※この作品はR-18です。

ソリテール「百合を咲かせる魔法?」   作:socio

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第42輪 Call my name

第3日目。月齢8。満月まで後6日ーー

 

○アウラの寝室。朝。

ソリテールは眠っている。アウラが起き上がる際、袖を掴んでいた彼女の手が離れた。

 

アウラ「……死んでないわよね?」

 

顔を近づけて寝息を確認する。

どこか穏やかな寝顔。閉じた目のまつ毛は長く、高く小さな鼻と、薄く細い唇が愛らしかった。

 

思わずキスしそうになって我に返る。

アウラは寝室を出て食堂へ向かう。

 

アウラ(すっかり忘れてたけど、あの二人は始末しないと)

 

 

 

○廃城の回廊。

寝室を出るとすぐ、アウラはリーニエと出会した。

 

リーニエ「アウラ様」

 

アウラ「リーニエ、ちょうどいいところに! ねぇ、聞いてーー」

 

リーニエ「お姉様を殺すべき」

 

アウラ「何よ急に? どうしてよ?」

 

リーニエ「お姉様を殺せるのは、今しかない」

 

アウラ「別に彼女には、これからも私に協力してもらうわ」

 

リーニエ「危険すぎる。<百合を咲かせる魔法>が存在しないことが分かれば、私たちが殺される。今なら殺せる」

 

アウラ「もうその心配はないのよ」

 

リーニエ「もしできないのなら、私にかけられている服従魔法を解除してくれればいい。私が殺す」

 

アウラ「リーニエ、どうしたの?」

 

リーニエ「アウラ様こそどうしたの? 今を逃したら次はない。せめてアウラ様自身の服従状態を解除して、今すぐにでも逃げるべき」

 

アウラ(魔力量が逆転したことを話せば、今すぐにでも殺しに行きそうね……それは困るわ……)

 

リーニエ「それに今、アウラ様の差し迫ったリスクは、人類側がアウラ様を殺害しようとする可能性があること」

 

アウラ「どうしてよ?」

 

リーニエ「この好機に、ラヴィーネやカンネは、お姉様を脅迫して結界を解除させようとするはず。その際にアウラ様を殺害しようとする可能性がある」

 

アウラ「それならあなただって」

 

リーニエ「私の場合は、アウラ様が死ねば、私も結界の中に閉じ込められる。アウラ様が死んだら、私が人類側の妨害をする理由がなくなる」

 

アウラ「……裏切るの?」

 

リーニエ「アウラ様は死んでいるのに、裏切ることになるの? 結界解除後、排除すべきと判断すれば排除するけど」

 

アウラ「……だったら今すぐにでも、あの二人を、私の魔法で服従させればいいのね?」

 

リーニエ「当面のリスクは回避できるけど、お姉様が回復した後、もうこんな好機は来ない。だから私はあの二人を服従させるのに絶対協力しない」

 

アウラ「……一人でやれってこと?」

 

リーニエ「片方を服従させている間にゾルトラークを撃たれれば死ぬよ」

 

アウラ「……分かった。考えとくわ」

 

リーニエ「今すぐ決めて!」

 

アウラ「この私が決めるの! どうするかは私が決める!」

 

リーニエ「アウラ様はただ傲慢で高飛車なだけで頭が悪いんだから、私の言う通りにすればいい」

 

アウラ「な、なによ!」

 

アウラは顔を赤くし、涙をこぼした。

 

アウラ「リーニエのくせに!」

 

リーニエ「ごめん、言い過ぎた。でも頭が悪いのは本当」

 

アウラ「うるさい! これ以上この話をしたら、本気で怒るから!」

 

リーニエ「…………」

 

リーニエ(こうなったアウラ様には何を言っても無駄。隙を見て、私がお姉様を殺すしかない。<服従させる魔法>にどの程度逆らえるかが問題だな……)

 

 

○廃城の食堂。

ソリテール不在の食卓。それぞれいつもの席に着く。

ラヴィーネとカンネによって食事が用意されていた。

 

カンネ「アウラ、おはよう。ソリテールは大丈夫?」

 

アウラ「ええ。大丈夫よ」

 

カンネ「昨日は何があったの?」

 

アウラ「何にもないわよ」

 

ラヴィーネ「嘘つけ。人類側の魔法使いにやられたんだろ」

 

アウラ「…………」

 

ラヴィーネ「誰にやられたんだ?」

 

アウラ「それがあなたに何の関係があるの?」

 

ラヴィーネ「別に」

 

ユーベル「人類側にソリテールを倒せる魔法使いが存在する、ってことか」

 

アウラ「敗れた訳じゃないわ……」

 

ユーベル「逃げてきたんだ?」

 

アウラ「逃げたんじゃないわよ! 戦略的撤退よ!」

 

ユーベル「やっぱり逃げたんだ」

 

アウラ「何が言いたいの?」

 

ユーベル「ソリテールが絶対的に強いわけじゃないってこと。このままソリテールに従い続けて、アウラたちも大丈夫なのかな?」

 

カンネ「ユーベル、やめなよ」

 

ユーベル(アウラがソリテールを裏切れば、ラヴィーネたちはソリテールを守るために、泥沼の殺し合いになる。アウラが死ねば、ソリテールによって皆殺しにされる。これが一番理想的な流れ)

