見えるものが全てではない
「はっ…… はっ…… はっ……!」
息を乱しながら霧がかかった森の中を走っているアスナ。その後ろからは大量のモンスターがアスナを捕まえようと追いかけて来ていた。
(どこに逃げれば………!!)
アスナは持ち前のスピードと身のこなしでなんとか逃げられているものの何処を探しても森の出口は見つからず、終わりの見えない鬼ごっこを繰り返していた。
「きゃあっ!!」
アスナもよく逃げていたがリトル・ネペントから放たれた触手がアスナの足首を捉えると、走った勢いのまま倒れてしまった。そして起き上がる暇もなく何本もの触手がアスナの身体に絡みつく。
「やめてっ! 離して……んぐっ!!!?」
触手を振り切ろうと暴れるも一本の触手がいきなりアスナの口に突っ込んだ。
「えぐっ………お"ぇっ…………」
(苦しい………いや……入って……こないで………)
喉の奥まで入ってくる触手にえずき、生理的な涙を流すアスナ。こうしている間にもモンスターは徐々に近づいてくる。
「むぐぅううーーーー!!!」
もうダメかと思ったその時、どこから現れたのか目の前にはミトがいた。
アスナは塞がれた口で懸命に叫び、ミトに向けて必死に手を伸ばす。
「………………」
「ぇ……………」
しかしミトは氷のように冷たい目で見つめてくるだけで手を取るそぶりを見せず、アスナがいる方向とは逆に向かって歩き出す。そして数歩ほど歩いた後、アスナの方を振り向く。
ーーーーさよなら……アスナ
「ミトーーーーーーーー!!!!!!!」
そしてモンスターの大群に飲み込まれ、アスナの身体が金色の光りの粒となって…………散った。
「いやぁあああああっ!!!ーーーーーーはぁっ、はあっ、はあっ………えっ………?」
死んだと思ったその瞬間、絶叫するアスナ。
すると急に視界が広がり、そこにはミトの姿もモンスターもいなかった。
目の前にはあの森が広がり、夕方になっていたのか空がオレンジ色に染まっていた。さらに左上に表示されているHPは何故か満タンになっていた。
「はぁ……はぁ……ゆ、め?………わたし、生きてるの………?」
アスナはどっちが夢なのか確信が持てず混乱しているが、今まで見ていたのはアスナの記憶によって作られた夢でモンスターに殺されたわけはなかった。それが分かった途端、アスナは安堵する。しかし見ていたものが全て夢というわけではなかったようだ。
ギシッ
「な、なにこれ!?」
アスナは膝から下を左右に少し広げてお尻を地面に、いわゆる女の子座りの状態で植物の蔦のようなものが全身に巻き付いている。そして両手は背後にある木に回され縛られていた。
「この……ふっ!………んっ!………」
アスナは驚きながらも蔦を引きちぎろうとする。しかし複雑に絡み合った蔦はとても頑丈でびくともしない。立ち上がるどころか右手も使えないためウインドウを開くことすらできない。
「はぁ、はぁ、どうしたら……」
力ではどうやっても脱出できないことが分かり、次の手を考えていたところ。
「やっとお目覚めかい、眠り姫さんよ」
そこに足音と共に現れたのは深くフードを被った人物、声からすると20代くらいだろうか。
アスナはこの声が気絶する前に聞いた男の声と同じなのがすぐに分かった。
「あ、あのっ!!」
アスナが助けを求めようとする前に男が近づいてくる。助けてくれると思いアスナはホッとする。
「ふーーん、可愛いの履いてるじゃねぇか」
「えっ……………きゃあああ!!!」
男はしゃがみ込むといきなりアスナが履いているスカートを捲った。そこには半透明の白いショーツがあった。
「み、見ないで!!」
知らない男に下着を見られ、アスナは男の手を払い除けようとする。しかし手足を完全に拘束されている今それはできなかった。
「ふ、ふざけないでください!!早くしないとモンスターが!!」
「まぁ落ち着けよ、お前なんでこんな状況なってるか分かってるのか?」
「えっ…………それは………」
私が赤い実をつけたリトル・ネペントを攻撃しちゃって大量のモンスターを引き寄せて、ミトが崖から落ちて…………
アスナは男に言われことで森で起きた出来事を鮮明に思い出していた。
「まさかさっき起きた出来事が全部偶然だって思ってないか?」
「えっ?」
せっかく嫌なことを思い出していたのにも関わらず、男の一言で記憶がどっかに行ってしまった。
「今までの出来事が俺が仕組んだことって言ったらどうする?」
「………そんなこと出来るはずがーーー」
悪い冗談を言ってきたと思いアスナは怒りを含んだ言葉を口にする。そう言われると男は何やらウインドウを操作し始めた。
ギチッ、ギチッ
「ーーーーなっ!!? 」
するとアスナを拘束している蔦が動き出すと、アスナの全身を締め上げてきた。アスナの身体に蔦が食い込んでいく。
「うっ、ぐっ………あぁあああっ!!」
(い……いたい!?)
