※この作品はR-18です。

幼い頃に婚約した少年が、結婚式を目前に控えた花嫁の前に吸血鬼になって戻ってきた話   作:精神陵辱

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令嬢は、遠い日の夢を見る……

 

「フラン、約束だよ。ぼくたち、いつか結婚しようね?」

 

 まだ幼い二人だけで一生懸命に登った丘で、少年は美しい花を差し出して、幼馴染の少女にそう求愛した。

 

「クーガー……」

 

 

 フランシスにとって、同年代の少年であるクーガーは、親しい遊び相手だった。

 けれど、華奢で小柄な彼は少女にとって頼りがいのある相手ではなく、これまでずっと、かわいい弟分のようなものだった。

 そんな彼に、今日は少し離れたところにある丘に登ってみよう、と誘われたのだ

。

「大丈夫? クーガーがあんな高い丘に登れるの?」

 

 私よりも小さいのに、と気遣うフランシスに、クーガーはにっこりと微笑んだ。

 

「登れるよ、ぼくは男だもの」

 

 そしてクーガーは手を差し伸べて、フランシスを丘の上へと誘ったのである。

 丘の上から見る風景はとても美しく、風も心地良かった。

 彼は疲れたフランシスを気遣い、手を貸しながら、弱音のひとつも吐かずに丘を登ったのだ。

 隣に座るクーガーがなんだか急に頼もしい相手のように思えてきたその時に、彼が突然プロポーズしてきたことに、少女は目を丸くした。

 

 

「ぼく、フランと結婚したいんだ。大きくなったら絶対にするから、忘れないで」

 

 少年は満面の笑みを浮かべながら、無邪気にそう言った。

 差し出された可憐な白い花は、少女にとって、まるで妖精がくれた魔法の贈り物のように見えた。

 

「うん。もちろんよ、クーガー」

 

 フランシスは満面の笑みを浮かべて、彼の差し出した花を受け取った。

 クーガーは、ほっとしたように微笑むと、花束ごと彼女を抱きしめる。

 

「約束だよ? ぼく、待ってるからね!」

 

 フランシスがその時ほどどきどきしたことは、後にも先にもなかった。

 クーガーが彼女の頬にキスをして、フランシスもまた、彼の頬にキスを返した。

 二人は手を繋いで、日が暮れて心配した大人たちが探しに来るまでずっと、丘の上からの景色とお互いの顔とを、飽くこともなく見つめ続けていた……。

 

 

◆

 

 

 

「――……んっ……」

 

 フランシス嬢は、月明かりの差し込む寝室で、寝床から身を起こした。

 時刻はまだ、深夜のようだ。

 

「こんな時間に、目を覚ますだなんて……」

 

 久し振りに、懐かしい夢を見たせいだろうか。

 あの時約束した幼馴染の少年、クーガーとは、結局、結ばれることはなかった。

 彼は、あの約束の日からほどなくして、謎の失踪を遂げたのだ。

 

「……私ったら、まだクーガーに未練があるのかしら?」

 

 フランシスは自身に問いかけるようにそう呟くと、次いで自嘲気味に微笑みながら、首を横に振った。

 

「まさか」

 

 あれはもう、十年以上も前のことではないか。

 しっかりしなければ、

 自分はもう、いくらも経たないうちに、別の男性の妻になろうかという身だというのに。

 

「寝直さないと……」

 

 でないと、翌日に差し障ってしまう。

 フランシスがそう考えて、もう一度、寝床に入ろうとした時。

 不意に、寝室の窓がこんこん、と叩かれた。

 

「え……?」

 

 そちらを向いたフランシスの目が、驚きに見開かれる。

 それから、これはきっと、夢の続きを見ているのに違いない、と思った。

 窓の外に立っているその人影は、にっこりと、記憶にあるそのままの姿で、そのままの表情で、彼女に微笑みかけたから。

 

「……ク、クーガー……」

 

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