勇者ヒンメルの死から28年後ーー
満月の輝く夜。
グラナト伯爵領、周辺の平野。
アウラとアウラ率いる不死の軍勢、フリーレンが交戦する。
フリーレンは単騎、不死の軍勢にかけられた魔法を解除しながら戦う。
アウラ「私のかけた魔法が解除されるなんて、こんなこと初めてだわ……」
アウラ「とはいえ魔力の消費も相当なはず。この私の前で、そんな戦い方をして大丈夫?」
フリーレン「派手に吹っ飛ばしたら、ヒンメルに怒られたからね」
アウラ「よく分からないわ。だってもう、ヒンメルはいないじゃない?」
フリーレン「……アウラ、てめーは必ずブッ殺す」
アウラ「……何よ、怒りすぎじゃない?」
アウラ、不死の軍勢を停止。フリーレンと対峙する。
アウラ「……リュグナーが死んだわね」
フリーレン「これで首切り役人は全滅だ。失敗したね、アウラ」
もう一つの戦いの決着がついたのを感知した。結界内の都市に送り込んだ搦手、リュグナー、ドラート、リーニエの敗死。
アウラ「そうね。残念だわ。でも、あなたの首を取れれば、十分な戦果だわ」
アウラ、服従の天秤をフリーレンに向ける。
アウラ「…………」
アウラ(違和感がある。私の<服従させる魔法>を解除できるほど、フリーレンは私の魔法を理解している)
アウラ(魔力量の多い方が少ない方を服従させる魔法だということを、分からないはずがない。何か切り札を隠している?)
アウラ「ーーもう少し、戯れましょう」
アウラ(搦手が失敗した以上、都市攻略は不可能。ここで手勢を失っても変わりない)
アウラ(フリーレンの切り札が分からない以上、リスクを冒すよりも、物量で確実な勝利をものにすべきだわ)
フリーレン「……やれやれだぜ」
フリーレン、殺到する不死の軍勢に対し、解除魔法を発動する。
アウラ「死者の言葉に縛られて、人類はつくづく愚かで哀れね。もういい加減、無理をするのはやめたら?」
フリーレン「愚かで哀れなのは魔族の方だ。仲間の死に、涙一つ見せない。哀れすぎて何も言えない」
アウラ「あら? 優秀な手駒を失って、とても悲しいわよ。また一から集めることを考えると、気が遠くなるわ」
フリーレン「……お前たち魔族は化け物だ。だからこそ心を痛めず、容赦なく殺せる」
尚も不死の軍勢に対し、フリーレンは一切攻撃をせず、魔法の解除に徹する。
アウラ(理解しがたい。理解しがたいけれど、目の前のありのままを受け入れるのなら、一つの結論が導き出される)
アウラ(フリーレンの魔力量から、鍛錬を積んだのは、せいぜい百年程度。しかも八十年前と大して変わっていない。こんな魔力量で、魔王様を倒した上に、生き残ることができる? 魔法以外の何か突出した技能を持つ? ううん、そうは思えない)
アウラ(それに、これだけ強力な解除魔法を使って魔力量に変化がないのはどういうこと!?)
アウラ(理解しがたいけれど、“フリーレンは魔力を制限している”)
アウラ「フリーレン、残念だったわ。本当に残念。ヒンメルを不死の軍勢に加えられなかったのは、本当に残念だった。きっと彼なら、優秀な木偶人形になったのに」
フリーレン「ヒンメルがお前如きに負けるはずがない」
アウラ「もし私の木偶に加えることができたら、裸にして、あなたとの交尾を鑑賞できたのにね」
フリーレン「最低に悪趣味なクソ魔族が。もういい、しゃべるな。反吐が出る」
アウラ「そして生まれたあなたたちの子供も木偶人形にしてあげるから、三人一緒に暮らすといいわ。ねぇ、まだ首があるうちに教えて? もし二人の間に子供ができたら、なんて名前をつける?」
フリーレン「安い挑発だ」
アウラ「そう、安い挑発。安い挑発に乗ってくれてありがとう。フリーレン。あなたの魔力がやっと減り始めた」
フリーレン「…………」
アウラ「ヒンメルの名前を出せば、あなたは冷静さを欠く。何故かは分からないけど。ありのままを受け入れた。あとは会話を続けられればよかった。けれど、思った以上に食いついてくれて助かったわ」
アウラ、服従の天秤をかざす。
アウラ「<服従させる魔法>」
アウラ「フリーレン、首を垂れ、跪きなさい!」
フリーレン「クソッタレが……」キィィン
フリーレン、意に反し、言われた通りにしてしまう。
