大学でもボッチ生活なのだろうと、俺は勝手に想像していた。
自分から他人に絡みに行くことはないし、そもそも影でひっそりと過ごそうとしている人間に声をかける人間なんて稀だ。
「楽しみだなぁ、比企谷!」
⋯⋯そう、稀ではあるが、いないことはないのである。
合コン会場の居酒屋。時は黄金週間。
この合コンの主催である二階堂は、その名前から連想される二枚目クールキャラとは程遠く、多少暑苦しいぐらいのヤツだ。
同じ講義を取ることが多く、向こうから話しかけられたのがきっかけだった。意外にも読書家で話も合うから、何だかんだとつるむ機会が多い。
「もらった写真、ヤバない? 事前に送ってくれるとか自信あんなーって思うけど、実際可愛いわ」
そう言って携帯を見ながらニマニマしている男の名前は、津西といった。
喋りはチャラいし、髪は金髪。最初見た時は絶対合わないと思っていたが、こいつもメチャクチャ読書家かつ映画好きで、俺と二階堂が喋っているところに無理矢理突っ込んできた。平たく言えば大学デビューの元オタクである。俺とつるんでるあたり、デビューには失敗してるっぽいけどね⋯⋯。
「お待たせ~」
そんな浮ついた会話をしているうちに、約束の時間が来たようだ。個室の障子が開かれると、そこから顔を覗かせた女子⋯⋯と言っていいのかどうかは年齢不詳で分からないが、なるほど確かに可愛らしい。サラリと流れた長髪がどこか清楚な雰囲気を持っている。
次に入ってきたのはショートボブの女の子で、くりっとした目が快活さを連想させた。そして最後に入ってきたのは肩より少し下まで届く亜麻色の髪をした⋯⋯って。あっれぇー?
「うーす。全然待ってないよー。そんじゃ、とりあえず飲み物頼もっか」
男子側の主催である二階堂が言う間も、俺は目線を外すことができなかった。それは一色の方も同じで、目を合わせたまま固まってしまっている。
あの、一色さん。なんでここにいるんでしょう? いや、そもそも合コン行くって言ってましたねそうでしたね⋯⋯。
しかしいつまでもそうしているわけもなく、一色は俺の真向かいの席につくと何事もなかったかのように飲み物を選び始める。
「それじゃ、自己紹介しよっか」
注文した飲み物が届いて乾杯を済ませると、そんな一言で自己紹介タイムが始まる。ちなみに男子側は強制的に生中である。作中の年齢と実年齢は相違がある場合がございます何言ってるの?
野郎どもの自己紹介が終わると、続いて女子陣の自己紹介が始まる。最後に自己紹介したのは一色だ。
「一色いろはです。よろしくお願いします」
それは驚くほど素っ気ない自己紹介だったのに、浮かべられた笑顔は一級品。俺に向けてニッコリと作られた笑みは
あー、えー、その、一色さん? これめちゃくちゃオコのやつですね?
「それじゃ喋りやすいように、席ばらけよっか」
津西のやつはこういうのに慣れているのか、さっそく席替えを提案する。そして何の迷いもなく俺の隣に来たのは。
「ここいいですか?
返事をする前に座ったのは、やはりというか何と言うか、未だ怒り冷めやらぬ感じの一色さんである。さっきから全然笑みが変わらないあたりが凄く怖い。
「お、お疲れ様です⋯⋯」
「はい、お疲れ様です」
コツンとグラスをぶつけ合うと、一色はすごい勢いで飲み物を飲んでいく。あれ、それってオレンジジュースでいいですよね? ⋯⋯まあいい。俺も飲まなきゃやってられん。
「こんなところで奇遇ですね?」
「エエ、ソウデスネ」
さっきから目の奥に沸々とした怒りを沸かしている一色は、どこまでも俺を追い詰めてくるようだった。機械的な返しをする他ない俺は、沈黙が訪れるたびにグビグビと黄金色のそれを飲む。
それを見ていた一色は、ぴとりと身体をくっつけんばかりに身を寄せてきた。
「⋯⋯っていうか、本当にどういうことなんですか? 聞いてないんですけど?」
「言う前にお前が帰ったんだろ⋯⋯」
先日から続く出来事にようやく弁明ができると、少しは肩の荷が降りた気がした。どういうわけだか、黙ってこういう会に参加するのに気が引けていたからだ。
「それを言われると⋯⋯。まあ、先輩がああ言ったのは分かります」
段々と一色の表情から作られた笑みが引っ込められ、毒気も一緒に抜けていく。感情的に帰ってしまった自分を責めているように見えて、何だかんだこいつも真面目だなと思った。
