諦めると、宜野座の姿をひたすら目で追い続け、走り抜ける。
「………ッ…!」
掴めそうで掴めない距離に、舞白は必死になっていた。
―――そして気づけば、廃棄区画の奥へ奥へと誘われていた。
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「はぁ…はぁ……ッ…はぁ…」
人気のない廃墟ビル。
舞白の足音と荒れた呼吸音だけが響き渡る。
デバイスで宜野座の場所を確認しながら進んでいくと、破壊された執行官デバイスが転がっていることに気づく。
それをゆっくりと拾い上げ、悲しそうに眉を顰める。
「…嘘でしょ……まさか本当に…」
本気で逃げる気だ。
…どうにか、ここで宜野座を止めるしかない。
舞白はドミネーターを手に取り覚悟を決める。最悪パラライザーを打ち込んだとしても、理由は上手く誤魔化そう。
…でも廃棄区画に来た理由は?
何て言い訳を―――
「!?」
刹那、背後に人の気配を感じる。
それと同時に、何かが振り下ろされる影を感じれば、舞白はすぐに身を交わす。
その背後の人物に気づいた舞白は目を見開き、驚きを隠せない。
「…ノブ兄…?」
虚ろな瞳の宜野座はドミネーターを手にした腕を下ろし、舞白をじっと見据える。おそらく、振り下ろしたのはドミネーターだろう。
しかし、有り得ないその行動に、舞白は額から冷や汗を流す。自分に危害を加えようとしたその行動は見過ごす訳にはいかない。
「……冗談きついよ、ノブ兄」
舞白は少し後退し、距離を取ればドミネーターの銃口を向ける。そして彼のサイコパスを知った舞白は、微かに手を震わせていた。
『犯罪係数オーバー457、刑事課登録執行官、任意執行対象です。セーフティを解除します―――』
ドミネーターは大きく変形する。
300以上の対象者には"エリミネーター"が発動する。
ターゲットは、撃たれると肉体が肥大化して破裂し、即死―――
「((…犯罪係数が……300どころか400オーバー…))」
舞白は震える手を隠すことが出来ない。ぶるぶると震える手に握られたドミネーターは照準を合わすことさえ困難。
どんな時でも、基本的には冷静さを保つ事が出来る舞白でさえ、今は混乱し、動揺が隠せない。
「……なあ、舞白。」
宜野座の声が廃墟に響き渡る。
その声色は妙に落ち着いていた。
しかし、瞳の色は変わらない。
「青柳の話、知っているだろう?」
「……恋人の執行官を…排除執行した話でしょ…」
舞白はドミネーターを構えたまま、じっと宜野座を見つめる。
今は亡き青柳。
彼女は過去に、恋人の執行官を排除執行していた。
神月凌吾執行官。
刑事課二係で青柳と職務を共に行っていた。
そして縢と同じく、幼少期から潜在犯認定された人物。兄の狡噛に麻雀を教えた人物の一人でもあった為、兄から少しだけその人物の話を聞いたことがあった。
逃亡しようとしていた恋人の執行官を排除―――
正に今、目の前で起こっている事態が全く同じ状況。執行官デバイスの破壊、そして監視官への明らかな危害。
―――執行しなければならない。
それが監視官としての職務―――
すると、宜野座は微かに口角に弧を描き、怪しげな笑みを浮かべる。鋭い目付きに、まるで獲物を狩る狼のような佇まいに、舞白は怯んでいた。
「―――ないだろう?」
「……?」
宜野座が言葉を呟くも聞こえない。
「撃てないだろう?
…お前は、青柳のようにはなれない」
「ッ…!」
再びドミネーターを構え、震える手で照準を合わせる。
『犯罪係数 オーバー578―――』
「…お願い……やめて…」
宜野座はドミネーターをその場へ投げ捨てると、ゆっくりと両手を上げ目を閉じる。
『犯罪係数 オーバー603―――』
「…ッ……ノブ兄…」
『犯罪係数―――』
上昇し続ける宜野座の犯罪係数にガクガクと更に手が震える。まるで痙攣するかのように、震えが止まらない。
そして無意識に涙が溢れると、照準が更にブレる。すると、まるでそれを見計らったかのように、宜野座は動き出す―――
「…ッう……ぐ……」
投げ飛ばされるドミネーター。
そして容赦なく振りかざされる拳に蹴り。
体術はほぼ互角、もしくは俊敏な動きをするのは舞白の方が得意だった。しかし、この状況に混乱している舞白は宜野座の攻撃を交わすことが出来ても、反撃することは出来ない。
「…ッ…やめ…っ……、ガハッ……ぅぐッ…」
腹部に宜野座の左拳が命中すれば、とてつもない衝撃に吐血する。左拳は義手だ。想像を絶する衝撃に、いくら強い舞白でも耐えられなかった。
それに、相手は最愛の人。
そんな相手に、舞白も本気で手が出せるわけが無い―――
でも、目の前の"この男"は
自分に容赦なく拳を振るった…
「…なんで……ノブ…に…」
腹部を押え、崩れ落ちるように地面に横たわる。震えが止まらない、汗が止まらない
そして、恐怖心に襲われる。
そして宜野座は舞白の左手を引けば、監視官デバイスを奪い、地面へと投げ捨てると、思いっきり踏み潰し破壊する―――
「((…逃亡する気なら…私のデバイスまで破壊することない…))」
体を襲う痛みにもがきながら、相手の動きを観察する舞白。
破壊されたデバイスを確認すれば、次は舞白の右腕を掴む。仰向けに転ばせ、舞白の右腕の付け根に足を乗せれば、そのまま義手を引きちぎるような形で破壊し、無惨にも右腕は投げ捨てられてしまう。
「………なんで……」
有り得ない行動に涙を流すことしかできない。
そんな舞白を冷めた目で見下ろせば、転がっていたドミネーターを手にした宜野座は舞白に向かって振り上げる。
「お前は、俺のものだ―――」
頭部目掛けて振り下ろされた鉄の塊。
鈍痛と、酷い衝撃、目眩に襲われれば舞白はその場で意識を手放す。
だらりと傾く頭、力が抜け脱力する体、頭部から流れる鮮血。
「はぁ……はぁ……ッ……はぁ…」
宜野座も少し動揺したのか、息を荒らげる。
そして気を失った舞白を抱きあげれば、自身の頬を舞白の頭に擦り寄せる。
「……すまない…
…でもこうするしか無かったんだ…」
そのまま舞白を横抱きにすれば、どこかへと消える2人。
現場には赤い鮮血と2つの破壊されたデバイスが残されていた―――
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―――公安局ビル
刑事課一係オフィス―――
オフィスで報告書をまとめていた霜月。
そして同じく六合塚、須郷、雛河も職務を行っていた。
すると、オフィスの入口の扉が開く―――
現れたのは監視官の常守。
そして外務省行動課の花城と狡噛。
「―――美佳ちゃん?
