○家畜小屋。夜。
ユーベルは家畜小屋に運び込んだ寝台の上で寝ている。
その上に、音もなく侵入してきたリーニエが覆い被さる。
ユーベル「誰? リーニエ?」
リーニエ「そう」
ユーベル「何の用? 私、眠いんだけど」
ユーベルは寝ぼけ気味にリーニエを見る。
リーニエは無表情でユーベルの服を剥ぎ取る。
ユーベル「クソ魔族! 何すんだよ!」
ユーベルは逃れようとするが、リーニエはユーベルの上に乗って押さえつける。
ユーベルは必死で抵抗するが、常人以下の筋力にされ、魔法も封じられている以上、どうすることもできなかった。
リーニエは乱暴にユーベルの胸を掴む。
ユーベル「痛いっ!」
リーニエは無言で、乱雑に胸ばかり揉む。
ユーベル「アウラとしろよ!」
ユーベルはリーニエを足で押し退けようとする。寝台の反発を利用して突き飛ばす。
ユーベル「八つ当たりかよ、クソ魔族! アウラにさせてもらえよ!」
リーニエ「うるさい! これは実験! 人類の美味しい食べ方の実験!」
ユーベル「魔族は言い訳ばかりだね」
リーニエの双眸は、闇の中にあって炯々と光っていた。夜の森の中にあって飢えた肉食獣に遭遇した心持ちだった。
ユーベル「アウラに冷たくされたから拗ねてるんだ?」
リーニエはユーベルに飛びかかり、組み敷く。両腕を強い握力で掴まれ、痛みにユーベルは顔をしかめる。
リーニエ「アウラ様は自分の寝室に他人がいるのが嫌なだけ」
ユーベル「ソリテールはいいんだ?」
リーニエ「怪我しているから……」
ユーベル「優しいんだね、アウラは。リーニエには冷たいのに、ソリテールには優しいんだ」
リーニエ「アウラ様は誰かに優しくなんてしたりしない! 誰かに冷たくもしない!」
リーニエはユーベルの左肩に噛みつく。
ユーベル「痛っ……!」
リーニエの歯は皮膚を裂き、肉に食い込む。
ユーベル「殺すならさっさと殺せよ! アウラに構ってもらえない鬱憤を、私に発散すんじゃねえよ! このクソ性欲魔族!」
リーニエ「だからこれは実験。快感じゃなく苦痛で人類は美味しくなるかの実験」
ユーベル「アウラにおっぱいでも吸わせてもらえばいいのに。アウラのおっぱいの方が美味しいんじゃないの?」
リーニエはユーベルの乳房に噛み付く。
ユーベルはあまりの痛みに、息をすることができず、声を上げることもできなかった。
リーニエ「私だってアウラ様としたことある。お姉様だけが特別じゃない」
ユーベル「……なら、させてもらえばいいのに」
リーニエ「決めるのはお姉様だから。誰と誰がするか」
ユーベル「本当に惨めだね。セックスも管理されているんだ。まるで家畜だね。ソリテールに頼んでみたら? “アウラ様とセックスさせてください”って」
リーニエ「うるさい!」
リーニエは乱暴に膣口へ指を突っ込む。
ユーベル「う、ぎぃ……」
ユーベルは歯を噛み締め、苦痛に体を強張らせる。
ユーベル「一緒に寝させてもらえよ……」
リーニエ「一緒に寝ている。でも嫌だ」
ユーベル「目の前で二人が愛し合っているのを見るのが耐えられないんだ? アウラにだけ、アウラだけを愛したいんだね」
リーニエ「そんなわけない!」
ユーベル「自分だけのものにしたいんだ。アウラのことが大好きなんだ」
リーニエ「人間に何が分かる!」
ユーベル「私はリーニエの無力さと惨めさと、醜い独占欲に共感したから。自分のものが他人のものになって、気に食わないんでしょ」
獣の鼻息を顔に受けながら、その爪と牙に肢体を引き裂かれながらも、ユーベルは果敢にその瞳を見据える。
ユーベル「今ならソリテールを殺せるかもしれないね」
