カンネは自室に戻った。
ラヴィーネの左隣に腰かけ、肩に頭を乗せる。
カンネ「ねぇ、ラヴィーネ。私たちどうなるのかな?」
ラヴィーネ「何があっても、お前のことは私が守る」
カンネ「えへへ、ラヴィーネありがとう。大好き」
カンネはラヴィーネの頬にキスをした。腕を絡ませて抱きつく。
ラヴィーネ「何かあったのか?」
カンネ「何にも」
カンネ(ラヴィーネは優しい。自分だって辛いはずなのに、私のことを気遣ってくれる)
カンネ(ユーベルのことはまだラヴィーネには黙っておこう。もしソリテールにバレたとき、ラヴィーネまで酷い目に遭ったら嫌だ)
カンネ(それにあの子、意地悪だし性格悪そう! 本当に信用できるかも分からないし、嘘を言ってるかも)
カンネ「ねぇ、ラヴィーネ、したくなったかも……」ハアハア
ラヴィーネ「お前は万年発情期のウサギか」
カンネ「えへへ、ラヴィーネちゃんのこと、舐めちゃおうかな」
ラヴィーネ「このヤロー」
いつもの調子で、ラヴィーネはカンネの左右の髪を掴もうとした。
カンネ「あれ、ラヴィーネ?」
ラヴィーネ「やべっ」
カンネはラヴィーネの右手に包帯が巻かれていることに気付き、隠される前に手首を掴む。
カンネ「この怪我、どうしたの?」
ラヴィーネ「転んだ時に怪我した」
カンネ「ソリテールに何かされたの!?」
ラヴィーネ「違う! 転んだとき、ガラスが刺さっただけだ」
カンネ「嘘だ! 微かに魔力がこもってるもん!」
ラヴィーネ「違うって言ってるだろ!!」
カンネ「そんな怒鳴らないでよ…」ビクビク
ラヴィーネ「悪い……」
しばらく二人は沈黙した。
カンネ「……私、夕食の手伝いにいってくる」
ラヴィーネ「……アイツに近づくのはやめろ。危険だ」
カンネ「私たちが生き延びるには、ソリテールと友達になるしかないよ」
ラヴィーネ「お前がそんなことする必要ない」
カンネ「ううん。私がしないといけないの。私にできることはそれだけだから」
ラヴィーネ「なら、私も行く!」
カンネ「ごめん、ラヴィーネ。これは私の戦いだから」
ラヴィーネ「カンネ……」
カンネ(ユーベルの話を信じたわけじゃない。仮に本当だとしても、そうでなくても、私たちに残された時間は少ない)
カンネ(それに、ソリテールに確かめたいことがある)
ラヴィーネ(あのことはカンネに知られたくない…これ以上引き止めれば、カンネに怪しまれるかも……)
ラヴィーネ(それに私が従い続ける限り、ソリテールはカンネに酷いことはしないはずだ……)
ラヴィーネ「カンネ……無茶だけはするなよ……」
カンネ「うん、大丈夫だよ。ちょっと行ってくるね」
* * *
私が夕食の支度をしていると、カンネが一人でやってきた。
カンネ「手伝いに来たよ、ソリテール」
ソリテール「ありがとう。とても助かるわ」
カンネ(もしラヴィーネがソリテールに何かされていたら、私のせいだ。私のせいでラヴィーネが――)
ソリテール「今日はね、山鳥の煮込みと、ワインビネガーをかけたサラダ。リーニエには牛肉のオーブン焼き。薄切りにした玉ねぎと一緒に焼いて、すり潰したニンニクをかけて香り付けをするわ。これは少し切り分けてみんなで食べましょう」
カンネ「すごい、楽しみ!」
カンネ「あれ、ソリテール、胸に――」
カンネ(ソリテールの胸に、ラヴィーネの残留魔力がある。服で隠れているけど、怪我している? やっぱりラヴィーネはソリテールを殺そうとした!?)
