※この作品はR-18です。

ソリテール「百合を咲かせる魔法?」   作:socio

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第27輪 罪悪感

昼食はカンネが用意してくれた。

ラヴィーネの姿はなかった。

私とカンネの二人で昼食にする。

 

カンネ「お昼は私が作ったよ!」

 

食卓には長ネギやタマネギの入ったクリームシチューに、鶏肉のパイがあった。

また透明な水差しにはイチジクやザクロ、ブドウなどを入れたフレーバーウォーターが入っている。

 

ソリテール「ありがとう。とても美味しそう。カンネは料理が上手なのね」

 

カンネ「そんなことないよ。ママのお手伝いしてただけ」

 

カンネは辺りを見回す。

 

カンネ「ところで、ラヴィーネ知らない? ソリテールに声をかけに行くって言って、それから戻ってないの」

 

ソリテール「昼食はカンネが作ってくれると教えに来てくれたけど、その後は分からないわ」

 

カンネ「そっか」

 

ソリテール「魔力探知で探してみようか?」

 

カンネ「ううん、大丈夫」

 

カンネ(ソリテールと何かあったんじゃないか、て心配したけど大丈夫そうだね)

 

私たちは二人きりで食事を始めた。

 

カンネ「ユーベルは、一緒に食べないの?」

 

ソリテール「リーニエが拗ねたら困るから、地下牢から出すことはできないの」

 

カンネ「あとで私が食事を届けてもいい?」

 

ソリテール「ありがとう、とても助かるわ」

 

カンネが率先して動いてくれるのは助かった。

私やアウラ、リーニエが食事を定期的に行なっているのは、人の真似事に過ぎない。

 

私は人類が空腹で死んでしまうことを知っているけれども、ついつい餌をあげることを忘れてしまい、餓死させてしまったことが幾度も、幾百度もある。

 

だから人類の管理を人類にさせるのはとても効率的ね。

 

カンネ「ねぇ、どうしてソリテールは人類を滅ぼしたいの?」

 

カンネは少し緊張した面持ちだった。

この質問はカンネにとって何か恐ろしいことなのだろう。

 

私は安心させるため、笑顔を向ける。

 

ソリテール「それはね、魔族が魔族として存続するためだよ」

 

カンネ「……どういうこと?」

 

ソリテール「人類の、魔法技術を共有して進化する群れとしての強さの前に、いずれ魔族は駆除され絶滅するわ」

 

ソリテール「だからね、人類の文明や社会を破壊して、二度と構築できなくさせるところが、私の中の着地点」

 

ソリテール「私は人類のことが好き。魔族だって人類のことが好きよ。人が愛玩動物に向けるものと同じ程度のものだけれど」

 

ソリテール「だから絶滅させてしまうと、きっと私たちも悲しいはず。ただそれは捕食者の悲哀ね」

 

カンネ「だったら、滅ぼすのではなく、共存することはできないの?」

 

ソリテール「君は魔族と人類が共存する世界を想像できる?」

 

カンネ「……できるよ。だって私はソリテールと、こうして会話ができている。一緒に食事だってしている」

 

ソリテール「そうだね。だけれどそれは君がまだ、魔族のことをよく知らないから」

 

カンネ「そんなことないもん……」

 

ソリテール「だから私を通して、もっと私たち魔族のことを知ってね」

 

ソリテール「その上で共存なんて不可能だって君が答えを出したら、また一つ真実が証明されたことになるから」

 

カンネ「……そんなの、寂しいよ」

 

ソリテール「大丈夫。群れを維持できる程度に個体数は残してあげるから。人類は絶滅しないよ」

 

カンネ「そうじゃなくて、そうじゃなくて……」

 

口ごもる、この健気な小動物を、やはり私は愛おしいと思った。

君の大切な恋人に私が何をしたか知ったら、いったいどんな顔をするのかな。

その顔を見るのは、もう少し楽しんでからにしよう。

 

   *  *  *

 

自室に戻るとラヴィーネの姿があった。

 

カンネ「ラヴィーネ、どこ行ってたの? もうお昼終わっちゃったよ。一緒に食事をするのが嫌なら言ってよ。うまく言い訳とかしておくから。あと、ラヴィーネの分、取っといたからね。ここ置いとくよ」

 

ラヴィーネ「あぁ、悪い……」

 

カンネ「ラヴィーネ? どこか調子悪いの?」

 

ラヴィーネ「別に。少し気が滅入っているだけだ」

 

カンネ「そう。そうだよね。あ、私、ユーベルって子にご飯届けてくるから」

 

ラヴィーネ「分かった」

 

カンネ「……すぐに戻るね」

 

ラヴィーネ「ああ」

 

乱暴でぶっきらぼうな性格のラヴィーネ。それとは様子が違う気がした。

後ろ髪を引かれる思いだったが、カンネは哀れに思っているユーベルのもとへ向かう。

 

   *  *  *

 

地下牢の壁の上部には、採光と換気のための窓があった。窓及び牢には鉄格子が嵌められており、当然ながら人力で脱出することは困難であった。

 

ユーベルは牢の奥で膝を抱えていた。

 

カンネ「ユーベル、大丈夫? お昼ご飯作ったけど食べられる?」

 

ユーベルは項垂れたまま、返事をしない。微かに呼吸で上下する肩から、生きていることが見てとれた。

 

