○食堂。朝。
席配置はソリテールを中心に、右手にアウラ、リーニエ、ユーベル。左手にラヴィーネ、カンネの順に座り、テーブルを囲む。
朝食はトーストと目玉焼きとサラダにスープ。
ソリテール「おはよう、みんな」
カンネ「おはよう、ソリテール。今日は私たちが作ったよ。簡単なものしか作れなくてごめんね」
ソリテール「そんなことないよ。ありがとう、カンネ、ラヴィーネ」
カンネ「今日は起きてくるの遅かったけど?」
ソリテール「ふふ。アウラとしてたら、遅くなっちゃった」
カンネ「あ、やっぱり。私も朝しようとしたら、ラヴィーネに怒られちゃった」
ラヴィーネ「いちいち余計なこと言うな」
カンネ「ごめんごめん」
ソリテールは昨夜から姿の見えなかったリーニエに声をかける。
昨日、彼女は左腕を骨折していた。
ソリテール「あ、リーニエ。怪我は大丈夫なの?」
リーニエ「うん。骨は繋がった。まだ力を加えれば、簡単に折れるけど」
ソリテール「そう。気をつけてね。ユーベルに食べさせてもらう?」
リーニエ「右利きだから大丈夫」
ソリテール「困ったことがあったら、遠慮なく私に言ってね」
リーニエ「分かった」
リーニエ(魔族なのに気持ち悪い……)
カンネ「ソリテールは優しいね」
ソリテール「だって私は、リーニエのお姉様だから」
ユーベル「魔族の家族ごっこ、滑稽だね」
カンネ「そんなことないよ! とても素敵だと、思う」
ソリテール「ありがとう、カンネ。さぁ、食事にしましょう」
六人は食事を始める。
始まると、ほとんど会話がなかった。
カンネ「ラヴィーネ、目玉焼き上手に焼けたね」
ラヴィーネ「ああ」
カンネ「…………」
カンネは居心地が悪く、ソリテールの様子を伺い、話しかける。
カンネ「そういえば、もうすぐ収穫祭だね」
ソリテール「収穫祭?」
アウラ「ああ、もうそんな時期なのね」
カンネ「アウラは知っているの?」
アウラ「ドラートが木の飾り付けとかしてくれたわね」
カンネ「どんな飾りだったの?」
アウラ「切断した人類の首を吊るしてたわ。中庭の、一本大きい木があるでしょ? あれに」
カンネ「へぇ……」
ソリテール「私たちもやろうか」
アウラ「そうね」
カンネ「待って! 何するつもり?」
ソリテール「生首ツリー」
カンネ「それおかしいから!」
アウラ「どうしてよ? 収穫を祝う祭でしょ? 私たち魔族にとっての収穫は、人類の肉だもの」
カンネ「あの、本当は、カボチャの中身をくり抜いてランタンにしたり、仮装したり、美味しいものを食べたり、みんなで楽しむ祭なんだよ?」
アウラ「何それ? つまらなそう」
ソリテール「いいね。人類の文化や習慣を実際に体験してみたいわ。カンネの知ってる方でやろう」
アウラ「本気で言ってるの?」
カンネ「やった! あとで教えるね!」
ソリテール「よろしくね。それでその収穫祭はいつなのかな?」
カンネ「次の満月の日だよ」
ソリテール「あと八日後ね」
リーニエ(リュグナー様がアウラ様の逃亡を手引きする日か……)
アウラ(流れに身を任せるわ。リーニエがなんとかしてくれるでしょ)
* * *
六人は食事を終える。
ソリテール「ところで今日の予定だけど、私とアウラは人類狩りに行こう」
アウラ「え……」
ソリテール「人類との総力戦に備えて、こちらも手勢を増やしたい」
アウラ「それだったら、私とリーニエで……」
ソリテール「リーニエは怪我をしているし、この先、危険な魔法使いが現れる可能性が高いから、昨日言った通り、今後は必ず私が同行するわ」
アウラ(もしソリテールの前で、服従の天秤が不発になったら……)
アウラは青ざめ、俯く。微かに体が震えていた。
カンネ「……それって、たくさん人を殺すってことだよね?」
