不意に扉が開かれた。
一人の魔族の少女がいた。
リーニエ「アウラ様、変な声がしたけど何かあった?」
少女は私とほぼ全裸のアウラを見ると、一瞬戸惑うも、すぐに魔力で具現化した斧を構える。
リーニエ「アウラ様に何をしている?」
ソリテール「はじめまして。私は大魔族のソリテールよ。よろしくね」
アウラ「リーニエ……助け……」ハアハア
ソリテール「構えなくて大丈夫だよ。リーニエっていうんだね。私はアウラのお姉様だから。ね、アウラ。大好きだよ」
アウラ「おねえさま、だいすき……」
リーニエと呼ばれた少女魔族は、その大きな目を丸くしていた。
リーニエ(私は魔力を読み取るのが得意。あのソリテールという魔族は魔力の量を制限しているみたいだ。そしてアウラ様を服従状態にしている。つまりアウラ様より強い)
リーニエは何かを決心したようだ。
私は手にとるように分かった。魔族の思考パターンは人類より遥かに合理的で単純だ。
彼女は逃げることを決定したに違いない。
ソリテール「“アウラ、リーニエを服従させて”」
アウラ「はい、お姉様」
リーニエ「あ……やばい……」
アウラは服従の天秤を具現化させる。
リーニエの表情に驚愕が過ぎった。
百合人形は多い方がいい。アウラを壊すわけにはいかないので、危険な実験はこの少女魔族でするとしよう。
アウラ「<服従させる魔法>、解除!」
ソリテール「え?」
突然の出来事に私は油断した。
アウラは私の体を突き飛ばし、リーニエの方に駆ける。
私が放心した一瞬の隙に、リーニエの一撃が私を襲う。
間一髪、我に返り飛び退く。斧は私の左肩を切り裂いた。
アウラ「よくやったわ、リーニエ!」
リーニエ。魔力の量からせいぜい百歳未満の少女魔族。しかし驚嘆すべきはその洗練された武技。フリーレン一行にいた、赤髪の人間の雄を思い出した。彼に匹敵するかそれ以上。
ソリテール「今の一撃、少しでも反応が遅れてたら危なかったわ。君たち、面白いね。アウラも、どういうことなのかな? いつでも解除できた? ううん、そうじゃない」
アウラ「このチャンスを待っていたのよ! <服従させる魔法>は、意志の強い者は一時的に抵抗することができる。だから服従の天秤を発動した瞬間、私にかけられた魔法を意志の力で解除したの。なぜなら私は五百年以上生きた大魔族、七崩賢の一人、断頭台のアウラだからねぇ!」
ソリテール「なるほど。だから首を切り落とすんだね。興味深い」
リーニエはアウラが解放されたことで、勝機と見たようだった。
リーニエ「アウラ様、ここで追い詰めて倒す。援護を」
アウラ「私、<服従させる魔法>しか使えない……」
リーニエ「……兵士を集めて包囲して」
アウラ「そうね!」
ソリテール「素敵。君たち二人とも、私の妹決定」
私は圧縮した魔力の光球を生み出す。それは高速で回転し、円盤を形成する。
ソリテール「だからお姉様の、最強の魔法を見せてあげる」
ちょうどそこへ一人の青年魔族が駆け込んできた。
ドラート「アウラ様、いったい何が!?」ヌッ
アウラ「ドラート!」
ソリテール「ちょうどいい的だ」
私は彼に向かって光球を放った。それは放たれた瞬間に圧力が消失し、回転方向に膨張する。それを超高速で放つことで、消滅するまでの間に、数十メートルの範囲を直線的に破壊する。
ドラート「へ? あひいいいっ」バキバキバキ
轟音と粉塵を巻き上げて、青年魔族ごと床や壁を粉砕した。
アウラとリーニエは、破壊された方向を呆然と見ていた。ドラートは跡形もなく消滅した。
ソリテール「魔力をぶつけるだけの単純な魔法。これが一番簡単に人を殺せるの」
私はさらに複数光球を展開する。
