幼い頃に婚約した少年が、結婚式を目前に控えた花嫁の前に吸血鬼になって戻ってきた話 作:精神陵辱
「フランシス、どうしたのだね?」
朝食の席で、父が心配そうにそう言う。
隣の席に座る母も、同じような顔をしていた。
「熱でもあるの?」
なにせ、彼らの娘はいつになく肌が白く、そのくせ頬は紅潮していて、まるで夢でも見ているかのようにふらふらと上の空なのだ。
とはいえ、彼女にまとわりついているのその気配が、艶めいた病的な色香なのだとまでは思い至らなかったらしい。
親としては、自分たちの愛する娘がまさかそんな状態だなどとは、想像もできないのは無理もあるまい。
「……そうかもしれないわ」
二人からの、心からの心配と愛情を感じて、フランシスの胸はちくりと痛んだ。
けれど、そんな胸の痛みも、クーガーのことを思い浮かべた途端に、蕩けて消えてしまう。
(ああ、早く夜にならないかしら……)
四六時中、彼女の頭の中を占めているのは、もはやそのことばかりだった。
「大丈夫よ」
フランシスはそれでも、努めて明るい声でそう言って微笑んだ。
「ちょっと、疲れてるだけだから。今日一日、ゆっくり休めば治ると思うわ」
そんなはずのないことは、自分でよくわかっていたが。
「そうかね? ならばよいが……」
父はそう言いながらも、やはり不安げに娘の顔を見た。
「無理はしないでね」
母はそう言うと、フランシスの額に手を当てた。
「ありがとう、お母さん……」
フランシスはその手を握りしめ、熱っぽく霞んだ目で彼女を見上げた。
それから、ふと付け加える。
「……アンドリューには、私は休んでるから会えないって、伝えておいてね」
もうすぐ結婚することになっている……なっていた、自分の婚約者。
彼のことを思い浮かべたとき、フランシスの胸にはかすかな痛みと罪悪感とがよぎった。
だが、それはもはや遠く、ぼやけた感覚だった。
アンドリューと結ばれる未来を思い浮かべてみても、まるで現実感がなかった。
クーガーのことを想った時の胸の疼きの方が、彼のものになる自分を想像したときの倒錯的な悦びの方が、今となっては遥かに強い。
「一人で休みたいから、誰も部屋に入れないで……」
まるで味のわからない朝食を機械的に食べ終えたフランシスは、そう言うと席を立って、ふらふらと自分の部屋へ戻っていった。
「…………」
自室に戻ったフランシスは、机に向かうと、ペンを手にとって便箋をしたため始めた。
それは両親と、アンドリューに向けた手紙だった。
自分はもうすぐクーガーのものになる。
その運命はもう、変えようのないものであるように思われた。
だから、まだ両親やアンドリューのことを想う心が少しでも残っているうちに、別れの言葉を残しておこう、と思ったのだ。
『お父さん、お母さん、これまで育ててくれてありがとう。いなくなってしまって、ごめんなさい。でも、私は幸せに暮らして行けると思いますから。どうか私のことは探さないで、忘れてください』
『アンドリュー、私はもうあなたと一緒にはなれません。ごめんなさい、どうか他の人と幸せになってください』
概ねそのような内容の手紙を書き終えると、フランシスはペンを置いて、小さく溜息を吐いた。
たったそればかりの手紙を書く間にさえ、絶えずクーガーの面影が脳裏をちらついて、彼らへの思いを込めて書くことに集中するのに、大変な努力を要したのだ。
自分が既に、どれほど深く彼に囚われてしまっているのかを、フランシスは痛感した。
(昨日のうちに、書いておくべきだったんだわ)
そう思いながら、フランシスはその手紙とペンとを引き出しの中にしまい込んで、鍵をかけた。
自分が居なくなってしまった後で、誰かが見つけてくれるだろう。
「はあ……」
するべきことを終えたフランシスは、すぐにベッドに横になった。
