いろはが欲しい、という言葉はあまりにも直球だったと思う。
何故ならあの状況においては「あなたとセックスしたいです」という意訳にしかならず、了承は得たもののもっとスマートな誘い方もあったように思える。しかし、今さら考えても後の祭りだ。
「⋯⋯⋯⋯」
シャワーを浴びてきます、と言われて待つこと既に十数分。今日は「一緒に入りますか?」と冗談でも聞いてくることはなく、俺はリビングでただ沈思黙考を続けている。
行為についての下調べは、今さらする必要はない。だがどんなハウツーサイトにも恋人がシャワーを浴びている間どう過ごせなど書いてあるはずもなく、きっとこれからそういう未知の場面も出てくるのであろう。
とりあえずトイレは済ましておくか、と廊下を歩けば、シャワーの音が漏れ聞こえてくる。その音が妙に生々しくて、微かに緊張を高まらせた。
こんなことぐらいで動揺してどうする⋯⋯とリビングに戻って悶々としていると、かちゃりと扉が開く音がした。
「お待たせしました」
そう言って、パジャマ姿のいろはが入ってくる。
よかった、いきなりバスタオル姿とかじゃなくて。⋯⋯と思ってしまったのは、俺の想像力が逞しすぎるだけだろうか。
「俺もシャワー浴びてくる」
「はい。⋯⋯先に寝室に行ってますので」
どこかぎこちないやり取りだけして、俺は脱衣所に向かった。そこに残っていた湿度を極力気にしないようにしながら、手早く衣服を脱いでバスルームに入る。
しかし、バスルームの中の方がよりいろはの
「⋯⋯あ」
そうして脱衣所に戻ると、俺はあるものに気がついた。
さっきいろはが着ていたパジャマの、色違いのものが洗濯機の上に鎮座している。そう言えばすっかり寝間着のことを忘れていたが、いろはが用意してくれていたらしい。
つまりはいろはは、こんな風に俺が泊まりに来ることを想定していたということだろう。それが嬉しいやら恥ずかしいやらで、また頭の方が忙しくなる。
いろはの想いを汲み取りながらパジャマを着ると、俺は廊下を踏みしめるようにして寝室に向かう。扉を開けると、いろはは真剣な目で携帯電話の画面を見ていた。
「⋯⋯⋯⋯」
俺が部屋に入ってきたのに気がつくと、いろはは妙に素早い動きで画面をロックした。それに少し違和感を感じつつも、俺はいろはの隣に腰をおろす。
こういう時、なんて言って始めればいいのかも分からない。だが誠に残念ながら、伝えるべきことははっきりしていた。
「一つ、情けないお知らせがある」
「⋯⋯はい?」
キョトンとした目が、俺を見ていた。非常に言いにくいことだが、言わないことには始まらない。
「こういうことは初めてだから、上手くリードできるかどうかは分からん」
「あ、はい⋯⋯。まあわたしも初めてなので、リードして欲しい気持ちはあるにはあるんですけど手慣れていたら嫌だなとかいう気持ちもあるのでそれはお互い様ということではいよろしくお願いします」
「え」
「えっ?」
俺たちは顔を見合わせたまま、かちんと硬直してしまう。
いろはは⋯⋯、処女だったのか。安心してしまう自分がそれはそれで気持ち悪いなとか思いながらも、胸のモヤがすっと晴れていくのが分かる。
「な、なんですかその反応は⋯⋯」
「いや、な⋯⋯。経験があってもおかしくないなと思ってしまったというか⋯⋯」
若干もにょもにょした物言いになってしまうと、いろははだんだんプンスカした表情になっていく。あ、今俺、地雷踏んだかも。
「なんですかそれ。わたしをそんな軽い女だと思って見てたんですか」
「そういう訳じゃないが⋯⋯。っていうかむしろそういうキャラを演じてる節あったでしょ、君⋯⋯」