アウラ「私が危惧したのは、あなたが不死の軍勢を解放することに見切りをつけ、攻撃魔法に切り替えること。それも広範囲を吹き飛ばすような、ね。だから縛らせてもらったわ。死者との約束に縛られて身を滅ぼすなんて。本当に人類は愚かで哀れね」
フリーレン「哀れなのはアウラ、お前だ。物言わぬ骸に囲まれて、いつまでも虚構の世界に浸り、偽りの王を気取っていればいい」
アウラ「私は何者をも必要としない。唯一にして絶対の大魔族よ。王とは孤独で孤高な存在。並び等しからず。あなたたち脆くて儚い人類とは違うわ」
フリーレン「とても哀れすぎて、何も言えねえ」
アウラ「そう。さよなら」
アウラ、フリーレンの首を切り落とす。
* * *
翌朝。
廃城の広間。
アウラ「多くの手勢を失ったけれども、大魔法使いの体を手に入れたわ。十分な戦果ね」
アウラ「それにしてもお腹が空いたわね。リュグナー! リュグナー……」
アウラ「ああ、死んだのね。忘れていたわ」
アウラ「自分で作ったり持ってくるのめんどくさいわ。フリーレンにやらせましょう」
アウラ「フリーレン、ご飯持ってきて!」
首の無いフリーレンは歩き出すが、壁にぶつかる。向きを変えもせず、そのままぶつかり続ける。
アウラ「考える頭がないから使えないわね……」
アウラ「しばらくは自分で何とかするしかないわ……」
ごちゃごちゃの不味そうな炒め物と、半生の肉が焼きあがる。
アウラ「味がしないし、噛み切れない……まずい……何よこれ……」
アウラ「フリーレンの首を持って帰ってくればよかったわ。まだエルフの生肉の方がマシだわ」
* * *
数日後。
家畜小屋。複数の首無し兵士の死体が転がっている。
アウラ「ちょっと不死の軍勢が死んでるじゃない! ドラート!」
アウラ「ドラート、餌やりどうなっているのよ!」
アウラ「ドラート……?」
アウラ、しばらく立ち尽くす。
アウラ「そっか、みんな死んだのよね……」
* * *
別の日。
廃城内の回廊。
アウラ、フリーレンを全裸にして、四つん這いにして歩かせる。
アウラ「リーニエ見て! エルフ豚よ! リーニエ! リーニエ……」
アウラ、窓の外を見る。
木々が見える。
アウラ「果樹園のリンゴ、もう赤くなったわよ……」
アウラ「今年はとても甘くて、とても美味しいの……」
アウラ「こんなにたくさん、私一人で食べ切れるわけないじゃない……」
* * *
回想の中ーー
リュグナー「アウラ様。人類の脳みそから作ったパテです。ご賞味ください」
ドラート「同時に三十六人の首を切断いたしました。自己新記録更新です!」
リーニエ「リンゴうまい」しゃくしゃく
リュグナー「人類は玉石や貴金属で身を飾るそうです。アウラ様に相応しい品を手に入れたのでお納めします」
ドラート「人類には収穫祭という習慣があるそうです。庭木に切断した首を飾り付けてみました。いかがでしょう?」
リーニエ「リンゴうまい」しゃくしゃく
リュグナー「人類如きがアウラ様に逆らうなど笑止千万。私が策を練ります。不死の軍勢で蹂躙してやりましょう」
ドラート「街道に魔力の糸を張っておいたら、人類が勝手に切断されていって面白かったですよ!」
リーニエ「ミカン」もちゃもちゃ
* * *
アウラ「うう……私は一人でも、大丈夫よ……」ぐすぐす
アウラ「だって私は、この世の誰よりも強く、そして美しいから!」
* * *
夜。寝室。布団の中にうずくまる。
フリーレンの声の幻聴『哀れだな、アウラ。物言わぬ骸に囲まれて、虚構の世界に浸り、偽りの王を気取って』
フリーレンの声の幻聴『永劫の孤独を彷徨い、悔いることも顧みることもなく、ただ一人で死んでいけ』
アウラ「うるさい、うるさい! うるさい!!」
アウラ、布団を跳ね除ける。首の無いフリーレンの体に向かう。
何度も短刀をフリーレンの体に突き立てる。
アウラ「私は一人! 五百年以上生きた大魔族! 七崩賢の一人、断頭台のアウラ!」
アウラ「私は一人、ただ一人の王たるべき大魔族よ! クソ人類が! 哀れなのはお前たちだ!!」
不意に、アウラ自身に服従の魔法が発動する。
アウラ「え、なに? どうして?」キィィン
アウラ、身動きがとれず、立ち尽くす。
そのアウラの首に、首の無いフリーレンの両手がかけられた。
アウラ「ありえない……こんなの……」
フリーレンの魔力が回復し、アウラとの魔力量が逆転した。
アウラ「あがっ……げぇっ……」グググッ
