○グラナト伯爵領周辺の街道。昼過ぎ。
ソリテールとアウラは街道を行く、護衛を含む行商人の一行、十人ばかりを襲撃した。
魔力を具現化した剣で包囲する。
護衛「ひぃぃ……殺さないで……」
行商人「はわはわは……」
ソリテール「ごめんなさい。君たちのうち半分は、アウラの不死の軍勢に。もう半分は<百合を咲かせる魔法>の実験に付き合ってもらうね」
ソリテールはアウラを促す。アウラは躊躇いがちに服従の天秤を具現化する。
アウラ(無事発動できるかしら……リーニエは、恐怖感で克服するようにと言ってたけど……)
アウラ(できなかったら肛門破壊、できなかったら肛門破壊、できなかったら肛門破壊ーー)
アウラ「<服従させる魔法>……」
天秤に自身と対象の魂が乗る。
アウラ「やった! できた!」
ソリテール「何が?」
アウラ「な、なんでもないわ!」
アウラはなるべく屈強な、護衛の中から五人を選ぶ。
服従完了後、ソリテールが魔剣で首を切り離す。
行商人「ひぃぃ! ひぃぃぃぃ!!」ジョーーードボドボ
その光景に生き残った者たちは失禁し、意識を失う者もいた。
ソリテール「残りは、<百合を咲かせる魔法>。アウラ」
アウラ「いやぁ……」
ソリテールはアウラを抱き寄せキスをする。
ソリテール「ん……ちゅっ……アウラ……」
アウラ「んん……やぁ……」
二人は舌を絡めてしばらくキスをする。ソリテールは唇を離すと、人類の方を見る。
行商人「え、なに? 百合のつもり? きたねえ百合だなーーあがっ!?」ザンッ
ソリテールは魔剣で口を貫き、そのまま半分に切断する。
ソリテール「……この調子で、たくさん試してみよう」
アウラ「意味ないわよ……もうやめましょう……」
ソリテール「意味がない?」
アウラ「いや、あの、その……」
ソリテール「確かに未完成なもので、何度実験を繰り返しても意味がないよね」
アウラ「そう、そうそう!」
ソリテール「そうだね」
ソリテールは気落ちした様子だった。
アウラ「ほら、早く用事を済ませて帰って、カンネたちを利用して、魔法を完成させましょう」
ソリテール「うん。そうだね。ありがとう、アウラ」
* * *
日が暮れ始める。
不死の軍勢は三十人ほど。物資の補給も完了した。
ソリテール「それじゃ、帰ろうか」
アウラ「そうね」
不意にソリテールが立ち止まる。
ソリテール「今、魔力探知がされた」
アウラ「私、この魔力を知っているわ。誰だったかしら?」
ソリテール「アウラ、先に帰ってて。私は彼女に挨拶してくるね」
アウラ「そう。先に帰ってるわね」
ソリテールはアウラと分かれ、道を引き返す。
* * *
街道に、一人の雌エルフがいた。
ソリテール「この時間軸では初めましてだね。フリーレン」
フリーレン「この辺りで断頭台のアウラの魔力を探知したが、もう一人の奴か」
ソリテール「大魔族のソリテールよ。改めて、よろしくね」
フリーレン「知らないし、どうでもいい」
ソリテール「少しだけお話ししましょう。その後、君を殺して私は帰るわ」
フリーレン「魔族とは会話するだけ時間の無駄だ」
ソリテール「フリーレン、君は女の子同士の恋愛に興味がある? 百合という言葉を知っている?」
フリーレン「もう喋るな。話が噛み合わない」
ソリテール「私はこの時間軸では、人類の百合について研究しているの。もうすぐ<人類を滅ぼす魔法>が完成するわ」
フリーレン「言っていることが分からない。イカれているのか?」
ソリテール「君にも見せてあげたいけど。私は臆病で心配性な性格なの。君の存在はあまりにも危険すぎる。今ここで君を始末するのが最善手」
ソリテール「だから、最期に君のことを是非私に教えて。フリーレン、君は百合なの?」
フリーレン「やれやれ。クソ魔族が。クソみてえな話に付き合ってやる。その代わり、私の右に一歩ズレろ」
ソリテール「いいよ」
フリーレン「もう半歩、右」
ソリテール「ここかしら?」
フリーレン「うん、そこでいい。そこの位置でいい。フェルンーー」
夕刻の空に星が瞬いた。
ソリテール「ふふ。綺麗ね」
その星より放たれたゾルトラークが、ソリテールの胸を撃つ。
かつて彼女を殺した魔法だった。
ソリテール「……ふ……ふふっ……」
白煙の中、ソリテールが笑う。
フリーレン「無傷……だと……?」
ソリテール「少しだけ、驚いた」
ソリテール「魔力探知外よりの攻撃。高密度のゾルトラークによる超長距離射撃。知っていた。すでに」
ソリテールの体表に常時展開されている高密度の魔力の膜。
ソリテール「この時間軸の私には、人類に対する一切の油断や侮りはない。この私は私が人類の前に敗北し狩られることを知っている。だから全力で君たちを殺すね」