「それは⋯⋯。まあ、そんなつもりはなかったですけど、そう思われても仕方がないというか⋯⋯」
いろはは怒りを沈めていくと、徐々に語尾を小さくさせていく。
「今のところ初恋以外の初めて、全部先輩に捧げてるんですけど。だから⋯⋯心外です」
そう言って、ぷいっとそっぽを向いてしまった。うーん、あざとい⋯⋯。
しかしこういう時の最適解は、何だ? ドラマやアニメを回顧してみても、どうにも答えは見当たらない。
「でも」
俺が思考を巡らせていると、思っていたより早くいろはの視線が戻ってくる。
「ここまで本気で好きになったのは初めてなんで、そういう意味では初恋も先輩なのかも知れません」
ズキュゥゥゥンと胸を撃ち抜く音が、俺の脳内に響き渡った。
駄目だこいつ可愛すぎる。愛しくて可愛くて魅力的すぎるのだ。俺の彼女は。
「んっ⋯⋯」
そう思った瞬間、俺はほとんど無意識にいろはの唇を奪っていた。
そのまま前にいろはがしてきたみたいに、唇を
唇を割るようにゆっくりと舌を差し込むと、いろははおずおずと俺の舌を迎え入れた。舌同士が触れ合うといろはは一瞬舌を引っ込めて、思い直したように絡みつかせてくる。
舌で気持ちを伝え合うように唾液を交換し合っていると、いろはの甘味が伝わってきた。それをもっと味わいたくて、深く深く舌を絡ませ合う。
「⋯⋯はぁっ」
永遠にも思えるぐらい長いキスが終わると、いろはは頬を上気させていた。その表情があまりにも艷やかで、
「⋯⋯さっきのは、反則だろ」
「覚悟してください。わたし、反則技いっぱい使いますから」
そんな会話の後に、俺たちはまた舌を絡ませ合う深いキスをする。
肩に手を置くと、ぴくりといろはの身体が震えた。そのままそっとベッドに押し倒すと、唇を離していろはを見下ろす。
じゅわりと濡れた目が、俺を見つめていた。不安そうなその表情が、とくとくと心臓を逸らせていく。
「いいんだな、本当に」
「そうやって聞かれると、すっごい恥ずかしいんですけど⋯⋯」
微かに頬を染め出したいろはが可愛すぎて、俺はその頬にキスを落とした。んっ、とくすぐったそうな、甘い声が漏れる。
首筋を撫でると、いろはの身体が少し硬くなったのが分かった。唇と頬にキスを繰り返しながらその手を下ろしていくと、やがて柔らかな膨らみに到達する。
「ぁ、ん⋯⋯っ」
首筋に吸い付くように唇を押し付け、できるだけ優しくを肝に銘じながら、服の上からその胸に触れた。ブラジャーのゴワゴワした感触越しに、確かな柔らかさを感じる。
「⋯⋯脱がすな」
「あ⋯⋯」
震えそうになる指で、ボタンを上から順番に外していく。徐々に増えていく肌色の面積と、襟の間から覗くクリームイエローの下着。
放っておけばどんどん荒くなっていきそうな鼻息を鎮めて、俺はいろはの手を引いて身体を起こした。ベッドの上で向かい合うと、そのまま抱き合う。背中をまさぐり、ブラのホックを見つけ出す。そのままホックを外そうとするが──なかなか外れない。
「あの⋯⋯。片手でつまむようにしたら、簡単に外れますので⋯⋯」
「あ、ああ⋯⋯」
片手で外すのを断念しかけていると、いろはは恥ずかしそうに教えてくれる。言われた通りにホックの部分をつまむと、あっさりとそれは外れてくれた。
ごくりと唾を呑みこんだ後に、するりといろはのパジャマを脱がした。ぶらんと肩にかかっただけになったブラジャーも落とすと、いろはは腕で胸を隠す。それをいじらしく感じながら、俺はもう一度いろはをベッドに押し倒した。
「⋯⋯いろは」
名前を呼びながら、手首を掴む。そっとその手を下ろさせると、いろはの胸が目の前に晒される。
