体育祭
1年生の時も体育祭が有ったが、健也含む4人はあまりやる気がなく、そこまで何があったかというのは覚えていない。そして2年生になっても体育祭はやって来た。競技は大体どこの学校にでもあるように100Mリレーや1500Mリレー、球投げ、綱引き、大縄跳びなどがあるが、ここの体育祭は特殊な競技がある。
それは実際に出番にならないと分からないらしい。競技順番の紙にはいくつか「???」と書かれており、そこには2年生と書かれている。1年生の時は「???」なんてものは無かったので疑問に思っていたが、どうでもいいなと思った。健也は全員参加でもやる気なし、人数制限があったら自分から外れる気でもある。だからあまり自分に関係ないと思った。今回も適当にサボろうかなと思って体育祭の説明を聞いていると、なぜか全員やる気に満ち満ちていた。
あれ? このクラス先日までそこまでやる気無かったのに……なんでだ?
鳴海「何かみんなやる気出てるね」
健也「それ俺も思った、何かあるのかねー」
男子A「あれ、健也知らねーの? 今回の体育祭の報酬」
健也「報酬?」
HRでもそんな話題は先生から言われていない。鳴海も心当たりが無いようで首を傾げている
男子A「今回の体育祭で優勝したクラスには、なんと豪華景品をプレゼントなんだってよ!テンション上がるぜ~!」
健也「豪華景品? なんだ? 食べ物とかか?」
男子B「なんでもありだってよ」
健也「なんでも?」
男子A「例えば世界旅行に行きたいなら、その為の費用、食費、交通費、宿代全て出るな。あとは何か経験したいとか…」
健也「経験?」
鳴海「そんなことあるんだねー。私保健室行ってくるね」
鳴海は興味が失せたようで、体操着のまま教室から出て行ってしまった。体調を崩すことは無くなったとはいえ、時々は怠くなることがあるみたいで、今日はその日らしい
男子Aは辺りを見回して、自分達の会話を聞かれていないことを確認したら
男子A「例えば、可愛い女とヤれるとか…」
健也「え」
男子B「童貞の奴は張り切っている人も多いよ。しかも何人も指名出来るみたいだし、プレイの幅も広がるようだぜ? 例えば目隠しとか拘束なんても…」
健也「……」
男子A「女子には聞かれないように気を付けろよ? まぁ、女子も女子で何か望んでいるようだしな」
男子B「女子って何を望むのかなー」
男子A「さぁ? 女子に聞いてみれば?」
男子B「んなこと聞けるかぁ!」
健也「それどこ情報?」
男子A「上級生が過去にそんなことがあったって言っていたよ」
健也「教師側の誰かが言ったとかじゃなくて?」
男子B「3年生は1年生の時に有ったって言ってたぞ?」
健也「……そうなんだ」
つまり噂を聞いただけだと? あまり信用できない
そうこうしていると、担任がやって来た
先生「お前らー、そろそろ体育祭だし、準備しとけよー。それと体調が悪くなったら近くの休憩室に行け~。酷かったら校内の保健室に行けよー。そこなら安全だからなー」
安全?
先生の話を聞いて少し不思議に思っていたが、良く見ると何か疲れているように見えるし、顔色も悪いように思える。隣に座っている星奈もそう思ったようで健也とそのことを話したが、健也と星奈以外の男女は全員やる気が高まっていて、気にしていない様子だ。さっきの男子が話していた豪華景品が気になっているのだろうか?