カンネ「ソリテール、もしかしてラヴィーネが何かした?」
ソリテール「ん? 何もないよ」
カンネ「でも…」
ソリテール「カンネは心配性だね。ラヴィーネに何かあったの?」
カンネ「ラヴィーネが右手に怪我してた……たぶん自分の魔法で怪我したんだと思う……」
ソリテール「そうなんだ。早く良くなるといいね」
カンネ「……ラヴィーネが、ソリテールを殺そうとしたんじゃないの?」
ソリテール「仮にもしそうだとして、何か心配なことでも?」
カンネ「ラヴィーネを殺さないで……」
彼女は今にも泣き出しそうだった。
私は彼女に微笑みかける。
ソリテール「ラヴィーネは私の友達カンネの恋人。もし彼女が私を殺そうとしても、君に黙って殺したりしないから。もしもの話よ。そんなことはなかったわ」
嘘はついていない。お仕置きはした。大切なものをもらった。
カンネ「ありがとう、ソリテール」
ソリテール「カンネは本当にラヴィーネが好きなんだね」
カンネ「えへへ」
カンネ(やっぱりソリテールは優しい。ソリテールに人の心を理解させれば、きっと――)
カンネが笑顔を取り戻す。
私のことを信頼して安心したのだろう。
本当に君は可愛い。可愛い可愛い愛玩動物。
カンネ「ソリテールはアウラが好きなんだよね」
ソリテール「そうだね。そういうことになっているね」
私たちは手を進めながら会話する。
カンネ「ねぇ、友達同士は、恋のお話とかするんだよ」
ソリテール「そういえばそうだね。人類は恋バナが大好きだよね」
カンネ「だから私たちも恋バナしよ! 私、友達と恋バナするの初めて。ラヴィーネのことが好きなこと、今まで秘密にしてたから」
ソリテール「素敵ね。君たちのこと、もっと教えて」
カンネ「うん、いいよ。私たちが幼馴染で、同じ魔法学校の出身だって話したよね」
ソリテール「ええ」
カンネ「本当はね、前はラヴィーネのこと嫌いだったの。乱暴で、いつも意地悪なことばっか言ってさ。子供の頃から私のこといじめて」
カンネ「でもある時、気付いたの。本当はいつも私のこと見ていてくれて、臆病な私の背中を押してくれてたのは、いつだってラヴィーネだった、て」
カンネ「いつもラヴィーネが一緒にいてくれるから、どんな怖いことも二人でなら、勢いに任せたら意外となんとかなるって気が付いたの」
カンネ「ラヴィーネはね、私の勇気なんだ」
ソリテール「素敵な関係だね」
カンネ「うーん、少し恋バナと違ったかな。ラヴィーネの笑顔が好き、がさつなところも好き、ぶっきらぼうなくせに優しいところが好き。全部好き!」
カンネ「あー、言ってて恥ずかしくなってきた! 次、ソリテール!」
ソリテール「私?」
カンネ「そうだよ。ソリテールとアウラのことも教えて」
ソリテール「私――私たちは、ただの利害関係で結びついているだけ」
カンネ「そうじゃないんだけどなぁ……うーん、その利害関係ていうのは?」
ソリテール「<百合を咲かせる魔法>を完成させられるのは、私とアウラしかいないから」
カンネ「どうして?」
ソリテール「人類の百合を理解できる魔族は私だけ。私と百合ができるのはアウラだけ」
ソリテール「魔族には、家族や恋人という概念がないの。だから百合をしようとしても、アウラ以外の魔族に対しては、力で従わせるしかない」
ソリテール「アウラの<服従させる魔法>を使わない前提で、仮に私がリーニエと百合をしようとした場合、いずれ彼女は私から逃げようとするか、私を殺そうとするわ」
ソリテール「そうなると私は彼女を殺さなければならない。あるいは手足を切断してダルマにしてもいいけどね。そうなると少し違うでしょ?」
カンネ「う、うん。そうだね……」
ソリテール「私に逆らうたびに殺して、また次の相手を探していたら、いつか魔族が絶滅してしまうと思うの」
ソリテール「その点、アウラの<服従させる魔法>は、先の問題を解決できる。だから私にはアウラしかいなかった」
カンネ「それってソリテールにとって、アウラはかけがえのない存在ってことだよね」
ソリテール「そうなるね」
カンネ「それじゃあさ、アウラのどんなところが好き?」
ソリテール「それは利害関係で、彼女しかいないから――」
カンネ「一緒にいて、ここがいいなあとか、こういうところ好きだなあって思わない?」
ソリテール「……そうだね。感じやすくて、すぐにイっちゃうところは、興味深いね」
カンネ「なんかエッチだね……」
ソリテール「魔族なのに、泣いたり怒ったり、感情表現が豊かなのも興味深い」
カンネ「やっぱりアウラって、魔族の中でも変わってるんだ?」