ふっくらと確かな膨らみは、想像していたより大きく見えた。形のいい乳房が、呼吸のたびに上下している。
「あの⋯⋯あんまり見られると⋯⋯」
「⋯⋯綺麗だ、すごく」
俺はそんな凡庸な感想を口にすると、たまらずいろはの唇を塞いだ。片手でいろはの胸を揉み始めると、感動的なまでの弾力と柔らかさで迎えいれてくれる。
「あぁ⋯⋯ぅ⋯⋯んっ⋯⋯」
そんな悩ましい声が耳に飛び込んでくるたびに、股間が窮屈になってくるのが分かった。もっとその声が聞きたいともう片方の乳首を口に含むと、いろはの身体はびくんと跳ねる。
「あぁ⋯⋯っ♡ せん、ぱい⋯⋯っ」
どこか懇願するような声は、俺の理性を突き崩そうとしているかのようだ。たっぷりと時間をかけていろはの胸を味わうと、俺はゆっくりと乳房から下腹部へ、そして
「あ⋯⋯っ」
そうしていろはの股間をまさぐるようにして、その割れ目に辿り着く。俺の指がそこに触れた途端に、またいろはの身体は跳ねていた。
俺は無言のままいろはの下半身に両手を伸ばすと、ボトムとショーツを一気に脱がし取る。そうして俺の眼下には、生まれたままのいろはが横たわっていた。
「ず、るいです⋯⋯。わたしばっかり⋯⋯」
「⋯⋯ああ」
そう言っていろはが俺のパジャマを掴んできたので、好きにさせることにした。
するりと上半身を裸にさせられると、戸惑いがちな手が腰の辺りに伸びる。躊躇うような間の後にパジャマのズボンだけが脱がし取られると、パンパンに張り詰めたボクサーパンツが見えた。
突如として目の前に現れたそれを、いろはは思わずといった調子で凝視する。それがやたらと気まずくて、俺はそっといろはの肩を押した。
「あ⋯⋯っ。ん⋯⋯っ」
またいろはに覆いかぶさって愛撫を再開すると、さっきより甘い声が鼓膜を蕩かした。
いろはの入口は、ぴちゃぴちゃと音が鳴るほど湿ってきている。しかし、初めてだと言うのなら、十分に濡らしておいた方がいいだろう。
「あ──せんぱ、いっ、んっ、んん~~⋯⋯っ!」
いろはの脚を広げさせると、その間に入ってその秘裂を舐め上げた。過剰なまでの反応に満足を覚えながら、俺は奥深くへと割り入るように舌を差し込む。
「せん、ぱいっ、だ、めっ⋯⋯っ。んっ、あぁぁ⋯⋯っ!」
いろはは俺の頭を掴むと、そっと押し返そうとしてくる。だが、本気の抵抗ではない。俺は構わずそのまま舐め続けていると、いろはの身体が小刻みに震え始めた。
「あっ、あああぁぁ──⋯⋯っ!!」
やがてガクガクといろはの腰が揺れ始めると、今度は本気で頭を押し返される。舌での愛撫で絶頂に達したのか、いろはは荒い息をつきながら小刻みに身体を震わせていた。
「はぁ、は、ぁぁ⋯⋯。もう、充分ですから⋯⋯」
「⋯⋯みたいだな」
いろははもう耐えられない、とでも言うように、腕で目を覆う。そのしどけない姿と可愛い反応に、俺の分身はビクンと反応を返した。
もう充分⋯⋯ということは、いよいよその時がやってきたということだ。俺が自分で最後の一枚を脱ぐと、途端にぶるんと硬くなったペニスが飛び出す。
「え⋯⋯」
目を覆っていた腕をおろしたいろはは、俺の肉棒を見て固まっていた。自分でも信じられないぐらい、激しく勃起している。
「な、なんですかそれ⋯⋯。そんな大きいの入るんですか?」
「いや、まあ⋯⋯。入れたことないから分からんけど⋯⋯」
いろはは初めて見るからか驚いてはいるが、さすがに入らないということはないだろう。
さてゴムは⋯⋯と考えたところで、俺は一つうっかりしていたことに気付いた。避妊具は持ってきていたのに、財布の中に忍ばせたままリビングに置いてきてしまったのだ。
