幼い頃に婚約した少年が、結婚式を目前に控えた花嫁の前に吸血鬼になって戻ってきた話 作:精神陵辱
「それではお嬢さま、おやすみなさいませ」
「ええ、おやすみなさい」
フランシスは、部屋の寝支度を整えた侍女が退出するのを見送ると、ほうっと大きな溜息を吐いた。
ベッドに潜り込もうとはせず、やや緊張気味に机に向かって腰かけたまま、じっと待つ。
「……クーガー」
昨夜の言葉通りなら、今夜も彼はやって来る、はずだ。
その時、には……。
どのくらいの時間が経っただろうか。
昨夜と同じように、こんこんと、窓がノックされた。
(……来た!)
ごくりと小さく、唾を呑み込む。
『フラン、ぼくだよ』
そんな声が、窓の外から聞こえてきた。
「クーガー……」
フランシスは机の中から取り出したものを後ろ手に隠して、そっと窓のところに歩み寄った。
外から、クーガーがにこやかに微笑みかけている。
『会いたかったよ、フラン。さあ、ここを開けて?』
そう言ってくる彼の前に、フランシスは無言で、窓越しに隠し持ったものを突き付けた。
それは、聖印だった。
背後に太陽の光を模した飾りのついた、銀の十字架が、窓から差し込んだ月明かりを受けてきらめく。
『うっ!?』
クーガーは怯んで、窓枠から少し身を離した。
「……おとぎ話の通りね。吸血鬼は、聖印を突き付けられると、怯んで後ずさる。そして、招かれない限り、部屋の中には入れないんでしょう?」
フランシスは緊張した声で、そう言った。
昨夜はすっかり彼に弄ばれ、翻弄されてしまったが、一日の間を置いたことで、彼女も自分を取り戻していた。
クーガーとの一件を伝えることこそしなかったものの、両親や使用人たち、婚約者と話したことで、今の自分の生活の大切さ、かけがえのなさをあらためて噛み締めた。
そして、今度こそ、彼を拒絶しようと決心したのだ。
「ごめんなさい、クーガー。私には、あなたと結婚することはできないわ」
フランシスは苦痛をこらえるように顔を歪めながらも、はっきりとそう告げると、大きく深呼吸をした。
「あなたとのことは大切な思い出だけれど、でも今の私は、あなたの花嫁になるつもりはないの。だから、このまま帰ってちょうだい」
『……どうしてだい? フラン』
クーガーは、微笑んだまま、小さく首を傾げた。
『君だって、満更でもないように見えたけどなあ。それに、こんな風におあずけを食らったんじゃ、ぼくは死んでしまうよ』
「お願いだから、帰ってほしいの!」
フランシスは十字架をあらためて構え直すと、しぼり出すような声で、必死の思いでそう言った。
「このままだと、きっと後悔することになるから……だから……」
『……ふうん……』
クーガーは聖印に怯えるでも、幼馴染の拒絶に怒るでもなく、面白そうにくすくすと笑っている。
その態度に、フランシスは何か、不吉なものを感じた。
『ねえ、フラン?』
彼はにこやかに微笑みながら、小さく首を傾げてフランシスに呼びかける。
「な、なに……?」
互いの視線が合い、見つめ合ったその瞬間に、彼の瞳が昨夜のようにまた、赤い光を放った。
あっと思う間もなく、フランシスは光に見入られ、理性が麻痺し、目の前にいる幼馴染の虜になってしまう。
彼女の握る聖印は、吸血鬼の接近を防ぐ役には立っても、その魔力までは防いではくれなかったのだ。
『フラン。君はぼくが、君のことを愛しているんだって知っているだろう。なのに、そんな聖印の影に隠れる必要があると、本気で思っているのかい?』
クーガーがにっこりと微笑みかけると、フランシスの頭の中から、疑念と緊張はすべて消え去ってしまった。
『さあ、そんなものは机の中にしまって。この窓を、早く開けよう?』
「ええ、わかったわ」
