…なんでこの二人はこれだけ書いても濡れ場にたどり着けないのか?
グリニッジ賢人会議長、欧州最高の貴婦人、白き媛巫女。
生まれつき神祖の先祖返りとして類稀な霊力とそれを扱う才能を持っていた彼女は、10代前半にはその才覚に相応しい地位を獲得し、数多の称賛と、押しつぶされそうなほどの責務を背負わされていた。
「はじめの頃は、何の疑問も抱いていませんでした。私には特別な力があって、その力があれば周りの皆が褒めてくれましたから」
アリスは淡々と、まるで他人事のように自らの人生を振り返る。
「ある時、気付いてしまったんです。私を見ている人達…賢人議会のおじいさん達も、家族も、使用人や議会のスタッフ達も、私を同じ目で見ていると」
自嘲するような、影のある表情を浮かべながらアリスは嗤う。
「私が特別だから、みんな私に期待する。私のことを崇めて、奉って、讃える。でもそれは全部、上っ面だけのことなんです」
そう言って、彼女は俯く。その声音からは、深い悲しみが感じられた。
「だって彼らは私を、
「…………」
「当時の私は子供でしたけど、それが普通の人と違うことは分かっていました。それに気づいた時、とても悲しかったです。私はただ、周りにそう望まれたから、そうやって生きてきただけなのに。どうしてこんな風に扱われないといけないのか…」
「…………」
「アレク…私は貴方が、あなた達が羨ましかったんです」
「…そうか」
「あなた達カンピオーネは誰からどんな目で見られようと、自分を曲げることはない。だってあなた達はそれぞれが最強の“魔王”ですから」
「そうだな…」
「でも…私は、私は違う!私は貴方達の様に強くない!なのに、なのになんで私は!!」
アリスは涙を流しながら、アレクの服を強く掴む。
「もう、嫌なんです。私は弱いのに、そんな私を皆が頼るんです…私は弱いのに、人間を代表して貴方達に、魔王に対抗しろって。なのにあの人達は、弱い私を“怪物”みたいに見てくるのに…」
「……」
アレクに縋りつき、彼の胸に顔を埋めてアリスは泣きじゃくる。
「私だって、普通の女の子みたいに学校に通いたい。オシャレをして、街でショッピングをして、素敵な男の人と…恋をしたかった」
そこには、悪戯っぽく笑いながらアレクをからかう少女も、賢人議会の議長として神殺しの魔王達と渡り合う凛々しい貴婦人の姿も無く、ただただ重圧に押しつぶされ、疲れ果てた哀れな少女しかいなかった。
アレクは何も言わず、不器用にアリスを抱きしめる。
アリスは一瞬驚いたように身を固くしたが、すぐにアレクに身を預けるように力を抜いた。
そのまましばらく、二人は無言で抱き合っていた。
「アレク……」
どれくらい時間が経っただろうか。
ようやく落ち着いたらしいアリスが、ゆっくりと身を起こす。
「ありがとうございます……。お陰で少し楽になりました」
「ああ……」
涙の跡が残る頬を拭いながら、アリスはアレクに微笑んだ。
アレクは彼女に再び紅茶を差し出す。アリスはアレクの淹れた紅茶をゆっくりと飲み干す。
「美味しい…です」
「…そうか」
「……」
再び、二人の間に沈黙が満ちる。
沈黙に耐えかねたのか、ばつが悪そうにアリスが口を開く。
「正直、呆れるなりからかわれるなりすると思ったのですが…」
「…そうだな。少なくとも、お前がなんで頑なに薬を嫌がるのかは理解できた」
アレクはため息をつき、一つ頷くと、真っ直ぐにアリスの目を見つめながらぶっきらぼうに、アリスへ爆弾発言を投げつけた。
「アリス…結婚するぞ」
一瞬ポカンと呆けた顔をしたアリスは、その言葉の意味を理解すると、満面の笑みで右手を振り上げ…
繰り出された平手打ちは、神速の権能を有するアレクをして、何故か躱せない一撃だった。
次回こそ…次回こそ濡れ場を…!