美月さんが俺の家に来る──
それなのに、我が家はとてもじゃないけど客人を迎えられる状態ではなかった。
一旦、外で待ってもらって大慌てで片付けた。脱ぎ散らかしたままの服とエロDVDをクローゼットに押し込み、軽く掃除機をかける。
一通り片付けたあと、ようやく美月さんを招き入れた。
「......待たせてしまってすいません。どうぞ......」
俺が恭しくソファを勧めると、ありがとうと言って美月さんが腰を掛けた。
美月さんが俺の生活空間にいる……
改めて見ると異質な光景に思えた。
それからコンビニで買った酒とつまみをテーブルに並べた。ちょっと緊張しながら美月さんの横に座る。俺は缶ビール、美月さんはスパークリングの日本酒で改めて乾杯した。
乾杯したからといって冷めた雰囲気が急激に良くなるわけでもなく、俺は間を埋めるためとりあえずテレビをつけた。なるべく賑やかなチャンネルへと変えたけど、その内容は全くといっていいほど頭に入ってこなかった。
俺にはずっと気になっていることがあったんだ。
美月さんは俺と電話で話している時もさりげなく会社での優介のことを聞きだそうとしていた。残業についてのことや瞳さんとの職場での雰囲気、社内で変な噂がたてられていないか、とか......
浮気に気付きながらも優介を問い詰めるようなことはしていない。それどころか慮るそぶりを見せている。
別れるつもりはないということなのだろうか。それにしたって浮気に全く触れないというのはどうしてなのか。
美月さんはグラスを両手で持ったまま変わらず暗い表情をしている。根本となる問題を解決しないことにはいつまでたってもふさぎ込んだままだろう。
「......今日、優介が帰ってきたら、話すんですか......見ていたこと」
少々聞きづらくはあったけど、訊ねてみた。
「......たぶん、しないと思う」
予想通りの回答だった。俺はもう少し踏み込んでみる。
「もしよかったら、その理由を教えてくれませんか?」
美月さんはうつむきながらグラスのロックアイスを眺めている。そして、少しの沈黙のあと話し始めた。
「......私ね、もしかしらこんな日が来るんじゃないかって、思ってたの...」
こんな日とは、優介が浮気をする日のことを指しているんだろう。
「うちの夫、まだ若いでしょ?このまま年を重ねていったら、私より若い子に目移りする日がきっと来る。もしそうなったら......浮気の一度や二度、我慢しようって考えてたの......でも、その日が来るのが自分が思っていたよりもずっと早かった......それだけの話なのよ......」
「......いや、でも...」
美月さんが俺の言葉を遮るように、それまで胸に秘めていた思いを吐露しはじめる。
「......この前ね、うちの夫と瞳が並んで歩いているのを見た時思ったの.....もし私に出会っていなかったら、こんな未来もあったんじゃないかって......」
「だからって、美月さんを選んだのはあいつ自身なんですから......美月さんが引け目を感じるのはおかしいですよ」
俺は思ったことを率直に告げた。
「......そうよね......でも、私は信じてるの......最後には、私のところに帰ってきてくれるって......瞳もね、今は彼氏とうまくいってなくて、寂しいんだと思うの......私も同じような経験、あるから......」
「......そんなの、美月さんがつらすぎますよ...」
美月さんは自分が我慢することですべて丸くおさめようとしているのだろうか。
仮に浮気を追及して優介と瞳さんの関係が解消されても、すべてが元に戻ることはない。おそらく美月さんと瞳さんは絶縁状態となり、そのことが他の親戚に知られれば親戚間で亀裂が生じるかもしれない。そうなれば、たとえ美月さんが許したとしても、他の親類は優介を拒絶するだろう。
そういった事態を避けようとしているのか......