フランシスはにっこりと微笑み返すと、言われるままに十字架を机の中に戻し、鍵を外して窓を開いた。
クーガーは、するりと部屋に滑り込んでくると、元通りに窓を締め直した。
「バカな子だねえ、フラン」
くすくすと笑ってそう言いながら、昨夜自分が牙を突き立てた彼女の首筋のあたりを、そっと指を伸ばしてなぞる。
「あ、あ……っ!」
フランシスは途端に目を見開くと、腰が砕けたかのように、床にぺたりと座り込んだ。
そこにはもう傷は残っていないはずなのに、触れられた首筋が熱をもってずきずきと疼き、全身が熱くなる。
視線による魅了の効果が破れて、昨夜彼によって穢されたことを思い出す。
「本気で、君がぼくを追い払えるなんて思っていたのかい?」
クーガーは屈んで、彼女の耳許に口を寄せると、意地悪くそう囁いた。
「う、うう……」
フランシスは頬を紅潮させ、瞳の端に涙を浮かべながら、自分の体を掴んで身を捩った。
「クーガー、お願い……やめて……」
「大人って、嘘ばっかりつくくせに、嘘が下手だよね」
クーガーは目を細めながら、彼女の肩にそっと手を置いて、その顔を覗き込んだ。
「君だって、本気でぼくが負い払えるなんて思ってなかったんだろう。本心では、こうなることを望んでいたんだ」
「ち、違う……!」
「違わないさ」
クーガーはフランシスの顎に手をかけると、そのまま唇を重ねた。
「んっ……! むぐっ……! ちゅっ……! ぷぁ……! クーガー、お願いだから……」
フランシスは必死になって抵抗したが、昨日と同じように、彼の舌使いに翻弄されてしまう。
「あはは」
クーガーはたっぷりと口付けてから、唾液の糸を引きながら唇を離した。
「本気でぼくを拒絶したかったなら、どうして他の人間に相談して、一緒に待ち伏せてもらわなかったの? どうして、他の場所に隠れようとせずに、昨日と同じこの部屋で、ぼくを待っていたの?」
「そ、それは……っ」
フランシスは唇を噛んで、俯いた。
「君のご両親やその男に対する、形ばかりの義理立てかな。それとも、首筋にぼくの牙を埋められて、抵抗して無理矢理奪われたいって被虐欲にでも目覚めたかい?」
彼の言うとおりだと思った。
おそろしい吸血鬼に、自分一人で勝てるはずなどない。
なのに、誰にも彼のことを伝えず、自分だけで対峙することを選んだのは、幼馴染である彼の身を案じたからというだけではないだろう。
「君も結局は、ぼくのことを忘れられずにいるんだよ」
クーガーはそう言うと、再び彼女の唇を奪った。
「最初の夜にぼくを拒絶せず、首筋に不死の口付けを受けてしまった以上、フランはもう、ぼくのものだ」
「あ……ああ……っ」
フランシスは瞳に涙を浮かべると、力なく首を振って、逃れようとした。
だがそれは、形ばかりの抵抗だった。
クーガーの手はしっかりと彼女の両肩を掴み、その動きを許さない。
「さあ。もう嘘をつくのはやめて、素直になろう?」
彼が甘い声で、耳元にそう囁いた。
実際、先ほどフランシスの取ったような行動は、吸血鬼の犠牲者によく見られる、典型的な行動の一つだった。
一度でも牙を埋められれば、たちまちその魔性の快楽の虜となり、嬉々として自ら首筋を差し出す者がいる一方で、最初のうちは彼女のような抵抗を示すものもいる。
だがそれは、本心を偽った上辺だけの、形ばかりのものに過ぎない。
一度でも不死の口付けを受けてしまったものは、その時点でもう、主たる吸血鬼の虜になっているのだ。
「昨夜と同じように、服を脱ぐんだ。今度は、ぼくはもう操らないから、君自身の意思で」
言いながら、首筋に舌を這わせる。
「そうしたら、昨日みたいに楽しませてあげる。そして、最後にまた、血を吸ってあげよう。嫌なら、今晩はもう、おあずけだよ?」
「う……うう……!」
