ラヴィーネとカンネが魔法学校に在学していた頃ーー
二人は学生寮に寄宿していた。
割り当てられた部屋に二人は入室する。
部屋には二段ベッドと、本棚と勉強机がある。
カンネ「やったー! 二年からは二人部屋だね」
ラヴィーネ「私が二段ベッドの下段だからな」
カンネ「ずるい! 私も下がいい!」
ラヴィーネ「お前、寝相が悪いから、ベッド壊しそうで嫌なんだよな」
カンネ「上の段は落ちそうだからやだ!」
ラヴィーネ「飛行魔法の練習になってちょうどいいじゃねェか」
カンネ「そんな練習聞いたこともないよ!」
ラヴィーネ「どうしても下がいいなら床で寝てろ」
カンネ「……うぅ、ラヴィーネのバカ!」
ラヴィーネ「なんだと、このヤロー」
カンネ「あ、やだ! 暴力反対! いだだだだだだっ!!」
ラヴィーネ「それじゃあ私が下だからな」
カンネ「うぅ……」ぐすぐす
* * *
同室、夜。
二段ベッドの下段にラヴィーネ、上段にカンネが寝ている。
ラヴィーネ、寝つきが悪く、寝返りを打った拍子に目覚める。
カンネ「ん……はぁ……」くちゅくちゅ
上段より、カンネの喘ぎ声と水気のある音が聞こえてくる。
ラヴィーネ(……この音……まさか?)
カンネ「ん、ん……あっ……」くちゅくちゅ
ラヴィーネ(信じられねェ馬鹿だ……自慰行為してやがる……)
カンネ「あ、あっ……ラヴィーネ……」くちゅくちゅ
ラヴィーネ「!?」
ラヴィーネ(起きているのがバレたか!? いや、そうじゃないーー)
カンネ「ラヴィーネ、ラヴィーネ……ん、はぁ……」くちゅくちゅ
ラヴィーネ(私をオカズにしている!?)
ラヴィーネ(いや、そんなはずがない。女同士だぞ? それにカンネのやつ、私のことが嫌いだからな……)
回想の中のカンネ『ラヴィーネなんて嫌い』
ラヴィーネ(知ってたけど、口にされると、さすがにきつかったな)
カンネ「あ、はぁっ……!」ガタガタガタ
カンネ「っ……」ハアハア
ラヴィーネ(何だ今の!? イくってやつか??)
ラヴィーネ(……何してたのか気になるが、本当に自慰行為だったら聞くわけにはいかねェし、このことは忘れよう)
* * *
数日後ーー
同室、夜。
ラヴィーネは二段ベッドの下段、カンネは上段に寝る。
再びカンネの声が漏れ聞こえる。
カンネ「ふあ、あっ……」くちゅくちゅ
ラヴィーネ(カンネのやつ、毎日のように自慰してやがる……いい加減、私の頭もおかしくなりそうだ……)
ラヴィーネ(明日、注意するか? なんて言えばいい? “お前、オナニーするのやめろ”って言うか?)
ラヴィーネ(私が逆の立場だったら生きていけねェな……)
カンネ「ラヴィーネ、ラヴィーネっ……」くちゅくちゅ
ラヴィーネ(どうして私の名前を呼ぶ? それに女同士だぞ。女同士でもするのか? そういうことを?)
ラヴィーネ(いや、そもそもあいつは私のことが嫌いだ!)
ラヴィーネ、おもむろに自身の下半身へ手を伸ばす。
ラヴィーネ「んっ……」ピクン
ラヴィーネ(カンネ、カンネ……)
妄想の中のカンネ『ラヴィーネ、大好きだよ。私の手で気持ち良くなってね』
ラヴィーネ(ああ……私はいったい何を考えているんだ……)
カンネ「ふあぁ……!」ガタガタガタ
ラヴィーネ「ん……んっ……」
* * *
放課後の図書室。
ラヴィーネ、カウンターにいる図書委員に尋ねる。
ラヴィーネ「女同士の恋愛に関する本はあるか?」
図書委員「あらあら、まあまあ」
ラヴィーネ「そんなもんないか」
図書委員「ラヴィーネさん、百合に興味があるの?」
ラヴィーネ「百合?」
図書委員「とても素晴らしいことだよ。こっちにね、推薦コーナーを作ったの。ぜひ読んでみて」
ラヴィーネ「……なんだこの本の表紙は。女同士でキスしていたり、抱き合っているだと?」
図書委員「Welcome to Lily world」
ラヴィーネ「え、なんて?」
* * *
同日、図書室。日没後。
ラヴィーネ、百合本を何冊か借り、席で読んでいた。
ラヴィーネ(なんだこれ。女同士でキスしたり、告白したり、こんな世界があるのか!?)