「だからって浮気はダメですよ?」
しかしそう思ったのも束の間。一色はぷくっと頬を膨らませて俺の鼻先に人差し指を突きつけた。その仕草、大変あざといと存じ上げます。
「浮気って、お前⋯⋯」
「あ、ビール空きましたね。お注ぎしまーす」
俺の言葉を遮ると、一色は空のコップを用意して瓶ビールを傾けた。飲み放題のビールで生中なのは最初だけ。後は瓶ビールでの提供だからだ。
しかしこいつにお酌してもらう日が来るとはな⋯⋯なんてチビチビやっていると、こつんと背中を肘で突かれる。
「おいおいおいおい。何だよお前、
「へ? あ、ああ⋯⋯」
小声で話しかけてきた二階堂に、俺も同じく小声で返す。あの一色、とはどういう意味だろうか。
「一色のこと知ってるのか?」
「知ってるも何も、今年の新入生で一番可愛いって評判だろ。むしろ知らないお前にドン引き」
いやむしろ知り合いだったから知らない俺にドン引きされるいわれはないんですが? と言いたくなったが、どうでもいいことなのでやめておく。
「せんぱーい? どっち向いてるんですか?」
それにしてもこいつ、可愛いのは分かっていたけど噂になるほどだったのか。どこか作られた声に一色の方を向くと、ぐいと二階堂が俺の肩にのっかってくる。
「いいなー。一色ちゃん。俺もお酌して欲しいなぁ」
「──は?」
瞬間、全ての会話が止まった。ありとあらゆる物を凍てつかせんとばかりの冷たい声音に、誰もが目をパチクリして固まっていた。
「あの、いろはちゃん?」
一色の友だちらしいサラサラロングヘアの女の子は、戸惑いがちに声をかける。どうやら
「ああー。ごめんなさい。お酌でしたよね? 自分でやったらいいんじゃないですか?」
さすがにその言い草には、俺もドン引きである。
マジかよ、こいつ。塩対応どころか激辛対応じゃねぇか。
「一色、お前な⋯⋯」
「あ、先輩グラス空いてますねー」
そう言うと一色は、さっき拒絶したばかりのお酌で俺のグラスをいっぱいにした。
駄目だこいつ⋯⋯。早くなんとかしないと⋯⋯。
「いやー、それにしても今日は暑くて喉が乾きますね」
俺の
「あ、間違えちゃいました♪」
ZEKKU.
一堂絶句である。女子たち二人は口をポカンと開けて固まり、それは残る野郎メンバーも同じ。いや、流石に今のは、わざとらしすぎるでしょうよ⋯⋯。
「あ、あはは⋯⋯。いろはちゃんって、天然なところあるよねー」
「そうそう。結構抜けてるっていうか」
「あははっ。そうなんですぅー」
しかし、マジか君たち。女子の結束力ってこんな時にも働くものなのか。勢い余って結束バンド組んじゃうんじゃないの?
⋯⋯いや、よく考えてみたらこれは違うな。
「っていうかお前、未成ね」
「何か言いました?」
めっちゃ食い気味で遮られてしまった。まあ、この場に置いては野暮だったかも知れない。
気付けばもう俺たちに向かっていた視線は散っていて、皆それぞれ話に花を咲かせている。
「苦いって聞いてたんですけど、意外にいけますね、これ」
一色はそう言うと、まるで自分の飲み物のように俺のグラスを傾けた。
んくっ、と口に含んでテイスティング。こくんの飲み込んで、もう一口。
「あのー、一色さん?」
「ふぁい?」
数分と経たないうちに、一色の頬は赤らんできていた。
当然それには、危機感しかない。
「おい、もう止めとけ」
「えぇー、何でですかぁー」
ひょい、と俺の手を避けると、一色は手酌でビールを継ぎ足してあおる。その姿はまるで、ぼっち飲みに来ている独身OLのそれである。
「いや、おい、マジでもう飲むな」
「いいじゃないれすかぁ。酔いつぶれたら先輩が面倒みてくれるんれすよねぇー」
ああ、やばい。これはダメなやつだ。
俺の焦りが高まるのと比例するように、一色の杯のペースは上がり、そして──。
「うぅぅ⋯⋯気持ちわるい⋯⋯」
俺は背中に軽いけど重い、柔らかな荷物を背負うことになるのだった⋯⋯。
オリモブ登場の合コン回でした。
ただこの二人は作品情報に書いているオリキャラとはちょっと違います。
次回、お持ち帰り編!(語弊あり)
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それでは、引き続きお楽しみ下さい!