私が好きなのは兄だけど兄じゃない人に抱かれています 作:おっさんホイホイ
「お兄ちゃん…相談があります…」
金曜日の夜、帰宅した祐を出迎えたのは思い詰めた表情の涼花だった。
「どうしたんだ?一体」
この一ヶ月程涼花の様子に違和感を感じていた祐は涼花の表情に不安を隠し切れない。
何事もないように振る舞ってはいたが長年一緒に暮らしてきた妹だ。
気づかないわけがない。
声をかけなかったのは思春期の妹に対する配慮からだった。
異性相手では言い出しにくいこともたくさんあるお年頃だ。
こちらから根掘り葉掘り聞き出すよりは本人が言い出すまで待とうと思ったのだ。
自分の心無い一言から傷つけてしまい、疎遠となってしまった引け目もあって、受け身になってしまったせいもあるかも知れない。
だが涼花の顔色を見るとそれが大きな間違いだったかと思えてしまう。
今度こそ、俺は間違ってはいけないのだ。
次回作の打ち合わせで連日遅くまで出かけていて疲れている身体だが妹の顔を見て奮い立っていく。
涼花は世界で一番大切な妹なんだから。
「わかった。着替えるから少し経ったら俺の部屋に…」
「いえ、私の部屋でしたいので、着替えたら来てくれますか?」
「了解だ。少し待っててくれ」
「はい…私…待ってますね…」
少し顔を赤らめた涼花は自分の部屋に戻っていく。
少し元気が出たみたいだ。
その後ろ姿を眺めながら涼花の悩みについて考えを巡らしていた…
「入るぞ」
「どうぞ」
妹とはいえ年頃の女の子の部屋にノックもせずに入るほど不躾ではない。
やや緊張気味の涼花の了解の声を聞いてドアを開ける。
涼花は自分のベッドに腰掛け、ぬいぐるみを抱いて俺を待っていた。
かわいい。
いつもと違い忙しなく目を合わせては反らせ、モジモジしている。
かわいい。
所在なさげな手がぬいぐるみの手を意味もなく捻っては戻しを繰り返している。
かわいい。
「あの…お兄ちゃん?」
黙って見つめていた俺を不審がって涼花が話しかけてきた。
まずい。なんかいつもの涼花と違って意識してしまう。
「そ、それで相談ってなんだ?」
声が上ずってしまった。
妹相手に何考えてるんだ。
「…あのね…私…」
いつもと様子が違う語り方に緩んでいた俺の顔が引き締まっていくのを感じた。
思わず眉を顰めてしまう。
「………」
俺の雰囲気が変わってしまったのを察して涼花はしばし言い淀んでしまった。
「あ、すまない…その…続けてくれ」
言いながら自分の両頬を引っ叩く。
思いの外、力が入ってしまいかなり痛い。
だがその音と痛みに耐える俺の顔は涼花の緊張をかなりほぐしてくれたらしい。
「うん、もう大丈夫」
ぬいぐるみを置いて涼花はベッドから立ち上がった。
「お兄ちゃん…私…」
涼花は一歩ずつ近づいて来て
「お兄ちゃん、私ずっとお兄ちゃんに言えなかったことがあって」
俺は自分の妹に魅入られたように動けなかった。
(いつの間にそんな表情をするようになったんだ…)
いつものお小言を言う時とも甘えてくる時とも違う涼花の表情に胸が掻き乱される。
「小さい時からずっと好きだったよ、お兄ちゃん」
そんな顔で言わないでくれ。
俺はお前を、涼花を…
「でもね、今はもっと好き。女の子としてお兄ちゃんが好きなの」
ぽふっと軽い音をして俺の胸の中に収まる涼花。
普段ならヨシヨシと頭を撫でる所だろう。
だが10何年も繰り返して来たその行動ができない。
やってしまったらもう後戻りができないと知っているから。
涼花の手が背中まで周る。
不安で震える身体を抑えるかのように押し付けてくる。
なのに俺は……動けなかった。
どれくらいそうしていたのだろう。
震えていた涼花の身体が離れていく。
「涼花…」
「ごめんなさい。お兄さん。こんな事言ってしまって」
「あ、ああ…」
俺の事をお兄さんと呼ぶ涼花が遠くに見える。
「ありがとうございます。相談に乗ってもらえて少し楽になりました」
嘘つけ。涙声で話してるじゃないか。
「もう遅いので休みます。おやすみなさい。お兄さん」
「あ、ああ…おやすみ」
涼花の部屋を出て自室へと戻るベッドに寝転がり鳩尾を突き上げるモヤモヤとしたモノを感じながら目を閉じる。
俺はまた間違ってしまったのか?
選択肢とセーブが出来ればこんな思いをすることなく過ごせるのだろうか。
そんな下らないことを考える俺は
壁を通して聞こえてくる啜り泣くような声に眠ることが出来なかった。
バタン!
ドアが閉まる音に目を覚ます。
いつの間に眠ってしまったのだろう。
時計の針は10時を回ろうとしていた。
ノソノソとベッドから這い出す。
涼花の事を思い出してしまい忸怩たる思いに歯噛みする。
掛けてやるべき言葉は今も見つからない。
だが居ても立っても居られずに立ち上がる。
誓ったはずだ俺はもう間違わないと。
誓った以上、間違ってしまったら償わなければならない。
部屋を出て涼花の部屋向かう。
この胸のモヤモヤした気持ちの答えはまだ出ない。
だが、涼花に何の答えも出してないのだ。
わからないなりに今の自分が出せる答えを出し、涼花と真摯に向き合わなければならない。
「涼花、少し話があるんだが」
ドア越しに話しかける。
「涼花?」
恐る恐るドアを開くと中は無人だった。
家の中は静まり返り自分以外の人の気配はない。
季節外れの雷鳴が遠くに鳴り響き、大粒の雨が降り始めた。
「涼花…」
扉を閉めようとした時、涼花の部屋の窓が開いているのに気がついた。
すでに雨が吹き込み始めてる。
慌てて閉めた窓を強い雨が叩きつけるのを見ながらほっと一息。
出窓に立て掛けてあったノートを拭きながら元に戻す。
日に焼け色が落ちたノートを何気なく開いて
俺はそこに書いてある事に目を奪われてしまった。
涼花のラノベの原典
俺に対する涼花の想いが綴られたそのノートこそがそれだった。
ページを捲る指が震える。
何故か?
心が震えるからだ。
あのラノベで書かれていた妹の兄への想いが実は涼花から自分への想いを綴っていたとは…
永遠野誓
そのペンネームに秘められた想いの大きさとは…
ノートを読み続ける内にようやく胸のモヤモヤの正体に気がついた。
もう充分だ。俺は今度こそ間違わない。
俺は
▷家を出て涼花を探す。
このままノートを読み続ける。