※この作品はR-18です。

ソリテール「百合を咲かせる魔法?」   作:socio

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第35輪 ダブルデート②

○廃城の裏の湖に向かう林道。昼。

四人は林道を歩き、廃城の裏にある湖に向かう。林の切れ間から水を湛えた湖面が見える。

 

ソリテール「荷物は私が持つよ。転ばないように気をつけて」

 

ソリテールとアウラが先導。二人は手を繋いでいる。ソリテールは片手に飲食物の入った藁で編んだバスケットを持っている。

 

カンネ「ソリテール、ありがとう」

 

それにラヴィーネとカンネが続く。二人は足場が悪く、歩くのに苦戦しているため、手を繋ぐ余裕がない。時折、転びそうになったカンネを、ラヴィーネが支える。

 

カンネ、切れ間から見える湖面を見て言う。

 

カンネ「こんなところあったんだね!」

 

ソリテール「貯水槽の名残りかな? 標高が高いから、本当は水位を利用して、中庭の壊れた噴水に利用していたのかも」

 

アウラ「私がここを居城にした頃には、とっくに壊れていたわよ」

 

ソリテール「そう。残念。今度、構造を調べてみよう」

 

ラヴィーネは空を見る。木々の梢が空を切り取る。よく晴れたその空は、微かに黄色みがかっている。黄昏を前にしているようだ。

それがソリテールの結界だということは分かっていた。

 

ラヴィーネ(まるで琥珀の中に閉じ込められているようだ……)

 

何の駆け引きもなく、純粋に満喫しているのはソリテールだけだった。

 

ソリテール「ダブルデート、楽しみだね」

 

アウラ「何がどう楽しみなのか分からない……」

 

ソリテール「アウラ、あんなに行きたがっていたのに?」

 

アウラ(しまった……適当に話を合わせないと……)

 

アウラ「あの、その、何が楽しいのか分からなくて、気になったから……何か楽しいことがあるんじゃないかって、知りたくて……」

 

ソリテール「ふふ。そうだね。恋人と出かけることの何が楽しいのか、恋人自体が理解できない感覚だから、私にも分からないわ。ただ分からないものを分からないままにしないで、実感はできなくても理解することができれば、<百合を咲かせる魔法>は完成する」

 

カンネ「完成するといいね!」

 

アウラ(随分と呑気に言うけど、たぶんこいつも<百合を咲かせる魔法>が存在しないことに気付いている?)

 

カンネはソリテールたちと少し距離をとって、小声でラヴィーネに言う。

 

カンネ「ラヴィーネ、ごめんね……巻き込んじゃって……」

 

ラヴィーネ「別にいい。ちゃんと分かっている」

 

カンネ「ありがとう……」

 

ラヴィーネ「それに私は、お前のそういうところ好きだから。お前のしたいようにしろよ」

 

カンネ「ラヴィーネ……」

 

ラヴィーネ「もっと私を頼れよ。私が絶対に、お前のこと守るから」

 

カンネ「うん。ラヴィーネ大好き!」

 

カンネ、ラヴィーネに抱きつく。

 

ソリテール「ふふ。いいね」

 

   *  *  *

 

四人は湖畔に着く。

湖は鏡のように空を映し、遠くに低い山並みが見えた。また湖畔近くに、崩れた桟橋の支柱がいくつか湖の中にあった。

 

カンネ「綺麗なところだね」

 

アウラ「そうね。一人で静かに考えごとしたい時とかに来るわ」

 

ソリテール「うん。デートするのにとてもいい。素敵な場所を教えてくれてありがとう、アウラ」

 

アウラ(私の心が休まる場所が、また一つなくなってしまったわ……)

 

ソリテール、シートを具現化して地面に敷く。

 

ソリテール「まずはお茶にしましょう。椅子とテーブルの方がいい?」

 

カンネ「ううん。こっちの方がピクニックしているみたいでいいと思う!」

 

四人はそこに座る。

バスケットから紅茶の入った水筒と、ベーグルサンドを取り出す。

 

カンネが紅茶をそれぞれのカップに注ぐ。

 

ソリテールは両手でカップを持ち、紅茶をすする。

 

ソリテール「ところで、なぜ人類は二組の恋人同士でダブルデートなんてするの? それぞれのパートナーを交換、スワッピングでもするの?」

 

カンネ「そんなことしないよ! 女友達同士で遊ぶのと同じ感覚だと思うよ」

 

ソリテール「恋人同士である必然性は?」

 

カンネ「そんな難しく考えないよ。恋人と友達と一緒に遊ぶような感覚。遊びに行くのに必然性とか考えないでしょ? 恋人と一緒に過ごしたい、友達とも一緒に遊びたい、じゃあ一緒に出かけよう! て感じだと思う」

 

ソリテール「そうなんだね。教えてくれてありがとう」

 

アウラ「……変なことはしないの?」

 

カンネ「え? どんなこと言ってるのか分からないけど、一緒に遊ぶだけだよ」

 

アウラ「遊ぶってどんなことをするの? 捕まえた人類を森に放って、それを誰が狩るか競ったりしたことはあるけど」

 