結局のところ美月さんの中の何が自分を犠牲にするようなことを強いるのか、その時の俺にはわからなかった。ただ、その決意が揺るがなそうなのは見て取れた。
しばらく沈黙のあと、俺も秘めていた思いを美月さんに話した。
「......俺、たまたま二人がホテルに入って行くのを見て、それを美月さんにお知らせしたんですけど......そのことがかえって美月さんを苦しめてるんじゃないかって思ってて......もしそうだったら、すいません......」
グラスを見つめていた美月さんが顔をあげた。
「ううん、そんなことはないの......それにうちの夫のことだから、いずれボロが出ただろうし…」
俺のことを気遣ってか、憂いを帯びながらも微笑を浮かべている。
「......ごめんなさい、またこんな暗い話して」
「いえ、美月さんの本音が聞けて、よかったです......」
二人が沈黙する中、テレビから出演者たちの陽気な笑い声が流れている。そのいかにも楽しげな雰囲気は俺の部屋を明るくすることはなく、かえって場違いな不協和音となっている。
いっそのこと消してしまおうかと思った時、不意に美月さんがグラスを呷った。細く美しい首が伸び、アルコールを飲みくだしていく。
「......ふぅ」
グラスを空けた美月さんが息を吐く。
「話を聞いてもらったら、ちょっとスッキリした」
「はは、それならよかったです」
それは空元気だったのかもしれない。それでも、しばらくぶりに見た美月さんの笑顔に逆に助けられたような気がした。
酒を飲んだところで現実は変わらないし、一時の享楽でしかない。それでも美月さんが抱えている悩みをほんのひとときでも忘れられるなら、俺はとことん付き合ってあげたいと思った。
それから俺たちは酒を飲みながら、またどうでもいい話をはじめた。俺が会社でやらかした愚かな失敗談を聞いて美月さんが笑いとばしてくれる。なんかいいな、こういうのと思いつつ笑った拍子にブラウスの中の胸が重々しく揺れるのを俺は視界の隅に捉えていた。
美月さんは店にいた時よりも酒が進んでいる。頬がほんのりと赤く染まり、目がとろんとしてきた。
ただ、酔ったからといって凛とした佇まいは崩れていなかった。ソファに浅く腰を掛け、膝から下を斜めに揃えて座っている。グラスの持ち方さえ洗練されているように見えた。
お客として招いたはずが、家にあったハイボールを慣れた手付きで炭酸水で割って俺に出してくれる。きっとこんな感じで優介の晩酌の相手をしているんだろう。
教養を持った大人の所作。今まで同年代の子としか付き合ったことのない俺には新鮮に思えた。
興が乗ったのか、美月さんはいろいろな話をしてくれた。フルートの教室に通っていること。料理が好きで、カレーだけでもレパートリーがいくつもあること。優介が仕事で遅くなる日はたまに車で迎えに行くこと......
話を聞いていて俺は無性に優介に腹が立ってきた。こんな美人で尽くしてくれる奥さんがいるのに、あいつは......
「......俺、やっぱりさっき、優介のヤツぶん殴っておけばよかったです」
「山岡くんがそんなに怒らなくてもいいでしょ?」
美月さんが俺をたしなめるように言う。
「そうかもしれないですけど.....俺は自分の運を、今もあいつに持っていかれている気がするんです」
訳のわからないことを言っている、その自覚はあったが酒に酔った勢いのまま話しつづける。
「......優介の他に中学からつるんでいる友達に渉ってヤツがいるんですけど、三人で誓ったんです。絶対巨乳の彼女を作ろうって......で、渉は早々と高校の時に昔近所に住んでた巨乳のお姉さんと再会して付き合って、優介は大学の時に美月さんと出会って......俺だけ、俺だけなんです......縁がないのは。きっとあいつらに俺の巨乳運を持ってかれてるんですよ!」
恨みがましくしゃべりたてる。美月さんは酩酊した俺の戯言にも、口に手を当て上品に笑ってくれている。
「ふふっ......ちょっと前から思ってたけど、山岡くんってうちの夫と似たところがあるわね」
「俺とあいつがですか?」
俺は納得しかねた。たしかに中学から大学まで同じ学校の同級生で、同じ会社の同じ部署に配属になって、似た背格好で巨乳好きで........まぁ、思い返せば経歴や嗜好に似通っているところはあることはある。それでも、あいつとは違い俺は絶対にしないと胸を張って言えることがひとつある。
「......俺が美月さんの旦那だったら、傷付けるような真似はしてないですよ」
「......そう?」
俺の顔をまじまじと見つめてくる。
「......さっきの、そのうち若い子に気が移るんじゃないかって話、あれってもともと山岡くんがきっかけで思ったのよ」
「おっ、俺ですか!?」
身に覚えのないことにたじろぐ。
「前にうちに泊まりに来た時に『おまえが三十の時、美月さんもう四十四歳だぞ、ほんとにそれでいいのか』ってうちの夫に言ったでしょ。聞こえてたのよ」
うっ......! 確かに言った気がする......