だが、眠れそうもない。
身体が火照り、目が潤んでいる。
心臓がどきどきと高鳴り、全身がむず痒い。
脳裏に浮かぶのは、かつての幼馴染であり、今は吸血鬼に変わり果ててしまった少年のこと。
自分をもらい受けると宣言して、魂までも穢していった、あの男の面影ばかりだった。
クーガーのことを考えるだけで、脳髄までが痺れるような快感が走る。
眠れるどころか、逆にますます意識が覚醒していく。
「うぅ……」
フランシスは小さくうめいて、シーツをかき抱いた。
身体が熱い。
下腹部の奥底が切ない。
愛液が下着を濡らすほどに溢れている。
「くうっ……」
フランシスは悶えて身をよじった。
そのたびに、ショーツが肌に擦れて、新たな刺激を生む。
「ああぁっ!」
彼女はついに耐え切れなくなり、ふらふらとベッドから体を起こした。
そっとショーツの中へ指を差し入れると、そこはもう、ぐしょ濡れになっていた。
「はぁっ……! はぁっ……! ああぁっ……!」
日が落ちて暗くなったフランシスの自室に、部屋の主の荒い呼吸が響く。
半裸の姿で部屋の隅に置かれた椅子に腰かけながら、自分の右手を自ら股間に伸ばして、激しく指を動かしている。
左手は胸元に伸び、こちらも自らの手で、乳首を摘んでこねくり回していた。
「はうぅっ! くぅううんっ!!」
切なげな声を上げて、体を仰け反らせる。
「くううっ!! ふあっ!? くうううう~ッ!!!」
絶頂に達した瞬間、びくんっと全身を大きく震わせる。
「はあっ……!」
やがてぐったりとして、大きく息をつく。
だが、それでもなお、手の動きは止まらず、再び動き出す。
「……ああっ!」
今度は軽く達しただけで、すぐに手を離してしまう。
そして物足りなさそうに、身悶える。
「はあ、はあ……」
(ああ……足りない……、全然、満たされない……)
彼女は喘ぎながら、自分の体を抱いた。
今日はもうずっと、こうして自涜に耽り続けているのだ。
(もっと……、もっと欲しい……。あの人の血が……、あの人に吸われたい……)
人間の指などでは、所詮、魂の内側にまでは届かない。
吸血鬼の甘い血の味わいは、その牙によって魂までも犯される魔性の被虐は、人間をたやすく虜にし、中毒にしてしまうのだ。
「あぁ、クーガー……くーがぁぁ……」
熱に浮かされたようにその名を呼びながら、虚しい行為とは知りつつも、ほんのわずかでも体を苛む淫熱から逃れようと、再び自分の体を弄り始める。
せめて、もっと深く体の奥を抉れば、少しは満たされるかも知れない。
フランシスの目は、なにか自分の秘所に押し込むためのものを求めて、部屋の中をさまよった。
「あ……」
その時、昨日クーガーに突きつけた、銀の十字架のことを思い出した。
机の中を探ってそれを取り出すと、ふらふらと秘裂にあてがい、ぐっと押し込んでいく。
「んん……ぅ……っ」
異物感を感じたが、構わず奥へとねじ込んでいった。
「はうぅ、っ……!」
膣内の肉を押し広げられる感覚に、そして神聖な印を使って肉欲に耽っているのだという背徳感に、背筋がぞくりと震えた。
「はぁ、はぁっ……。くうっ……」
しかし、いくら深く挿入しても、それで得られるのは僅かな満足感だけだった。
「ちが、う……。これじゃ、たり、ないぃっ……」
フランシスはそう言って、涙を浮かべながら、十字架をゆっくりと引き抜いてゆく。
「ああ……あ……」
ぬぽっと音を立てて引き抜かれると、それはべっとりと愛液で汚れていた。
彼女はそれを、拭いもせずに、そのまま机の中に戻した。
(もっと、もっと太いもの……)
フランシスの視線が、再び部屋の中をさまよう。
その時、窓の外の方から、ずっと待ち焦がれていた声がした。
『おやおや? 君が本当にほしいのは、そんなものじゃないだろう?』