「あ⋯⋯。これ使ってください」
俺がきょろきょろしだしたことで気付いたのか、いろはは枕の下からコンドームの箱を取り出した。そんなところに隠してあるとは⋯⋯いろはの方も、準備万端だったということなのだろうか。
そう考えると、より興奮は高まってしまう。俺は震えそうになる手で避妊具を装着すると、もう一度いろはに覆いかぶさった。
「⋯⋯入れるな」
「っ⋯⋯。は、はい⋯⋯」
ペニスの先を入口に這わせながら言うと、いろはは緊張した様子でこくっと頷いた。それを合図に、俺は腰を直進させる。
「──っ、あぁ⋯⋯ぅっ」
半分も入らないうちに、いろはの口から小さな悲鳴のような声が漏れる。その反応に、俺は思わず腰を止めた。
たぶん、これがいろはの処女喪失になるのだろう。やたらといろはの中が狭く感じるのは、初めてだからか元からなのかは分からない。
「大丈夫か?」
「は、はい⋯⋯っ。気にせず、そのままきてください⋯⋯っ」
いろはは痛みに顔を歪ませながらも、気丈にそう言ってくる。背中に腕がまわされて、それならばと俺は挿入を再開することにした。
「あっ、ぅぅ⋯⋯っ! んん⋯⋯っ!!」
「は、あぁ⋯⋯。最後まで入ったぞ」
そうして、ようやく。
俺といろはは──初めて一つになった。
「ふっ、くぅぅ⋯⋯っ」
しかし、いろはの表情は苦悶に濡れている。俺の背中に指を食い込ませ、必死に痛みに耐えていた。
「本当に、大丈夫か? いったん抜い──」
「だいじょうぶっ、ですから⋯⋯。痛いのは、当たり前だと思うので⋯⋯」
腰を引こうとした瞬間に、いろはの腕が俺の身体を引き寄せた。そのままじっと待っていると、徐々にいろはの腕から力が抜けていく。
「動いて、だいじょうぶです⋯⋯」
いろはがそう言うと、俺はこくりと頷いた。さっきよりは、身体から力が抜けて来ているように思えた。
「なら、いくぞ」
「はい⋯⋯っ。ん⋯⋯っ、あ⋯⋯ぅっ!!」
少しだけ腰を引いて、また入れる。その瞬間痛みの強さを伝えてくるように、またいろはの指が背中に食い込んだ。
「⋯⋯いろは」
「ご、めんなさい⋯⋯。やっぱり抜いてください⋯⋯」
やはり相当痛いのだろう、いろはは瞳を潤ませながら言った。
俺は頷くと、張り詰めたままの肉棒を抜く。ペニスに装着された避妊具には、破瓜の血がまとわりついていた。
そのまま寝転んでいろはの頭を抱くと、腕枕をする格好になる。脇腹にいろはの膨らみを感じながら、俺はぼんやりと天井を見上げていた。
「⋯⋯」
それっきり、会話はない。こんな時に、俺は何を言えばいいのか。
おそらくは、何も言わないことが正解なのだと思う。そんなことを考えながら、いろはの柔らかな髪を撫で続ける。
「⋯⋯っ」
微かな嗚咽が聞こえた瞬間、俺の腕に温かい物が伝い落ちた。はっとしてその顔を見ると、いろははポロポロと涙を零していた。
「先輩⋯⋯っく⋯⋯。ごめん、なさい⋯⋯っ」
悲痛な声に、俺は大きな過ちに気づく。
俺はいろはに、耐えられないほどの痛みを与えてしまっていた。そのことに気付けないなんて、恋人失格だ。
「謝るなよ⋯⋯。俺の方こそ、気遣ってやれなくて悪かった」
「違うんですっ。わたし⋯⋯、わたしが⋯⋯っ」
涙に濡れた声が言葉を紡げなくなると、いろはは俺の腕の中でさめざめと泣き続ける。
そうやって、ずっと。
涙が枯れて、泣きつかれて寝てしまうまで。
俺はずっと、いろはの頭を撫で続けていた。
やっとR18パートまで書けましたが、何もかもが順調なわけでもなく⋯⋯。
焦らしプレイみたいになってすみません(文句言われる前に先に謝っとくやつ)。
いつかはちゃんとエッチくします。