1人の男子が先生に話しかける
男子C「先生、豪華景品って何ですかー」
そう男子が聞くと、教室にいる連中は先生が発する言葉を待っている。先生はその男子の言葉を聞くとニヤリとして
先生「なんでも」
男子A「それって億単位のお金が欲しいってのも?」
先生「あぁ」
男子B「好きなアイドルを恋人になることも?」
先生「あぁ」
女子A「高校の推薦枠を取ることも?」
先生「あぁ、お前らが思っているであろう全ての野望。なんでも、だ」
そういうと、健也と星奈、あと数人以外の生徒はとても興奮しているようだ。数人も流石に話がおかしすぎると思っているようだが、教室の雰囲気に当てられて「もしかしたら?」と思っている人もいれば、「そんなことないだろ」と割り切っている人もいるようだ。ちなみに星奈の反応は
星奈「……」
無表情だ。手元にある爪磨きで爪を磨いている。爪に付いたカスを息でふーっとかけて、角度を変えてしっかりと削れているのを見ている。他の女子は2人以上で何かを話しているようなのに、星奈は1人だった。星奈自身もそこまで体育祭に興味を持っているようではなかったので、テンションが低いのも納得だ
先生「じゃあ全員、校庭に集合してくれなー」
先生がそう言うと、クラスの者達は談笑しながら水筒や椅子を持って教室から出て行く。健也は誰もいなくなってから行くことにした。別に席を取り合うことに興味もないのでゆっくり行こうかなと思いながら窓越しに校庭を見ていると、かなりの人が集まっていた。1~3年生全員が校庭に集まり、それぞれ割り振られた場所で椅子を下ろして座っているので、遠くから見ると白い(体操服の色)がもぞもぞと動いているように見える。そろそろ人もあまりいなくなったかなと思い、椅子を持って教室を出ようと扉の近くに移動すると、横から声をかけられた
???「おにいーさん?」
健也「え」
???「おにいーさん、ひさしぶり~、あはは」
健也「……あぁ、あの時の」
???「うん、そうだよ~?」
その子の見た目は2~4歳くらいの容姿の女の子、吉良と行方不明者の調査をしている時に遭遇した幼女だ。手には黒猫の縫いぐるみを持っており、健也を見つめる目は面白そうなものを見つけたような、まるでそんな目をしているように健也は思った
健也「どうしたの? 誰かを探しているのかな?」
幼女と目線を合わせるために、椅子を下ろして屈むと
???「このひと、しらな~い?」
健也「どれ」
???「この、まんなかに~いる~ひと~」
幼女が指を指した人物に心辺りはある。答えない理由も無いので答える
健也「星奈だな」
???「せ~な~?」
健也「うん、そうだよ」
写真には星奈以外に2人の少女が写っているが、健也は見たことないので分からなかった。健也の答えを聞くと
???「あはは、ありがとうね~、おにいーさん。これ、おれいねー。すきなだけ、えらんでね~?」
幼女は健也が置いた椅子の上に、あの時と同じようにお守りのようなものを8つ置いた。もちろんこれらもどこの神社の名前の刺繡もされておらず、少し凸凹しており、折り紙で作られたような印象を受ける。おそらく鳴海に渡したのと同一のものだろう。しかし1点異なるところがあった。それは
白いお守りが4つ、青いお守りが1つ、緑のお守りが1つ、赤のお守りが1つ、紫のお守りが1つというものだった
???「どれえらぶ~?」
健也「好きなだけでいいのかい?」
???「うんー、どうぞ~」
健也「……じゃあこれ4つ貰うね」
???「んー、わかったー」
健也は白いお守りを4つ選んだ。理由は鳴海に渡したのと同じ色の方が安心できるし、見た感じ手作りの物を全ていただくのも幼女が落ち込むかもしれないと思ったためだ。もしかしたら他の人に渡す予定があるかもしれないし、全部を取るつもりはなかった。個人的には色が付いていたのは気になったが、鳴海の調子を安定させることを考えると「ま、いっか」と思ったためだ。
???「じゃあーね~」
幼女は健也が出て行こうとしたのとは違うもう1つの開いている扉を出て行ってしまった。お守りをポケットに入れるのに少し手間取ったが、椅子と水筒を持って教室を出ると幼女の姿は無くなってしまった
そのまま校庭に向かおうとしたが、先に鳴海にお守りを渡しておこうかなと思い、保健室を寄ってからにすることにした。まだ開会式が始まっていないのに、体操服を着て椅子を持ちながら保健室に向かっている。見る人によっては、始まる前から怪我をしていると見ることも出来そうだ。
保健室に到着、椅子と水筒を壁に寄せて置き、中に入ると奥にあるベッドのいくつかがカーテンが閉められていた。先生に鳴海の様子を見に来たと伝えるとあっさりと通してくれた。鳴海が寝ているベッドのカーテンを開けて中に入ると鳴海は寝ていた。なぜか先生は健也の後ろにいて、無言でいる。多分、知り合い同士とは言え、寝ている生徒に何かしないかを確認するためだろう。とりあえず鳴海の手に4つお守りを渡そうと、枕元に置こうとしたら