ラヴィーネ(母娘百合とかなんだよ。姉妹物とかもあるし。肉親だろ? クッソ、悪くねェ)
ラヴィーネ(ケンカばかりの素直になれない幼馴染同士が、本当は好き同士なのにすれ違うけど、ふとしたきっかけで想いが通じて付き合い出すだと!? 尊いじゃねェか)
図書委員「ラヴィーネさん」
ラヴィーネ「うわっ、なんだ!?」
図書委員「もう閉室の時間だよ」
ラヴィーネ「いつの間に……」
図書委員「どうだった?」
ラヴィーネ「え?」
図書委員「百合は?」
ラヴィーネ「……悪くないんじゃねェか」
図書委員「ふふ。また読みにきてね」
ラヴィーネ「ああ……」
* * *
学生寮、自室。夜。
ラヴィーネ、ドアを開け室内に入る。
カンネ、机に向かって漫画を読んでいる。
カンネ「あ、ラヴィーネ。放課後どこに行ってたの?」
ラヴィーネ「あー、図書室で本読んでた」
カンネ「何の本?」
ラヴィーネ「……植物の本」
カンネ「へー、勉強? 偉いね」
ラヴィーネ「お前もたまには勉強しろよ」
カンネ「ちゃんとしてるもん!」
ラヴィーネ「そうかい」
ラヴィーネ、二段ベッドの下段に腰かける。
ラヴィーネ「なぁ、カンネ」
カンネ「なに?」
ラヴィーネ「お前、私のことーー」
ラヴィーネ(“オカズにしているのか?”なんて聞けるわけがねぇ……)
カンネ「どうしたの? 私が何?」
ラヴィーネ「いや、なんでもねェ……」
カンネ「変なラヴィーネ」
カンネ、机に向き直る。すぐに突然何かを思い出した様子で、慌てて振り返る。
カンネ「あ、オカズ!」
ラヴィーネ「え!?」
カンネ「今日の夕飯のオカズ、私の大好きなシュバイネハクセだよ!」
ラヴィーネ「あ、ああ。良かったな」
カンネ「今から楽しみ〜」
ラヴィーネ「そうか……」
* * *
別の日。図書室。
ラヴィーネ、薦められた百合本を読んでいる。
ラヴィーネ(オスが一匹も出てこないが、この世界の人類はどうやって繁殖しているんだ?)
ラヴィーネ(うお!? ふざけんな! 男が出てきやがった! 百合の間に挟まるんじゃねェ!!)
図書委員「どう?」
ラヴィーネ「あ、ああ。お前が教えてくれた本、全部面白いな」
図書委員「ふふ、よかった」
ラヴィーネ「ところで、女同士でセックスとかしたりするのか?」
図書委員「百合ックスのことかな。そう、君もこの領域に来たんだね。歓迎するよ」
ラヴィーネ「百合ックス?」
図書委員「百合ップル同士がするセックスのことだよ」
ラヴィーネ「図書委員は何でも知っているんだな」
図書委員「何でもは知らないよ。知っていることだけ」
図書委員「またおすすめの本を教えてあげるね」
ラヴィーネ「助かる」
* * *
同日、自室。夜。
カンネ、二段ベッドの上段で、漫画を読みながらお菓子を食べている。
ラヴィーネ、ドアを開け自室に入る。
カンネ「ラヴィーネ、おかえり」もちゃもちゃ
ラヴィーネ「お前、食いカスちゃんと掃除しろよ。虫が出たら髪の毛引き抜くぞ」
カンネ「ラヴィーネなんかゴミ片付けないじゃん! 虫が出たらラヴィーネのせいだからね!」もちゃもちゃ
ラヴィーネ、椅子に座る。上段のカンネを見る。
ラヴィーネ「そういやお前、どんな漫画読んでるんだ?」
カンネ「うーん、日常系かな?」もちゃもちゃ
ラヴィーネ「なんて漫画?」
カンネ「『街角に魔族』って漫画。ポンコツな魔族が魔法使いの少女を倒すために奮闘する話。なんだかんだあって、仲良しになるの」もちゃもちゃ
ラヴィーネ「あー、聞いたことあるかも」
カンネ「面白いよ。読んでみる?」もちゃもちゃ
ラヴィーネ「ああ。今度な」
ラヴィーネ(図書委員のオススメにあった百合漫画じゃねェか……)
ラヴィーネ(カンネは、百合なのか……?)