フランシスは泣き出しそうな顔になりながらも、抗うことができなかった。
震える手で、ブラウスのボタンを外していく。
クーガーはその様子を見下ろしながら、くすくすと笑っていた。
「いい子だね、フラン」
フランシスは、そんなクーガーのことを恨めしげに、力なくにらんだ。
「クーガー……、どうして、どうしてこんなことになってしまったの。昔のあなたは、こんな子じゃなかった……」
「昔の君も、だよね」
クーガーは微笑みながら、フランシスの額を突ついた。
「ぼくはヴァンパイアにさらわれて以来、いろいろなことをされたし、したんだよ。変わらない方がおかしいさ、見た目は同じでもね」
そう言いながら、彼は昨夜のように彼女の首筋へと唇を寄せて、そこに軽く牙を立てた。
「あっ……!」
フランシスはびくんと体を震わせて、声を上げた。
だが、そのまま血を吸い上げようとはせず、そっと口を離す。
「君の方は、すっかり噓吐きな子になったね。ぼくのことが大好きなのに、自分には他の男がいるから、相手は吸血鬼だからって言い訳して、ぼくのことを受け入れられないふりをしている。そうして、自分で自分を傷付けることで、ぼくを遠ざけようとしているんだ」
「そ、そんなことは……」
「あるよ」
クーガーはそう断言すると、再び彼女の唇を奪い、強引に舌を差し入れてきた。
「んむっ……!」
フランシスは一瞬だけ抵抗しようとしたが、すぐにそれを諦めて、受け入れた。
クーガーは彼女の口内を犯しながら、両手で彼女の胸をまさぐり始める。
「はぁ……あ……あ……」
フランシスは熱い息を漏らしながら、身を捩らせた。
その反応を楽しむように、クーガーは彼女の耳やうなじを撫ぜ回す。
「ぷぁ……!」
やがて、クーガーが口を離すと、二人の間を唾液の糸が伝った。
「ほらね」
クーガーは満足げに笑うと、フランシスのスカートの中に手を伸ばした。
「君は、ぼくのことが好きで好きで仕方がないんだ」
「そ、そんなこと……あぁんっ!?」
下着の中へ侵入してきた手に秘所を探られ、フランシスは背筋を仰け反らせながら喘いだ。
だが、クーガーはほんの少しの間浅く弄っただけで、手を離してしまう。
「ほら。早く、服をみんな脱いでしまいなよ」
「う……うぅ……」
フランシスは悔しさと恥ずかしさに頬を染めながら、自分の着ているものを、ゆっくりと脱ぎ始めた。
ブラウスのボタンを全て外して脱ぎ捨て、スカートも取り払う。
下着だけの姿になると、彼女は真っ赤になって俯いた。
「どうしたの? 昨日だって、もっとすごい格好をして見せたじゃないか」
「あ、あれは、あなたに操られててっ……」
「でも、楽しんでいただろう?」
「それは……」
フランシスは口ごもったが、クーガーの言葉は事実だった。
「さあ、残りも脱いで。そうしたら、また楽しませてあげるからね」
「うぅっ……」
フランシスは観念した様子で、ブラジャーに手をかけた。
それを外し、ショーツも下ろす。
一糸纏わぬ姿になった彼女を、クーガーはくすくすと笑いながら、じっと見つめていた。
「脱いだね?」
「み、見れば、わかるでしょ……」
腕で体を庇うようにしながら、フランシスは彼の方から目を逸らした。
「君は操られてもいないのに、自分から、ぼくに抱かれるために脱いだんだ。もうすぐ別の男と結婚するだなんて、言ってたのにね」
「う……うう……!」
「君にはもう、その男のところへ帰る資格はないよ」
フランシスは真っ赤になって俯き、ぎゅっと目を瞑って唇を噛みながら、身を震わせた。
「さあ、こっちに来て……」
クーガーはベッドに腰掛けると、手招きをした。
「いやらしいフラン。でも、とても綺麗だよ。こんなにも美しい女性を、ぼくは他に知らないな」
「うう……、うううっ……」
