先ほど起きた出来事で未だに鈍い痛みの残る腰と背を撫で摩りながら、少年は後ろに粘液を従えて洞窟を進んでいた。しかしその表情は苦痛に歪んだものでもなければ、不機嫌に染まっているわけでもなく、むしろ上機嫌に笑みを浮かべている。
「どろぬ」
開けた分かれ道の前に立ち止まった彼に振り向き様にドロヌと名を呼ばれ、同じく動きを止めた粘液は彼を見上げるように大きく膨らませる。その様子はあたかも飼い主に向かい、主の顔を見上げんばかりに背筋を伸ばした姿勢でその場に座す犬のようである。
「今朝のあふま、様子がおかしくなかった?」
少年は何故アフマの機嫌が悪くなったのかを理解も自覚もしていない様子だった。ドロヌは先ほどの主が|行ったことが彼に凄まじいまでの精神的圧を与えていた、ということに気付いていたために、「知った事か」とばかりに彼の脛を小突く。
「ちょっ、痛っ!どろぬまで何するのさ!」
痛みのあまり小突かれた方の弁慶の泣き所を両腕で庇うように抱えて跳ね回り、涙目になりながらドロヌの行為を非難するように叫ぶ様は一糸纏わぬその姿を含めても滑稽そのもの。
「痛い!痛いったら!危ないからやめなよ!」
激痛に耐えながらの抗議の声など意にも介さずただ向こう脛を一方的に叩いているが、それはまるで主が喚き散らす様子を楽しんでいるかのようにも見える。
「いい加減にっ……うわっ!」
そして数分間に渡って足を攻撃し続けた末、少年は遂に足を踏み外し豪快な転倒を決め込んだ。
今度は背中を守るものが何もないため、ゴツゴツとした洞窟の岩肌に向けて強かに背中を打ち付ける格好だ。
「痛いなぁ……!」
肩から腰にかけて直に伝わる痛みに涙になりつつも、キッと睨み付けて威嚇するがドロヌはどこ吹く風とばかりにくつくつと破裂音を鳴らす。
言うまでもなく、主人の痴態を笑っているのだ。
「もう!どろぬなんて知いらない!」
その様子を見た少年はぷりぷりと怒りながら、改めて地上へと足を進め始めた。