* * *
別の日、自室。朝。
カンネ「今週末はちょっと実家に帰るね。お婆ちゃんの誕生日なの」
ラヴィーネ「ああ。これ、私からのプレゼントだ。渡しておいてくれ」
カンネ「あ、シュネーバルだ! これ私大好きなんだ!」
ラヴィーネ「家族で食えよ。あと、よろしく言っといてくれ」
カンネ「ふふ。私がいなくて、寂しくても泣くなよ」
ラヴィーネ「誰が泣くか。お前こそ迷子になって人に迷惑かけるんじゃねェぞ」
カンネ「迷子になんてならないし!」
* * *
週末、自室。夜。
カンネは実家に帰り、ラヴィーネは一人。
ラヴィーネ、下段で寝ている。
ラヴィーネ(今日は久しぶりに静かに眠れそうだ……)
右手を下半身に伸ばし、いじる。
ラヴィーネ「ん、んっ……」
ラヴィーネ(確か指を、こう中に入れるんだよな……)
ラヴィーネ「いっ!?」
ラヴィーネ「なんだこれ、痛え……」
ラヴィーネ(こんな痛えのに、カンネのやつ、毎日やってるのか……)
ラヴィーネ「カンネ……」
ラヴィーネ、おもむろに起き上がり、二段ベッドの上段に登る。
ラヴィーネ(なんだ、私は何を考えているんだ……何をするつもりなんだ……)
上段の布団の中に入る。
ラヴィーネ(カンネの布団。カンネの匂い……お菓子ばっか食ってるから、甘ったるい匂いがする……)
ラヴィーネ、カンネの掛け布団を抱きしめて、股間を擦る。
ラヴィーネ「カンネ、カンネ……」
妄想の中のカンネ『ラヴィーネ、抱きしめて。もっと強く。あなたのことが大好き』
ラヴィーネ「私も、好き……カンネ、好き……」
うつ伏せになる。枕に顔を埋める。激しく股間を擦りつける。ベッドが音を立てて軋む。
妄想の中のカンネ『ラヴィーネ、気持ちいい。素敵、大好き』
ラヴィーネ「好き……カンネ、好き……」ギッギッギッ
後ろ手に、自身の肛門に指で触れる。
ラヴィーネ(もっと気持ち良くなりたい……もっとカンネを感じたい……)
一気に肛門に指を挿れる。
ラヴィーネ「あ、カンネ! カンネ!」ギッギッギッ
妄想の中のカンネ『ラヴィーネ、可愛いよ。私で感じてくれてるんだね。一緒にイこう』
ラヴィーネ「ん、んんっ……ああっ……!」ビクンビクン
ラヴィーネ「っ……」ハアハア
ラヴィーネ「私はいったい何をしているんだ……」
* * *
月日は巡り、卒業を控えた第三学年。
授業終わりの教室。
ラヴィーネとカンネは並んで座っていた。
カンネ「ラヴィーネは、卒業したらどうするの?」
ラヴィーネ「実家に帰る。一級魔法使いか、公務員試験の勉強する予定だ。オフクロが官僚になれってうるさいんだよな」
カンネ「そっか。私は冒険者になるよ。家に仕送りとかしたいし」
ラヴィーネ「お前が冒険者か。一日目で野垂れ死んでそうだな」
カンネ「なんだと! ラヴィーネなんか、引きこもりになって、ママのこと泣かせるくせに!」
ラヴィーネ「このヤロー」
ラヴィーネ、カンネの髪を引っ張る。
カンネ「痛い痛い痛い痛い!!」
ラヴィーネ「卒業したら、お前の顔も見納めだな」
カンネ「たまに地元帰るし! ふん! ラヴィーネ、意地悪だし乱暴だし、帰っても会ってあげないんだから!」
ラヴィーネ「そうかよ」
* * *
別の日、図書室。放課後。
ラヴィーネはカウンターで図書委員と会話する。
図書委員「ラヴィーネさん、すっかり常連さんになっちゃったね」
ラヴィーネ「ああ。もう一年か」
図書委員「それで“答え”は見つかった?」
ラヴィーネ「答え?」
図書委員「たくさんの百合の物語を読んで、君は百合をどう思った?」