 

アウラ「どうするかは私が決めること。人類如きが私に意見するな」

 

リーニエは無言で肉にかぶりついている。

ラヴィーネとユーベルはアウラを睨む。

アウラは顔を背け不機嫌そうだった。

カンネはこの空気に耐えきれない。

 

カンネ「ねぇ、アウラ。ソリテールのお見舞いに行ってもいい?」

 

アウラ「嫌よ。私の部屋なんだから」

 

ユーベル「本当はもう死んでたりして」

 

ユーベルは不敵に笑った。ラヴィーネが殺気立つ。身構えたラヴィーネの腕をカンネが掴む。それにリーニエが立ち上がりかける。

 

アウラ「死んでないわよ。まだ眠っているだけ」

 

ラヴィーネ「アウラ。ソリテールを殺したらどうなるか分かっているな?」

 

アウラ「殺すって何よ? それと、あまり人類如きが調子に乗らないで。この私と対等な口を利くだけでもおこがましい」

 

カンネ「ラヴィーネ、やめて! アウラも、ごめんなさい。ソリテールが起きたら、お見舞いに行っても大丈夫か聞いてもらってもいい?」

 

アウラ「別にいいわよ」

 

アウラは席を立つ。

 

アウラ「どうしてわざわざあなたたちと一緒に食事をするのか、意味不明で不快だわ。私は自分の部屋で食べるから、あなたたちも好きにしなさい」

 

アウラは自分の分と、ソリテールの分を持って食堂を出る。

 

 

 

○アウラの寝室。

ソリテールが目覚めて上体を起こしていた。

 

ソリテール「おはよう、アウラ」

 

アウラ「起きたのね。生きててよかったわ」

 

ソリテール「おかげでだいぶ治ったよ。今ならアウラの肩や足を揉んだりできるよ」

 

アウラ「そう? まずは食事にしたら?」

 

ソリテール「持ってきてくれたんだ。ありがとう」

 

カンネが気を利かせたのだろう。ソリテールの分はスープだった。鳥肉と野菜が入っている。

 

ソリテール「いただきます」

 

スプーンが指から滑り落ちる。

 

ソリテール「あれ?」

 

アウラ「全然治っていないじゃない」

 

アウラはスプーンを拾い、スープを掬ってソリテールの口に運ぶ。

ソリテールが不思議そうにアウラを見ていた。

 

アウラ「何しているの? 早く食べなさいよ」

 

ソリテール「うん」

 

ソリテールは嬉しそうに微笑み、口を開き、スプーンを咥える。口に含み中身を受け取ると、するりと唇からスプーンが滑り出す。

 

アウラ「食べられそう?」

 

ソリテール「うん。とても体力を使ったから、お腹が空いたわ」

 

アウラ「よかったわね」

 

アウラ(リーニエの見立てだと内臓が破裂していたはずだけど、どうにかなるものなのね)

 

アウラは再度、ソリテールの口に運ぶ。

ソリテールはそれを口で受け取る。

 

アウラ(あれ、私がソリテールを服従させているはずなのに、どうして私が世話しているのかしら……)

 

ソリテール「美味しい。カンネが作ったのかな」

 

アウラ「そうね。あの二人は、もう少し生かしておいてもいいかもしれないわね」

 

ソリテールが再び不思議そうな顔をした。意外なことに対して彼女は、いつも眠そうな目を大きく見開く癖がある。

 

アウラ「もうあの二人を生かしておく必要はないでしょ。あなたが回復するのに多少は役立ちそうだから、それまでは生かしておくけど」

 

ソリテール「そっか。そうだね。寂しくなるな」

 

アウラ「あなたがちゃんと管理しておくなら、服従状態で首を切らずにおくけど?」

 

ソリテール「いいの?」

 

アウラ「あなたが回復した後でね。私一人だと手に余るわ。その代わり絶対に私を守るのよ」

 

ソリテール「うん。約束する」

 

アウラは再びソリテールの口に食事を運ぶ。

それをソリテールは嬉しそうに口にした。

 

アウラ「口周り、汚れているわよ」

 

食事を終えたソリテールの口元を、アウラは布巾で拭う。

ソリテールはされるがままだった。

 

アウラは食器を片付け立ち上がる。

 

アウラ「片付けてくるわ。あなたはそこでじっとしているのよ」

 

アウラは去ろうとする。その背をソリテールは呼び止める。

 

ソリテール「ねぇ、アウラ」

 

アウラ「なに?」

 

ソリテール「名前で呼んで」

 

アウラ「どういうこと?」

 

ソリテール「“あなた”じゃなくて、名前で呼んでほしい」

 

アウラ「別に、そのぐらい構わないけど……」

 

ソリテール「呼んで」

 

アウラ「……ソリテール」

 

ソリテール「嬉しい。初めて名前で呼んでくれたね」

 

アウラ「あなたが変な名前で呼ばせたからじゃない……」

 

ソリテール「“あなた”じゃないよ。ソリテールよ」

 

アウラ「……ソリテール。すぐに戻るけど、私以外、誰も中に入れては駄目よ」

 

ソリテール「はい、アウラ」

 

ソリテールは嬉しそうに、素直に答えた。

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