リーニエの動きが止まる。その顔が、氷を透かして見る月のように青ざめた。
○元リーニエの部屋。
ラヴィーネとカンネは寝台の中で寄り添う。
カンネはラヴィーネの顔に寄り、瞳を見つめ、互いの唇に吐息のかかる距離で囁く。
カンネ「ラヴィーネ、しよ……」
カンネはラヴィーネにキスを求める。
ラヴィーネ「ああ……」
それにラヴィーネは応じる。
カンネの指がラヴィーネの下半身に触れた。
その時、ラヴィーネはソリテールとの記憶がフラッシュバックする。
ソリテール『ラヴィーネ、しよっか』
ラヴィーネ「やめろ!」
カンネ「きゃあ!?」
ラヴィーネはカンネを突き飛ばし、跳ね起きる。
それにカンネは呆然とする。
カンネ「ラヴィーネ?」
ラヴィーネはカンネに目を合わせることができなかった。目を逸らし、震えながら、自らの肩を抱く。
ラヴィーネ「悪い。ちょっと疲れてるみたいだ……今日はやめよう……」
カンネ「私の方こそごめんね……ラヴィーネのこと、ちゃんと考えてなかった……」
ラヴィーネ「違うんだ! カンネは何も悪くない!」
カンネは微笑む。
カンネ「一緒に寝るのは、いいかな?」
ラヴィーネ「ああ……」
カンネ「何かあった?」
ラヴィーネ「何も……」
カンネ「そう。いつも私はラヴィーネに助けられてばかりだから、もし私にできることがあったら言ってね」
ラヴィーネ「好きって言って、抱きしめてほしい……」
カンネ「え?」
ラヴィーネ「カンネにしてほしい……」
カンネ「今日のラヴィーネちゃんはどうしたのかな? いいよ。大好きだよ、ラヴィーネ」
カンネはラヴィーネを抱きしめる。
ラヴィーネ(そうだ。私の恋人はカンネだ。だからソリテール、お前は消えろ……)
ソリテール『ラヴィーネ、好きだよ』
ソリテールの声、感触、匂いの記憶を、どうしても拭い去ることはできなかった。
○アウラの寝室。
ソリテールは仰向けで寝台にいる。そのソリテールの手を握って、アウラは腰かけていた。
ソリテール「それで、私に何をさせるの?」
アウラ「え? 怪我してるんだから、しっかり休みなさいよ」
ソリテール「いいの?」
アウラ「結構な重傷なんでしょ? 無茶して、それこそ死んじゃったら、元も子もないわ」
ソリテール「散々君に酷いことしたのに?」
アウラ「酷いことしたって自覚しているのね」
ソリテール「だって君は、私と百合なんてしたくないでしょ?」
アウラ「そうね。意味不明で気持ち悪いし」
ソリテール「そうだよね……」
アウラ「でも、気持ち良くないこともないから、これからも、たまにだったらしてもいいわよ」
ソリテール「嬉しいな。アウラは優しいんだね」
アウラ「当然よ! 五百年以上生きた大魔族よ! 溢れ出るカリスマ性を隠せないのよ」
ソリテール「私がアウラに服従するのも悪くないね」
アウラ「光栄に思いなさいよ!」
ソリテール「うん」
ソリテールは握ったアウラの手を親指でなぞる。
ソリテール「ねぇ、君が言っていた、私を利用してやりたいことって何? 私というリスクを手元に置いてさえ、成し遂げたいことがあるんでしょ?」
アウラ「そんな話より、さっさと寝て治しなさいよ。そしたら、こき使ってやるんだから!」
ソリテール「うん。楽しみ」
アウラ「どんなことさせてやろうかしらね? 角が重くて肩凝るのよね。今日はあなたのこと運んで足が疲れたし」
ソリテール「治ったら、マッサージしてあげるね」
アウラ「そうね」
ソリテール「それで、私はアウラのために、どんな役に立てるの?」
アウラは逡巡する。目を泳がせた後、躊躇いがちに口を開く。
アウラ「どうして私が人類の、グラナト領に拘っていると思う?」
