「はい、先生」
先生の言葉にそう返事をして私は一度席から立った。もう日は傾いていたけれど空調が効いた部屋は快適な温度に保たれていて、私は温度に悩まされることなくスルスルと服を脱ぎ捨てていく。下着のところで一瞬止まるけれど、先生は何も言わない。そうだよね、先生は服を脱げと言った。なら全て脱がなきゃいけない。
「脱ぎました♡」
「はい、では授業を続けます」
私がそう告げると、先生はいつも通りの優しい声で着席を促しつつ、本当の授業と変わらない調子で話し始める。
「今日は最初ですから簡単な所から始めましょう。月奈さんはTPOと言う言葉をご存じですか?」
普段と違う椅子の感触に違和感を覚えて思わず体を捩る。残念ながら疼きが酷くなっただけだった。
「すみません、解りません」
私が答えると、先生は一度頷いて口を開いた。
「TPOと言うのは、時・場所・場合を英語で言ったときの頭文字です。元々は服装に関するマナーの言葉でしたが、今ではビジネスや私生活でも当てはめられて使われています。その時のその場所で、その場合に合わせた服装や態度を取りなさいという言葉ですね」
なんだか本当に授業みたいだ、なんて私は思ってしまった。だって普段の授業と変わらないのだ。先生の態度や喋り方、質問の受け答えだってそのまま。違うのは受けているのが私だけで、その私が裸だという事だけだ。けれどそんな事があるわけがないのだ。
「さて月奈さん、TPOとは説明した通りの意味です。では今に置き換えるとどうなるでしょう?」
今に置き換える、そう言われて私は考える。その時にその場所で、その場合に合った服装と態度。それぞれを当てはめていく内に段々と私は顔が熱くなるのを感じて先生を見る。目の合った先生は問題に正解した子に向けるいつもの表情で頷いた。
「そうですね、教室はいつでも皆で授業をする場所で、どんな場合でも全裸になるなんてあり得ません。今月奈さんはとても非常識な事をしています。非常識と言うのはとても恥ずかしいことなのです」
理解した事を改めて先生に告げられて、私は思わず手で体を隠そうとする。けれど先生はそれを許してくれなかった。
「授業中ですよ、月奈さん。授業は正しい姿勢で受けなさい」
「は…い…」
掠れるような返事をして、私は元の姿勢に戻る。背筋を伸ばして手は机の上、大事な所を何一つ隠せない姿勢に。
「宜しい、続けますよ。社会の決めた常識から外れた人は様々な別称を与えられます。法を犯したなら犯罪者と呼ばれるように、月奈さんの様な人達にも別称が与えられています。何かわかりますか?」
茹り始めた私の頭はちゃんと動いてくれなくて、先生の質問に答えられない。私が答えられずに固まっていると、授業が始まってから初めて先生が普段とは違う行動に出た。教壇からゆっくりと私のもとへ近づいて耳元に顔を寄せると、やっぱり普段通りの優しい声で告げてくる。
「いいですか、月奈さん。社会において貴女のような人は変態と呼ばれます」
「へん…たい…?」
私が聞き返すと、先生は嬉しそうな顔で答える。
「ええ、変態です。皆が真面目に勉強をする教室で一人裸になって、そんな自分の行動に興奮する。変態としか言えません」
「あ、わ、わた…」
何かを言わなければ。そう思うのに私の口はちゃんと動いてくれなくて、その間にも先生が耳元で私が如何に変態であるかを喋っている。
「その席は椎名さんの席ですね。どうですか、仲の良い友達の椅子に裸で座る気分は?椎名さんは明日何も知らずにそこに座るのです。貴女の汗や体液の染み込んだその椅子に」
椎名というのは有栖ちゃんの事だ。曲がった事が嫌いな性格で、間違っていると思えば年上の男の人にだって文句が言える凄い子だ。そんな有栖ちゃんにすれば、変態な行為なんてとても間違った事だろう。きっとそれに自分の身の回りの物が使われたなんて知ったら激怒するに違いない。そんな事を私はバレない様にやっていて、有栖ちゃんは知らずに明日からもこの椅子を使うのだ。
「ひっ♡」
ゾクゾクとした気持ち良さがお尻から背筋を駆け上ってきて、私は小さく悲鳴を漏らす。当然それは直ぐ隣に居た先生にも聞かれていた。
「何も知らない椎名さんが、汚れた椅子に座るのを想像して興奮しましたね?月奈さんは救いようのない変態ですね。貴女にとってはこの世の全てが快感を得るための手段でしかないのですか?答えなさい、この変態め」