室内で逃げ場がないのは彼女たちの方だった。
アウラ「…………」ドキドキ
リーニエ「…………」ハアハア
ソリテール「どうする? まだ続けるのなら、戦えないように君たち二人の両腕を破壊する。手足がなくなっても百合はできるから問題はない。君たちのお姉様が優しく面倒を見てあげるから大丈夫だよ」
私は圧倒的暴力と恐怖で屈服させることにした。
本当はなるべく無傷で獲得したい。リーニエの身体能力は得難い。アウラは、服従の天秤が彼女の魔力で具現化していることから、彼女を弱体化させることは得策でない。
アウラ(リーニエを<服従させる魔法>で囮にしてその隙に逃げるしかないわね……)ハアハア
リーニエ(絶対リュグナー様逃げたな…てかアウラ様、私のこと囮にする気だろ……)ハアハア
私は駄目押しする。
ソリテール「アウラ。君のこと、私は一生諦めないから。どこへ逃げても探す。大陸中、どこへ逃げても一生かけてね。君の魔力を感じればどこにでも行く。君の噂を聞けば必ず探しに行く。絶対に逃がさない。そして手足を切断して私だけのアウラにするわ」
アウラ「なんでよぉ……なんで私ぃ……私、五百年以上生きた大魔族なのにぃ……」ぽろぽろ
リーニエ「え? これアウラ様差し出せば私のこと見逃してもらえるの?」
アウラ「リーニエェ!?」
ソリテール「ううん。もう君には一つも選択肢がないの。アウラに囮にされて私に手足を切断されたあと妹になるか、アウラと一緒に私の妹になるかしかないの」
リーニエ「なんだよ、絶望しかない……」
ソリテール「だから、ね。アウラ、私の妹になりなよ。痛いことはしないって、お姉様が約束するから」
アウラ「うぅ……わかった……」ぽろぽろ
ソリテール「なんて?」
アウラ「はい、お姉様……」
ソリテール「よくできました。いい子いい子」
リーニエ「……お姉様って何?」
アウラ「……わかんない」ぽろぽろ
あとは最後の仕上げを行う。
ソリテール「それじゃあアウラ、服従の天秤を発動して」
アウラ「え?」
ソリテール「私に<服従させる魔法>をかけて」
アウラ「……どうして?」
ソリテール「お姉様の妹になるんでしょ?」
アウラ「はい……」
ソリテール「そしたら、ね。アウラが私に逆らったり、逃げたりしないようにしないとね」
アウラ「無理……絶対無理……」プルプル
リーニエ「ちょっとアウラ様、早くしてよ」
ソリテール「そのあとリーニエにもかけてもらうから」
リーニエ「……もう終わりだ」
ソリテール「これだけは約束してあげる。服従の内容は、私から逃げようとしないこと、私に危害を加えようとしないこと。それだけ。あとは自由に行動していいよ。君たちがしたいことを手伝ってあげるし、君たちの敵と私も戦ってあげる。その代わり君たちは、私の魔法の研究をお手伝いしてね。どう? 悪くないでしょ?」
アウラ「ほんとに? ほんとにひどいことしない?」
ソリテール「しないよ。お姉様との約束だよ」
リーニエ「けっこういい条件だな。でもそれだとアウラ様がいつでも魔法解除できるんじゃない?」
アウラ「ちょっと!」
ソリテール「そこは自由意思に任せるよ。結局、一時的に抵抗できる時点で完璧な魔法じゃない。ただもし解除したり、逃げようとしたり、私に危害を加えようとしたら、お仕置きするから。もちろん妹同士の喧嘩も駄目よ」
リーニエ「なるほど……」
ソリテール「それじゃあアウラ、お願い」
アウラ「……<服従させる魔法>」ぽろぽろ
天秤にアウラと私の魂が乗る。
よく考えてみると、二人の魂が天秤に乗っている光景は、すごく百合的で素敵なことなのではないだろうか。
私たちには分からない感情だけれど。