フリーレン「高密度のゾルトラークでも破れない防御魔法か。やれやれだ。ヘヴィすぎるぞ」
フリーレンは杖の先をソリテールに向け、魔力を収束させる。
ソリテール「ゾルトラークの手数で押し切るつもり? 撃ち合うのもいいね」
ソリテール「人類の改良したゾルトラーク。それの原理は分からなくても、同等か、それ以上のものを作る方法はいくらでもある」
ソリテールは具現化した魔剣の切っ先をフリーレンに向ける。
ソリテール「ゾルトラーク・ファンネル」
剣身に魔力が充填される。そして切っ先より、圧縮されたゾルトラークが射出された。
フリーレン「なん、だと……!?」
それは三重に重ねて展開した防御魔法を貫通し、フリーレンの右肩を貫いた。
魔剣より放たれた超高密度のゾルトラーク。それはあらゆる防御魔法を貫通する。
フリーレン「防御魔法を展開する猶予は十分にあった。それでもお構いなしに防御魔法を貫通しやがる……」
ソリテールはさらに複数の魔剣を具現化する。
空中に浮遊する魔剣の切っ先をフリーレンに向ける。
ソリテール「魔力で具現化した剣を、術式増幅器に転用。魔剣に通常のゾルトラークを装填、術式により圧縮し、一点より射出する。名付けて、ゾルトラーク・ファンネル」
ソリテール「それがもし無数にあったとしたら?」
空中に十数本の魔剣を展開。切っ先がフリーレンを向く。
フリーレン「クソッタレが……」
ソリテール「君を捉えた。さよなら、フリーレン」
フリーレン「やれやれだぜ……」
フリーレン「スタープラチナ、ザ・ワールド(時は止まる)」ドオーーーーン
フリーレンの魔法に、世界はその動きを止めた。時の止まった世界ーー
フリーレン「久しぶりに、実に八十年ぶりに時を止めたぜ。時を止めなかったらやられないにしても、手足の一、二本は失っていた」
フリーレンはファンネルから射出されたゾルトラークを、時の止まった世界でかわし、ソリテールの前に立つ。
フリーレン「五秒だ。そして時は動き出すーー」
ソリテール「ーーなにが!?」
フリーレン「オラァ!!」
ソリテール「ぐっ!?」ドゴッ
ソリテールは防御膜の上から、強烈な一撃を腹部に受ける。
ソリテールには、突然フリーレンが目の前に現れたように認識された。
ソリテール「……魔力探知が直前まで反応しなかった……これは、瞬間移動……!? そんな魔法があるの!?」
フリーレン「……<傍に現れ立つ魔法>、スタープラチナ!」ドーーーン
フリーレン「オラァ!!」
防御魔法は発動しない。フリーレンの気迫に、咄嗟に魔力を凝縮した盾を作る。ちょうどそこに不可視の攻撃が直撃した。しかし衝撃を吸収しきれない。
ソリテール「あぐっ!?」ドゴッ
不可視の一撃にソリテールは吹き飛ばされた。
ソリテール「……まただ、魔力探知が反応しない……この攻撃を、私は魔法と認識できていない!?」
フリーレンとの間合いは五メートルほど開いた。
ソリテール「……おそらく射程距離がある。追撃がないことがその証拠。そしてこの魔法には二つの特徴がある。一つは瞬間移動、もう一つは不可視の攻撃」
よく目を凝らすと、人のような形をした魔力の影が、フリーレンの傍らに見えた。
フリーレン「傍に現れ立つというところから、そのヴィジョンを名付けて……スタンド!」
フリーレン「ソリテール、てめーはこのフリーレンがじきじきにブチのめす」
ソリテール「……そう、これならどう?」
魔剣を全方位に展開、ゾルトラークを装填する。
ソリテール「たとえ瞬間移動ができても、逃げ場がなければーー」
フリーレン「やれやれだぜ」
次の瞬間には、魔剣はことごとく打ち砕かれ、目の前にフリーレンがいた。
ソリテール「どうして!?」
フリーレン「オラオラオラオラオラオラオラーッ!!」ドドドドド
ソリテール「うげっ!」ドゴドゴドゴドゴ
高密度のゾルトラークに耐えられる魔力の膜でも防ぎきれないダメージの浸透。直感で展開した魔力の盾では全てを捌けない。その飽和攻撃に、ソリテールは追い詰められた。
ソリテール「……防御に徹するしかない……でも、このままだと……死んじゃうな」
ソリテール「……それもいいかも……また死んでも、またやり直せる?」
ソリテール「……また最初から、やり直せばーー」
ソリテールは防御を捨てた。重い一撃が腹部に入る。その代償に、光球を一つ形成した。
ソリテール「魔力をぶつけるだけの単純な魔法。これが私の逃走経路ーー」
フリーレン「くっ!?」
フリーレン「スタープラチナ、ザ・ワールド!」ドオーーーーン
光球が膨張し、爆発する直前だった。
フリーレン「直撃を受ければタダでは済まない。自爆覚悟か。やれやれだ、いったん距離を取る」