万力のように、フリーレンの指がアウラの喉に食い込む。
アウラは抵抗一つすることができない。
アウラ「あ……っ……」ボキッ
喉の肉は潰れ、首の骨も折れた。
アウラが最期に見たのは、吸い込まれるような、フリーレンの首の断面だった。
* * *
アウラ、寝台の上で目覚め、跳ね起きる。
アウラ「ああっ!?」ハーハー
首に触れる。痛みや違和感はない。
アウラ「……夢?」
アウラ「……どんな夢? ……思い出せない……でもすごく怖い夢を見た気がする」
アウラ「……リーニエ? ……リュグナー、ドラート?」
アウラ、不安になり確かめに行く。
リーニエの寝室に向かう。
* * *
アウラ、リーニエの部屋のドアを開ける。
アウラ「リーニエ、入るわよ」
リーニエ「なに、アウラ様?」
アウラ、リーニエの姿を見て、安堵の溜め息を漏らす。
アウラ「た、たまには一緒に寝ようかと思って……」
リーニエ「怖い夢でも見たの?」
アウラ「そんなんじゃないわよ!」
リーニエ「アウラ様、角が邪魔で一緒に寝るの嫌なんだよな……」
アウラ「何か言った?」
リーニエ「何も言ってない」
アウラ、リーニエの寝台に入り込む。
アウラ「もうちょっと詰めてよ!」
リーニエ「はぁ……」
リーニエ、しぶしぶ一人分のスペースを空ける。そこにアウラが入る。
リーニエ「アウラ様、何かあった?」
アウラ「何もないわよ! ほら、昔はよく一緒に寝たじゃない?」
リーニエ「アウラ様の角が突き刺さって痛かった……」
アウラ「なによ! いいじゃない!」
リーニエ「どうやったらあんな寝方ができる?」
アウラ「私の寝方に文句あるの!」
リーニエ「えぇ……」
アウラ、リーニエと並んで寝る。肩が接する。
アウラ「ねぇ、リーニエ」
リーニエ「なに?」
アウラ「私ってすごいわよね?」
リーニエ「ああ。アウラ様はこの世の誰よりも強く、そして美しいよ」
アウラ「そうよね! こんな私に仕えられて、リーニエも幸せよね?」
リーニエ「あー、うん。幸せだよ」
アウラ「そうよね、そうよね!」
アウラ、じっとリーニエの方を見る。
アウラ「もし私が死んだら、どうする?」
リーニエ「アウラ様が死んだら困る」
アウラ「私が必要?」
リーニエ「必要」
アウラ「そうよね! 私が世界を支配したら、あなたたちには世界の半分をあげるわ!」
リーニエ「そんなにいらない」
アウラ「なによ! この私がせっかくの好意で言っているのに!」
リーニエ「別に、アウラ様がいればいい」
アウラ「そ、そう? そうよね!」
リーニエ「別にご飯食べられればなんでもいい」
アウラ「え、なに?」
リーニエ「なんでもない」
リーニエ、アウラの横顔を見る。
リーニエ「アウラ様は、私が死んだらどうする?」
アウラ「嫌なこと言わないでよ! 死ぬことなんて許さないから!」
リーニエ「でももし死んだら?」
アウラ「駄目。リーニエは死んじゃ駄目」
リーニエ「…………」
アウラ「もう寝るわ。おやすみ」
リーニエ「おやすみなさい」
アウラ、微笑みながら眠る。
リーニエ「本当にわがままで自分勝手でどうしようもないな。けどーー」
* * *
翌朝。
逆さまになったアウラの足がリーニエの上に乗っていた。
リーニエ「寝相やばすぎ……なんか怪我してるし……」
アウラ「ふあぁ……あら、リーニエ。おはよう」
リーニエ「おはよう……」
アウラ「怪我しているじゃない? どうしたの?」
リーニエ「…………」
アウラ「うーん、なんか久しぶりにぐっすり眠れたわ」
リーニエ「私は寝不足……」
アウラ「あまり夜更かしすると肌によくないわよ?」
リーニエ「…………」
アウラ「あ、今夜は私の部屋に来なさいよ!」
リーニエ「えぇ……」
アウラ「リーニエのベッド小さすぎよ! 一緒に寝るなら私のベッドの方がいいわ」
リーニエ「分かった……」
* * *
夜。寝室。
アウラ「リーニエまだかしら? 寝られないじゃないの」
不意に、自分以外誰もいないはずの寝室に、何者かの気配があった。
アウラ「ちょっと、どこから入ってきたのよ? あなた、魔族よね」
ソリテール「はじめまして。私は大魔族のソリテールよ。よろしくね」
アウラ(魔力も大したことないわね。雑魚魔族ね。あれ? なんかこんなの夢で見た気がするけど、まあいいわ!)
アウラ「<服従させる魔法>ーー」