ソリテール「結果的にはそうなるね」
カンネ、口をつぐむ。
カンネ(昨日は止められなかった。ううん、止めようともしなかった。その結果がどうなるかなんて、想像もしていなかった……)
カンネ(ソリテールは魔族だけど、人類のことを理解しようとしている。目的はともかく。もしかしたら、ソリテールを止めることは出来るかもしれない)
カンネ「ねぇ、ソリテール。それと<百合を咲かせる魔法>は、どちらが優先度が高いの?」
ソリテール「<百合を咲かせる魔法>が完成すれば、人類を皆殺しにできるから、不死の軍勢は結果的に不要になるね」
カンネ「それなら、<百合を咲かせる魔法>を完成させた方がいいんじゃないの?」
ソリテール「できることなら」
カンネ、意を決してソリテールに言う。
カンネ「ソリテール、ダブルデートをしよう」
ソリテール「この間、そんな話をしたね」
カンネ「私とラヴィーネ、ソリテールとアウラの四人で、デートしよう」
ソリテール「うん。いつしようか? 明日は、少し様子が見たいかな。明後日かな?」
カンネ「今日、この後、しよう」
ソリテール「今日は不死の軍勢を獲得したいからーー」
アウラ「私も賛成……」
ソリテール「アウラ?」
アウラ「私もダブルデートがしたい……」
アウラ(何のことか分からないけど……)
カンネ「ラヴィーネ、いいかな?」
ラヴィーネは誰とも目を合わさず、冷たい声音で言う。
ラヴィーネ「カンネが言うなら、私も賛成だ」
ソリテール「…………」
カンネ「ソリテール。人類の百合を知りたいと言ってたよね? 人類の百合を模倣することで、<百合を咲かせる魔法>の完成に近付くんだよね? だったら私たちとダブルデートをすることで、人類の百合を知ることができると思うよ」
ソリテール「そうだね。でも、今日じゃなくてもーー」
アウラ「今日がいい! 今日が! 天気がいいもの!」
カンネ「そうだよ! 明日は雨かも知れないよ」
アウラ「私、湿気が苦手なの! 髪の毛ボサボサになるから!」
ソリテール「そんなに行きたいの?」
ソリテール、アウラに微笑みかける。
アウラは問い糺されているような気がして、目を逸らす。
アウラ「行きたい、わ……」
アウラ(何の話をしているのか一つも分からないけど、なんとか人類狩りは避けないと……)
ソリテール「君が積極的に協力してくれて、お姉様は嬉しいよ。ありがとう、アウラ」
アウラ「どういたしまして……」
ソリテール、少し沈黙した後、カンネを見る。
ソリテール「うん。より確実で合理的な選択として、今日ダブルデートをすることが最善手だね。いいよ、しよう」
カンネ「やったー!」
アウラ「よかった……」
ラヴィーネ(カンネのためだ。カンネの考えていることは分かる。ソリテールによる虐殺を防ぎたいんだ。カンネのためなら、どんな苦痛や屈辱でも耐えてみせる……)
ソリテール、リーニエを見る。
ソリテール「リーニエは怪我しているけど、どうする? カンネ、リーニエがユーベルも連れて行けばダブルデートは成り立つ?」
カンネ「トリプルデートだね! 大丈夫だよ!」
ユーベル「……反吐が出そう」
リーニエ「デートって何?」
ソリテール「恋人同士が、より愛を深めるための行為だよ」
カンネ「それはそうなんだけど、もっと気楽な感じで、一緒にお出かけして、遊んだり、買い物するの! 楽しいよ!」
リーニエ「私はいいや。不死の軍勢に餌やりするから」
ソリテール「そう。残念だな」
カンネ「また今度、リーニエも一緒に来ればいいよ! これから、何度だって出来るし」
ソリテール「ええ。そうね」
カンネ「お昼ご飯も、私たちが用意するね! 出来たら一緒に行こう!」
ソリテール「ありがとう。よろしくね、カンネ、ラヴィーネ」