<Chapter3-3-11-R-M>貴方と共に。
ざぶん、と身体が湯に沈む。
既に一度入っているのに、二度目のお風呂にも関わらず。
少しだけ声が漏れるのは、致し方ないことだと思ったりもする。
(年寄り臭いよなぁ……。)
山の方から引いている温泉を利用した水垢離で良く問題ないな、と思っていたが。
土地に染み付いた呪いと、それと相反する浄化の力と。
恐らくは「流れる」という水の力もあって打ち勝っているのだろうな、と。
ゆっくりとするべき場所で益体も無いことを思う。
安晴さんは既に眠りについた。
二人は何をしているのか分からないが、ムラサメちゃんはあの後で合流した。
『霊力を蓄えていたのだ。』
そんな事を口にしていたが、何をどこでどうしていたのかは一切の不明。
まあいつも通りか、と思いつつ。
手で掬った湯で顔を洗った。
からり。
――――?
源泉掛け流しの湯の音に紛れ、何か物音がしたような。
少しだけ耳を澄ませたが、やはり水の音に紛れて聞こえない。
多分気の所為だろう。
電気が付いているのだし、着ていた服も籠の中。
そんな思いで意識を緩めた。
……結論から言えば。
からり。
「――――え?」
風呂場の入口が開く、軽い音がした。
咄嗟にそちらを見てしまい、そして即座に顔を戻した。
「…………どうも。」
顔を真っ赤に染めて、身体に何も身に着けず。
健康的な肢体に胸元の桃色の突起までしっかりと見える。
けれど下半身はタオルで隠した、奇妙な格好の茉子ちゃんの姿。
「な、ななななななな……!」
言葉にならない言葉を発し、彼女の方を見ることだって出来やしない。
顔が茹だる。
熱を発し、風呂に長く浸かりすぎた時のように混乱している。
それと相反して、生理的な現象は抑えられずに反応を示した。
「落ち着いて下さい。 もう深夜ですから。」
そんな囁く声色が耳に届く。
けれど、恐らく。
彼女の声も少し震えている。
洗体場で身体に湯を纏わせる。
横目に入ってしまう彼女の身体。
肩から背中へ水が滴る。
濡らしている――――目を離せなくなりそうで、無理矢理に思考から外した。
「何してるんだ!?」
「何……もう一度お風呂に入ろうと思っただけですよ?」
互いが互いに冷静ではない。
それが分かっているから話が成立してしまう狂った状況。
「……ただ、それだけではなくて。」
立ち上がる。
濡れたタオルが肌に張り付き、見えていなかった下半身までも布越しに映し出す。
ごくり、と。
生唾を飲み込みそうになって、息を止めた。
「一昨日、話をしましたよね。」
タオルをそっと湯船の傍へ置いた。
一度だけ見た――――
見ないように、けれど脳裏が覚えるように。
思考と身体が相反するように反応する。
「昨日、受け入れてくれました。」
ちゃぷん、と沈んだ脚から腿。
そして胸元、首まで沈んだ彼女の視界の高さが同じに揃う。
水越しに歪んで反射した肌が微かに見えて。
気付かれていなければいい、と胡乱な思考でそう思った。
「ですから、貴方は私達の。 私達は、貴方のモノです。」
そうでしょう、と聞く言葉。
普段とは違いすぎる、妖艶な言葉に違和感を感じる。
――――まるでそう、無理でもしているように。
「……なんて、今はそう言うしか無いんですけどね。」
「……え?」
そして。
そんな態度をひっくり返すように小さく笑い。
ほんの少しだけ俺へと近付いた。
身体と身体の間は……多分、2メートルも無い。
「嘘でもないですし、全部本当のことです。
――――将臣さんが望むなら。」
でも。
普段と違う場所。
普段と違う事柄。
普段と違う、彼女。
「でも……今は。
それがどういう意味を指すのか。
互いに顔を真赤にしたからこそ、伝わった。
手が伸びる。
釣られるように、手を伸ばす。
手と手が重なって、組み合い。
引き寄せられるように、水の中を浮いた。
「せめて――――今は、これで。」
組み合った手が、胸へと引き寄せられた。
あの時に感じたのは背中への感触。
今感じているのは、手への感触。
同じものを別の場所で。
「……ワタシの事も、大事にしてくださいね。」
そんな言葉の前に。
精一杯の無理をしているというのが分かるからこそ。
微かに伝わるだけの、頷きを返した。
唇も、肌も重ねずに。
ただ、心を重ねた。
そうして、一人とは契りを結び。
もう一人とは――――。