導入回です。
時系列は10巻で護堂達がアレクの手紙を読んで日本にとんぼ返りした少し後から。
注意:作者はカンピオーネ!は最終巻まで読みましたが続編は途中までしか履修していません。基本的にはその知識に独自設定を投入した話になるので本編と矛盾していても流して下さい。
ーイギリスの首都ロンドンー
謎めいた軍神“ランスロット・ドゥラック”の正体を探るためイギリスを訪れた草薙護堂一行。
しかし万里谷祐里がサマセット州でかの軍神の正体に迫る霊視を行った直後に現れたサー・アイスマン、カンピオーネの一人“黒王子”アレクサンドル・ガスコインの側近からの手渡された手紙と、日本から甘粕冬馬からの連絡を受け、軍神の調査を万里谷祐里に任せ、彼らは日本へ戻ることになった。
残された万里谷祐里は、プリンセス・アリスと共に引き続き軍神の正体を探るためイギリスの各地に赴く予定だったのだが…。
「その、アリス様?この車は一体何処へ向かっているのでしょうか?」
「それは着いてからのお楽しみ!と、言いたいところだけど、流石に何も知らないままで行くのも申し訳ないから教えてあげるわね。今から行くのは私の家よ!」
「…? 確かアリス様の屋敷はロンドン市内のはずですよね?
むしろ郊外に向かっている気がするのですが…?」
万里谷祐里の質問にプリンセス・アリスは意味深に微笑み、「先に屋敷で待っています」という言葉を残して忽然と姿を消した。
そもそも幽体離脱と念動力を駆使して仮初めの肉体を遠隔操作しているのがプリンセス・アリスなのだ。おそらく屋敷の自分の肉体へ戻ったのだろう。
だがそもそも彼女の肉体はロンドン市内の屋敷にいるはずでは、と万里谷祐里は首をかしげた。
今リムジンに乗っているのは万里谷祐里とアリスの秘書だという柔らかい印象の30代程の秘書、後は運転手のみだ。
アリスの屋敷の女官長だというミセス・エリクソンはここにいない。
そしてリムジンは霧の立ち込める森を通り抜け、その先に現れた、公爵家の姫君でもあるアリスの屋敷としてはややこじんまりとした屋敷へとたどり着いた。
そして万里谷祐里は、イギリスを訪れてから最大の驚愕を経験することになる…。
「ごきげんよう、ユリ。こうして生身で会うのは初めてね!」
「アリス様…、です…か?」
屋敷の応接間で、館の女主人の歓待を受けた万里谷祐里は、一瞬その女性が先程まで共にリムジンに乗っていた貴婦人だと気が付かなかった。
プリンセス・アリスは明るく溌剌としながらも、霊体の彼女の肌は生気が薄く、どこが儚げだった。
だが今、万里谷祐里の目の前にいる女性は、容姿こそ先程まで彼女と共にリムジンに乗っていた儚げな貴婦人と同じだか、生身であることを差し引いてもその肌は艷やかで生気に満ちている。
美しいストベリーブロンドも、霊体のときは物語に出てくるお姫様のように腰まで届く長さだったが、今は肩までの長さだ。
そして最大の違いは、ゆったりしたドレスを着た彼女の少し膨れたお腹だろう。
「あ、アリス様…?そのぅ…」
「あら、この髪かしら?あの姿だとお姫様っぽくしないといけないけど、生身だとお手入れも大変だし子供が生まれてから短くしたの!」
若干、万里谷祐里が求めている回答からズレた答えを語りながら、更に爆弾発言を追加する。
「お、お子様が、いらっしゃるのですか…?」
「ええ、そ…」
「お母様ー!!」
アリスが肯定しようとしたタイミングで、小さな子供が部屋へと飛び込んできた。
「お母様!お客様ですか!?」
「こらリチャード、はしたないわよ。きちんとご挨拶しなさい?」
「はい、お母様。」
そう言って、礼儀正しく万里谷祐里に自己紹介するリチャードと名乗る5歳程度の男の子。
顔立ちはどことなくアリスの面影がある黒髪の可愛らしい子供だった。
「アリス様の…、お子様ですか……?」
「はい!」
男の子が元気に答えて、アリスの隣に行儀よく座る。
「リチャード、もう少しお客様とお話するから待っててね。
お土産に美味しいお菓子を買ってきたから、後で一緒に食べましょ?」
「はーい、お母様!」
リチャード少年はそう言うと、乳母だという女性と共に部屋から去っていった。
祐里は落ち着くために、既に冷めてしまった紅茶を一口飲む。
「その…、ご結婚、なされていなたですか…?」
「う~んと、結婚式は挙げてないし、向こうもそういうことにはこだわらない人だから、いわば未婚の母というところかしら?」
勇気を出して聞いてみた質問には、なんとも曖昧な答えしか返ってこない。というよりも明らかに祐里の反応を楽しんでいる。
「そ、そもそも!今日は私の力を鍛えるための講義をすると仰っていたはずですよね?」
今の状況でそのようなことが可能なのか、とうとう我慢できず祐里が声をあげる。
「うふふ、ちょっとからかいすぎたかしら?
大丈夫よ、ユリ。今貴方が見たことと、貴方の力を鍛えることは関係のあることだから」
「…?」
そしてアリスは楽しげに祐里に告げる。
「貴方も私もカンピオーネの、神を殺した王様の伴侶だもの。
大地母神の末裔が神殺しの妻として子供を産む、それこそが私達にとって、この人の身には大き過ぎる力を制する最大にして唯一の術なのよ?」
欧州最高の貴婦人から告げられた爆弾発言に、草薙護堂の“正妻”と呼ばれ何度もかの神殺しの王と肌を重ねた伴侶の一人でもある万里谷祐里は、石化の呪いにかかったかのように、その場で硬直した。
今回はここまで。
次回でリチャード君の父親が判明します(笑)