鳴海「……んぅー、あれ?」
鳴海は身体をもぞもぞと動かして目を覚ますと、目の前にいる健也にとても驚いたようで
鳴海「け、けん君!?」
結構大きな声を出した。先生は声を抑えろと口元に指を立てると、鳴海は慌てた様子で口を手で押さえた
鳴海「どうしてここに…」
健也「……これ、渡そうと思って」
鳴海「あ、それ」
健也「上げるよ」
鳴海「ありがとう」
健也「これあると違うの?」
鳴海「……まぁね」
健也「? そうか、じゃあこれ」
鳴海「……ありがとう」
健也「俺行くから」
健也がそういうと、後ろにいた先生は持ち場に戻っていった。健也も続いて出ようとしたら、近くに置いてある籠に足をぶつけてしまい倒れてしまう、籠の中に入っていたものが飛び出てしまった
健也「あぁ…」
籠の中に戻していく、その時鳴海の方からゴソゴソとしているような音が聞こえたが、多分寝られなくて体勢を変えながらベストな位置を探しているのだろう。籠を元に戻して鳴海の方を見るが、鳴海は健也に背を向けて寝息を立て始めた
保健室を出て椅子を持って校庭に向かう。校庭では生徒達が集まっており、生徒代表が何やら宣言をしていた。多分選手宣誓だ。ここで校庭の方に椅子を置きに行ったら目立ちすぎるため、宣言が終わって各席に戻るときに乗じて自分も椅子を置きに行こうと少し離れた所から見る。
「~~~、では体育祭を楽しみましょうー」
「「「うおおおおお!」
とても盛り上がっていた
各自席に戻る、競技準備を始めるなどで散会したところに乗じて健也も自分のクラスに行って椅子を置き、まるで最初からそこにいましたよと振舞っていると
男子A「あれ、健也どこに行っていたの?」
健也「ちょっと腹が急に痛くなってな…」
男子B「マジかよ、しっかりしてくれよ? 豪華景品はどこも狙ってんだからな」
健也「……もしかしたら競技に出られないかもしれない」
男子C「はぁ?」
男子A「いや、もしそうなら出なくていい。優勝を狙うなら怪我人を出しても大して良い成績にならない」
男子B「そうだな、やる気のない連中は出ないで欲しいしな」
男子Bの意見は他の男子、女子達も同意見のようで、やる気のない、体調が好調ではない人は名乗り出るように言われた。健也はその流れに乗って全競技に出ないことにする。やる気がないからね、それに成績に悪影響を及ぼして戦犯扱いされるのも嫌だった。健也以外は全員やる気があるようで、名乗り出たのは健也だけだった。全員やる気があるようで結構だ。
それから競技が順々に進められる。何かすごいアクションをする、切迫した状況で勝利など盛り上がっている。観客席にいるのは、生徒の保護者で、中にはカメラを構えて競技を行っている我が息子・娘を撮影しているようだ。何なら生徒よりも盛り上がっている、というか盛り上がりすぎなような?
去年はこんなに盛り上がっていなかったのに、なんでこんなに…まさか優勝したクラスの保護者も対象なのか? もしそうなら納得できるが…そんな予算とかどこから出るんだか…、学費はそこらの学校とあまり変わらないどころか、少し安いと記憶していたが、施設の維持費、教員や清掃員などの人件費などに回す以外で、そこまで資金が残っているのかどうか…
それに保護者の目つきが怖い。全員が全員ではないが、それでもまるでヤク中というか、スロットや競馬などに取りつかれたように目が血走っている人がとても多い。なんなら100メートル走などで、転倒した生徒がいたら
「なんだあいつ」
「ふざけんなよ」
「はやく立ち上がれや」
「よし、いいぞ、その調子だ」
「足引っ掛けろー!」
「おい2位じゃねーかよ、ふざけんな死ね」
「っち、3位か、次で逆転しろやー」
と野次が飛んでいる。去年もこういう人はいたが、数が全然違う。保護者の7~8割程度の人数がその反応で、残りの2~3割程度の保護者は困惑しているが、その2~3割の人達もまた7~8割の中に入って行っていくように見える。さっきまで困惑していたのに、今ではその大衆の1人と化している。
異様な光景だった
周囲を見渡すも、健也から見える限り、健也以外の全ての人間が殺伐として競技を進行している。応援も「頑張れー」という声はほとんどなく、誰かが転倒したり、ミスをすると舌打ちや称賛の嵐だ。本当に体育祭なのか、何か別の祭りが行われているとしか思えないほどの盛り上がりだ
一応吉良と愛奈を探そうと、彼らのクラスの方に行ってみるが、2人の姿は無い。そのクラスメイトに話しかけるも
生徒A「あの2人なら体調不良って言って離脱したよ、どこにいるかは知らないな」
生徒B「まぁ、やる気のない人は引っ込んでもらいたいしね。大事な、ダイジナタイイクサイダシネ」
健也「そ、そうか。ありがとう」
2人の生徒にお礼を言って去ると、また熱狂的な歓声が上がる。どうしようかと思っていると、どこかで見た事あるような女性達を見つける。だけどどこで見たかを思い出せない……。彼女達の1人と目が合ったが、目が合ったのはほんの一瞬だったので、何事も無かったかのように逸れた。