ラヴィーネ「ああ。素晴らしい世界だと思う。脳が洗われるみたいだ」
図書委員「現実の女の子同士の恋愛についてどう思う?」
ラヴィーネ「当人たちの自由だし、悪くないんじゃないか? 学校にも何組か百合ップルがいるし、見てて脳が洗われる」
図書委員「うんうん。あとは君自身の心と向き合うだけだね」
ラヴィーネ「何の話をしているんだ?」
図書委員「どうして百合に興味を持ったのか。百合を知ろうとしたのか。それは何故?」
ラヴィーネ「……単純に気になっただけだ」
図書委員「そして君はこの一年で、百合のことを理解したね。百合という概念を肯定、受け入れることができた。あとは君の心に、素直になるだけだよ」
ラヴィーネ「……言っていることが分からない」
図書委員「私からはここまで。君に教えられることも、もうない。あとは君の力で、答えを見つけてね」
* * *
同日、自室。夜。
第三学年からは一人部屋になる。
ラヴィーネは一人、ベッドに寝る。
ラヴィーネ(“答え”ってなんだよ……)
ラヴィーネ(別に女同士で恋愛するのはおかしなことじゃない、女同士でもセックスする。そのことを理解できただけだ)
ラヴィーネ、後ろ手に肛門をいじる。
ラヴィーネ(別に私は百合じゃねェし、別に私はカンネのこと好きじゃねェし……)
妄想の中のカンネ『ひどいよ、ラヴィーネ……私の体が目当てだったの……?』
ラヴィーネ「そうだよ。お前の体をオカズにしているだけだ! ただ私はお前をオカズに自慰しているだけだ!」
妄想の中のカンネ『ラヴィーネのこと、大好きだったのに……』ぐすぐす
ラヴィーネ「お前が、お前が悪いんだ! 泣き虫カンネ。お前はビクビクしながら、ずっと私の言われた通りにしていればいいんだよ!」
ラヴィーネ「冒険者になるとか、なんだよ……くそっ……」
* * *
卒業式後。
二人は校門の前に立ち、向かい合っていた。
ラヴィーネ「ここでお別れだな」
カンネ「そうだね」
ラヴィーネ「私の顔を見なくて済むから、せいせいするんじゃないか?」
カンネ「そうだね。子供の頃からずっと一緒だったもんね」
ラヴィーネ「泣き虫で甘えん坊で。世話が焼けたな」
カンネ「意地悪で乱暴で、嫌なやつがいたなぁ」
ラヴィーネ「うっせェ」
しばらく二人は無言になる。
カンネ、意を結したように、重い口を開く。
カンネ「じゃあね」
ラヴィーネ「ああ」
カンネ、ラヴィーネに背を向け歩き出す。
カンネ「う、うぅ……ふぐっ……」ぐすぐす
少しして、足を止めて振り返る。
そのすぐ後ろにラヴィーネがいた。
ラヴィーネ「なんだよ、汚ねェ面だな」
カンネ「え、ラヴィーネ? どうして?」ぐすぐす
ラヴィーネ「どうせお前のことだから、どっかで野垂れ死にするだろ。このままだと見殺しにしたみてェで寝覚めが悪いからな」
ラヴィーネ「それに一級魔法使いを目指すなら、冒険しながらの方がいい修行になりそうだ。仕方ねェから私もついて行ってやるよ」
カンネ「私、野垂れ死にするほど馬鹿じゃないし! ラヴィーネこそ、実家に帰ったら引きこもりになってそう! 仕方ないから連れて行ってあげる!」
ラヴィーネ「はいはい」
カンネ「あのね、これから行く街にね、美味しいプレッツェルのお店があるの!」
ラヴィーネ「お前は本当に食うことばっかだな」
カンネ「なんだと! 美味しいものは魔法使いの活力源だよ!」
ラヴィーネ「まあ、お前がいれば、グルメガイドには困らなそうだ。楽しい冒険になりそうだな」
カンネ「任せて!」
ラヴィーネ「頼んだぜ」
二人はまた歩き出した。