それは、突然のことであった。
プロとアマチュアが参加する公式大会で、そいつは突如姿を現した。
アマチュアといってもその実力はプロすら危惧するほどの実力者ばかり。
見たこともないデュエリストのそいつに警戒はするものの、意識は完全に他のデュエリストに向いていた。
だが一試合目のデュエルを見て、参加者全員はそいつを警戒せざるを得なくなった。
そいつの相手は他の大会でもかなりの成績を残した、いわば優勝候補の一人だった。
誰もがそいつを同情的な目で見ていた。
「あいつ終わったな」
「あーあ、可哀想に」
「また次頑張れよ、ってな。ハハハッ!」
勿論、俺もその一人だった。
だが俺達の予想は完全に裏切られることになった。
魔法・罠カードを発動すればその悉くが読み尽くされ、モンスターを召喚しても攻撃は通らず。
そして僅か5ターンで、LP4000とLP0という圧倒的なまでの実力の差を見せつけられた。
最初は冗談かと思ったぜ?なにせ優勝候補が1ダメージも与えらぬまま、場を蹂躙されて終わったんだからな。
あまりにも違いすぎる実力の差。
未来を予知しているんじゃないだろうかと思うほどの読み。
そして決して埋めることの出来ない、天才的なタクティクス。
「おいおい、嘘…だろ?」
「相手は優勝候補だぞ!?」
「ズルでもしたんじゃないのか!?」
理不尽なまでの実力の差を見せつけられたにも関わらず、デュエルでの不正を疑う者達。
確かにその可能性は捨てきれなかった。だが、恐らく違うだろうと予想はついた。
例えしていたとしても、不正だけで片付けられる実力では無かったからだ。
『貴方に対して不正疑惑が上がっています。何か異議はありますか』
そして事もあろうに、ざわつく場内で単刀直入に不正の疑惑がぶつけられた。
冗談じゃない!そいつの実力が不正であってたまるか!
あまりにも不躾なMCの質問に、不正だの何だのと言っていた連中も同情した目でそいつを見始めた。
「……成る程」
疑惑の目に晒されているそいつは、憤慨することもなく呟いた。
デュエルしている最中と同じ、ただ無表情かつ無感情に。
そして不意に、自分が倒した相手に近寄った。
何を言うのかと固唾を飲んで見守る中、そいつは静かに謝った。
「悪い。5ターンも掛かった」
「――ッ!!な、…!?」
それだけ言って、そいつはフィールドから降りた。
は、ははは、アハハハハハ!!可笑しいったらないぜ!
そいつ、自分が実力を出せなかったことを“不正”だと考えやがった!
弁解もしてねぇし、異議も唱えてない。けど、その場にいた全員がわかったぜ。
不正なんかしてねぇ、ってな。
普通“不正”っつったら、相手のカードを盗み見たとかそんなんだぜ?
だがそいつは、そんなことを考えもしなかった。
疑う気持ちなんてどっかにぶっ飛んじまったぜ。
「よォ、面白いジョークだったな」
控え室に戻ってきたそいつに、俺は声を掛けた。
他の連中はそいつの雰囲気に気後れしていたが、んなモン関係ねえ。
コイツは恐らく、俺が会ってきたデュエリストの中でも最高で、最強のデュエリストだ。
「……誰だ」
「俺か?俺は雪屋暁人。アキトでいいぜ」
「何か用か?」
そいつは俺の方に視線を向けたが、その目は何も映してはいなかった。
ただ風景を見ているのと同じような瞳。
デュエルの最中ですら変わらない瞳に背筋が凍る。
それでなくとも誰も寄せ付けない雰囲気が恐いっつーのに。
あぁヤバイ、足が震えそうだ。
「お前強いな。連絡先教えてくれよ。今度俺とデュエルしようぜ」
体の震えを何とか抑え、なんでもない風を装う。
まぁ多分見抜かれてはいるんだろうが、なけなしのプライドってヤツだな。
何秒、何分経ったのか分からないまま視線を交わし続けていると、そいつは俺に小さな白い紙を渡してきた。
四つ折りになったそれを恐る恐る開いてみると、そこには住所と電話番号が書いてあった。
「さ、サンキューな!」
やった、やった、許された!ハハッ、ざまぁみろ!
羨望の目を向けてくる周りの連中に見せびらかして自慢したい気分だ。
だがそんな馬鹿はマネはしねえ。
「なぁ、荒夜って呼んでもいいか?」
命知らずにも程があるなとは思ったが、この時の俺は喜びのあまり気にも留めなかった。
幸いにも荒夜が微かに頷いてくれて事なきことを得たのだが。
逆鱗に触れなくて良かったぜ。マジで。
結局その後俺は負けてしまったのだが、荒夜の視線が俺だけを見ていて、負けの屈辱なんて露ほども無かった。
むしろ、負けたというのに荒夜を独占している優越感の方が強かった。
そして荒夜は他者を寄せ付けない圧倒的なまでの実力で優勝し、多くのデュエリスト達の間にその名を知らしめることとなった。