※この作品はR-18です。

短編   作:御代川辰

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お目覚め×自慰×イモムシ

 人類が生きる大陸群の沿岸部より南方へ遥か数百万里もの先の海には、“暗黒大陸”と通称される何もかもが謎に包まれた陸地が広がっている。

 

 暗黒大陸は常に極めて分厚い黒雲に覆われて昼でも薄暗く、あまりにも日光が少ないため生物もまともに育っておらず、およそ文明・文化を持つ知的生命体は存在せず、自然の掟そのままな弱肉強食の食物連鎖が構築されており、大小や雌雄を問わず何千億種と知れぬ動植物まさしく凄絶かつ凄惨な喰らい合いが繰り広げられている。

 

 ……………………というのはあくまで人間世界の住人たちの先祖が語った様々な誇張(こちょう)と虚飾(きょしょく)が盛(も)り込まれた伝承に基づいて後生(こうせい)の人々が想像し脚色を加えたが故(ゆえ)に生まれた作り話でしかなく、有史から今日(こんにち)に至るまで語り伝えられる昔話は暗黒大陸の実態とはかけ離れたでたらめであった。

 

 まず、暗黒大陸には人のように知性と理性を兼ね備えた生物が一個体だけいる。

 そして…………その生物は“ヒト”の姿をしている。

 

「……すぅ……すぅっ…………」

 

 真っ暗闇に包まれた洞窟の奥底に漂っている泥沼(どろぬま)よりも真っ黒に濁っている粘液の中で、一糸纏わずきめ細かな肌を晒しながら眠る黒い長髪を持つ色白の少年の姿をした生き物。この少年が暗黒大陸唯一の知性ある生き物だ。

 

 この少年が人類世界の住人たちの目に止まり、かつその存在が公(おおやけ)に知られていれば、「暗黒大陸最大の謎」とでも吹聴(ふいちょう)されていたであろうことは想像に難(かた)くない。

 

「……んぅ……」

 

 少年の身体を支える布団代わりの粘液は、彼が寝返りを打つ度(たび)に突き立ての餅(もち)のように歪(ゆが)む。どこか儚(はかな)さを纏(まと)う穏やかで幼気(いたいけ)な表情を浮かべ、静かに微睡(まどろ)んでいる様子からも見て取れる通り、見た目とは裏腹に寝心地(ねごこち)は極(きわ)めて良(よ)いらしい。

 

「……んん……ふわあ……」

 

 しばらく寝返りを繰り返しながら眠っていた少年は、不意に瞼(まぶた)を擦(こす)り口を開きながら体を起こす。洞窟の天井に向かって腕(て)を大きく伸ばし、欠伸(あくび)をする様もまた幼さを残しているのが分かる。

 

「……もうちょっと寝てたかったあ……」

 

 欠伸(あくび)に付随して涙が浮かぶ目元をもう一度擦りながら、少年は粘液の布団から身を降ろし洞窟の出口を目指して歩き始めた。自分の足元(あしもと)さえも見えない真(ま)っ暗(くら)な洞窟(どうくつ)の中で、ひたひたと足(あし)の裏(うら)が岩盤(がんばん)を踏んでは離(はな)れ、先ほどまで伏(ふ)していた真(ま)っ黒(くろ)の粘液がずるずると後を付いてくる、合(あ)わせて二(ふた)つの音(おと)が洞窟内に響(ひび)いている。

 

「あふまあ、起きたよう」

 

 しばらく進んだ先で煌々(こうこう)と焚(た)き火(び)が燃(も)えている横穴に少年が声をかけると、大小五十程度の目玉(めだま)のような模様(もよう)を爛々(らんらん)と輝(かがや)かせる巨大な芋虫(いもむし)が横穴の奥から現れた。

 

「ギュイイッ!」

 

 満面の笑(え)みを浮かべて手を広げる少年に向かい、相対(あいたい)するアフマ(会魔)と呼ばれた芋虫は頭部の先端から赤黒(あかぐろ)い触角(しょっかく)を飛び出させながら身を持ち上げて応(こた)えた。彼らにとっては子が親に抱きつくのと同(おな)じ至極自然(しごくしぜん)な仕草(しぐさ)だが、両者の姿形(すがたかたち)だけ見るならば第三者には蝶の幼虫の姿をした怪物が子供に襲(おそ)いかかっているようにしか見えない。

 

「あふまは今朝(けさ)も甘(あま)えん坊(ぼう)さんだねえ」

 

 と、間延(まの)びした口調(くちょう)で話(はな)しかけながらも、自身も全身を埋めるような形でアフマに抱き付き、人間でいえば喉の根元にあたる部分に顔を押し付けている。

 

「ギギッ!」

 

 アフマも少年の腕(うで)よりも僅(わず)かに短(みじか)い六本足を前へと伸ばそうとしている。これではどちらが甘えているのか分からない。

 

「ああ……良い匂い……」

 

