目覚めると私はアウラの体を抱きしめていた。
私たちの血は凍てついているはずなのに、二人の体温が重なり合ったところが温かい。
不意にアウラが目を覚ます。眠たげな目を開けて、私とリーニエを交互に見て、戸惑っている様子だった。
アウラ「え? なにこれ……」
ソリテール「おはよう、アウラ」
アウラ「え? え? あれ?」
ソリテール「寝ぼけてるのね? 可愛いな。私だよ。君のお姉様」
アウラ「う、うぅ……夢じゃなかったんだぁ……」
ソリテール「夢じゃないよ。私はちゃんとここにいるよ」
アウラ「うぅ……」ぽろぽろ
ソリテール「さあ、アウラ。おはようのキスをして。今日もたくさん愛し合いましょう」
アウラ「嫌だぁ……」
不意にリーニエが起き上がる。
リーニエ「おや?」
ソリテール「おはよう、リーニエ」
リーニエ「おはよう、お姉様」
ソリテール「どうかした?」
リーニエ「魔力探知に、侵入者が引っかかった」
ソリテール「それは?」
リーニエ「四百、五百……もっといるか。おそらく千人規模。足取りが重い。甲冑を着ている。人類の軍勢みたい」
ソリテール「決して少なくはないけど。アウラと配下の魔族を考慮すれば、十分な兵力とは言い難い。これは事前に計画したものではない?」
昨夜の私の魔法攻撃が、内輪揉めか何らかの襲撃を受けたと推測し、好機と捉えたのかもしれない。
ソリテール「君たちの敵だね。それなら私の敵でもある」
ソリテール「君たちの敵のこと、お姉様に教えて」
私はアウラの胸を優しく撫でた。
アウラはビクンと体を弾ませた。
アウラ「……私たちは80年前から人類の領土、グラナト伯爵領と交戦状態にあるわ。その時は勇者一行に敗れたけど、27年前に力を取り戻し、攻略を再開したの」
ソリテール「教えてくれてありがとう」
私はお礼にアウラの頭を撫でた。
ソリテール(勇者一行、魔王様を倒したパーティ。そしてフリーレンがいた)
ソリテール「今も苦戦しているみたいだね」
アウラ「フランメの防護結界のせいよ。街を包囲しても、結界に阻まれて侵入できない。それに奴らは籠城戦に数年耐えられる備蓄があるわ。その間に他のところから援軍が送られてきて、撤退を余儀なくされてきたのよ」
ソリテール「フランメの防護結界。千年前の天才が作り上げた魔法。興味深い。もしかしたら、私なら解析して突破できるかも」
アウラ「本当に!?」
ソリテール「うん。だけど時間が必要。少なくとも二ヶ月。ううん、三ヶ月。私が直接解析する必要があるから、籠城戦に持ち込みたいわ」
リーニエ「それよりどうするの? アウラ様の不死の軍勢は五百。ドラートは死亡。リュグナー様は――」
アウラ「リーニエ!」
リーニエ「?」
アウラ(リュグナーの存在は伏せておきたい。私の解放の鍵になるかもしれない)
リーニエ(なんだよ、とっくに逃げてるし、お姉様に隠し事して怒られたくないんだよな)
ソリテール「それで、どうするの? アウラ」
アウラ「え、私?」
ソリテール「戦いの指揮は、七崩賢であるアウラにお願いするわ」
アウラ(そう私は断頭台のアウラ、七崩賢の一人、五百年以上生きた大魔族!)
