第1輪 死以外の結末
フリーレン「命乞いをするんじゃなかったの?」
ソリテール「して欲しかったの?」
フリーレン「いいや」
閃光に焼かれ私の意識はそこで途絶えた。
それが私の最期の記憶だった。
後の時間はただ暗黒だけが支配していた。
ソリテール「魔族らしくて面白い最期だったわ」
私が負けたのは、私が油断したから。人類の、同胞を信じるという不合理な感情、思考を理解し想像することができなかったから。
もし私にも、そんな利害を超えた相手がいたら結果は違っていたのかな?
魔族同士で利害を超えて信じ合うこと。駄目だわ、想像できない。だって不合理的だもの。
だけど人類は往々にして不合理な判断や行動をする。そして想像もつかない結果を導き出す。
その人類の思考や思想の中でも、最も不合理だと感じていた概念があった。
ソリテール「あれはなんていう名前だったかしら? 不合理の極地、種としての矛盾、神への反逆にも等しいもの。時に命さえ奪う」
それなのに最も尊ばれる。一輪の花の名に喩えられるもの。
ソリテール「そう。その概念の名前は、百合――」
女性同士の恋愛を扱う人類の創り出した物語。あまりの尊さに、時に人を死に至らしめるとされる。不可解な概念。
ソリテール「もし百合を知ることができたら、人類や魔族を超越できるかもしれないわ」
胸が高鳴った。風穴の空けられた胸。体は灰になっただろう。この思索も私が消滅する間際の残響に過ぎない。
それでも私は私が消えてしまうまで、探究への陶酔をやめられずにいた。
不意に視界が明るんだ。
ソリテール「どうして? ここは?」
午後の穏やかな日差し、目の前の丸テーブルには紅茶の入ったカップとポットが置いてあった。部屋の中には、標本と人類の書籍が棚に並んでいる。風が窓を震わせた。海鳴りが遠く聞こえる。
ソリテール「ここは造船所跡を再利用した私の研究所」
それより私は胸に穴を空けられて、灰となって死んだはず。
お気に入りの服も無事。上着がないわ。どこかに無くしたのかしら。クローゼットの中にしまったまま?
戦闘の余韻と死の感触を鮮明に覚えている。だけど生きている。無傷で。
ソリテール「そういえば人類の話で聞いたことがあるわ。人は死ぬと、天国や地獄に行ったり、無になったりする以外に、別の世界へ転生したり、記憶を引き継いで過去へ遡ることがあるって」
理解が追いつかない。不可解すぎて素敵。
どういう魔法なのかしら。それとも呪い? とても知りたいわ。だけどそれよりも今は――
百合、人類の生み出した至高とされる自己矛盾、その極致を知りたい。
私は研究所を後にした。