 アフマの触角からは胸焼けを起こしそうな程に濃厚(のうこう)で、かつ鼻、喉、肺に纏わりつくような粘(ねば)りけの感覚をも誤認(ごにん)させる程に重く甘(あま)ったるい香(かお)りが放たれている。

 

(幸せぇ……)

「ギュッ!ギュッ!」

 

 その尋常(じんじょう)な人間にはとても堪(こら)えられない凄(すさ)まじい甘(あま)ったるさの刺激臭(しげきしゅう)を「良い香り」と表現(ひょうげん)するあたり、彼の嗅覚も人並みではないことが容易(ようい)に窺(うかが)える。

 

「ギィギュウッ!ギュウギャッ!」

 

 アフマは何かを訴(うった)えるような鳴き声をあげながら暴れ、引き離(はな)そうとする。対する少年は確(しっか)と抱きついたまま離(はな)れようとする素振(そぶ)りすら見せない。

 

「もお、暴れないでよお。ねえ、あふまったらあ」

 

 このまま二度寝を始める腹積もりのようで、暴れるアフマから手を離さずに脚を回そうとしている。

 抱き付く腕の力も強くなりつつあり、顔と胸、腕と腹は完全にアフマの体に密着している状態だ。そこに性器と脚が加わるのだから堪(たま)ったものではない。

 

「ギャギャ!」

 

 焦(あせ)った動きで押(お)し退(の)けるように脚を動かすが、如何(いかん)せん体格以上に力が強い少年だ。力の弱い芋虫一匹では密着した体を引き離すのは至難である故(ゆえ)、ほとんど効果はない。

 

「んぅ……気持ちいい……」

 

 あろうことか自身の性器を芋虫の腹(はら)に押し付けて自慰まで始める強(したた)かさまで持ち合わせており、とても手に負えない様子だ。

 芋虫の触角(しょっかく)から放(はな)たれる香(かお)りに含(ふく)まれる成分と力加減を誤(あやま)ればあっさりと潰(つぶ)れそうなほどに柔らかい腹で刺激された性器は、臍(へそ)のあたりまで膨張(ぼうちょう)していた。

 

「ギュイユ!?」

 

 アフマは自身の腹に擦(こす)りつけられる決して小さくない性器の感覚に驚(おどろ)き、思わず抵抗(ていこう)を緩(ゆる)めてしまう。

 その隙(すき)を突いて少年は絡ませていた脚を下に降ろし、満身(まんしん)の力(ちから)と勢(いきお)いを込め、ちょうど跳躍(ちょうやく)と同(おな)じ要領(ようりょう)で地面を蹴(け)った。六本しかない芋虫の脚は全て腹の部分にあり、腹から下の部分は自重を支えられる程度の筋肉しかない。

 

 いかに彼の体格が劣ると言えど尋常(じんじょう)ではない力を込め勢(いきお)いで地面を蹴った生物が全体重をかけてのしかかってくれば、そのまま後(うし)ろに倒れるのは必定(ひつじょう)と言えよう。

 

「えへへ……捕まえたよ」

 

 アフマを仰向(あおむ)けに押(お)し倒(たお)し、蕩(とろ)けた表情(ひょうじょう)で語(かた)りかける少年。頬(ほほ)は集まった血で淡(あわ)く朱(しゅ)色に染まり、誰の目から見ても上気(じょうき)していることが分かる。

 

「あふまあ……」

 

 肉棒(にくぼう)の先端を柔らかな肉に挟まるように押し付けると、透明な先走りが光沢を放ちながら互いの腹を濡(ぬ)らし始める。

 

「ギイ!」

 

 アフマは刺激から逃れようと身を捩(よじ)らせて暴(あば)れ、逆に少年は逃(のが)がすまいと抱擁を強くする。余りのしつこさに耐え切れず、遂には体を波打たせるようにくねらせる激しい動きで少年を振り落とそうとし始めた。

 

「あ、こら。この、暴れないでよっ……わあ」

 

 振り落とされまいとより強く抱きしめて抵抗を押さえ込もうとするが、暴れ始めてから数秒程度で投げ出され、その勢いのまま吹っ飛ばされた少年を黒い粘液が受け止める。彼の行為からやっと解放され起き上がったアフマは完全に機嫌を損(そこ)ねてしまっているようで、衝撃を受け流(なが)し切れず粘液の中で大の字になって身悶(みもだ)える少年を尻目に、さっさと地上へと登って行ってしまう。

 

「もう……アフマは恥ずかしがり屋さんなんだから……うわっ」

 

 痺(しび)れる身体(からだ)を起こし、再び地面に足を着けて歩きだそうとするがまたもや後方に倒れ 込(こ)んでしまう。今度は衝撃に耐えられなかったのか、それとも弾力が弱い部分だったのかべちゃっと情けない音を立てて粘液が潰れ、強(したた)かに後背部を地面に打ち付けたことで、少年はしばらく悶絶する嵌めになった。

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