美月さんはしっとりとした目線をおれに向けている。
「すっ、すいません。でも、あれはほとんど、ひがみみたいなもんで.....いや、ほんと......すいません」
俺は平に謝った。過去の失言、それはいつ自分に返ってくるかわからないものだ。
平伏する俺を見て美月さんが笑った。
「ふふっ、冗談よ......でも、ひがみってことは私と結婚するのが羨ましいって思ってくれたの?」
「それは......はい」
あの優しい笑顔が、あの豊満の肉体が自分だけのものになるなら......俺はそんな妄想をいまだにしていたんだ。
「ふぅん......そう......」
はにかんだように笑みを浮かべる。
美月さんは酒が回ると少々笑い上戸になるらしい。一緒に飲んでいて一番楽しいタイプだ。
うちに来た当初よりも顔が上気して、清楚な雰囲気にうっすらと色気がにじみ出ている。
「でも、山岡くんが好きなのは私じゃなくて、私の胸なんでしょ?」
「えっ、いやっ、そんなことは......」
突然の直球に俺がしどろもどろに答えると、
「嘘。ずっと前からジロジロと見てたでしょ。ダメよ、女の人はそういうのすぐわかるんだから」
バレてた......! 内心おおいに焦る。笑みを浮かべながらも、目つきはちょっと真剣に見えた。俺の返答しだいではせっかくの楽しいひと時が台無しになるかもしれない。
見てませんよと強弁したら火に油を注ぐ可能性がある。それだけ俺はオッパイを盗み見した自覚があった。
「......重ねがさね、すいません...」
素直に認め謝った。
「……ふふっ、やっぱり似てるわね」
俺の神妙な顔つきを見て、美月さんの表情が崩れるようにほころんでいった。どうやらからかわれたらしい。ほっと胸を撫で下ろした。
以前よりも少々セクシャルな話ができるほどには親密になれたと思う。だが、これは優介が不貞を働いているからこそ築けた一時的なものにすぎない。
優介と瞳さんが不倫関係を解消したら、すべて元に戻ってしまう。美月さんが俺を頼ってくれることもなくなるだろう。そう考えると複雑な気持ちになった。
「.....もうこんな時間。そろそろ帰らないと」
美月さんが立ち上がった。時計の針はもう少しで日付を越えようとしている。
俺はそれに気付いていた。あわよくば終電が無くなり、美月さんがうちに泊まる事態になればいい.....
そんな俺の思惑をよそに美月さんは空いた缶や瓶をせっせと片付け始めた。
「あっ、いいですよ美月さん、俺やりますんで」
「いいの、そういう性分なのよ」
世話好きな印象は前からもっていた。
美月さんは立ったまま前かがみになってテーブルを拭いてくれている。俺はグラスをシンクに持っていく途中で振り返り、先ほどたしなめられたばかりだというのに、斜め後ろからその肢体を盗み見る……
発達した大きなお尻。俗に安産型というやつだろう。それがややタイトなスカートをパンと張り詰めさせ、成熟した女性の曲線を描いている。
豊満な肢体ではあるけど、けっして太っているわけではなかった。ブラウスのすそがスカートの中にしまわれているから、ウエストのラインがよくわかるんだけど、十分に細かった。
視線をずらすと、重力に引かれた胸がずっしりと垂れさがっているのが目に入る。
本当に大きい胸だ。帰ったらあのデカパイを優介がさわるのだろう。瞳さんの巨乳を揉んだあと、今度は美月さんの爆乳までも......世の中、本当に不公平だ......
