私たちは食堂に集まり、いつもの席順で座る。
ソリテール「さぁ、夕食にしましょう」
そこで私はラヴィーネが手を怪我していることを思い出した。
ソリテール「カンネ、ラヴィーネは手に怪我をしているから、食べさせてあげて」
ラヴィーネ「別に左手で食える」
ソリテール「駄目。私が見たいの」
ラヴィーネ「本当に悪趣味な奴だ……」
カンネ「ラヴィーネ、今は我慢して」
ラヴィーネ「ちっ」
カンネがスプーンに息を吹きかけてスープを冷まし、ラヴィーネの口に運ぶ。ラヴィーネは多少不機嫌そうにしながら受け入れる。
ソリテール「いいね。素敵だね。アウラ、私たちもしようか」
アウラ「え、嫌よ……」
ソリテール「本当に両手を折ったら、してくれるかな」
アウラ「わ、分かったから! 食べさせて!」
ソリテール「ふふ、いいよ。はい、あーんして」
アウラ「あーん……」
私がフォークに刺した肉を口に運ぶと、アウラは口で受け取る。
餌を与えているみたいで面白かった。
リーニエ(巻き込まれたくないから黙って食おう)もちゃもちゃ
ソリテール「リーニエは、ユーベルに食べさてもらう? それともユーベルに食べさせてあげる?」
リーニエ「あ、そうだお姉様」
ソリテール「どうしたの?」
リーニエ「不死の軍勢にも餌やりが必要だから、これからはユーベルにやらせようと思う」
ソリテール「あれって、餌やりが必要なの?」
リーニエ「うん。前はドラートが餌やり当番だったけど死んだから、代わりがほしい」
ソリテール「ユーベルはリーニエのものだから、好きにしていいよ」
リーニエ「分かった!」
リーニエ(なんとか回避できた……)
カンネ「あ、ねぇ、ソリテール、リーニエ」
ソリテール「何かしら?」
カンネ「ユーベルにも部屋をあげてほしい。いつまでも地下牢だと病気になっちゃうかも……」
ソリテール「私は構わないけど。リーニエは?」
リーニエ「不死の軍勢を置いてある家畜小屋があるから、そこで寝かせる」
カンネ「せめてちゃんとした部屋にしてあげられない、かな? 私たちの部屋でもいいし」
リーニエ「私の部屋だけど」
カンネ「あ、ごめんなさい……」
ソリテール「他の空き部屋は? その死んだドラートの部屋とか」
リーニエは不満そうだった。同じ居住スペースにユーベルを住まわせることで、私たちに横取りされることを警戒しているのだろう。
ソリテール「それなら、余ってる家具を家畜小屋に入れれば、ユーベルも生活できるよね。リーニエもそれならいい?」
リーニエ「そうする」
ソリテール「ユーベルもいいかな?」
ユーベル「今よりマシならなんだっていいよ。それかさっさと殺して」
ソリテール「それじゃ決まりね。カンネもいい?」
カンネ「あ、うん。ユーベルがいいなら……」
話はまとまったようだ。
ソリテール「そうだ、みんなに見せたいものがあるの。後でバルコニーに行きましょう」
* * *
食後、私たちはバルコニーに移動する。
アウラ「見せたいものって? 中庭が見えるだけじゃない。夜だし、暗くて他に何も見えないわ」
ソリテール「これから、見せるね」
私は両手を前で合わせ、術式を構築する。
ソリテール「いろいろ考えてみたの。この先の人類との戦争や、拠点の防衛、捕虜の収容について」
構築した術式を夜空に放つ。それは光の柱となって空へと伸び、上空で四方に拡散する。それは半球状に広がり、廃城を中心に琥珀色の膜を形成する。膜には濃淡があり、それは鳥籠の格子を思わせた。
全ての術式は私の手から夜空へ解き放たれた。
ラヴィーネ「これは……?」
アウラ「これって結界?」
ソリテール「この結界を通ることができるのは、アウラの魔力を帯びている者だけ。人類も魔族も、アウラに服従していなければこの結界を通り抜けることができない」
ラヴィーネ(魔族が結界だと!? 結界魔法を使える魔族がいないわけじゃないが、コイツ、いったいいくつ魔法が使えるんだ……)
アウラ「私は自由に出入りしてもいいのね。でもどうしてそんな結界にしたの?」
ソリテール「結界はシンプルなものほど、強度が上げやすいの。複雑にしすぎると、どこかが脆くなるわ」
ソリテール「基本的に出入りをするのは、アウラと不死の軍勢。私とリーニエは<服従させる魔法>の影響下にある」
ソリテール「だからアウラの魔力だけに反応するようにすれば、目的を十分に果たせる。どう? すごいでしょ?」
アウラ「へぇ、すごいわね。外から人類や、敵対的な魔族が入って来られないってことね」
ソリテール「もちろん魔族の作った結界だから、人類の魔法技術や知識で解除するには、百年、千年はかかるかもしれないね」
リーニエ「魔力探知で警戒しなくて済むのは楽でいい。いっぱい寝れる」
ラヴィーネ(こんなの最悪じゃねェか……ソリテールを殺しても脱出できない……原理にもよるが、一度発動した結界は、術者が死んでも永続的に存在し続ける可能性がある……)
ユーベル(脱出するためにはアウラの服従下になるしかないのか。仮に服従状態で外に出ても、結局アウラの奴隷になるだけ。脱出が無理なら、もう生きてても意味ないね)
カンネ(なんかよく分かんない……)
ソリテール「格子のように見える部分は魔力の循環。自動で魔力を供給し維持される。私はこれを<鳥籠の結界>と名付けたわ」
ラヴィーネ「鳥籠? 悪趣味な蜘蛛の巣だろ?」
ソリテール「いいね。その呼び方も」
私は蜘蛛の巣に絡め取られた彼女たちを眺めた。
* * *
私たちは寝室へ移動する。
魔族と人類、その存亡を賭けた百合の始まりだ。
カンネ「ソリテール、あの、ラヴィーネが怪我してて。今日はお休みできないかな?」
ソリテール「そうだね。それじゃあカンネがしてあげようか」
カンネ「……分かった」
ソリテール「リーニエも怪我しているけど、今日はどうする?」
リーニエ「え、食べたい」
ソリテール「リーニエは百合が好きだもんね。とても素敵。でもあまり無茶させたくないな」
ソリテール「そうだ! 人類も魔族を美味しく感じるか、実験してみましょう!」
リーニエ「……え?」
ソリテール「何の意味もないけど気になるわ。気になることは実験して確かめてみよう」
リーニエ「えぇ……」
ソリテール「私とアウラは次の段階に行こう」
アウラ「え?」
ソリテール「百合には究極の愛し合い方があるの。私たちはそれをしよう」
アウラ「何それ怖い」
ソリテール「さぁ、今宵もめくるめく、百合の花々を愛でるとしましょう」