アウラとリーニエの二人は街道に向かっていた。
アウラ「さぁ、百人ぐらい服従させるわよ!」
リーニエ「めんどくさい……」
リーニエ(ドラートは死んだし、リュグナー様もいないし、全部やるの私じゃん……)
アウラ「それにしても、このまま逃げるのもいいかもしれないわね」
リーニエ「……逃げ切れる?」
アウラ「無理ね。服従の天秤を解除した瞬間、ソリテールにバレるわ。飛行魔法で追いかけられたら逃げられないし、あの訳わかんない攻撃魔法を使われたらお終いよ」
アウラ「それに本当に逃げることを考えていたら、服従の魔法が発動しているわ。今のは言ってみただけ。無理だし、今は従うしかない」
ソリテールの命令は、彼女に危害を加えないことと、逃げないことの二点。リーニエの場合も同様だが、アウラはソリテールに服従し、リーニエはアウラに服従する形になっている。
あくまで<服従させる魔法>は、天秤の主であるアウラに対する関係性で成立する。
リーニエ「――昨日、リュグナー様から接触があった」
アウラ「そう。それで?」
リーニエ「満月の晩に、東の森の境界で、逃亡の手筈を整えて待つってさ」
アウラ「そう」
リーニエ「お姉様に知られるとまずいからって、具体的な方法は教えてもらえなかった」
アウラ「まあとにかく九日後ね。まったく今すぐ助けてほしいわ…」
リーニエ「私は気が進まない……」
アウラ「どうして?」
リーニエ「リュグナー様がいくら策を弄しても、お姉様に勝てるとは思えない」
アウラ「そうね。その為の九日間とも言えるわ」
リーニエ「どういうこと?」
アウラ「少しでも不死の軍勢を増やして、ソリテールを足止めするの。リュグナーは私の魔法の性質を分かっているから、それで猶予を設けたのかもね」
リーニエ「……本当に?」
アウラ「私には分かるわ! だって五百年以上生きた大魔族だもの! 配下の考えてることなんて手に取るように分かるわ!」
リーニエ「…………」
リーニエ(仮にそうだとすれば、隠す必要もないと思うけど。アウラ様の性格も視野に入れての伝言なら、そういうことでいいのかな……)
* * *
しばらく進むと街道に出る。
二人は街道沿いの林に身を潜めた。
ちょうどグラナト領に向かう兵隊の一団が街道にいた。
アウラ「あの紋章はブラッディクロス。南側諸国の、サザンクロス領の騎士団ね」
リーニエ「魔力探知の結果、人数は二百人程度。手練れが四人」
アウラ「半分は欲しいわね。少なくとも五十人は服従させるわよ」
リーニエ(この人数を足止めするの、気が重い……)
アウラ「リーニエは注意を引きつけて、足止めして」
リーニエ「分かった……」
以前は、リュグナーがアウラの護衛、ドラートが拘束や切断処理、リーニエが戦闘と撹乱を担当していた。
リーニエ(<星を打つ魔法>で無力化して、その隙に<服従させる魔法>で処理してもらおう)
リーニエは棍を具現化した。
林から躍り出て、先頭の兵士を打ち据える。
リーニエ「まず一人」
兵士A「ゲェエエエエ!! 首切り役人のリーニエだあああ!!」
兵士B「ごわっ!? きゃああ〜〜〜!!」
兵士C「トワッタ!! ワヒィィ!!」バタバタ
リーニエは続け様に三人を無力化する。
リーニエの出現に兵士が浮き足立つ。
そこへアウラが飛び出す。
アウラ「服従し、首を垂れなさい! 七崩賢、断頭台のアウラの名の下に!」
兵士たち「ひいいいいいいっ!!」
アウラは服従の天秤を具現化する――刹那、それはボロボロと崩れ去り塵と化した。