舞白ちゃんと宜野座さんはまだ戻ってない?」
「…舞白と宜野座さんなら…さっき…
―――って!もうこんな時間!?」
デバイスが示す時刻は16時を過ぎていた。
舞白と連絡をとったのは1時間以上前。
「15時頃に連絡が来たんですけど…
…どこで油売ってんのよ…あの2人…」
「何か事件発生…なんて事は?」
霜月はそれ以降連絡が来ていないことに眉を顰めると、六合塚は特に怪しむことはなく、もしかして事件を対処してるんじゃないのか?と発する。
「それは無いはずですが…。だとしたら真っ先に通報が入るはずです。」
「……でも、とくに何も通報は入って、ない……みたいです…」
須郷と雛河も同じく、ここ数時間の間に通報がなかったことを調べると、常守達に視線を送る。
「もう…何してるのかしら、うちの部下は…
この後すぐに九州の外務省支部に行かなきゃいけないっていうのに」
「ギノと舞白の事だ。勝手にどこかに消えたりしないはずだろう?志恩に居場所を確認させればいい」
呆れる花城に、正論を発する狡噛。
「ちょっと連絡してみますね?舞白ちゃんに―――」
常守はデバイスを使って舞白へと連絡をとるも反応は無い。そして霜月も宜野座へと連絡をとるも、同じく反応がない。
「はぁ?…何なの…
連絡がつかないって…」
「やっぱり、なにか事件に巻き込まれたんじゃないですか?」
反応がないことに若干キレる霜月に対し、六合塚はやはり事件に―――と疑い始める。
その様子に何か嫌な予感を察した狡噛は眉を顰める。
「おい、監視官。志恩にすぐ確認を取らせるんだ。」
「そんな…あと少ししたら戻ってくるんじゃ…」
「……いや、嫌な予感がする。
すぐに確認するんだ――」
「わ…、分かりました…」
狡噛の様子にただならぬものを感じた常守は、すぐに唐之杜へと連絡をとることに。
『はいはーい…なんの御用かしら?』
いつも通りの唐之杜の様子。
やはり事件などが起こってないのでは、とその時点で微かに察する。
「志恩さん、ごめんなさい忙しい時に。
…舞白ちゃんと宜野座さんの居場所を教えて貰えませんか?」
『なによー、そんな事?
任せなさい?すぐに調べて―――』
刹那、唐之杜の言葉が詰まると
オフィス全員の体が固まる。
「…志恩さん?」
『…………』
カタカタとキーボードを鳴らす音だけが聞こえてくる。
『ちょっと…私もよく分からないんだけど…
…江東区の潮見廃棄区画で通信が途絶えてる。しかも約1時間前に』
「潮見廃棄区画?
エリアストレス警報で出動した場所は日本橋ですよ?距離がありすぎるし、そんな所に用事は無いはずです。」
霜月は椅子から立ち上がると、慌てた様子で声を荒あげる。
『あと、ちょっと嫌な記録を見つけたわ。送るわね』
常守に送られてきた一件のデータ。
それは舞白のドミネーターの計測履歴―――
『舞白ちゃん、宜野座君にドミネーターを向けてる。しかも犯罪係数の最終計測値は700オーバーよ。…幸い、引き金は引いてないみたいだけど』
有り得ない数値にオフィス全員が目を見開く。
「やっぱりな、…俺の嫌な予感は当たったらしい」
狡噛はそう言葉を言い捨てると、踵を返す。
「狡噛さん!?何処に―――」
「2人を直ぐに探すんだ。…俺の予想通りならかなりマズイ事になる」
狡噛は脳内でグルグルと様々な事を考えていた。
舞白の最終勤務日
恋人関係にある2人
潮見廃棄区画
そして、向けられたドミネーター―――
「……ギノ…
…お前は堕ちる奴じゃないと思っていたが…」
すぐに出動する一係の刑事達。
そして狡噛と花城も2人を追うべく車に乗り込む。
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お前は、俺のものなんだ―――
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