○廃城の家畜小屋。昼。
ユーベルが引き摺るようにバケツを運んでいる。
バケツの中には、クズ肉やクズ野菜をすり潰して液状にした、嘔吐物のような餌が入っている。
リーニエ「あなたには一日三食、不死の軍勢に餌やりをしてもらう」
ユーベル「どういうこと? 死体にわざわざ食べさせる意味があるの?」
リーニエ「死んでない。生きている」
ユーベル「……は?」
リーニエ「<服従させる魔法>は、アウラ様と服従対象の、双方の魂を乗せることで成立する。服従魔法は対象の魂に直接かかっている。生体活動を停止すれば、魂は肉体を離れて魔法は解除される」
ユーベル「……それじゃこの首無し兵士は、全員生きているってこと?」
リーニエ「首を切断しても、術式によって、自身の魔力を消費する形で生体活動を継続している。大体十年はもつ」
ユーベル「……悪趣味すぎて反吐が出る」
リーニエ「首の切断面に食道があるから、そこに直接流し込んで」
ユーベルは嘔吐物のような餌を柄杓で、漏斗を使って直接食道に流し込む。
ユーベル「……気持ち悪」
リーニエ「排泄は自動で処理するけど、たまに漏らしているのいたら片付けておいて」
ユーベル「…………」
ユーベル(不死の軍勢はアウラの主力。その世話係をさせられている間は殺されない。さっさと殺してほしいけど、ただ殺されるのもつまらないな)
ユーベル(致命的な楔を打ち込んで死にたい)
ユーベルは、見張りという訳でもなく、ただいるだけのリーニエに声をかける。
ユーベル「ねぇ、どうしてリーニエたちはソリテールとかいう、頭のおかしな魔族に従っているの?」
リーニエ「単純なこと。誰もお姉様に勝てないから」
ユーベル「力で従わされているんだ」
リーニエ「それ以外に何がある?」
ユーベル「そうだね。そしてソリテールがリーニエたちを手元に置いているのは、<百合を咲かせる魔法>を完成させるため」
リーニエ「そう」
ユーベル(そんな魔法が存在する訳がない。という情報を切るのは、まだ早いな。とっくに気付いているだろうけど、私が気付いていることは知られたくない。口封じに殺してもらえるかもしれないけれど、どうせなら、できるだけ多く死ぬ方がいい)
ユーベル「魔族同士では<百合を咲かせる魔法>が発動できないと判明したらどうなるかな?」
リーニエ「単純なこと。皆殺しだね」
ユーベル「へー。それなのに従っているんだ。逃げればいいのに」
リーニエ「お姉様から逃げることは、現状では不可能」
ユーベル「でもリーニエだけなら逃げられるんじゃない? ソリテールが関心を持っているのはアウラだけだから」
リーニエ「私はアウラ様の<服従させる魔法>で、お姉様から逃げることも危害を加えることもできなくなっている」
ユーベル「それならアウラを殺して、逃げれば?」
リーニエ「……結界から出られなくなる」
ユーベル「昨日みたいに二人で外に出てから、アウラを殺せばいいじゃん?」
リーニエ「…………」
ユーベル(アウラが死んだ場合、ソリテールの考えられる行動は、皆殺しか、一切の興味を失うか。できれば皆殺しがいいね)
リーニエ「さっきから何が言いたい?」
ユーベル「リーニエのことを知りたいだけ。人類と魔族で、共感できるものがあるのか」
リーニエ「そう」
ユーベル「それで分かったんだけどさ。リーニエはアウラのことを、大切に思っているんだね」
リーニエ「どういう意味?」
ユーベル「驚いたな。力による支配と服従関係しか魔族にはないと思っていたのに。魔族も誰かを愛することがあるんだ。リーニエはアウラのことを好きなんだね」
リーニエ「アウラ様のもとにいれば、食事に困ることがない。それだけ」
ユーベル「だけどソリテールのもとにいるメリットは? 断頭台のアウラを従える以上、七崩賢以上かそれに匹敵する魔族なんだろうけど。いずれ殺されるのに、従い続ける理由は何?」
ユーベル(だから逃亡するんだろうけど、それにしたって、アウラを助ける理由がない。自分さえ助かればいい、そう考えるのが普通だし、魔族ならなおさら)
ユーベル「だからさ、リーニエはアウラのことが好きなんだね。近くでアウラのことを守りたいんだ。それとも性行為のおこぼれにあずかりたいのかな?」