アウラ「え、何で?」キィィン
自身にかけられた服従の魔法が発動した。それにより天秤の具現化が阻害された。
すぐに事態を理解したのはリーニエだった。
リーニエはアウラの手を取り逃げようとするが、矢が彼女の横を掠める。リーニエは気配を感知し、咄嗟にアウラを庇う形で回避した。
アウラ「きゃあっ!?」
スペード「てめぇ、このボウガンが目にはいらねえのか!?」
兵士D「なんだか分かんねえけど天秤が使えねえみたいだ!」
兵士E「クソ魔族をぶっ殺せ!!」
兵士F「ヒャッハーーー!!」
アウラ「なによ! この私に攻撃するなんて許せない! リーニエ、叩きのめしてやって!」
リーニエ「……分かった」
リーニエは単騎、殺到する兵士の集団に切り込む。
リーニエ(逃げるべきだと思うけれど、アウラ様が足手まといだ……)
リーニエは神技とでも言うべき速さで棍を繰り出す。
兵士D「へげぇっ!!」ボゴオッ
兵士E「あおおえ!!」ドゴオッ
兵士F「ぽおっ!!」バコオッ
群がる兵士の秘孔を突いた。
戦意を挫くため、意図的に爆死させる。
ダイヤ「きさまにこの棒術が受けられるか!!」
そこへ棍を手にした巨漢が躍り出た。
リーニエの打突を打ち払い、立ち塞がる。
リーニエ(腕は立つが、動きは見切った――)
リーニエは攻撃をかわし、打突を繰り出そうとした刹那、ボウガンの矢が飛来する。回避するも、そこへ巨漢の棍が繰り出された。
ダイヤ「ハハッ死ねぇ!!」
それを打ち払い、矢が装填される前に反撃しようとするが、さらに両手に鉤爪を嵌めた男が迫る。
クラブ「ひき肉にしてやる!!」
棒術を防げば爪撃が迫り、間隙を縫ってボウガンで射られる。
アウラ「ああ、リーニエ、頑張って!!」
ダイヤ「アウラだ!! 天秤が発動する前にぶっ殺せ!! 発動してもぶっ殺せ!!」
リーニエは防戦一方に追い込まれる。
その間にほかの兵士がアウラに迫った。
アウラ「うぅ、どうして天秤が発動しないのよぉ!!」キィィン
<服従させる魔法>には二つの性質がある。行動させることと、行動させないこと。
例えば“自害しろ”という命令には、自害という行為を理解、認識し、実行するプロセスがある。
”逃げるな”という命令には、逃げることを意識しての行動はすべて阻害される。逃げるために必要な行為と意識した時点で、それは阻害されてしまうことになる。
アウラはソリテールから逃げるための手勢を増やそうとした。そのことが服従の天秤を具現化できない原因だった。
兵士G「よおし! 魔族の服を脱がしてやるぜっ!」ハアハア
兵士H「アソコが人類と同じかどうか見てやるっ!」ハアハア
兵士I「エッチィのはよくないです!」ハアハア
アウラ「いやぁ、来ないでよ!!」
リーニエ「アウラ様!?」
ダイヤ「ぬお〜〜〜!!」
リーニエ「うっ!」バギャッ
リーニエは左腕に、横薙ぎに払われた一撃を受ける。骨が折れた。
一旦距離を取る。魔力の流れを組み換え応急処置と補強をした。
アウラがリーニエに駆け寄り、縋りつく。
その間に二人は完全に包囲された。
アウラ「リーニエ、リーニエェ……」プルプル
スペード「脳みそぶちまいて死にやがれ!!」
兵士たち「ヒャッハハハハ!!」
リーニエ(アウラ様を囮にして、私一人逃げることは可能だ)
リーニエ(アウラ様が死ねば、私にかけられた服従の魔法も解ける。お姉様からも解放される)
リーニエ(けれど私は――)
リーニエはアウラの体を抱き寄せる。
アウラ「リーニ、ん!?」ズキュウウウン
リーニエはアウラにキスをした。