夜、リーニエは一人、廃城のバルコニーで風に当たっていた。
そこへアウラが一人で現れる。
アウラ「ここにいたの」
リーニエ「お姉様から呼び出し?」
アウラ「ううん。負荷をかけすぎたから今夜はお休みだって。あとで一緒に寝ることになってるけど」
リーニエ「そうなんだ」
アウラ「ある程度は話が通じるみたいだから、なんとか一人でいる時間ももらえたわ。さすがに一日中一緒にいると、頭がおかしくなるわ」
リーニエ「まあ、アウラ様は大変だよね。気に入られてるから」
アウラ「……いい迷惑よ。よりによってどうして私なのよ」
リーニエ「<服従させる魔法>をアウラ様が使えるからでしょ」
アウラ「逃げることと、危害を加えることが制限できるからね。普通の魔族だったら、逃げるか殺してるわ、あんなことするんだもの」
リーニエ「お姉様を殺せる魔族がいるとは思えないけど……」
アウラ「あれは化け物よ……七崩賢最強のマハトに匹敵するか、それ以上……」
リーニエ「服従状態を解除したら、確実に殺されるね」
アウラ「逃げるのも、殺すのも無理。それで考えたんだけど、要は百合とかいう魔法を完成させればいいんでしょ?」
リーニエ「うん」
アウラ「だったら私以外の誰かを服従状態にして差し出せば解決するんじゃないかしら?」
リーニエ「まあ、そうだね」
リーニエ「……私を差し出すつもり?」
アウラ「それが一番手っ取り早いわね」
リーニエ「私を差し出しても、使い捨てにして、すぐアウラ様の番に戻ると思うよ」
アウラ「どうかしらね」
リーニエ「今日の戦闘で捨て駒にされたから、分かるよ」
アウラ「…………」
アウラ「あの時、言ってたわ」
アウラ「あなたが敵の騎士と一騎討ちをしている時。助けに行くつもりか、って聞いたの。そしたらあいつ、はっきり言ったわ」
アウラ「――リーニエは私たちの要、失うわけにはいかない。って」
リーニエ「え」
アウラ「それも全部、百合の魔法とかいうのを完成させるためなんだと思うけど。少なくともあなたのことは、危険を冒してでも助けに行く価値があるみたいよ」
リーニエ「そう、なんだ」
アウラ「私の方が、そのうち自由意思も奪われて、<服従させる魔法>をかけるだけの道具にされる可能性があるわ」
リーニエ「そのことだけど――」
アウラ「たぶん同じこと考えていたと思う。私はその話をしにきたの」
リーニエ「……<百合を咲かせる魔法>は存在しない」
アウラ「私もそう思う」
リーニエ「魔力探知で、アウラ様とお姉様の百合プレイを見ていたけど、行為中に、何らかの魔力が放出される様子がなかった」
アウラ「やっぱりね。そしてもし存在しないことが証明されたら?」
リーニエ「……私たちは解放される?」
アウラ「そう思わないから黙ってたんでしょ?」
アウラ「用済みになった私たちは、敵に回る可能性があるから処分される。それが最も合理的な魔族の考え方よ」
リーニエ「…………」
アウラ「私はなんとか逃げる機会を探すわ。リュグナーが動いてくれているはず。そのうち何か接触してくるかもしれない。その時、仲介するのはリーニエよ」
アウラ「この話は、あいつには黙っておきなさい。もしバラしたら、あなたの服従状態を解除する」
アウラ「服従状態じゃない以上、あいつに何をされるか分からないわよ」
リーニエ「……わかった」
アウラ「とにかくお互い、生き延びることを考えましょう」
そう言い残し、アウラは去っていった。
リーニエ「……私は今の状態、そんなに悪くないかもな」
* * *
グラナト伯爵領へ続く街道。
二人の少女が歩いていた。
カンネ「ラヴィーネ待ってよぉ、歩くの速いよぉ」
ラヴィーネ「お前が飛行魔法下手くそだから、わざわざ付き合ってやってるんだろ。さっさと歩け」
カンネ「置いてかないでぇ」
ラヴィーネ「ここら辺もいつ魔族が出るか分からないんだ。トロトロすんな」
カンネ「ラヴィーネの意地悪……」
ラヴィーネ「お前も読んだだろ。大陸魔法協会から来た招集状」
カンネ「うん。七崩賢アウラと謎の大魔族の討伐」
ラヴィーネ「大陸中の魔法使いがグラナト領に集まってきている。私たちも三級魔法使いとして、人類のために戦わないといけない」
カンネ「大丈夫なのかな……大魔族が二人も……」
ラヴィーネ「ビビってんのか? ならお前は帰れ」
カンネ「……やだ……ラヴィーネ一人で行かせない」
ラヴィーネ「……ふん」
???「ねぇ、君たち」
カンネ「……ラヴィーネ」
ラヴィーネ「……ああ」
???「構えなくて大丈夫だよ。怖くないよ」
???「お姉さんとお話ししよう」
次回、新章突入!!
聖なる怪物ソリテール、その毒牙からアウラは逃れられるか、リーニエは何を思うか、そして新たな犠牲者が…!?
「天秤の上の恋人たち」編、近日開幕!!