ミシミシと骨が軋む音が聞こえ、そして何故か仮想世界に存在しないはずの痛みがアスナを襲う。
「はっ……ぁ………か…………は………」
(……いた、い……い、き………できな……………)
実に1ヶ月ぶりの痛み、しかも今まで経験したことのない身体を締め上げられる痛みにアスナは苦しむ。
さらに蔦の締め付けは徐々に強くなっていきアスナの身体からは白いダメージエフェクトが出ている。HPが半分ほど削られたところで男は再びウインドウを操作すると締め付けが緩んだ。
「はぁっ!、ゲホッゲホッ!!」
痛みから解放され息ができるようになったアスナは思わず咳き込んでしまい、額には脂汗が滲み出ている。
「俺の言ってたことが嘘じゃないことが少しは分かっただろう? 痛いのはペインジェネレータのレベルを変えたからさ」
「はぁ……はぁ……ペイン……ジェネ、レータ………?」
ペインジェネレータとはナーヴギアに搭載されている仮想の痛みを生成する機能のこと。
例えばゲーム内でモンスターに噛まれる。するとそれと同じような痛みをナーヴギアが生成して信号を脳に送ってしまう。それによって実際に噛まれたような痛みが襲いかかるというものだ。しかしこの機能は通常は痛みを感じないよう設定されている。
「そしてこの機能にちょっと細工をした」
再び動き出す蔦。今度はアスナの胸当てを引き剥がし、そのまま服の上から胸に巻き付いた。
「……やめっ…ぁぅ……ふぁ………ゃ………んんっ!」
蔦はそのまま胸を優しく揉み始めた。
「ひゃ…………くぅっ………ふっ、ふっ………」
(何これ………嫌な……はずなのに………!)
服が擦れる音、そして蔦に胸全体を縛られて見た目では分かりづらかったアスナの胸の形が強調される。
「気持ちいいだろ?本来ペインジェネレータが作れるのは痛みだけなんだが快感も作れるようプログラムをいじったんだ」
「ふぅ…ふぅ……あん……はぁん………だ、めっ……」
胸から来る快感にアスナは目を閉じ、甘やかな吐息が口から漏れる。アスナは常に死と隣り合わせのこの世界に突如閉じ込められ、知らずのうちにストレスを溜め込んでいたのかもしれない。この世界に来て初めての快楽は身体の芯に響いた。
「どうして……んっ………どうして、こんなことが………」
アスナは胸を揉まれながらも男に問う。
アスナは疑問に思っていた。モンスターを操ったり、他のプレイヤーへの干渉。こんな芸当が出るのは開発者の茅場昭彦以外にできるはずがないと思っていた。
「くくっ、俺はな現実ではハッカーをしてたんだよ。俺はこの世界に来てからウインドウの操作でハッキングを試みたのさ」
するとアスナの問いに男が自慢げに話を始めた。
「流石に現実に戻れなくなるとは思わなかったが、それでも俺は続けた。そして苦労したが3週間でこの森だけだがなんとか成功したのさ。モンスター、トラップ、そしてプレイヤーまで思いのままに操ることができる」
アスナは信じられなかった。誰もが使えるウインドウからゲームをハッキングすることなど普通はできない。しかし仮想世界での痛み、モンスター扱いの蔦を自在に操る。男の話を本当と考えれば説明はつく。
「こんな……ことして………あっ……何が目的なの……」
「いずれはこの世界を完全に乗っ取ってやるさ。そうすればお前みたいなかわいい女の子を捕まえて可愛がることができるだろぅ」
男の話を聞いていたアスナに沸々と怒りが湧いてくる。それほどの技術があるならログアウトできるようにして全員を帰らせることができるかもしれないのに。そして何より女の子を物としか思っていない男に。
「…………最低」
「あ?」
「人として最低よ! あなたみたいな人はーーー!」
パァン!!
アスナが声を荒げた瞬間、一本の蔦が鞭のようにしなりアスナの頬に直撃した。
ズキズキ
「………………!!!」
生身の身体なら皮膚が破れ、血が滴るところだが、あくまでゲームで再現されたアバターのため血が出ることはない。
しかし男にハッキングされたナーヴギアによって鞭で打たれるのとなんら変わりない鋭い痛みをアスナは体感していた。アスナは母親に反抗して平手打ちを受けたこともあったがそれとは比較にならない痛みだった。
アスナの目からは勝手に涙がポロポロと落ちる。声を出さなかったのはもはや奇跡だった。
「口の聞き方に気をつけな、ここは圏外だぜ? 俺がその気になれば一瞬でゲームオーバーだ」
蔦はアスナの顔の周りを徘徊していて反抗的な態度を取ればまた襲いかかってくるだろう。
「ひっ……」
今の攻撃が相当効いたのかアスナは萎縮し怯えた表情をしている。アスナのHPは赤色になるまで減っていたが、それ以上に痛みに対しての恐怖の方がアスナの心に響いていた。
「気持ちよくさせてやるだけで済まそうと思ったが、お前の舐めた態度で気分が変わった。痛みと快楽、この2つで狂わせてやるよ」
男はウインドウを開くと4つのランプを出しアスナの周りに並べ始めた。そしてちょうどその頃、太陽が地平線へと完全に沈み辺りは真っ暗になった。ぼんやりとしたランプの灯に照らされているアスナ、まるで何かの儀式のようだ。
「さぁ楽しい夜にしようぜ、
男が不気味な笑みを浮かべながら初めて名前を呼び、アスナの背筋が凍る。
「ぁ……ああっ……ミ、ト……………」
アスナにとって長い長い夜が始まった。
残念ですがアスナさんには痛み目にもあってもらいます。
あと男の容姿は皆さんの想像にお任せします。
(丸投げですみません)