不意に美月さんが顔をあげた。俺は慌ててキッチンへと向かった。
「……これでいいわね。それじゃ私、帰るわね。遅くまでごめんさい」
「いえ、全然。いろいろ話せてよかったです。駅まで送ります」
「いいの、タクシーで家まで帰るから」
「そうですか...それじゃうちまで呼びましょうか?」
「そう?お願いしようかしら......あっ、そうだ...」
美月さんは思い出したようにバッグから小さい封筒を取り出した。
「さっきお店で渡しそびれたんだけど、これ取っておいて......」
「何ですか、それ?」
「......いろいろと迷惑かけたでしょ?......それに会社の人たちにも、内密にしてほしいの...」
その言葉でそれが夫の浮気を教えてくれたことに対する謝礼、というよりは口止め料だとわかった。
「ちょっと待ってください。俺はそんなものをもらうために、知らせたわけじゃないんです......」
せっかく親密になれた美月さんとの関係性までもが金によって清算される気がして、俺は受け取るのを拒絶した。
「ごめんなさい、そういうつもりじゃないのよ......でも、困ったわね。他に私にお礼できることがあればいいんだけれど......」
美月さんは腕を組んで思案している。俺の目の前で腕の上に豊満な胸が乗っかって上昇した。
柔らかく盛り上がる乳房に目が釘付けになる。
......すげぇ...オッパイが...
急に居酒屋で俺の腕に当たった柔らかな感触が思い出された。
もしも叶うなら、美月さんに望むことはずっと前からただひとつだけだった。
オッパイをさわらせてほしい......
ほんの数秒の間、俺は魅入られたように美月さんのオッパイを凝視していた。
ハッとして顔をあげると、俺を見つめる美月さんと目が合った。その表情には俺が危惧したような怒りや怯えといった感情はみられなかった。
「......そんなに、気になるの?」
怒気のこもっていない、どちらかといえばいたずらをする小さな子供を諭すような静かで優しい声だった。
二人の間に流れる空気が変化したことを感じた。だが、それは危うくてもろく、少しの感情の機微で消えてなくなりそうな儚いものに感じた。俺は醸成された空気感が壊れないように率直に、なるべく刺激が少ないようにそっと返事をした。
「............はい...」
「......そう」
美月さんは片腕で胸を覆うようにして、もう一方の腕の肘のあたりを掴んでいる。
そして、何かを躊躇するような、言いあぐねているような……そんなそぶりを見せている。
数瞬の後、美月さんが顔上げた。
そして、そのいかにも柔らかそうな唇が紡いだ言葉に俺は驚愕し、血液が逆流しそうなほどの興奮と衝撃を受けていた───
「...私のでよければ.....さわってみる?」
胸に注がれる好奇な視線。それは自分が好きな男のものでなければたいてい不快感を伴うものだった。
山岡くんの視線もまたその大勢の中のひとり......のはずだった。
最初は電話することにも戸惑いを感じていたのに、今では彼とともに過ごす時間に平穏を感じる自分がいる。その安らぎに私は既視感を覚えていた。
今日ふたりで会ってみて、その正体がわかった。
かつて前の夫の浮気に悩んでいた頃、私を励まそうと明るく振る舞ってくれた夫。その時の姿と山岡くんが重なって見えていたことに気付いた。
山岡くんの中に私だけを見てくれていた頃の夫の影を見出していた。
やはり、二人は似ている。顔や声は違っても、私だからわかることがある...
