「本当、我が兄ながらよくもまぁここまで勘違いされてくれるわね」
とある公式大会の映像を見ながら、実の兄に天使と称されている妹、命が呆れたように溜息を吐いた。
その姿さえ洗練された動きのように美しく、身内贔屓じゃないと言われるのも納得である。
しかしその実、その清廉な外見とは裏腹に内面は闇の比じゃないほどにドス黒かった。
「初っ端からモンスなしの手札事故でカードガン伏せとか馬鹿じゃないかしら?
大嵐でも発動されたらジ・エンドよ。これだから考えなしの愚鈍って愉快だわ」
ハッと鼻で嘲笑うように画面に映る荒夜を見下す。
昔からそう。何をやらせても荒夜の行動は本人にとって良い方向に勘違いされる。
まぁ荒夜自身がそれを良いことだと思うのは別だけど。
大した努力もなく、葛藤する想いすらなく。
ただ自然と、それこそ生きているだけで無が有を生み出しているような存在。
「荒夜…」
正直、その体質に気付いた時には嫉妬した。
人が必死に猫を被って取り繕っている隣で、ただ呼吸をしているだけで崇められるような存在。
どんな無様な行動すらも良いように解釈され、讃えられる。
荒夜という人間の内面を知れば知るほど、その嫉妬は私の身を焦がした。
けどそんな感情も長くは続かなかった。
きっかけは単純にして明快。荒夜は私の本性を知っていた。
嘘という嘘で塗り固められ、歪みに歪みきった私の本当の姿を知っていながら、それでもなお荒夜は私のことを美しいのだと言う。
散々罵倒し、利用してやるのだと突き放しても、荒夜は平然とそれを受け入れ肯定した。
これでは一体どちらが天使だというのか。
外見に惑わされている有象無象に問い詰めてみたいものね。
《―――ワァアアアァアッ!》
《全くの無名!誰もが予想していなかった!栄誉ある優勝を飾った闇の名は――》
「うるさっ」
歓喜溢れた声に眉をひそめ、躊躇なく映像を切った。
そもそもリアルタイムの映像ではないので結果はすでに本人から聞いてる。
まぁ聞かずとも哀れにも部屋の片隅に投げ捨てられるように放置された黄金の杯が全ての結果を雄弁に語ってくれている。
出掛けるまでの暇潰しとして観ていただけにすぎない。
「命」
ドアの開く音が聞こえ、背後から声を掛けられた。
振り向くと、相変わらず鬱になるほど暗い闇を背負う荒夜が立っていた。
その無表情っぷりと相まって近寄り難い雰囲気を醸し出しているが、内面を知る私には今までの経験もあって些細な変化も読み取れる。
大方、さっきのテレビの音が気になってどうしたのかと覗きに来たのだろう。
予想を裏切らないヘタレだ。アホらしい。
「この間の大会、今テレビでやってたわよ」
「(な、)何?(え、まさかの放送?僕の醜態がお茶の間で放送されてる!?すみませんごめんなさいキモイ顔で皆様の記憶を汚して申し訳ありませんんんん!!!)」
ここまで表と裏の温度差が違うとある意味気持ち悪いわね。
雰囲気を読み取るこっちの身にもなって欲しいわ。
口の動きと聞こえてくる言葉が違うようなものよ?
「表彰台で大々的に名前を呼ばれていたわよ」
「………」
まるで当然だと言わんばかりに沈黙する荒夜だが、内心は私の言葉に絶句して声が出ていないだけ。
その様子にクスリと笑い、足元に置いてあった鞄を持ち上げた。
そろそろいい時間ね。
「じゃあ荒夜、行ってきます」
「あぁ」
体を硬直させた荒夜の腕に手を置き、優雅に笑う。
そろそろ切り替えなくちゃ。
これから楽しい楽しい、学校生活が始まるんですもの。