カンネ「ここ、置いとくね。ちゃんと食べてね」

 

ユーベル「ねぇ、ここから出して」

 

カンネは返答に窮した。

ユーベルの置かれている状況の打開策が思い浮かばず、どう声をかけるべきか分からなかった。

 

カンネ「……ソリテールに相談してみるね」

 

相談したとしても、ソリテールが応じるとは思えなかった。ただそう気休めの言葉をかけるしかカンネにはできなかった。

 

ユーベル「……裏切り者」

 

カンネ「……え?」

 

ユーベル「だってそうじゃない? 魔族と友達ごっこ。同じ人類を監禁して、自分は自由なご身分。餌を作ってくれてありがとう」

 

薄暗がりの中で、ユーベルの金色の瞳が、責めるようにカンネを見た。

 

カンネ「私は、ラヴィーネを守るために、ソリテールと友達になることにしたの。彼女に人類のことを理解してもらえれば、もう人を殺さなくなるかもしれないから。共存することができるかもしれないから」

 

ユーベル「偽善者」

 

カンネ「……そうだね。それに対して、返す言葉は何もないよ。私は私たちが助かりたいだけだから。その結果、どんなことになるか、何が起こるかなんてこれっぽっちも考えていない」

 

ユーベル「ごめん、意地悪言い過ぎた。こんなこと言われても君は怒らないんだね」

 

カンネ「あなたのことを考えると、私は何も怒れないよ」

 

ユーベル「本当はお願いがあるんだ」

 

カンネ「力になれるか分からないけど」

 

ユーベル「大丈夫。簡単なことだから」

 

ユーベルは微笑む。妙に艶やかで、なぜか作り物じみた笑み。それにソリテールの無機質な微笑を連想したのは、彼女の心が壊れてしまっているからかもしれない。

 

ユーベル「私を殺して」

 

カンネ「……何を言っているの?」

 

ユーベル「簡単でしょ? 今の私は魔法も使えない、力も人並み以下。君の魔法で簡単に殺せるよ」

 

カンネ「……そんなことできない」

 

ユーベル「そう。同じ人類が魔族に嬲りものにされて、殺されるのを放っておくんだ。助けてもくれない、殺してもくれない。君は本当に裏切り者なんだね」

 

カンネ「……ごめんなさい」

 

ユーベル「そうだよね。関係ない人、他人がどうなろうが知ったことじゃない。それが人だよ。君は間違っていない。せいぜい私が殺される日まで、美味しい餌を作ってね」

 

カンネ「私だってあなたを助けたい! だけど今は、どうすることもできないの……」

 

カンネは拳を握り締め、唇を噛み俯く。

 

ユーベル「……もしもここから逃げられるなら、私のことも助けてくれる?」

 

カンネ「当たり前だよ! 絶対に助かる方法を探すから、必ずあなたを助けるから、だから今は……」

 

ユーベル(話してみて分かった。コイツはお人好しなんだ。魔族に魂を売ったわけでもない。利用できる)

 

ユーベル(それに、私にせよ誰にせよ、死ぬなら死ぬでどうでもいい。魔族にせよ何にせよ、弄ばれることが我慢ならない)

 

ユーベル「リュグナーという魔族は知っている?」

 

カンネ「名前だけは。見たことはない」

 

ユーベル「満月の晩。おそらく今日から九日後。リュグナーの手引きでアウラとリーニエが逃亡する」

 

カンネ「どういうこと?」

 

ユーベル「私が連れ去られる時、リーニエがリュグナーとそう話していた。具体的な方法は分からないけど」

 

カンネ「それなら、その時が逃げるチャンス?」

 

ユーベル「ソリテールがアウラを服従させているんでしょ? そのアウラが逃亡すれば、少なくともソリテールの注意は私たち人類から外れるはず」

 

カンネ「……おそらくソリテールの最優先はアウラで間違いないよ。ソリテールは<百合を咲かせる魔法>を完成させるために、私たちを誘拐して実験しているけど、その魔法のパートナーはアウラだから」

 

ユーベル「ソリテールが何を考えているのかは訳が分からないけど。それにアウラが欠かせないのは確かだし、アウラ自身がそれから逃げようとしていることも確か。九日後の満月の晩が、私にとっても君たちにとっても最後のチャンスだね」

 

カンネ「……そうだね」

 

ユーベル「ちゃんと理解している? アウラが逃亡に成功したり、万が一殺されたりしたら、私も君たちも用済みになって殺されるんじゃないの?」

 

カンネ「アウラがいなくなれば、百合の魔法が完成させられないから?」

 

ユーベル「そもそもそんな魔法が存在するわけないけど。アウラがいなくなっても、別のパートナーを探せばいいのか、私たちで代用が効くのか分からないけど、少なくとも今より酷い状況にはなるだろうね」

 

カンネ「そうだね。ソリテールの感じだと、一度全部リセットする気がする」

 

ユーベル「だから、ね。必ず私を助けてね。見殺しにしないでね」

 

カンネ「分かった。必ずあなたのことも助けるから」

 

ユーベル「ありがとう。カンネだっけ? カンネ、よろしくね。一緒に助かろうね」

 

ユーベルは金色の瞳を細め、カンネに微笑んだ。

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