フランシスは涙を流しながら、クーガーの元へと歩み寄った。
そして、彼の膝の上に座ると、観念したように、自ら唇を重ねていった。
「ん……ちゅ……」
二人は舌を絡ませ合いながら、お互いの身体を強く抱きしめ合った。クーガーの手が、フランシスの乳房へと伸びる。
「あっ……」
フランシスはその感触に、びくりと身をすくませた。
しかし、抵抗することなく、むしろ自分からも、積極的に彼に触れていく。
彼の体は幼い少年の外見そのままの柔らかさを保っているにもかかわらず、まるで氷のように冷たい。
ぞくぞくするようなその冷気が体に浸透することさえ、快感であり、官能的だった。
「はぁ……あぁ……、くー、がぁ……!」
フランシスは自分の乳首を指先で転がされ、甘い声を上げ続けた。
「だいぶ素直になってくれて、嬉しいよ」
クーガーは一旦彼女の乳房から手を離すと、頬に触れた。
「ご褒美に、今日はもう少し、違う趣向で愉しませてあげるね。所詮は、血を吸う前の前戯に過ぎないけどさ」
そう言って、懐から黒い布切れのようなものを取り出す。
彼はそれを、フランシスの顔に巻き付けた。
「あっ……!?」
突然視界を奪われた彼女は、驚きの声を上げる。
「な、なにを……」
「これからするのは、いわゆる目隠しプレイってやつさ」
クーガーは楽しげな口調で答えた。
「次にどこに触れられるのか、何をされているのか。それが見えないっていうのも、ぞくぞくして、なかなかいいいいものだよ?」
「そ、そんなの、私っ……!」
フランシスは抗議しようとするが、クーガーは取り合わない。
「大人は好奇心がなくていけないなあ。なんでも、試してみるものだよ?」
そう言うと、おもむろに、彼女の脇腹を突ついた。
「ひゃうんっ!?」
不意打ちを受けたフランシスは、甲高い悲鳴を上げた。
「ほらほら。次は、何をされると思う?」
クーガーはくすくす笑いながら、再び手を伸ばした。
今度は、胸を揉むのではなく、お尻の方へ。
「や、やめ……」
フランシスは顔を赤く染めながら、体を震わせる。
「残念。時間切れー」
クーガーはそう言うと、彼女の股間に指を這わせ、秘裂に浅く抜き差しした。
「ふああ……!」
敏感な場所への刺激に、フランシスは背筋を仰け反らせる。
クーガーの巧みな指使いにくわえて、見えないために、事前に身構えておくこともできない。
その上、視界を奪われたために、それ以外の感覚が鋭敏になっていた。
「ここかな? それとも、こっちの方が気持ちよかったりして」
クーガーは、中に入れる指の数を増やし、膣内を掻き回すように動かした。
「うっ、あぁっ! だめっ、そこぉっ……!」
フランシスは全身を痙攣させながら、喘ぎ続ける。
「ほら、もうびしょびしょだ。ぼくの指がふやけちゃうよ、いやらしいなあ」
「ううぅ~……!!」
クーガーの言葉責めに、フランシスは耳まで真っ赤になった。
「ほらほら。ここは、もっといいでしょ?」
耳元で囁きながら、Gスポットを指で刺激する。
「あっ、ああっ、ああん……!」
フランシスは、快楽に身を捩じらせた。
その表情からは、既に羞恥心は消え失せている。
ただただ、淫蕩な悦びに浸っているだけだ。
「うわぁ、すごいね。もう、大洪水だ」
クーガーはさらに、空いた方の手で陰核をまさぐり、舌で乳首を転がしてやる。
「ああっ、いいっ! すごっ……! ああぁっ、イクッ……、イッっちゃう……っ……!!」
フランシスは、一際大きな声で叫んだかと思うと、次の瞬間、ぐったりとクーガーの肩にもたれかかった。
「はあっ、はあっ……」
「どうだった?」
「……きもち……よかった……」
「君が結婚する予定の男は、こんなことはしてくれなかったんだろう?」
「うん……」
「もっと、してほしいかい?」
「……はい」
