季節は秋だった。大陸北部の木々は赤く色づき始めていた。
私は街道を歩く旅人、人間の雌に話しかけた。
ソリテール「はじめまして。私は大魔族のソリテールよ。よろしくね」
人間の雌「ひいいいい」ジョーーードボドボ
ソリテール「大丈夫。怖くないよ。お姉さんと一緒にお話ししよう」
人間の雌「あひいっひいいいい」
ソリテール「君の名前は? どこから来たの? どこへ行くの? 家族はみんな元気? お父さんとお母さんは? 姉妹はいるの? 恋人は? 好きな人は? 女の子は好き?」
人間の雌「ひいっ怖いよう怖いよう」がくがくがく
ソリテール「こんなに怯えてかわいそうにね。怖がらなくて大丈夫だよ。一つずつ、ううん、一つでいいから教えて。百合という言葉を知っている?」
人間の雌「許してェ殺さないでェェェ」
ソリテール「これじゃお話しできないね。そうだ。実際に試してみよう。それがいいわ」
ソリテール「初めてキスをしたのはいつ? キスをしたことはある? 相手は男の人? 女の人? 年上? 年下?」
ソリテール「ごめんなさい。一遍に聞かれても困るよね。それじゃあ私とキスしよう。そのあと、そのときの心境を是非私に教えて。どんな気持ちになったか、感触がしたか教えて」
私は人間の雌の頬に手を添え、その唇に顔を寄せた。
こういう時は目を瞑った方がいいのだろうか。なぜ目を瞑るのだろうか。後でその理由も聞かせてもらわないと。
もうすぐ唇が触れる。
人間の雌「ぎゃあああひいいい」ボシュッ
人間の雌「……」ピクピクピク
人間の雌の頭部が破裂した。
ソリテール「んー?」
ソリテール「そっか。私の魔力の圧力に耐えられなかったんだ。これじゃ私自身で確かめることができない」
ここで思い出したのは、フリーレンが魔力制限していたことだった。
魔力を制限すればキスすることができる?
ソリテール「もっといっぱい人とお話しして実験してみよう」
私は実験と研究を繰り返した。
ソリテール「君の好きな百合物のシチュエーションを教えて」
人間の雄A「え? 自分、女装男子じゃないと抜けないんで」ザンッ
人間の雄B「百合の間におっさん入れたら売れたわ」ザンッ
人間の雌C「人と魔族の異種姦はちょっと無理」ボシュッ
人間の雌にキスの実験もしたが全て失敗した。
魔力制限をしても、体の表面に高密度の魔力の膜ができてしまい、触れようとすると破裂してしまう。
ただそのうち百合について多くの知見が得られた。
百合には、同年代の女の子同士以外にも、年上や年下、年齢差のあるものや、姉妹、母娘などの禁断百合がある。身分差のある貴族と庶民や、姫と騎士の百合もある。種族を超えた人とエルフや精霊の百合もある。エルフ同士もある。
人間の雌D「お姉様と呼ばせてください!」ボシュッ
血縁関係になくても、義理の姉妹の契約をするものもあった。
また百合による死、これを尊死という。
ソリテール「百合は、あまりの尊さに人を死に至らしめることができる概念。これはもはや何らかの魔法、呪いなのかもしれない」
ソリテール「百合を発動させる条件は、女の子同士がイチャラブすること。それを見た人が“てぇてぇ”と感じて死ぬことを“尊死”という。興味深いわ」
ソリテール「“尊死”とは、どんな心境なのかしら? それが分かったら魔族も死んでしまうの? もし百合の魔法を使えたら、全人類を滅ぼすことができる?」
私の興味は尽きない。
もっといっぱいお話ししよう。
それとは別に、今がいつなのか分かった。
フリーレン一行が腐敗の賢老クヴァールを倒した頃。
私が死んだ三年前だった。
ここで私は、今が百合の魔法を獲得する最後のチャンスだと気付く。
百合の魔法は、人型である魔族も使用できる可能性が高い。
しかし絶対条件として一人では発動できない。最低二人必要。ただあまり人数が多いと逆に萎えるらしい。
最大の問題は、大魔族である私とキスができる可能性があるのは、魔力に耐性のある人類の魔法使い。あるいは同じ魔族。
しかし人類である魔法使いと百合的関係になることは不可能。百合乱暴という概念があるが、百合乱暴で尊死した例は寡聞にして知らない。現時点で分かっていることは、イチャラブでなければ百合の魔法は発動しないということ。
また百合を理解できない魔族ではーー百合には無知シチュエーションというものがあるようだが――協力を得ることが困難である。
ソリテール「だけど彼女なら――」
彼女はまだ生きている。一年後にはフリーレンに滅ぼされてしまう、七崩賢の一人である断頭台のアウラ。
彼女となら<百合を咲かせる魔法>を完成させることができる。
私はアウラに会いに行くことにした。