だからといって、山岡くんに抱かれたいなどとは思っていない。
これは言わば......復讐、なんだと思う。
瞳に手を出しておきながら、何食わぬ顔で私の胸をまさぐる夫。嬉しい反面、やはり思うところはある。消しようのないモヤモヤしたものが澱のように私の心の奥底に沈殿していくのを感じていた。
夫が自分だけのものだと思っている私の胸を山岡くんにさわらせることで溜飲を下げようとしている。
……我ながら馬鹿げていると思う。
夫の浮気に悩みながら自分までもが裏切るような行為をしようとしている。山岡くんが私に気のあることを知ったうえで、それを利用して......
でも、それで何かと気にかけてくれる彼が喜んでくれるのであれば、胸を少しさわらせるくらい......
私は胸を覆っていた腕を下げた。その途端、山岡くんの熱い視線が胸に降り注ぐ。
若干の高揚感が私の内に湧いた。それは、まだうぶな学生だった夫を乳房でたぶらかした時のものと、ひどく似ていた────
白昼夢を見ているようだった。
あの美月さんが、胸をさわってもいいと囁いている......
おれはすぐには身動きできなかった。美月さんの放った言葉を反芻しその意味するところを考えるが、どう頭を捻っても誘っているようにしか聞こえない。
聞き間違いか、もしくはまた冗談を言っているのか。その本意を知るべく、表情を窺う。
美月さんは優しい眼差しでまっすぐにおれを見つめながら軽く微笑んでいる。その目は先ほどまでよりも潤んで見えた。
.....本気で言っているんだ..
美月さんの姿態と漂い始めた官能的な空気感に直感した。
不自然に間が空いたが、美月さんは動こうとしない。俺の返答を待っているんだ。
あまりに現実感のない展開に俺は確認せずにはいられなかった。
「......い、いいんですか?」
口の中が一瞬で乾いていた。舌が滑らかな動きを失っている。
俺が聞き返したその一言にはいろんな意味が込められている。優介がいるのに本当にいいのか。俺にさわられても嫌じゃないのか......
「えぇ......これでお礼になるかしら......」
「......それは......もう......」
ずっと惹かれていた美月さんのオッパイにさわれるんだ。これ以上のお礼なんてない。
願ってもない状況に血湧き肉躍る興奮が俺を支配する一方、俺は美月さんの意図を掴めずにいた。
どうして急にそんなことを言い出したのか。悪態をつく俺をよっぽど憐れに思ったのか、本当にお礼の為なのか、それとも文字通り酔狂なただのたわむれなのか。
超展開に思考が追い付かないでいる。だが、巨乳童貞を卒業できる千載一遇のチャンスなのはわかっていた。
それでも俺を躊躇させるのは……美月さんが親友の奥さんであるという事実だった。
優介とは友人であり会社の同僚でもある。これからも毎日のように顔を合わせることになる。俺は美月さんに手を出しておきながら、平気な顔で会えるだろうか......
「どうしたの......やっぱり、やめておく?」
美月さんがゆっくりと近づいてくる。豊満な乳房が俺に迫った。
「......い、いや...」
これ以上、間が空けば美月さんが冷めて正気に戻るかもしれない。そうなればこのような機会は二度と巡ってこないだろう......
「......................さわりたい、です」
俺は情けないほどか細い声で返事をしていた。
湧きあがる欲望を抑え、友情を選び取るには俺は若すぎた。それだけ眼前のふくらみは俺にとって蠱惑的すぎたんだ。
「......いいわよ、来て...」
美月さんに促されるまま、一歩踏み出す。
立ったまま向き合う俺と美月さん。至高のふくらみが少し手を伸ばせば届く距離で俺に揉まれるのを待っている。今はどんなに見ても美月さんからチクリと刺されることはないだろう。
俺はじっくりと眼下の胸を凝視した。
白いブラウスに包まれた、大幹からはみでるほど大きな乳房。あまりの大きさに正面から見ると太っているように見えるが、ウエストの細さはついさっき確認済みだった。
そのふくらみの中央をボタンの一列が縦断している。ボタンとボタンの間の布地には内側からの圧迫によってあまり余裕がない。両腕を後ろに引いて胸を突き出せば数個のボタンが取れてしまうだろう。
......さわるっ......さわるぞぉ...!
