高潔なデカパイ黒竜騎士フレデリカと大魔竜オスガキ邪悪デカマラくん 作:ulth
フレデリカは、騎士だ。
今や主はなく、家名もなく、国すらなく、騎士と名乗ることさえおこがましい身の上である。
それでも、自分は騎士である、と決めていた。
探索者ギルドには、そういう、訳ありの騎士でも、文句をつけられない。
種々様々な輩が出入りしているのだ。
そして腕っぷしで言えばなかなかのものであるフレデリカは、その美貌や肢体と合わせて、それなりに有名だった。
探索者全体の中でも上位に当たるA級に、ほぼ独力でたどり着いたのは、その戦闘力ゆえである。
だが、いまや彼女の強さを支える武具たちは、粉微塵に砕け散ってしまった。
『えっと、僕が見つけられたのはこれだけですね。細かいのは、すいません、僕じゃ小さすぎて……』
「いえ。ありがとうございます、リョウタ」
リョウタが、戦場から探してきた女騎士の持ち物を、彼女の前に置く。
金属片の塊にしか思えないものが、いくつか。
それが、探し出せた騎士の持ち物である。
だがフレデリカは、がらくたと化した装備ではなく、リョウタの威容に、目を見張っていた。
黒い、竜である。
フレデリカが死闘を繰り広げた、あの竜だ。
しかし、フレデリカが目を見張っていたのは、ソレではなかった。
「リョウタ。あなた、小さくなってませんか?」
『あー、やっぱりそうです? なんかフレデリカさんデッカいなあと思ったんですよ』
あの時はこんなに小さかったのに……と、凶悪な爪の前足で器用に犬猫ぐらいの大きさを示す黒竜は、ずいぶん小さかった。
胴体だけでいえば、大型の軍馬を二周り大きくしたぐらいのものだ。
もちろん、翼や尾を含めれば、家ぐらいの大きさはある。
だがフレデリカが戦ったドラゴンは、文字通り小山の如き大きさ。
尾の一振りで森が吹き飛び、腕の叩きつけで大地がめくれ上がり、咆哮一つで山が崩れたほどだ。
それに比べれば、子供みたいなものである。
いや、とフレデリカは思った。
リョウタは、自分と契約し、魂を繋ぎ、命を共有している。
それが何なのか、フレデリカは知っていた。
「やはり、貴方が行ったのは『結魂』と呼ばれる古い契約なのですね」
『結婚?! 僕とフレデリカさんが!』
「子供の分際で、思い上がらないでください」
『はい……なんかすごいヤツなんですか?』
「契約の中でも、最も強く、高度なものです。魂を繋ぎ合わせ、二つでありながら一つと化す、文字通り一心同体の契約ですね。
互いの求める姿になり、互いに求める事を成し遂げ合う、最も固く、最も無垢で、最も尊い繋がりといえます。
力ある存在でなければ不可能ですが、あなたはドラゴンですから、可能だったのでしょう。
いやらしい事を考えないでください」
『お、おっぱい……』
「まあいいでしょう」
いいの!! とウキウキし始めたスケベな竜の全身を観察し、フレデリカは、彼がどうして小さくなったのか、理解した。
互いが、互いの不足を補い、求めあい、支え合う。
フレデリカに足りなかったものを、少年はその姿で示したのだ。
「騎竜、ですか。なるほど、その大きさならばリョウタに乗って、竜騎士として戦うことが出来ますね」
『フレデリカさんが僕に騎乗……!』
「いやらしい事を考えなくてよろしい」
箸が転がっても喜ぶスケベな年頃なのか、リョウタは竜の姿で挙動不審だ。
もしかして、所詮は畜生なのでは、という考えが浮かぶが、さすがにそれは失礼だと、フレデリカは頭を振った。
だが胸元を多くボロ布をわずかに持ち上げ、少しだけ胸を隠す。
もっともデカすぎて最初から隠せてないのだが、気にしているという意思表示にはなったのか、突き刺すようなリョウタの視線が乱れる。
ちょっと言葉がわかる畜生、猿とかゴブリンなのではないか、という考えが浮かぶが、自信を持って否定できなかった。
実際、リョウタがそれ以上に醜悪な、オス性欲の持ち主であると、気づくのはあとになってからだった。