ソリテール「……改めて考えてみると、分からない。ううん、理解できない」
アウラ「そうでしょうね。私は魔王様直属の七崩賢としてグラナト領に侵攻していた」
ソリテール「でも魔王様はもういない」
アウラ「それでも私が拘っている理由は何だと思う?」
ソリテール「意地になっている。と思う。人類側は。だけど同じ魔族の私には、理解できない」
アウラ「どう理解できないの?」
ソリテール「だって拘る理由がないから。アウラの<服従させる魔法>なら、大半の人類は抗えない。たくさん人類を殺したいなら、もっと大きな都市を制圧すればいい。大量の食肉を確保するためなら、人類牧場を形成して安定した供給を確保すればいい。それに比べて、コストパフォーマンスが悪すぎる」
アウラ「どうして?」
ソリテール「魔王軍が崩壊した以上、グラナト領は制圧する意味も戦略的価値もない。防護結界を破るのに投入する物資と時間を、他のことに回した方が、遥かに生産性が高い。だって兵站を形成できないもの。仮に制圧しても維持するコストも高すぎる」
アウラ「それを上回るメリットがあるとしたら?」
ソリテール「そんなものがーー」
アウラ「フランメの防護結界。魔族の侵入を防ぐ結界。何故そんなものがあると思う?」
ソリテール「それはアウラの言った通り、魔族の侵入を防ぐため」
アウラ「どうしてそんな都合のいい結界が量産されないの?」
ソリテール「何らかの制約がある? 千年前の天才魔法使いフランメにしか術式を構築できない? フランメにしか作れない、フランメ自身も量産できなかった、としたら、何故それがグラナト領にあるのか。グラナト領に何かがある?」
アウラ「魔王様もそう考えたの。そしてある仮説を立てた。結界を千年以上維持することのできる、莫大な魔力を秘めた何かが、グラナト領にある。結界は、それを動力源としつつ、それ自体を守るために存在している、と」
ソリテール「そんなものってーー」
アウラ「エーヴィヒの赤石」
ソリテール「わずかな魔力でも、その石の中で何億回も反射し、膨大な魔力に増幅するという、神話時代の遺物!?」
アウラ「そうよ。その中でも特に純度の高い大きな石、スーパー・エーヴィヒがグラナト領にあると考えられるわ」
ソリテール「それなら、理解できる」
アウラ「その莫大な魔力と、この私の<服従させる魔法>を合わせれば、この世界を支配することができる」
ソリテール「すごい、素敵」
アウラ「<百合を咲かせる魔法>を完成させる必要も、人類を滅ぼす必要もないわ。私が魔王として、この世界を統治すれば解決よ!」
ソリテール「素晴らしいわ。ふふ、私のしてきたことは、無駄だったのね」
アウラ「言ったわよね? 別に、あなたとのその、ああいうこと、そんなに悪くないから、たまにだったらしてあげてもいいわよ」
ソリテール「ありがとう。アウラ。大好きだよ」
アウラ「そういうことは、もうわざわざ言わなくてもいいから」
アウラはソリテールにキスする。
アウラ「したくなっちゃうでしょ? まだあなたの怪我とか、良くなってないのに」
ソリテール「嬉しいな。私のこと、心配してくれるんだね」
アウラ「この私とあなただから、無敵なのよ。私とあなたが組めば、誰にも負けないわ。そうでしょ?」
ソリテール「うん。私の魔法でアウラを守って、アウラはノーリスクで<服従させる魔法>を発動できる。私は君の、最強の盾になるよ」
アウラ「そういうこと。あなたが必要な理由が分かった? だから、大事にしなさいよね。自分の体」
ソリテール「うん。アウラ、大好き」
アウラ「ほんとにもう……」
アウラはもう一度ソリテールにキスをした。