フランシスは、小さく首肯した。
「いいとも」
クーガーはくすりと笑うと、今度は彼女の後ろの穴に、手を這わせた。
「えっ……!?」
さすがに、これには驚いた様子を見せる。
「そ、そこは……!」
「大丈夫だよ。ここでも、君は気持ちよくなることができるから」
クーガーはそう囁くと、浅くそっと、指を抜き差ししていく。
もう一方の手では、前の方の穴を弄くる。
「んんんんんんんんんっ……!!」
フランシスは必死に声を押し殺していたが、やがて我慢しきれず、大声で喘ぎ始めた。
「ああっ、ああっ、ああっ!! ひいっ、ひいぃっ……!!!」
「さっきよりも感じてるみたいじゃないか」
クーガーはくすくす笑いながら、指の動きを速めた。
「やめてぇっ! そんなことされたら、わたしっ……!」
「またイキそうなの?」
「いく、イク、イクゥウウッ!!!」
フランシスは、甲高い悲鳴を上げたかと思うと、ガクンガクンとその身を震わせ、絶頂に達した
。
「はぁ……あぁ……、あぁ……!」
全身から力が抜け、完全にクーガーに体重を預ける形になる。
「前戯は、もう十分そうだね」
クーガーはそう言うと、フランシスの顔から目隠しを外して、あらためて口付けをした。
「それじゃ、本番と行こうか」
そう言って、にっと唇の端を捲り上げ、鋭い犬歯を見せる。
もちろん、吸血鬼にとっての本番とは性交などではなく、牙を突き立てて血を吸うこと。
犠牲者を胎よりももっと深い部分、魂の奥から犯すことだ。
「あ……、待って……」
フランシスはその牙を見て昨夜の悦楽を思い出し、目を蕩かせたものの。
思い直したようにそう言って、首を横に振った。
「うん? どうしたの。今さら、怖気づいたのかい?」
「違うの……。あの、お願いがあるんだけど」
「何?」
「されてばかりじゃなくて、私もクーガーに奉仕してあげたいの。ねえ、吸血鬼は、どんなことをしてあげたら喜ぶの?」
「……へえ。なかなか、殊勝なことを言うじゃないか?」
クーガーは一瞬、意外そうな顔をしたものの、すぐに楽しげに微笑んだ。
「いいよ。それなら、ぼくを人間の男と同じように扱って、気持ちよくさせてみなよ」
そう言いながら、服を脱いでいく。
一糸まとわぬその姿は、血の気がなく肌が白い以外は、やはり幼い少年のそれと変わりがなかった。
「う……うん……」
フランシスはごくりと唾を飲み込むと、クーガーの前にひざまずいた。
そして、その裸体に手を這わせていく。
「ふふふ。なんだかくすぐったいな」
「嫌?」
「そんなことはないよ。フランの好きなようにしてごらん」
「わかったわ」
そう答えて、フランシスはクーガーの小さなペニスを口に含んだ。
「ん……」
クーガーは、心地良さそうに目を細めた。
咥え込んだ性器は、まるで氷の塊のように冷たく、ぞくぞくするような冷気が、フランシスの口内から浸透する。
だが、それは同時に、屍姦にでも耽っているかのような、背徳的な快楽をもたらした。
(ああ……なんて冷たいのかしら)
クーガーの身体は、まるで死人のようだ。
しかし、その体を抱くことが、その体に抱かれることが、どれほどに熱い肉の悦びをもたらしてくれるか、フランシスは既によく知っていた。
「ほら。ちゃんと舌を使って。ヴァンパイアのぼくを、人間の男みたいにイカせてみなよ」
「う、うん……」
フランシスは、一心にクーガーのモノをしゃぶり続けた。
一方、クーガーの方も、フランシスの頭を掴んで動かしつつ、自らも腰を動かし始めた。
その動きに合わせるように、フランシスもまた、懸命にフェラチオを続ける。
ペニスはやはり、氷のように冷たいままだったが、それでも次第に固く、大きくなっていった。
やがて――
「んっ……!」
クーガーが小さく喘ぎ声を上げ、体をぶるっと震わせて達する。
