※この作品はR-18です。

幼い頃に婚約した少年が、結婚式を目前に控えた花嫁の前に吸血鬼になって戻ってきた話   作:精神陵辱

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四日目・日中

 

「フランシス、一体どうしたんだ?」

「ああ、とにかくお医者様を呼びましょう!」

 

 結婚を目前に控えた、大切な愛娘の額に手のひらを当てて熱を計りながら、両親がそう呼びかける。

 彼らがフランシスの身を案じるのも、無理はなかった。

 朝が来ても起きてこようとはせず、部屋に様子を見に行ってみれば、肌は白くなって血の気が失せ、そのくせ頬は赤らんで、潤んだ熱っぽい目で虚空を見つめながら、寝床に横たわったままなのだから。

 

「大丈夫よ。心配しないで……」

 

 吸血鬼の虜となったフランシスはしかし、そんな両親の方を見ようともせず、茫洋とした笑みを浮かべた。

 

「気分は、とてもいいの。ただ、食欲がないだけ。寝ていたら、よくなるわ……」

「フランシス……。本当に大丈夫なのか。病気じゃないのか?」

 

 父親がそう問いかけると、フランシスはくすっと笑って、首を振る。

 

「違うわ。でも、もう少し眠らせてほしいの。お願い……」

 

 そして、再び目を閉じた。

 両親は顔を見合わせると、やがて諦めて部屋を出ていく。

 一人きりになったフランシスは、目を開けるとぼうっと虚空を見つめたまま、ただ熱い吐息を漏らした。

 

「……クーガー……」

 

 彼女の心を占めるのはもはや、クーガーのことだけだった。

 今すぐ会って、抱かれたい。

 血を吸われて、彼のものにされたい。

 彼にすべてを捧げ、永遠に夜の奴隷として仕え、愛と忠誠を誓いたかった。

 

「クーガー……。早く、早く……」

 

 フランシスは切なげに身を捩らせると、両手の指先で自らの胸の膨らみを揉みしだいた。

 だが、服越しに感じる刺激はひどく鈍くて、何の慰めにもならない。

 まるで自分が自分でなくなったような感覚に陥る。

 

「ああ……」

 

 そうだ、この体はすべて、彼に捧げられるべきもの。

 もはや、自分の手では自分を満たすことはできないし、そうするべきでもないのだ。

 そう悟って、フランシスは虚しい自涜に耽ることを止めた。

 

「……」

 

 ゆっくりと首を巡らせると、ベッド脇の机に置かれたお盆が目に入った。

 食事も摂ろうとせず寝床に臥せったきりの娘の身を案じて、両親が置いていったものだ。

 温かい粥や柔らかなパン、瑞々しい果物、フランシスの好物であるいくつかの料理などが並べられており、彼らの娘に対する愛情と気遣いとが感じられる。

 だが、食欲はやはり、まったくわいてこない。

 

「……ごめんなさい」

 

 フランシスは、両親に対して小さくそう呟いてみた。

 しかし、本当に申し訳ないという気持ちは、昨日まではまだ感じていた胸の痛みは、もはやない。

 心から想うのは、ただ一人の男のことばかり。

 

「食べなきゃ……」

 

 フランシスはそれでも、自分にそう言い聞かせてのろのろと身を起こすと、食事を食べようとしてみた。

 まず、さじで粥をそっと掬って、一口喉に入れる。

 粥は何の味もせず、そのくせ粘っこく喉に絡みつくような感じがした。

 顔をしかめてさじを置くと、今度は自分の好きな……いや、好きだった、林檎をフォークで刺してかじってみた。

 甘みも酸味もなく、まるで砂でも噛んでいるようだった。

 味がわからない。

 

「……」

 

 これ以上は食べられないと、フランシスは食事を諦めて、最後に蜂蜜を混ぜたお湯のカップを手にした。

 それは確かに温かいはずなのに、何のぬくもりも伝わってこないような気がした。

 昨夜、氷のように冷たいクーガーの腕に抱かれたことは、あんなにも自分の体を熱くしてくれたというのに。

 

「……クーガー……」

 

 愛する男の名を囁きながら、フランシスはこくりと一口、蜂蜜入りのお湯を飲んだ。

 やはり、何の味もしない。

 お湯に含まれた糖分が、じゃりじゃりと不快に喉にまとわりつくような感じがするだけだ。

 

「う……」

 

 不快さに顔をしかめて、フランシスはカップを置くと、お盆を脇へ押しやった。

 

「私……、もう何も、食べられない……」

 

 そう悟って、フランシスは自分の体を抱いた。

 今の自分にとって必要なのは、口にしたいと望むのは、クーガーの、愛おしい主の血潮だけだ。

 それは喉を通るたびに、食欲と情欲が綯い交ぜになったようなフランシスの渇きの、そのすべてを癒すと共に、自分をより一層の中毒に、主の虜にしてくれる。

 フランシスはそのことを思いながら、呻くように呟いた。

 

「……私は、もうこんなにも、あなたの虜になってしまっているのに……」

 

 体を犯し尽くされ、魂を穢され、もはや彼が居なくては悦びを得ることも、食事を摂ることさえも満足にできないようにされて。

 それでもなおクーガーは、自分の永遠の夜の奴隷になるにはまだ早いと、昨夜言っていた。

 一体、これ以上何があるというのだろう。

 自分はこれからまだ、何を奪われてしまうというのだろう……。

 

「ああっ……」

 

 フランシスはその先のことを想像して、ぞくっと身を震わせた。

 

「クーガー……。早く……お願い……」

 

 彼のことを思い浮かべながら、フランシスは切なげに身を震わせた。

 

「早く、来て……」

 

 そう渇望しながら、フランシスはまた寝床に潜り込んで、ただただ夜になれば彼の訪れてくれる窓の方を見つめ続けた。

 

「クーガー、……クーガー……、ああ……」

 

 そして彼女は、切なさに苛まれながら、ひたすらに愛する人の名を呼んだ。

 それしかできることはなかった。

 身を蝕む熱に憔悴しきってうとうとと微睡むたびに、浅い夢の中で彼に出会った。

 幼い頃に求愛され、婚約した時の夢を見た。

 ここ数晩の、還ってきた彼に抱かれ、すべてを奪われる夢を見た。

 そして、恍惚と喘ぎながら目を覚ましては、それが現実でなかった失望と喪失感とに苛まれた――。

 

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