高潔なデカパイ黒竜騎士フレデリカと大魔竜オスガキ邪悪デカマラくん 作:ulth
流浪の騎士フレデリカは、自身が意識を失っていた事に気づき、不覚、と内心で舌打ちした。
もはや、仕える主も、誇るべき家名も、何も持つことの出来ない、堕ちた身だ。
その理由が陥れられたものであっても、判決は下され、真実は葬られ、事実だけが刻まれた。
しかし、それでも、自身が騎士である事を、違えることは出来なかった。
それ以外の生き方も、行き方も、わからないのだ。
だから、不覚にも意識を喪うなど、常在戦場を心がけるフレデリカにとっては、まこと許せるものではなかった。
いや、とフレデリカは、思う。
思考が、記憶が、一気に蘇る。
それは、混沌のようであった。
それは、暴虐のようであった。
それは、破滅のようであった。
山のような巨体。
悍ましい翼。
禍々しい尾。
煮えたぎる吐息。
そして妖しく輝く、真紅の目。
ドラゴン。
黒き鱗の、恐るべき魔竜。
死ぬ、と思った。
死ぬ、と覚悟した。
死ぬ、だが、諦めなかった。
だから、その悍ましき大魔竜は毒の血を流し、怨嗟の咆哮を上げ、斃れたのだ。
勝った。
騎士たる誇りと、意地と、そしてそれらをなげうつ諦めが、命を捨てて勝ちを得た。
だから、死ぬはずだった。
死ぬほどの傷を、負ったのだ。
死んだ。
だから、目を覚ます筈などなかった。
正義と公平、調停と調和たる主神ゼイレスに、私は騎士として戦い、騎士として死んだと、そう報告し、沙汰を待つはずだった。
ザイレスの聖なる雷が、我が身に審判を下す、それを待っていたはずだ。
だが、この重い苦しみは、死したる魂にあらず。
肉の、生を叫ぶ痛みだ。
死に瀕するほど消耗したフレデリカは、なぜ自分が生きているのか、分からなかった。
それほどまでに、傷つき、必死を振り絞ったのだ。
命を賭した代償を、払いそこねている。
「あ! 目が覚めました?」
「……お前……は……」
声は少し遠くから聞こえて、それが「誰」なのか、フレデリカにはわかった。
あの少年だ。
不細工な顔立ちで、貧相な体つきの、まるで覇気が感じられぬ、矮躯の子供。
取るに足らない、弱い存在に思える。
だがその少年に、フレデリカは死を覚悟し、死を飲み込み、死を乗り越えて戦ったのだ。
正しくは、少年となる前の、存在に。
ドラゴン。
大密林に出現した、悍ましき黒の大魔竜。
斃れた竜は、溶けるように消え、その中心に、この少年が残った。
「私は……どのぐらい、気を失っていたのです?」
「3日ぐらいだと思いますけど。この世界って、一日に朝と夜って一回ずつですよね?」
「は……?」
鉛のように重い体を、ゆっくりと起こす。
すると、小さな子供が、腰みの一枚で近寄ってきた。
貧相な体つきで、なんとも生っちょろい。
顔立ちも、正直に言えば不出来。
仕草や、立ち振舞は、粗雑ではないが、洗練もされていない。
貴族の子供とも思えない、独特の雰囲気だ。
さもありなん、とフレデリカは思う。
この少年を、見た目通りに捉えることなど、出来るはずがないのだ。
「あ、僕はリョウタって言います」
「……私は騎士フレデリカ。探索者ギルドの一員です」
「騎士……探索者……ギルド……!」
おお……と戦いた少年に、フレデリカは眉をしかめる。
どうやらこの少年は、思った以上に物知らずらしい。
さもありなん……と、うなずいていいものか、フレデリカは迷った。
「あ……それで……ですね、あの……フレデリカさん……」
「なんですか? 物事ははっきりと、明瞭に申しなさい」
「はい……服がですね……そう、フレデリカさんの……」
「え?」
さっきから、少年の視線は不審なものだった。
表情も、ギルドや盗賊たちがよく見せる、いやらしい色が見え隠れしている。
フレデリカを、騎士ではなく、女として見る視線。
騎士ではなく、色街の道端にたむろする、安い娼婦を物色するような、下卑た目。
それは、フレデリカにとって慣れたもの。
取り立てて注意を払う必要のない、有象無象の愚かな男たちがするものだ。
それを、見た目通りではないとはいえ、こんな子供がしている。
その様子に、フレデリカは、ようやく自分自身がどうなっているのか、気づいた。
全裸だった。
「――きゃ……っ!?」
「あっすいません! あの、いろいろ、理由がありまして……! へへ……」
思わず、自身の長い四肢を縮め、曝け出しているおっぱいや、陰部を、両手で庇う。
そんな反応を、自分がしてしまうことに、フレデリカは自分で驚いた。
やはり、あまりにも消耗し、キが弱くなっているようだ。
普段ならば、たとえ裸体を晒しても、見た男をその場で斬り倒している。
だが、今、自分は生娘のように恥じらい、顔を背けてしまった。
なんと弱い姿だろうか。
情けなくて、涙が出そうだ。
「い、いや、あの、おっぱいデカくて、エロくて、ぼ、僕は好きだなって……へへ……」
「……そ……そう、ですか……」
その言葉が嘘偽り無いと、疑うことなく解る。
少年は、自分を好ましく思っており、思いやっている、というのが、何故か伝わる。
もちろん、その男らしい下品で低劣で卑しい下心も伝わってくるが――いや、これは何だ?
違和感を覚えたフレデリカは、恥じらう姿から一瞬で雰囲気を変えて、射抜くような眼差してリョウタを睨んだ。
「……私に何をしたのです?」
「ひぃ! ……ええと、ぜんぶ端折るんですけど、契約しました」
「要点もまとめず結論だけ述べるのは、ただの愚者です。はっきりと申しなさい」
「フ、フレデリカさんが死にかけてたので! っていうか死んでたので!
僕とおっぱいの魂が契約して命を共有してます!!」
「……なんと……」
フレデリカの鋭い視線に震え上がった少年は、大きな声で説明した。
たぶん知恵が足りてないのだろう、文脈が怪しい。
だがそれだけで、彼女はだいたいのことが理解できた。
なぜならフレデリカは、この少年が一体何者なのかを、知っているからだ。
「……私は、ドラゴンと契約したのですか……?」
「はい! これから一生よろしくおねがいします! へへっ」
精一杯、少年は笑顔を浮かべるのだが、それがまたなんとも可愛くない。
助平心が満載で、本当にモテなさそうである。
だがよろしくしたいという気持ちは伝わってくるので、フレデリカは、このスケベなオスガキに、何とも言えない顔でうなずいた。