街道を行く二人の少女。仲睦まじい様子だった。
私は百合の気配を感じ、彼女たちとお話ししてみることにした。
ソリテール「初めまして。私は大魔族のソリテールよ。よろしくね」
私は手をつないだアウラの肩に寄り添う。
ソリテール「彼女は私の恋人のアウラ。もしかして知ってるかな? アウラは有名だからね」
アウラ「…………」
少女のうちの一人は生まれたての子鹿のように震えていた。
もう一人は気丈に、こちらに杖を向ける。
ソリテール「君たちのことも教えて。二人は恋人同士なのかな?」
カンネ「……やばいよ、ラヴィーネ」がくがく
ラヴィーネ「……マジかよ。この魔力、断頭台のアウラだ」ハアハア
ラヴィーネ(もう一人は、千人の兵士を一瞬で皆殺しにしたとかいう謎の大魔族か?)
ラヴィーネ「こんな化け物が何匹もいてたまるか。こいつがそのもう一人だ」
ラヴィーネ「カンネ、逃げろ」
カンネ「え、嫌だ! ラヴィーネ」
ラヴィーネ「<氷の矢を放つ魔法>」
彼女の周囲に氷柱が複数出現する。それは先端を私たちに向けていた。
それらが一斉に飛来する。
私は片手で防壁を展開する。
衝突し砕け散った氷片が、霧のように舞った。
ラヴィーネ「……魔族が防御魔法だと!?」
ラヴィーネ(想定し得る以上の最悪の組み合わせじゃねェか……)
ラヴィーネ(アウラを倒すには、服従の天秤発動前に先制するしかない。それが通らないなら詰みだ)
ソリテール「素敵な魔法ね。君は魔法使いなんだね。教えてくれてありがとう」
ラヴィーネ「だったら何だ、クソ魔族!」
ソリテール「ラヴィーネ。君はラヴィーネていう名前なんだね? 合ってるかな? 名前は大事。君が死んだ後、君のことを思い出すときに名前が違っていたら嫌だわ。だって標本の中身と名前が違ったら困るでしょ?」
ラヴィーネ(アウラの服従の天秤が発動したら終わりだ。その前に、少しでも引き離す!)
ソリテール「質問に答えて。君はもう一人の女の子、カンネと百合なの?」
ラヴィーネ「は? うっせェ! 死ねクソ魔族!」
ラヴィーネは空中に移動し、氷の矢を放つ。先刻、通用しないことが判明したばかりなのに。
私はアウラを抱きかかえて、空中に回避する。
アウラ「ちょ、急にやだぁ!」
ソリテール「しっかり捕まってて」
ラヴィーネが私たちの注意を引きつけようとしているのが分かる。健気な努力だ。
ソリテール「私たちの注意を引きたいのはカンネのため? やっぱり君たちは恋人同士なのかな?」
ラヴィーネ(この魔族はなんだ? 何を言っているんだ? ただその興味は利用させてもらう)
ラヴィーネ「だったらなんだ? テメェら魔族に何の関係がある?」
ソリテール「私は会話から人類の習慣や文化、魔法技術を探究するのが研究テーマなの。今は百合という概念について研究しているの。どう? 面白いでしょ?」
ラヴィーネ「これっぽっちも面白くねェ!」
ソリテール「君とカンネは恋人同士なの? どちらがタチでネコ?」
ラヴィーネ「私たちはただの幼馴染だ!」
ソリテール「それじゃあキスもまだなの? 幼馴染ということは、素直に愛を伝えれば必ず受け入れてくれるよ。勇気を出して」
ラヴィーネ「勝手なこと言ってんじゃねえ!!」
ラヴィーネは口も手も休めない。
その間にも無数の氷柱を放つ。
私は高速で飛び、すべて回避した。
アウラ「きゃあああああ、やだああああ!!」
ソリテール「ふふ。アウラ、楽しいね」
アウラ「楽しくないぃ!!」
ソリテール「そろそろ私も反撃するね」
片手をかざす。収束した魔力を真っ直ぐ射出する。
ラヴィーネ「ゾルトラークだと!?」
照準はわざと外してある。肩先を掠めた程度だった。しかし余波でラヴィーネはバランスを崩し落下した。
ラヴィーネ「こいつ、いったいいくつ魔法が使えるんだ……」
もっと彼女の魔法が見てみたいけれど。あまり時間をかけて、他の人類がやって来て、取り逃すようなことになっては面白くない。
ソリテール「このままじゃお話しができないね。もういいよ。アウラ」