ソリテール「君もそう思う?」
カンネ「うん。ソリテールってすごい落ち着いてるじゃん。優しいし。大人のお姉さんって感じ」
ソリテール「ふふ。ありがとう」
カンネ「リーニエも落ち着いてるけど、何考えているか分からない感じで、ミステリアスだね」
ソリテール「あの子はご飯のことしか考えてないよ」
カンネ「そうなんだ。でもアウラは、泣いたり怒ったり、嫌そうな顔したり、人類と変わらないみたい」
ソリテール「うん。見てて飽きない」
カンネ「きっとそれが好きってことだよ」
ソリテール「そうかな」
カンネ「仮にもし、他の魔族とも<百合を咲かせる魔法>ができたら、アウラを選ばなかった? アウラよりもパートナーにしたかった魔族はいた?」
ソリテール「……アウラ以外?」
私は<百合を咲かせる魔法>のパートナーとしてアウラを選んだ。それは他に選択肢がなかったから。
仮にもし、誰でも選ぶことができたとしたら、私はどうしただろうか。手頃な、手近な魔族で済ませただろうか。
特定の誰かを選んだだろうか。
ソリテール「分からない。考えたこともなかったわ。想像もできない」
カンネ「それはきっと、ソリテールがアウラを大好きだからだよ」
私たち魔族に恋愛感情はない。愛玩動物に向ける好意、愛着はある。私はきっとアウラに愛着があるのだ。
人が人に向ける愛情とは違う。
私はぎこちなく笑った。
ソリテール「それなら私は、人類の百合に近づけたということだね」
カンネ「そうだね。そしたら今度、四人でデートしない? ダブルデートって言うんだよ!」
ソリテール「それはとても素敵だね。うん、是非しよう」
カンネ「お城の近くに、どこかいい場所あるかな?」
ソリテール「すぐ裏に湖があるの。今度一緒に行こう」
カンネ「いいね! 楽しみ!」
人類であるカンネを欺くほど、私は百合の高みに近付いている。
このまま彼女を利用して、さらなる高みを目指そう。
* * *
私はアウラとリーニエの魔力を感知し、城の外まで出迎えに行く。
行くべきだと、カンネに勧められた。
カンネ「残りは私がやっておくから、ソリテールはアウラを迎えに行ってあげて」
ソリテール「別にその必要はないと思うけど」
カンネ「恋人同士なら、玄関まで迎えにいくものだよ。あとアウラに、もっと優しくしてあげてね」
ソリテール「なぜ?」
カンネ「恋人に優しくしてもらえると嬉しいから。だから恋人に優しくすることはとても大事だよ」
ソリテール「アウラのことを大切にすれば、より恋人らしくなるってことだね」
カンネ「うん、そうだね」
――その方が恋人らしいから、という理由だった。
ソリテール「おかえり。アウラ、リーニエ」
アウラ「ただいま……」
リーニエ「ただいま」
ソリテール「無事、手勢も手に入れたんだね。おつかれさま」
そこで私はリーニエの左腕に添え木をしてあるのに気付いた。
ソリテール「ん? リーニエ、怪我したの?」
リーニエ「左腕折れたみたい」
ソリテール「大丈夫なの?」
リーニエ「大丈夫。明日にはくっつくと思う」
ソリテール「そう、よかった。それにしても、リーニエに怪我を負わせることのできる人類か。大陸中から腕の立つ人類が集まってきてるみたいだね」
リーニエ「そう、みたい」
リーニエ(アウラ様がポンコツなせいなのは言えないな……)
ソリテール「明日からは私も一緒に行くね」
アウラ「別に、私たち二人で大丈夫よ!」ドキドキ
ソリテール「もしも二人に何かあったら困るわ。それに人類の戦力を削りつつ、私たちの戦力を増強しておきたい」
アウラ「そ、そうね。だけど、わざわざお姉様の手を煩わせることもないわ…」
アウラ(コイツの前で服従の天秤が発動しなかったら、何をされるか分かったもんじゃないわ……)
ソリテール「アウラ」
アウラ「な、なによ!?」ビクビク
ソリテール「君は偉いのね。私のことを気にかけてくれて、ありがとう。自慢の妹だよ」
アウラ「どういたしまして!」
ソリテール「だからこそ、私も一緒に行くよ。世界で一番、君のことが大切だから」
私はアウラの頬に手を触れる。冷たくて柔らかくて、どうして彼女はこんなに気持ちがいいのだろう。
私はアウラにキスをした。
ソリテール「アウラ、大好きだよ。世界で一番」
アウラ「私も、お姉様のことが大好き……」
ソリテール「嬉しい」
愛玩動物が飼い主に向ける依存心のようで嬉しい。
ソリテール「今日はまだ、全然愛し合ってなかったね」
アウラ「そうね……」
ソリテール「今夜は、たくさん愛し合おうね」
アウラ「はい、お姉様……」