その股間から噴き出したのは、白く粘った精液ではなく、真っ赤な鮮血だった。
「んうっ!?」
突然口の中に血を流し込まれて、フランシスは驚いて顔を離した。
だが、その鮮血は鉄錆の味がすると同時に、まるで濃密な蜂蜜のように甘くも感じられた。
「あぁ……、うぁ……っ?」
こくりと喉を鳴らして、血を飲み込んでいく。
やがて、全身に熱さが広がっていき、頭の中まで溶けてしまいそうになった。
「これで君は、ますますぼくから離れられなくなったね」
クーガーは着衣を直しながら、くすくすと微笑んだ。
吸血鬼の血を口にした者は、しばらくの間老化が止まり、体の機能が高まるなど、さまざまな恩恵を得られる。
だが、その代償として、血の主である吸血鬼に対する強い想いを抱くようになるのだ。
幾度も繰り返し血を飲めば、やがてその吸血鬼が自分の人生にとって最も大切な存在となり、家族や友人、恋人や我が子でさえも、それに比べれば取るに足らない存在となってしまう。
人間に甘き血を与えることは、吸血鬼が日中も出歩ける奴隷を仕立てたいと思ったときに、よく取られる方法だった。
フランシスは期せずして、自分から望んで、その血を口にするような行為をしてしまったのだった。
「でも、君は大したものだよ」
クーガーは幼馴染の頭を優しく撫でながら、本心からそう言った。
「大抵の人間は、また血を吸ってもらえるとなったら、すぐに飛びついてせがんでくるのに。その前に、自分も奉仕してあげたいだなんて考えられるとはね」
「だって……。昨夜、あんなに気持ち良くしてもらったんだもの……」
「だからといって、普通はこんなこと考えられないよ? 大人になっても、フランはいい子だ。強い子だね」
「クーガーに褒めてもらえると、嬉しいわ……」
フランシスは頬を染め、照れくさそうにはにかんだ。
ほんの一瞬だけだったけれど、小さい頃の彼と自分に戻ったような気がした。
「さて。それじゃあ今度こそ、本番にしようか」
クーガーはあらためて、自分の犬歯を見せつけた。
「さすがにフランももう、体が熱くて、我慢できないだろう?」
「う……、うん……」
フランシスは自分の体を見下ろし、顔を赤くした。
クーガーの言う通り、既に彼女の身体は、火がついたように熱くなっていた。
この火照りは、自分の最も深い部分を、魂を彼の牙で抉られることでしか消えてくれないのだと、既にわかっていた。
「さあ」
クーガーはそんなフランシスの顎に手を当てると、くっと上向かせて、白い喉をさらけ出させた。
「あ、ぁ……」
フランシスは思わず身震いした。
どれほど期待していても、その手から伝わってくる死の冷気と相俟って、やはり本能的な恐怖を感じずにはいられないのだ。
「怖い?」
クーガーが尋ねる。
「でも大丈夫。ぼくを信じていればいいんだよ」
「うん……」
その言葉に励まされ、フランシスはゆっくりと目を閉じた。
「そう。そのまま、力を抜こうね……」
クーガーは小さな少女の体を押し倒すと、その上に覆い被さるようにして、彼女の体をしっかりと抱きしめた。
「んっ……」
冷たい体なのに、抱きしめられた体はより熱くなる。
フランシスはぎゅっと、彼の体を抱きしめ返した。
「ふふ、嬉しいなあ。抱きしめてくれたね」
クーガーは無邪気げに笑ってそう言うと、改めてフランシスの首筋に顔を埋め、鋭い牙を突き立てていく。
「あぁぁ、ああぁっ……!」
それはずぶりと、フランシスの体に、そして魂の内側にまでも食い込んだ。
生命の源である血を奪われ、魂を蹂躙される、この世のものならざる被虐の愉悦。
それに抗うことなどできるはずもなく――
「ひぃん! くうぅん、はぐうううううぅっ!!」
全身を痙攣させ、甲高い悲鳴を上げるフランシス。