俺は両腕をあげて、ゆっくりと乳房に近づけていく。美月さんは変わらず優しく微笑み、見守ってくれている。
心臓の鼓動がヤバい。
動悸が起きそうなほどの緊張が俺を包み込む──
.
..................................................むにゅ
.
..............あ、ああっ!!
十本の指がほぼ同時に豊満なふくらみに触れていた。
その瞬間、指先からわずかな温もりと、底の知れないやわらかさが電流のように俺の脳髄へと流れ込む。
優介への良心の呵責など一瞬で消え失せていた。
そのまま乳房の表面をすべらせるようにして、ゆっくり腕を動かしていく。
やがて、手のひら全体が下から包み込むようにして豊球に触れるに至った。
..............................とうとう...
乳房に触れる腕がわなわなと震える。
手のひら全体から伝わってくる温もりと、今まで生きてきた中でもっとも柔らかな感触がそれがけっして夢でないことを伝えていた。
長年求めていた巨乳、それもずっと惹かれていた美月さんのオッパイを、俺はついにさわったんだ........!
「......うっ......ひっぐ......」
「.........ちょっと、大袈裟じゃない?」
涙ぐむ俺を見て、美月さんが軽く引いている。きっとこの感動は巨乳好きの男でなければ伝わらないのだろう。
子供の頃から大きな胸が好きだった。何がきっかけでそうなったのかはわからない。おそらく生まれついてのものなんだと思う。
中学で出会った二人の同志には早々とおいてけぼりにされ、焦燥感と嫉妬を募らせていた。
そして、今日やっと遺伝子レベルで求めていた豊満なオッパイをさわることができた。しかも、それは巨乳を超えた爆乳だったんだ。
今一度、手にした乳房を上から眺める。
俺の手はけして小さいわけではない。それにもかかわらず、乳房の一部分しか掴めていなかった。
改めてその巨大さを身をもって体感する。
俺はその大きさを測るようにふくらみの表面をゆっくりと撫でまわした。乳房の正面から側面の脇の方へと。小指が乳房の根元付近に達したら、今度は元来た道を戻り正面へと......
手が往復するのにたっぷりと時間がかかる。乳房の上を這いまわる自分の手を見て、俺はますます興奮してきた。
今度は乳房の真下で手を広げ、すくい上げるように持ち上げてみた。
.........おっ、重っ...!
腕に伸しかかる圧倒的な重量感。1kg2kgの話じゃない。
美月さんはこんな重いものをいつもぶらさげているのか。何も知らず卑猥な目で見ていたことをなんだか申し訳なく思いつつ、持ち上げた乳房をそっと降ろした。
「どう、さわってみた感想は?」
黙って俺の好きにさせてくれている美月さんが口を開いた。
「......すごい大きくて、柔らかくて......もう、最高です...」
この感激を俺の語彙力と興奮に染まった頭で言い表すのは困難を極めた。浮かんできたワードをそのまま伝える。
「そう......それなら、よかった」
酒のせいかもしれないけど、俺には胸を揉まれている美月さんが、こころなしか高揚しているように見えた。
つづけて、長年思い描いていた妄想を現実のものとするため、再び手のひらで包みこむように乳房に添ええる。
胸の表面に配置した十本の指。それらをゆっくりとブラウスに沈みこませていく。
………………………………もぉにゅうぅぅぅ……
途端に蕩けそうな感触が指と手のひらを包みこんでいく。
.........................おお..................おおっ!!
そのやわらかさに俺の興奮の度合いは一気に跳ね上がっていた。美月さんの包容力は乳房にも宿っていたんだ。
欲望を纏った指先が何の抵抗もなく受け入れられ、乳肉に埋まっていく。
一旦、指を元に戻した後、再度食い込ませる。それを何度も何度も繰り返していく。
..........もにゅ、もにゅ、もにゅ、もにゅ、もにゅ、もにゅ、もにゅ、もにゅ、もにゅ、もにゅ、もにゅ、もにゅ、もにゅ......