「はあ。しかし、分かっていましたが、もう私の持ち物は、だめですね」
『すいません、ぜんぶ壊しました』
「いいのです。勝ったのですから。それに、貴方と契約できました」
リョウタがドラゴンの姿で探し、持ってきたのは、折れた槍の石突と、溶けた剣の先。
そして鎧のくだけた破片ぐらいのものであった。
「身を隠すものも無いとは……仕方がありません、ね」
フレデリカにとって、鎧も、武器も、大切なものだった。
盾は、放逐され、紋章を描く事ができなくなってから、捨てた。
だが武具は、騎士の誇りだ。
フレデリカがここまで強くなったのは、その類まれな武技と能力だけではなく、武具の強さも関わっている。
名剣であり、堅牢な鎧であった。
それだけで、ひと財産が築けるものだ。
だが、惜しくはなかった。
もとより、惜しむような未来を描いていなかったからだ。
だが、身を隠す衣服さえないのは、本当に困った。
『あの、フレデリカさん』
「なんですか?」
『なんで僕を倒しに来たんです?』
「……それは」
嘆息。
身のうちにうねる感情は、魂をつなげた少年に、伝わっているだろう。
隠しようがないのだ。そのような契約を、している。
だからリョウタは、目の前の凛々しい女騎士が、どうして自分を殺しに来たのか、なんとなくわかった。
『え、死ぬために来たんですか? 負けてるんですけど、僕』
「ええ。不甲斐ないドラゴンですね、お前は。
私のような、半端者さえ殺しきれないなんて」
『A級探索者って人外レベルみたいですけど……』
自嘲は、フレデリカという騎士らしくなかった。
彼女らしくない、といえば、それは、生き返ってからここまでの、全てがそうだ。
それが分かるぐらい、リョウタは彼女の魂と繋がっている。
失望。
怒り。
悲嘆。
無力感。
竜を打ち倒した騎士にあるまじき、負の内情を、フレデリカはうちに溜め込んでいた。
それらを、詳しく口にすることなく、フレデリカは小さく笑った。
だからリョウタも、言いたくないのだと分かって、聞かなかった。
「ありがとう、リョウタ。……ですが……お前は本当に、下品な子供ですね……」
『えっ! へ、へへ……いや、フレデリカさんがエロ、ええと、魅力的で……』
誤魔化すように鼻を鳴らして、フレデリカは身動ぎする。
だがその言葉は、本心からだ。
さっきから、ドラゴンの視線が、感覚が、べっとりと彼女の肢体に張り付いている。
愚かなことに、リョウタは竜の類まれな感覚器官を用いて、フレデリカの裸体を、舐め回すように観察していたのである。
あきらかに、オスとして、低劣な性欲に従っている行為だ。
竜という、強大な種族でありながら、やっていることは、卑劣な盗み見。
そのギャップに、フレデリカは、小さく嘆息。
「……そんなに、気になりますか?」
『はい!!……えっ?』
「はぁ……結魂の契約は、互いを支え合い、互いを補い、互いの望むところを満たすもの……と、言ったでしょう?
とにかく……その……いいから、人間の姿に戻りなさい、リョウタ!」
『は……はい!』
つまるところ、少年の望むところがそれならば、補うのが、フレデリカなのだ。
フレデリカが、竜騎士として必要なちからを、得たように。
リョウタの望みを叶えるのは、魂の契約者である、フレデリカのなすべき事なのである。
§
魂の契約、結魂の儀。
フレデリカは、自らの魂に足りぬものを、リョウタに求めた。
それに応え、リョウタは、彼女の騎竜となり、力を捧げた。
力。
それがあれば、フレデリカは、全ての望みを叶えていただろう。
ゆえに、彼女は全ての望みを叶えた、と言っても良い。
で、あるならば――
リョウタは、なにをフレデリカに望むのか。
彼女は、理解していなかった。
だが、それが悪いことではない。
ただひとつの事実として、フレデリカという女騎士は、今日、ここで、確かに死んだのだ。