アウラ「<服従させる魔法>」
ラヴィーネ「ち、ちくしょう……!」
ラヴィーネ(それでも発動から完了まで、わずかなタイムラグがある)
彼女は渾身の魔力を振り絞って、巨大な氷塊を作り出す。
ソリテール「ふふ。素敵ね。まるで雪のよう」
私は光球を放ち、氷塊と相殺させた。
氷塊は粉々に砕け散り、霧のようにあたりに舞った。無数の氷片が日差しを受けてきらきらと光る。
ラヴィーネ「なん……だと……」キィィン
アウラ「服従完了ね」
ソリテール「ありがとう、アウラ」ちゅ
アウラ「…………」
ソリテール「リーニエもありがとう」
ラヴィーネ(もう一人いた!? まさか――)
カンネ「ラヴィーネェ……」ぽろぽろ
リーニエはカンネの首を掴み、いつでも殺せる状態だった。
リーニエ「攻撃しようとしてたから、経絡を遮断し無力化した。お姉様、食べてもいい?」
ソリテール「もうちょっと待って。彼女たちに聞きたいことがあるの」
ラヴィーネ「クソっ……首切り役人の一人、北斗七星のリーニエ……」
ラヴィーネ(姿が見えない時点で、潜伏しているのを疑うべきだった……)
ソリテール「今日のピクニックはここまで。お家に帰りましょう」
ラヴィーネ「カンネ…どうして逃げなかったんだよ……」
カンネ「ラヴィーネェ……ごめんなさいぃ……」
リーニエ「ちょっとしたご馳走だね」
アウラ「食べていいのは首だけよ。体は使うんだから」
ソリテール「あらあら、ふふ」
ラヴィーネ「……頼む、カンネだけは見逃してやってくれ……食べるなら私一人で十分だろ?」
ソリテール「私は人類の百合について知りたいの。二人一緒じゃないと駄目」
ラヴィーネ「くっそ……」
ソリテール「さぁ、君たちを私たちの家に招待するわ。おいで」
アウラ「私のお城よ……」
私たちは服従状態にした二人を連れて、廃城へと引き返す。
* * *
ソリテール「二人とも歩けないみたいだから、私が運ぶね」
ラヴィーネとカンネを空中に浮かせる。
ラヴィーネは魔力切れで歩くことができない。
カンネは経絡を遮断されていて、魔法を使うことも体を動かすこともできない。
ラヴィーネ「最悪だ……」
カンネ「うぅ……ひっく……ぐすん」ぽろぽろ
アウラ「それでコイツらどうするのよ?」
ソリテール「実験に使うの。<百合を咲かせる魔法>のね」
アウラ「実験が終わったら?」
ソリテール「アウラの好きにしていいよ」
アウラ「魔法使いの肉体は脆弱だから、首を切ったら弾除けにでも使おうかしら」
リーニエ「頭以外も食べちゃダメ?」
アウラ「うーん。一体は非常食にとっておいて、もう一体は食べてもいいわよ」
リーニエ「どっち?」
アウラ「どっちでもいいわよ。好きな方食べれば?」
リーニエ「私が捕まえた方。私の獲物だから、そっちにする」
アウラ「いいわよ」
ソリテール「ふふ。分け合って偉いね。お姉様は嬉しいよ」
リーニエ「早く食べたい」
ソリテール「もう、リーニエったら食いしん坊なんだから」
アウラ「この子いっぱい食べるのよ」
リーニエ「育ち盛りだから」
ラヴィーネ(カンネだけは、カンネだけはどうにか助けたい…アウラの<服従させる魔法>は一時的に抵抗できる。魔力が回復するまでなんとか耐えて、隙を見つけるんだ)
カンネ「ラヴィーネ、ラヴィーネェ……嫌だよぉ……」ぽろぽろ
ラヴィーネ「情けない声出すな。クソ魔族どもが喜ぶだけだ」
カンネ「でも、でもぉ……ラヴィーネが死んじゃうの、嫌だぁ……」ぽろぽろ
ソリテール「安心して。二人ともちゃんと殺してあげるから」
カンネは声を上げて泣き始めた。
ラヴィーネ「カンネに酷いこと言うな、クソ魔族」
ソリテール「私の名前はソリテールよ。ラヴィーネ」
ラヴィーネ(断頭台のアウラも北斗七星のリーニエも、コイツに従ってるようだ。聖なる怪物ソリテール)
ラヴィーネ(アウラを倒し、コイツを足止めする。それが私の役割だ。その機会を必ず見つけ出す!)
ラヴィーネ「カンネ。お前のことは、私が絶対に守る」
カンネ「……ラヴィーネ?」