アウラ「迎撃するわよ。私が五百を率いて足止めするから、リーニエは遊撃。お姉様は――」
アウラ(七崩賢クラスの魔力、彼女一人で戦局は覆る。協力してくれるみたいだけど、どこまで協力してくれるか……代わりに何を要求されるかも分からないし……)
ソリテール「そうね。私は集団戦が初めてだから、最初はアウラの護衛をするわ。戦局を見て、私に指示を出して」
アウラ「はい、お姉様」
アウラ「それじゃ、とりあえず服を着させて……」
* * *
廃城の正面に、千人の軍勢が展開していた。
グラナト伯爵「クソ魔族どもめ! 今日こそ引導を渡してやるんじゃあ!!」
グラナト伯爵「みんな丸太は持ったな!! 行くぞォ!!」
兵士たち「ワーーーワーーー」
首のない不死の軍勢と、人類の軍勢は正面から衝突する。
私たちは後方上空から戦況を俯瞰する。
アウラ「高い高い高い! 怖い! 降ろして!」
アウラが力強く私に抱きつく。
彼女は飛行魔法が不慣れな様子だった。
ソリテール「こういうのも悪くないね。妹に頼られてお姉様は嬉しいよ」
アウラ「いいから降ろしてよぉ!」
<服従させる魔法>に生涯を費やしたアウラはそれ以外の魔法が使えない。
彼女は<服従させる魔法>の特性上、自身の魔力量を高める研鑽に費やしてきたのだろう。
ソリテール「私は人類の魔法について生涯を費やして研究してきたから、君ができないことはお姉様がしてあげる」
アウラ「私、地面がいい! 地面に降りたい!」
戦況を俯瞰して分かったことがあった。
ソリテール「集団戦は、兵数に差があっても、一度に接地するのは前列の兵のみ。前列が倒れれば後列が繰り上がって陣形を補填する」
ソリテール「数で劣る私たちは、平地での戦闘は不利ね。人数の多い方が陣を広く展開することで接地面積を広げ、人類側は一対一ではなく複数対一に持ち込むことができる」
また人類側の士気は非常に高い。
兵士A「あいつはイケメンだったのに首を切られちまったからちくしょう!!」
兵士B「クソみてェなことしやがって! 俺たちの仲間を返しやがれ!!」
兵士C「膝だ! 関節を壊せ!!」
アウラの軍勢は包囲され、三人一組で対処されている。また関節を破壊することによって無力化される。膝を破壊されることで立ち上がることができなかった。
ソリテール(あくまで操り人形。アウラが不可視の糸で操っているにすぎない。ただ壊れにくいだけの玩具)
ソリテール「それにしてもだいぶ恨まれているみたいだね」
アウラ「人類は愚かね。死んだ者のためにだなんて。もういないのに滑稽だわ」
ソリテール「そうだね。私たちにはない感情だ」
ただそういった感情が、死への恐怖を克服させ、私たち魔族への憎悪が人類の魔法を進化させてきた。
私たちにも同族を哀れむ感情があれば、人類に敗れることもなかった?
それともとっくに人類を滅ぼしていたかも。
ないからこそ、魔族はいつか滅ぶ運命にある?
ソリテール「このままだとアウラの大切な軍勢が消耗してしまうよ。私が出る?」
アウラ「まだ! 五百年以上生きた大魔族の私の実力を見せてあげるわ。服従の天秤で、敵の陣形を崩す!」
ソリテール「そう。ならもっと近付くね」
アウラ「え、やだぁ!」
私はアウラを抱きながら、上空を飛び、前線に出る。
アウラ「……ちょっと漏らしたかも」ハアハア
ソリテール「あとでお姉様が綺麗にしてあげるね」
アウラ「……え?」ゾゾッ
アウラ(まさかまた舐め回されるんじゃ……)
アウラ(……ううん、今は目の前のことに集中!)
アウラは服従の天秤をかざす。
アウラ「<服従させる魔法>」
兵士B「へ?」キィィン
兵士A「やべェ急げ! 手足を叩き潰せ!!」
兵士C「あいよっ!」
兵士B「ひいいいいっ! 待って嫌だ! 死にたくないぃ!!」
兵士B「ひぎぃっ!!」ドスッバキッズシャッ
アウラ「……そんな?」
ソリテール「なるほどね。よく訓練された兵士みたいだ。服従の天秤が魂を載せられるのは一度に一人。三人一組で相互に監視し、一人が服従状態になれば瞬時にそれを処理する。陣形は崩れない」
アウラ「なら、陣形が崩れるまで、服従させて兵力を減らせば!」
ソリテール「焼石に水だね。私は不死の軍勢を失うよりも、アウラの魔力を消耗することが惜しいわ」
ソリテール「単純に、私が敵の指揮官を処理するか、君が対象を服従させれば終結する。どうする? 私なら上空から近付けるけど」
アウラ(え? 私の魔法って弱いの?)
アウラ「じゃあ、それで、お願いするわ……」
ソリテール「あ、待って。リーニエが動いた。私、彼女の戦いを見てみたいわ」
アウラ「え? でも私の不死の軍勢が……」
ソリテール「別にいらないから大丈夫」
アウラ「ひどい……せっかく頑張って集めたのに……」ぐすん