リーニエ「黙れ」
感情の乏しいリーニエの顔から血の気が引き、微かに怒りを滲ませたような、幽鬼のような形相を浮かべる。
これにはユーベルもたじろいだ。
それでも不適な笑みを消さない。
ユーベル「黙らせたければ、殺せば?」
ユーベル(私の命はリーニエの所有物。カンネたちはソリテールの所有物。私の命の序列は最下位だ。たとえここで殺されても、こいつを楔にして、大勢を道連れにしてやる。そのためには、ここで命を賭ける)
ユーベル「私のことを殺せば、アウラのことを好きだって認めたことになるよ」
リーニエ「仮に好きだとしたら、どうだというのさ」
ユーベル「惨めだね」
リーニエの大きな目が、引きつったように見開かれる。
ユーベル「大好きなアウラを、ずっとそばで仕えてきたアウラを、自分ではどうすることもできない相手に奪われて」
リーニエ「…………」
ユーベル「二人が愛し合う姿を見せつけられて、いつの日か殺される。あー、でももしかしたら、<百合を咲かせる魔法>が完成して、リーニエのことは不要になって捨てられるかもね。だから、本当に惨めだね」
リーニエはユーベルを壁に突き飛ばす。そのまま首を掴む。
ユーベル「……認めるんだ」
リーニエ「黙れ」
ユーベルは一瞬、ある人物を思い出した。死を前にした走馬灯にしては、一瞬の閃光だった。
ユーベル(ああ、そうか。私はこの魔族に共感してしまったんだ。きっとそれは、私という存在が、私の心が人類よりも、魔族に近いってことなんだろうね)
ユーベル「……私にも、歳の離れた姉がいてさ。後から気付いたんだ。彼女のことが好きだった、て。もう伝えることもできないけど」
微かにユーベルの首を掴む、リーニエの手が弛んだ。
リーニエ「何の話をしている?」
ユーベル「ソリテールに無惨に凌辱されるアウラを、助けたいと思わないの?」
リーニエが何か言いかけて口をつぐむ。
ユーベル(だから逃亡する、って言いたかったのかな? そんな生優しい未来は許さない)
ユーベル「ソリテールの手でアウラが殺される日が、今日じゃない、明日じゃないと言い切れる? あー、ごめんね。だとしても、無力なリーニエには、何もできないよね」
ユーベル(そう、無力な私。無力だった私。大切なものを守れない無力さに、私は共感したんだ)
リーニエ「もういい、黙れ」
リーニエは自身の口で、ユーベルの口を塞いだ。
ユーベル「んん!?」
そのまま組み伏せ、乱雑にユーベルの服を剥ぎ取る。
ユーベル「黙らせるって、そっちかよ!」
ユーベルはリーニエを押し退けようとするが、常人以下に落とされた筋力では、見た目以上の膂力を持つリーニエは微動だにしない。
リーニエ「魔族は誰かを愛したりしない。私はアウラ様を好きになったりしない」
ユーベル「だけどソリテールは、アウラを愛しているんじゃないの?」
リーニエはユーベルの胸を乱暴に鷲掴みにする。
ユーベル「痛いっ!」
リーニエ「お姉様は、人類の真似をしているだけ。愛している演技をしているだけ」
ユーベル「人類も、愛しているフリをしているだけ。みんな、自分は人間だって演じているだけ。そう考えると、人類と魔族に違いなんてないね。ソリテールとアウラも同じ。愛し合う恋人同士と同じだね」
リーニエ「黙れ黙れ黙れ!」
リーニエは口でユーベルの口を塞ぎ、濡れていない膣口に指を突っ込む。
ユーベル「ん、んん……」
ユーベルは痛みに顔をしかめる。
ユーベル(無意識に、私に一番苦痛と屈辱を与える手段を選んでるんだ……気が狂いそうだけど、耐えて、こいつの死ぬさまを見届けてやるんだ……)
リーニエ「愛がなくても、百合はできる。こんな風に。あの二人に愛なんてない」
ユーベル「……リーニエにはあるんだ?」
リーニエは真っ白な顔で、ユーベルの片乳を握る手に力を込める。
ユーベル「う、ぐぅ……」
リーニエ「お前みたいなメス豚に私のことが分かるわけない」
そう告げると、リーニエは体を離し、背を向けて立ち去っていく。
ユーベルは膣の痛みに立ち上がれず、その背を見送る。
ユーベル「……さぁ、殺し合え」