....俺は今、オッパイを揉んでいるっ...!!
歓喜に震えながら揉みに揉んだ。俺の喜びに呼応するように、スーツの中の愚息がみるみる膨張していく。
今まで付き合ってきた彼女は皆、控えめな胸をしていた。かつて得られなかったやわらかな感触をおれは一身に享受している。
だからといって小さな胸が劣っているわけじゃない。かつての彼女たちは胸の大きさに関係なくみんな魅力的だったし、実際控えめな胸が好きな人も大勢いることを知っている。
それでも......
俺を真に満たしてくれるのはやはり、この掴みきれないほど豊満なオッパイなんだ......!
そのやわらかさを堪能すべく何度も指を食い込ませた。その度にボタンとボタンの間の隙間からベージュのインナーがのぞき見える。
あまり深く食い込ませようとするとブラウスが引っ張られて、ボタンが悲鳴を上げ取れそうになる。それをもどかしく思いながらも俺はなるべく興奮をおさえるように、やんわりと乳房を揉んだ。
何度も、何度も......
「......どう、満足したかしら?」
俺が乳房の柔らかさに酔いしれていると、その持ち主から声をかけられ我に返る。
「......そろそろ夫が心配すると思うから......」
時計を見ると日付はとうに跨いでいた。
「......はい......あ、でも....」
こんな夜更けなのに家庭のある女性を引き留めるのは失礼だ。しかも自分の願望を満たすために...
それでもやっと巡り合えたオッパイを手放すのは、あまりに名残惜しかった。
「......あともう少しだけ、いいですか?」
俺はすがるようにお願いした。
「......いいわよ、じゃあもうちょっとだけ...」
仕方がないわね、という感じで美月さんが了承してくれた。俺の大好きな包みこんでくれるような笑顔を浮かべている。
「ありがとうございます!」
俺は心の底からお礼を言った。
文句も言わないで立ったまま胸を触らせてくれる爆乳の人妻。そんな人にはもう二度と出会えないだろう。
あともう少しでこのオッパイとも今生の別れとなる。俺はそのやわらかさを脳に焼き付けるように何度も揉んで、その表面を撫でまわした。
「ふふっ.........本当、うちの夫に.....んっ......」
突然、美月さんの口から艶めかしい声色が漏れ出ていた。同時に豊満な肢体がわずかにビクッと震える。
............えっ.........今のって...
思わず顔をあげると、美月さんは恥じらうように俺から目線を逸らしていた。
下に視線を戻すと胸を撫でまわしていた右手の人さし指が、ちょうどふくらみの真ん中あたりを通過していた。
もしかして......
俺は左手でオッパイを揉みつつ、右の手の人さし指の腹でさっき反応があった場所をこすってみた。
「..............................っっ......」
声こそ漏れていないけど、やはり肢体に震えが走っている。
美月さんの表情を窺うと、さっきまでの優しい微笑みを微かに残しつつも、どこか困ったような余裕のない顔つきになっていた。
それを見た俺は確信した。
.........感じてるんだ......俺に、乳首をさわられて...
黒い悦びが湧き起こる。
大きい胸は感じにくいというのはどこで聞いた話だったろうか。少なくとも、俺がはじめてさわった爆乳はそんなことはないようだ。
今までオッパイを下からすくい上げるように揉んでいたので、あまり乳首に触れていなかったらしい。
そこから俺は胸を揉みつつ、服の中に潜む乳首を積極的に狙いはじめた。感動で震えていた手つきが悪意を持った愛撫へと切り替わっていく。
ふたつのふくらみを揉みながら、不意に右手の人さし指で乳首をトンッと軽く叩いてみた。
......反応がない
どうやらわずかに逸れたらしい。今度は爪先をふくらみの中央よりやや上に軽くめり込ませて、下方向にゆっくりとなぞっていく────
......................................カリッ...