カンネ「そんなことしないよ……遊ぶっていうのは、今ちょうどしていること! 一緒に出かけて、散歩したり、お茶したり、お話ししたり、景色を眺めたり!」

 

アウラ「それが遊び? 何の意味があるの?」

 

ソリテール「人類とのお話で知っていたけど、非生産的、非合理的だね」

 

カンネ「だからそんなこと考えないんだってば……」

 

ソリテール「でもその感覚の差異が、魔族と人類の違い。そして<百合を咲かせる魔法>を完成させる要因……」

 

ソリテールはカップの水面に視線を移す。

 

アウラ(よかった、変なことをされるわけじゃないのね……てっきり裸にされて、追い回されるんじゃないかと思っていたわ……)

 

   *  *  *

 

食事を済ませた四人は、湖の外周を散策する。

 

カンネ「湖の中に、小さな島が見えるね」

 

ソリテール「桟橋の跡があったから、以前は舟で行ったのかもしれないね」

 

カンネ「何か財宝とか隠されてたりして!?」

 

ソリテール「そうなの?」

 

アウラ「知らないわよ」

 

ソリテール「行ってみようか」

 

ソリテールはアウラの腰に手を回す。

 

アウラ「やだ、飛ぶの怖い!」

 

カンネ「待って、ソリテール!」

 

カンネはソリテールを制止すると、湖に手を伸ばす。

 

カンネ「<水を操る魔法>」

 

湖面から球状に水の塊が浮かび上がる。

 

カンネ「ラヴィーネ、下の方からゆっくり凍らせていって」

 

ラヴィーネ「ああ。分かった」

 

カンネは水の形を調整していく。それに合わせて底部より徐々に凍っていく。

 

それは鳥の姿を模した、氷の小舟だった。完成すると湖に浮かぶ。鳥のような長い首の船首を有し、球状の船体は空洞になっていて二人ほど入れる。

 

カンネ「前から乗ってみたかったんだ、アヒルボート」

 

ラヴィーネ「お前こういうの好きだよな」

 

ソリテールは両手を合わせて、嬉しそうに言う。

 

ソリテール「素敵。この乗り物も素敵だけど、君たちの魔法と連携、とても素敵だわ」

 

カンネ「ありがとう」

 

アウラ「え、なに? これに乗るの?」

 

カンネ「本当は足で漕ぐんだけどね。そこまでは再現できなかったから、飛行魔法の要領で、これに乗って押していこう。これならアウラも怖くないよね?」

 

アウラ「怖いわよ! だって私、泳げないもの。もし転覆したら……」

 

カンネ「そっか……」

 

ソリテール「大丈夫だよ。私が一緒に乗るから。もし転覆しても絶対に助けるから」

 

アウラ「うう……」

 

ソリテール「さぁ、アウラ。乗って」

 

アウラ「はい……」

 

カンネ「そんな無理しなくても」

 

ソリテール「私が乗りたいの。君たちはどうするの?」

 

カンネ「もう一台作って、私たちも乗るよ」

 

不意にアウラが悲鳴を上げる。

 

アウラ「お尻が冷たい!」

 

カンネ「あ、氷だから、何か敷いた方がいいかも」

 

ソリテール「そうだね。何か作るね」

 

アウラ「先に言いなさいよ……」

 

ラヴィーネ「氷なんだから冷たいことぐらい分かるだろ」

 

アウラ「馬鹿にしているの?」

 

ラヴィーネ「馬鹿だって自覚しているのか?」

 

カンネ「アウラ、ごめん! ラヴィーネも、喧嘩しないで」

 

ソリテール「気付いてあげられなくてごめんね、アウラ。温めてあげるね」

 

アウラ「いや、いいわよ。何でもない。冷たくない。気のせいだった……」

 

ソリテール「そう?」

 

ソリテールはブランケットを二枚作り出す。

 

ソリテール「一つは君たちが使って」

 

カンネ「ありがとう!」

 

ソリテールは氷のアヒルボートの座席にそれを敷き、アウラと座る。

 

ソリテール「それじゃ、行こうか」

 

アウラ「こんなことして何が楽しいの……」

 

ソリテール「こうしてると、本当に恋人同士みたいだね」

 

アウラ「意味が分からない……」

 

緩やかに、ボートは湖面を滑り出す。

 

アウラ「やだ、動いてる動いてる……」

 

アウラはソリテールの腕に抱きつく。

 

ソリテール「大丈夫。私が魔力でコントロールしているだけだから」

 

アウラ「ああ、陸地が離れていく……」

 

ボートは水の尾を引き、湖を滑る。

 

カンネ「ソリテール、上手だね!」

 

後方からカンネが、風を切る音に負けないよう、大きな声で言う。

 

ソリテール「どっちが先に小島に着くかな?」

 

カンネ「競争だね! 負けないよ!」

 

ソリテール「ええ。いいわよ」

 

アウラ「やだ、ゆっくり行きましょう……危ないわよ……」

 

ソリテール「怖くないよ。私に任せて」

 

船尾より水飛沫を上げて、弾丸のようにボートは小島へ駆ける。

 

アウラ「きゃあああああ!!」

 

アウラはソリテールにしがみつく。

 

ソリテール「うん。すごくデートらしくなってきた」

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