フリーレン「ーー時は動き出す」
光球の爆発は半径五メートル程度。衝撃波はさらに広範囲に及んだ。
ソリテールは爆風に乗って飛び、一気に距離を取るが、そこへゾルトラークの狙撃を受ける。
ソリテール「うぁっ!」
それは左肩を抉った。
防御膜は先の爆発で剥がれていた。再形成には時間がかかる。
ソリテール「……ここまで、追い詰められるなんて、ね」
ソリテール「……君との再戦は、何度も計算したのに」
フリーレンは杖の先を向ける。
フリーレン「西側諸国の魔法使い風に言うと、“抜きな、どっちが素早いか試してみようぜ”というやつだ」
ソリテールは光球を展開する。
ソリテール「私はまだ死ねない……<百合を咲かせる魔法>を完成させるまでは……」
アウラ「ちょっと何してるのよ!」
首のない兵士の一団が、ソリテールとフリーレンの間に割って入る。
アウラ「ボロボロじゃないの!」
アウラがソリテールの腕を掴む。
ソリテール「……アウラ、どうして?」
アウラ「やっぱり待ってたんだけど、遅いから様子を見にきたのよ! そしたらこんなことになってるし。さっさと退くわよ」
ソリテール「……そうだね」
フリーレン「……アウラか。不死の軍勢。やれやれだぜ。フェルンーー」
ソリテールはアウラを抱き寄せた。
アウラ「きゃあ!?」
その真横をゾルトラークが掠める。
アウラが青ざめた顔でソリテールに抱きつく。
ソリテール「君を守りながら、これ以上戦闘を継続することはできない。ここは逃げるとしよう」
アウラ「逃げるんじゃないわよ! 戦略的撤退よ! 退いたら勝ちなのよ!」
ソリテール「うん。君のそういうところ、大好きだよ」
ソリテールはアウラにキスをする。
アウラ「ん!?」ズキュウウウン
アウラ「んんんんん!?」もがもが
フリーレン「なん、のつもりだ……?」
フェルン「エッチで見ていられないです……」
ソリテール「<百合を咲かせる魔法>はまだ未完成だけれど、一瞬の隙を作れた」
ソリテールはアウラを抱いて浮かび上がる。
ソリテール「フリーレン、勝負はお預け。せいぜいその兵士たちを傷付けないように頑張ってね」
フリーレン「クソッタレが……」
* * *
フリーレンは首無し兵たちの服従魔法を解除した。辺りに骸が転がっていた。そこへフェルンが降り立つ。
フェルン「追いますか?」
フリーレン「いや。手の内を見せすぎた。魔力の消耗も激しい。長引けば、アウラの魔力量が、私の魔力量を上回るリスクがある」
フリーレン「それに何故か奴は私たちのことを知っているようだった。まさかな……」
フェルン「会ったことが?」
フリーレン「見たことも聞いたこともない。戦ってみて分かったが、魔力量は私と大きな違いはない。ただ魔力のコントロールは別次元、私より遥かに上だ」
フェルン「……フリーレン様が圧倒しているように見えましたが?」
フリーレン「八十年前の私だったら三回は死んでいた。瞬時に私の魔法の性質も理解しているようだった。何より、おそらく奴にはまだ切り札があるはず」
フリーレン「<人類を滅ぼす魔法>、と言っていたな。出来ればここで仕留めたかった」
○林の中。
ソリテールはアウラに体を支えられながら歩く。
ソリテール「……どうして私を助けたの?」
アウラ「別になんだっていいでしょ」
ソリテール「……ありがとう、アウラ」
アウラ(よく考えたら解放されるチャンスだったじゃないの……)
アウラ(ただそれ以上に、人類側にソリテールを追い詰めるほどの魔法使いがいるなんて……フリーレン、それほどの魔法使いだったなんて……)
ソリテール「アウラ。フリーレンに服従の天秤を使っては駄目。彼女は魔力を制限している。私と同等の魔力を持つわ」
アウラ「そう、みたいね。足止めにしていた不死の軍勢も、魔法が解除されたみたい。こんなこと、五百年で初めてだわ……」
アウラ(途中から見てたけど、やばすぎでしょ、あいつ)
アウラ(ソリテールを見殺しにして解放されたとしても、そのソリテールを倒したフリーレンと、人類との総力戦が待っているわ。やっぱりソリテールを失うわけにはいかない)
アウラ(って、全部こいつが持ち込んだものじゃない……最悪だわ……)
ソリテール「見殺しにしていれば、君は自由だったのにね……」
アウラ「嫌なこと言わないでよ」
アウラ(めちゃくちゃ後悔しているところなんだから……)
アウラ「あなたが私を利用してやりたいことがあるように、私もあなたを利用してやりたいことがあるのよ」
ソリテール「そう。それでも嬉しいよ。大好きだよ、アウラ」
アウラ「心にもないこと言わないで」
アウラ(私はこんな奴、全然好きじゃないんだから!)