女性達は健也に気付いていないようで、観客席の方に歩いていき、姿は人ごみの中に紛れてしまった。ここにいてもなんか嫌だなと思い、鳴海のいる保健室に行くことにした。保健室に向かう道中、教室をいくつか横通りするわけだが、中に何人かいた
生徒A「やってらんねーよな、体育祭なんか」
生徒B「あんなの頭おかしいよね」
生徒C「どうする? なんか怖いし…帰る?」
生徒D「体育祭って早退出来るのか?」
生徒E「出来なくはないけど、聞いたことないな」
生徒F「保護者の人達も怖いし……」
生徒A「あ、お前」
健也「あ」
生徒達に見つかってしまった。しかし彼らは校庭にいる人達と違い、落ち着いていることが分かる
生徒A「お前もあれがおかしいと思うか?」
健也「なんか盛り上がっているなーって感じするよね」
生徒B「あれは盛り上がっているのか? そんな感じはしないんだが」
健也「皆なんでここにいるの」
生徒D「あれを見て参加しろって言う方がおかしいよ思うんだよ」
生徒C「そうそう、なんなのあれ」
健也「あぁ、そうだな」
そこから生徒達と少し話をしたが、特に何も分からないことが分かったので保健室に向かうことに。生徒達はその場で時間を潰すようだ。
保健室に到着、ベッドは1か所を除いて全てカーテンが閉められており、校庭の近くにある簡易保健所ではなく、わざわざこっちに来るくらいに体調が悪くなっている人が増えているようだ。まぁ、あんな空気に当てられたら具合が悪くなるのも無理はない。鳴海が寝ていたベッドの近くにより、声をかけるが反応がない。少しだけカーテンを開けて中を覗くと鳴海は寝ていた。起こすのも悪いと思ってカーテンを閉じて、校庭を見る
校庭では何か保護者らしき大人達と、生徒達が混じって何か競技をしているが、借り物競争でもしているのだろうか? なんていうかまぁ……殺伐としているという感想くらいしか出てこない
やることも無いので、どうやって時間を潰そうかと悩んでいたが、さっきの熱意を見たからか、自分でも気づかないうちに疲労が溜まっていたようで眠くなってきた。1つだけ空いているベッド、ここで寝ることも出来るが、本当に具合が悪い人がやってきたら困るよな……と悩んだが、その時に目を覚まして代われば良いかと考え直した
残っていたベッドに身体を横にしてカーテンを閉めそのまま眠った
???「そろそろ起きて」
健也「……え」
身体を揺すられていることに気付き、目を覚ます。健也の身体を揺すっていたのは鳴海だった。まだぼんやりとした意識で周辺を見ると、鳴海以外に吉良と愛奈もいた。3人とも制服姿だ。
閉められていたカーテンは全て開けられており、時計を見ると既に放課後の時間となっていた。ここに来たのは午前10時くらいからだから、5時間以上は寝ていたようだ。校庭を見ると片付けをしているのか、生徒達があちこち走り回っているのが遠くから見える
吉良「健也、ほら、着替えて」
吉良から健也の制服や鞄を渡されて、一度カーテンを閉めて着替え、また3人と合流をした。ちなみに体操着はカバンの中に入れた。
健也「2人ともいたのか」
愛奈「いたわよ」
吉良「いたね」
鳴海「けん君、ありがとうね」
健也「え、何が」
鳴海「心配してくれて」
健也「あ、あー。当然だろ」
吉良「当然か、カッコイイねー」
愛奈「お似合いの2人よね」
吉良「あれ、健也顔赤いね~」
愛奈「ほんとね。どうしたの? おねむ?」
健也「っせーな、そういえば優勝したクラスはどこなの?」
吉良「3年生のクラスだね」
健也「あれ、そうなんだ」
鳴海「どうかしたの?」
健也「どうもないよ。とりあえず教室に戻るか」
鳴海「あ、もう解散したよ?」
健也「そうなの?」
鳴海「けん君寝てたからね」
健也「あーそうなのか」
吉良「じゃあ帰ろうか」
愛奈「そうね、行きましょう」
こうして4人で保健室から出て、学校を出ようとするが、なんか校内が静かだ。人はいるにはいるんだが、ほとんどの者が何も言わないで椅子に座っている。HRを始めたいが、担任が来ないから待っているのかもしれない。しかし、会話がほとんどない教室と言うのも不気味だった。廊下も静かで、鳴海・吉良・愛奈の3人も全く話さない。下駄箱で上履きから外履きに変えて校舎を出て、ある程度歩いたら3人とも口を開けて話し始めた
吉良「じゃあ僕達はここで、じゃあね、鳴海さん・健也」
健也「うん」
愛奈「じゃあね鳴海」
鳴海「愛奈もね」
吉良と愛奈は違う方向に歩いていった。健也も家に帰ろうとするが、鳴海は動かない。鳴海を見ると健也の目をジッと見ていた。何も言われなくても、健也から鳴海の目を見つめながら手を握ると鳴海は嬉しそうに手を握り返して、空が暗くなっていく中、2人で帰った
家に帰って、体操着を洗おうと鞄から取り出して洗濯籠に入れようとしたが、ズボンのポケットに何か入っていることに気づいた。何だろうと思ってゴソゴソとポケットに入っている物を取り出すと
鳴海にあげた白いお守りの1つが入っていた