びくんびくんと、激しく体を跳ねさせる。
かっと見開いた目からは涙が、開いたままの口元からは涎が、そして秘所からは愛液が溢れだし、垂れ流しとなる。
穢されている、魂に二度と戻らない疵をつけられているという自覚に、心が蕩ける。
「あぁぁ……、うあぁぁ……っ」
やがて、声がか細くなり、がくがく震えていた手足の動きすらも止まり、ぐったりと脱力して、時折ひくひくと震えるだけになる。
クーガーはなおも、貪欲に彼女の喉元から吸い上げ続ける。
(すべて、奪われてしまう)
薄れゆく意識の中で、フランシスは思った。
何もかも、本当に彼だけのものにされてしまう。
そんな考えはしかし、恐怖ではなく、悦びをもたらした。
(私はこのまま食い尽くされて、別のものに生まれ変わるんだ)
人間としての自分はきっと、今日この日に、こうして彼に喰われるために生まれてきたのだ。
そして明日からは、彼の所有物としての、新しい存在に生まれ変わる。
そう思うだけで、心の奥底が幸福感に満たされていく。
「ああっ……!」
フランシスは羽化の予感に恍惚としてうめき、身を捩らせた。
だが、そんな至福の時は、唐突に終わった。
「ふう……」
クーガーは昨夜と同じように、彼女を吸い付くさず、途中で吸い上げるのをやめて牙を引き抜いた。
舌でなぞると血は止まり、傷跡もきれいに塞がって見えなくなる。
「……え? どうして……」
「まだ駄目だよ。まだ、君を平らげたりしない。吸血鬼の逢瀬は、幾夜も続くんだからね」
クーガーは優しい声でそう言うと、彼女の首筋に優しく唇をあてた。
「や、やめないで……」
フランシスは思わず、そう哀願した。
「お願いだから、もっと吸って……。私をあなたのものにして……。何でもするわ……。あなたのためだったら、どんなことでも喜んでやるわ……。私のことを食べて……」
「可愛いことを言うね」
クーガーは微笑みながら言った。
「なら、たとえば、君が結婚する予定だった男をここに呼んで、その目の前でぼくを愛せと言ったら、やってくれるかい?」
「…………」
フランシスは少し考えて、こくりと小さく肯いた。
「もちろんよ。彼が見ている前で、私がクーガーを愛するところを、たっぷり見せてあげるから」
そう言ったが、その声は震えている。
「へぇ、本当かな」
クーガーは面白そうな笑みを浮かべて、彼女の頬を撫でた。
「じゃあさ。この家で、君に昔から仕えてきた使用人を殺せと言ったら、できるかい? 両親の血を、ぼくのために差し出すことはできる?」
「……」
フランシスは黙り込んでしまった。
「ほら、できないだろう?」
クーガーは諭すように言って、彼女の頭を撫でた。
「まだ君は、人間を捨てられていない。だから、君が堕ちて、本当にぼくのものになるまで、おあずけだ」
そう言うとクーガーは、フランシスの首筋を舌でなぞった。
「はあぁ、ん……」
それだけでフランシスの目は蕩け、その口から甘い吐息が漏れる。
「心配いらない。その様子なら、そんなに時間はかからないさ」
クーガーはくすくすと笑いながらそう予言すると、ベッドから降りて窓に歩み寄り、鍵を開けた。
夜の風が、室内に吹き込んでくる。
「今夜はここまで。また明日の夜に来るから、それまでゆっくり休むといい」
彼は振り返ると、妖しく笑ってフランシスを見つめた。
「それか、もしも待ちきれないようだったら。ぼくのことを想いながら、自分で慰めれていればいいさ」
「あぁっ……」
明日の夜への期待と、羞恥と昂奮とで顔を真っ赤にして、目を潤ませるフランシス。
「じゃあね、フラン。ぼくのかわいい、花嫁さん?」
クーガーは楽しそうに言うと、そのまま身を翻して窓枠を乗り越え、夜の闇の中へ消え去っていった。
残されたのは、呆然としたままの、裸の少女一人だけ――