新卒で入社したばかりの会社員。
一言多く、間の悪いお調子者だが根はいいやつ。巨乳好き。
親友の奥さんである美月に密かに惹かれている。
豊原美月
再婚したばかりの専業主婦。三十六歳。
淑やかな雰囲気とは裏腹に、豊満な肉体を持つ。性感帯は乳首。
夫の浮気を知り、ひとり悩みを抱えていたが、夫の友人である山岡に相談しているうちに心が安らいでいる自分に気付く。
心の平穏とともに、肉体の快楽までをも山岡に求めてしまっていることを自覚しつつ、歯止めが効かなくなっている。
美月さんの服装は原作に準拠しています。
残業終わりに会社近くの中華料理屋で夕飯を済ませ、店を出る。猛烈な暑さは和らぎ、夜の街を吹く風が少しひんやりとしていた。
台風が過ぎ去って一週間が経った。
あの日以来、俺は度々美月さんとの情事を思い出して、ひとりにやけていた。それに浮かれているのには、もうひとつ理由がある。来週、美月さんとのデートが待っているんだ。
ほうぼうの体で帰宅した翌日、美月さんが俺の安否を心配して電話をくれた。その時、クラシックのコンサートに誘われたんだ。はっきり言ってクラシックなど全く興味はないけど、美月さんからのお誘いだ、喜んで行く旨を伝えた。
コンサートってどんな格好でいけばいいんだろうと考えつつ、会社へと足を向ける。俺はまたケータイを充電したまま忘れていた。少々面倒だけど、もしかしたら美月さんから連絡があるかもしれないから、念のため取りに行くことにした。
会社の下まで来るとフロアに明かりが付いているのが見える。まだ誰かが残っているんだろう。
エレベーターに乗って目的のフロアで降りる。そして、会社のドアを開いた俺の目に飛び込んできたのは……
椅子に座る優介と、その上に胸をはだけさせて跨がる瞳さんだった。
俺に気付いた瞳さんが悲鳴を上げて、物陰に隠れた。優介が驚いた様子で立ち上がる。
………こいつ、美月さんの気も知らないで…
怒りの感情がうねりを上げる。
同時に、俺にはそんな文句を言う資格がすでにないことも理解していた。
「なんだ、好雄か……どうしたんだよ……帰ったんじゃないのか?」
動揺を取り繕いながら、優介が緩んだネクタイを締め直す。
「……おまえ、会社で何やってんだよ」
「……いや、まぁ……ちょっと…」
へらへらとしたその態度に苛立ちを覚えた。自分のデスクへと足早に向かったところで、優介が追いかけてきた。
「なぁ、ちょっと待ってくれよ」
優介は聞いてもいないのに言い訳めいたことを話しはじめた。
「……俺もさ、悪いことしてるのはわかってんだよ……たださ、このまま自分の奥さん以外の女を知らないで年を取ってくのかって思ったら、なんか損してる気になって……おまえなら、わかるだろ……?」
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら、共感を求めてくる。俺の親友はこんな卑しい顔をするやつだったか…
「……うちの奥さん、瞳さんと仲いいし、このこと知ったら傷付くと思うから……だから、悪いんだけど……うちの奥さんには黙っててくれないか?……しばらくしたら、きっちり別れるからさ……な?」
悪びれもせず、俺に向けて手を合わせ学生時代のノリで事を納めようとしている。
…………………こいつ……
頭に血がのぼるというのはこういうことを言うのだろう。怒りの衝動に突き動かされて一歩踏み出した。
その刹那、
俺の脳裏に来週末のデートのことが過る。
一秒にも満たない時間、相反する思いが頭の中で交錯する─────
そして……
①優介をぶん殴る
②「………バレないように気を付けろよ」
(以下、分岐します)
①優介をぶん殴る
バキィッ!