「.............................................んんっ......」
................................................来たっ.........!
指先に何か小さく硬いものが触れた瞬間、さっきよりも大きな声が漏れ、ビクンと肢体が震えた。
待ち望んでいた反応に思わず顔がほころぶ。
俺の指先がブラウスとインナー、ブラの三重の防壁を突破し、乳首を刺激したんだ。
劣情がごおおっと込み上げてきた。
さらなる刺激を与えるべく、今度は左右の人さし指でそれぞれの乳首を狙う。指が鎌首をもたげた蛇の如く乳房の弱点を見据えている。
そして、指を同時に振り降ろした───
「.........はい、もうおしまい」
俺が指を曲げた直後、美月さんが俺の右手首を掴んでいた。
...............ええッ.........
まだまださわっていたかった。
はじめての巨乳の喜びは俺に果てのない欲望を抱かせるに至っていた。
だけど美月さんがおわりと言っている以上、もうどうしようもない。
俺は美月さんから潔く離れると、最大限の謝意を表すべく深々とお辞儀をしたのだった。
山岡くんに見送ってもらい、私は一人、タクシーで自宅へと向かっている。
こんな遅くに帰るのはいつぶりだろう。
街からは人々の姿が消え、時々対向車線を走る車とすれ違う時以外は静まり返っている。
車窓から後方へと過ぎ去っていく街灯をぼんやりと眺めていると、胸にじんわりとした感触が残っていることに気付いた。
自然と先ほどの10分にも満たない濃密な時間が思い出される。
まるで欲しがっていたおもちゃを与えられた子供のように、無邪気に胸を撫でまわしていた手。それがいつしか性的な手つきへと変貌していた。
おとなしそうに見えて、やはり山岡くんも男なんだ。私は彼の手首を掴んで制止していた。
これ以上はだめだ。私の本能が警告する。ただ、彼を怖れたからではなかった。
嬉々として胸をさわる山岡くんが、はじめてふしだらな関係を結んだ時の夫の姿と重なって見えていた。
このままずるずるといってしまいそうな気がして、私は彼を止めたのだった。
少々やりすぎた。私は今さらながら反省していた。
いくら不満がたまっているとはいえ、若い男の家で胸をさわらせるなんて......
見慣れた街並みが目に映った。もう少しで家に着く。
それなのに、私の中の高揚感は消えてくれる気配がなかった。
そっと胸に手を当てると、半ば勃起した乳首が服越しに手のひらを突くのがわかった。
「おかえり、ずいぶん遅かったね」
家に帰ると先に帰っていた夫が玄関で私を出迎える。
「うん、ちょっと盛り上がりすぎちゃって.........ごめんね、遅くなっちゃって」
私は友達と食事をしてくると事前に伝えてあった。山岡くんを友人と呼べるかは自分でも疑問だけれど......
「まぁ、たまにはいいんじゃない?友達ってどこの人?」
「いつものフルート教室のみんなよ」
私が夫に嘘をつく日が来るなんて......
咄嗟でありながら自然に出た偽りの言葉に我ながら驚く。
「お風呂、沸かしておいたよ。入るでしょ?」
「うん、ありがとう───」
直後、夫の手が背後から私の胸を揉み掴んでいた。
「美月のオッパイはほんと、大きいなぁ」
言いながら無遠慮に胸を揉みまわしていく。
乳房への愛撫。それは私がいつも夫に望んでいたことだった。
しかし、その時私が感じたものは高揚感とは真逆のものだった。
ついさっき瞳を抱いた手で、山岡くんが愛撫した胸をさわっている......
そう思った途端、嫌悪感と罪悪感とが混ざり合ったものが私の中で渦巻いていた。
「.........ごめんなさい。今日、飲みすぎてちょっと気持ち悪くて...」
「あぁ、ほんと?ごめんごめん。大丈夫?」
夫が乳房を離し、私を解放した。
「......うん、大丈夫……それじゃ私、お風呂入ってくるわね...」
私はひとり、足早にバスルームへと向かうのだった。