拳を顔面に受けた優介がデスクにもたれ掛かる。
「……おまえなぁ、美月さんが気付いてないって本気で思ってんのかよ!」
優介は理解の及んでいない顔をしている。
「……俺は前から知ってたよ、おまえらが出来てること。ホテルに入ってくのも見たし……鈍感な俺でも気付くくらいだぞ、一緒に住んでる美月さんが気付かないわけねぇだろっ!」
「そう……なのか」
優介はここに来てはじめて狼狽しはじめた。
「おまえは今日帰ったら美月さんに謝れ!許してくれるまで何度も……わかったか?」
「いや、でも……」
「わかったな!?」
俺がさらに詰め寄ると、優介はあぁと小さく返事をした。それを聞いて、俺はケータイを取らずに部屋から出て階段を駆け下りていく。
拳に鈍い感触が残る。胃がキリキリと痛んだ。
……あんな偉そうなこと……どの口が言ってんだっ…
激しい罪悪感に吐き気を覚えながら、俺は会社をあとにした。
翌日───
午後の営業の前に早めに外に出て、昼食を取ることにした。昨日からずっと気が滅入っていて食欲がわかないけど、少しでも腹に入れとかないと体が持ちそうにない。不意に、美月さんが作ってくれたお粥を思い出した。
エレベーターに向かおうとしたところで、ばったり優介と出くわした。
「……これから営業か?」
「……あぁ」
「なぁ、少しだけいいか……?そんなに時間取らせないから…」
俺は頷くと優介につづいて誰もいない会議室に入った。少しの間を開けて、優介が神妙な面持ちで話し始める。
「……あのあと、家に帰ってさ……奥さんに白状したんだ、全部。そしたらさ、おまえの言ってたとおり、俺の浮気に気付いてたみたいで……急に泣き出して…」
また胃が痛みはじめた。結局、俺との関係は美月さんをより追い詰めただけだった。
俺は殴られる覚悟をした。
「……それで、何度も謝って……結局、許すとは言ってくれなかったけど……それでも、やり直すチャンスはくれるみたいなんだ。昨日、お前が俺の目を覚ましてくれてなかったら、もっと取り返しのつかないことになってたかもしれない……本当に、ありがとう」
優介が頭を下げた。
美月さん、俺のこと話してないのか…
殴られるつもりだった俺は心の置きどころがわからなくなった。
「おまえも、瞳さんと気まずくなっちゃっただろ
?」
「……それは、いいんだけど…」
俺は謝られる資格なんてない。おまえのことを裏切ったんだ。
心臓が不快な鼓動を立て、脂汗をかきはじめた。
「引き留めて悪かったな……それじゃ、行くか」
「あっ、ちょっと……」
優介が振り返る。
俺は口を開きかけたけど、結局閉じてしまった。
「……いや、なんでもない」
「そうか……それじゃあな」
本当のことは伝えられないまま、俺はエレベーターに乗った。もし話したら、美月さんと優介の関係が完全に破綻してしまうかもしれない……
でも、それだけじゃない。結局、俺は自分が責められるのを恐れたんだ。
……俺は、本当の卑怯者だ…
ほとんど自失の状態で、通りに出た。
気が付けば、あれほどやかましく鳴いていた蝉の声がなくなっていた。
俺の夢みたいなひと時は、過ぎ去っていく夏とともに終わりを迎えていたんだ。
それから、数ヶ月後のことだった。
優介から美月さんの妊娠を聞かされたのは……
(15話へつづく)
②「………バレないように気を付けろよ」
「あぁ、悪いな……ほんと」
優介がほっとしたように胸を撫で下ろす。
「……まったく。黙っててやるかわりに、今度昼飯奢れよな」
「わかったよ」
軽口を叩いたあと、ケータイを持って部屋を出た。
おまえがその気なら、俺も好きにさせてもらう…
その時、俺の中から完全に友人への罪悪感は消え去っていた。
瞳さんのオッパイも見れたし、やっと俺にも巨乳運が巡って来たんだ。せっかくのチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。
会社を出ると、十五夜を迎えた月が街をこうこうと照らしていた。歩くのにちょうど気持ちのいい夏夜の道を通り、俺は駅へと向かった。
翌週───
新調したスーツに身を包み、コンサート会場の近くにあるモニュメントへと向かった。待ち合わせの時間まで、まだ三十分ある。急ぐ必要はないのに、つい気が逸って早足になる。
俺たちと同じように待ち合わせているんだろう、巨大な球体を捻ったような形の石像近くに人が集まっている。その人混みの中に、一際異彩を放つ美麗な女性を見つけて近寄った。
「こんにちは、美月さん。待たせちゃいました?」
「ううん、私も今来たところ」
俺を見るなり、嬉しそうに微笑んでくれる。
今日の美月さんはパープルのタイトドレスに紺のオペラグローブを付けている。深くスリットが入っていて、黒いストッキングを履いた太ももが覗いている。
胸元は大きく開かれ、たわわな胸をこれ見よがしに見せつけている。たしかにエロくはあるんだけど、背筋を伸ばして堂々としているから変に卑猥な感じはなく、むしろカッコいい。
髪型はいつもと違ってかきあげていて、耳元でイヤリングが光っていた。
妖艶という言葉がぴったりな出で立ちだった。まわりにいる人がその容姿に見惚れているのがわかる。
「今日はいちだんと素敵ですね」
「ありがとう。山岡くんもネクタイ似合ってるわよ」
俺たちはまわりからどう見られているんだろう。釣り合ってるようには見えないだろうけど、それは優介も同じはずだ。
コンサートが終わったらホテルで食事をする予定になっている。そのあと、美月さんを部屋に連れ込む算段だ。そのためには、まず演奏中に寝るなんていう失態は避けなければならない。
「それじゃ、行きましょうか」
俺たちは連れ立って会場へと向かっていった。
(16話へとつづく)
閲覧ありがとうございます。次回の投稿で最後となります。最後までお付き合い頂けたら幸いです。