突然先生が強い口調でそう私を呼んだ。変態。
「違っ、私は、そんな」
「違いません、席を立ちなさい」
私は否定したけれど、先生は有無を言わせずにそう命令してくる。私がノロノロと椅子から立ち上がると、椅子には濡れた跡が残っていた。先生は意地悪なおばさんがやるみたいに人差し指でそれを掬って私の目の前に突きつける。
「明らかに汗ではありません。これは何ですか?」
「それ、は…」
「答えられませんか?月奈さんは思っていたより不勉強なようですね、先生が特別に教えてあげましょう」
そう言って先生は指先に着いた汁を私の頬へこすり付ける。
「これは愛液、下品に言えばマン汁ですね。女性が興奮すると女性器、マンコから分泌する液体です。変態の月奈さんが興奮していた証拠ですよ」
「はっ♡はっ♡」
動かぬ証拠と言うやつを擦り付けられて、私は浅い呼吸を繰り返す。けれど先生は容赦なく私を更に追い込んできた。
「さあ、月奈さん。自分が変態である事を認めて、先生に言ってごらんなさい」
「は、はい♡月奈は、変態、です♡」
「足りません、どんな変態なんですか?」
「あ、教室で裸になって、友達の椅子を愛液で――」
私がそう言おうとすると、先生は物覚えの悪い子に優しく言い聞かせる声でそれを遮る。
「違うでしょう、月奈さん。今日はTPOの授業ですよ。この時間、この場所で、この場合。どうするのが正しいですか?」
「あっ♡」
先生に諭されて、私は正しく言い直す。
「月奈は♡皆が真面目に勉強する教室で、裸になって喜ぶ変態です♡マンコからマン汁を垂らして、それを友達の椅子に擦り付けて興奮するような救いようのないド変態です♡♡♡」
「はい、及第点ですが合格です」
「♡♡♡」
先生に笑いながらそう頭を撫でられ、私は喜びで軽くイッてしまう。言い訳のしようがないくらい溢れたマン汁が足を伝って幾つもの線を作った。先生はそんな私を満足そうに見た後、視線を時計に移して口を開く。
「今日の授業はこの位にしましょう。ああ、でも忘れないように最後に復習をしておきましょうか」
そう言うと先生は私に背を向けて窓の方へ歩いていく。その後を黙って私は付いていった。ここで声を掛けられたり手を引かれるのは、今の私にとって正しくないからだ。先生に倣って窓に向かって正面から立つと、満足そうに笑った先生がカーテンを開け放つ。
「本当はベランダでするべきですが、まだ外は寒いですからね。今はここで妥協しましょう。さ、月奈さん。足を広げて、手は頭の後ろに。そして外へ向かって今日学んだ成果を発表しなさい」
言われた通りの姿勢をとって、私は窓を見る。まだ僅かに夕日が指している窓ガラスには薄っすらと裸の私が写っていて、その顔はとても幸せそうに笑っている。ああ、私って、本当に変態なんだ♡
「月奈は教室で裸になって、興奮してマンコからマン汁と垂れ流す救いようのない変態です♡今日は先生にその自覚と変態として正しい態度を教えて頂きました♡でもまだまだ勉強不足なので、これからも沢山教えて頂き、立派な変態になります♡」
「良い発表でした。先生も月奈さんが誰から見ても恥ずかしい立派な変態になれるよう精一杯指導します。お互い頑張りましょうね。さ、今日はもう遅いですから送っていきます。服を着てください」
「はい、先生♡…あ」
先生に言われて服を着ようとして、私は今更教室の中に点々と続く水滴に気が付いた。それはどう考えても私の垂らした愛液だ。そう言えば有栖ちゃんの椅子もそのままになっている。何か拭き取れる物が無いかと見まわしたら、いつもの調子に戻った先生が声を掛けてくる。
「どうしました、立花さん。もう遅いですから急いで準備をしてください。すぐに帰りますよ」
確かに放課後としては少し過ぎた時間で校内に人の気配も無い。けれど塾のある子なんかはもっと帰るのが遅いし、掃除をする時間がないほど急がなければいけない時間じゃない。つまり先生はこう言っている。床も有栖ちゃんの椅子も、汚したまま帰りなさい。
「立花さん?」
「すぐ行きます♡先生♡」
先生に呼びかけられ、私は一度身震いをした後に手早く服を着てそう返事をした。勉強道具の入った鞄を掴んで廊下に出た瞬間、空気が変わったように感じて私は思わず周囲を見渡す。その様子を愉快そうに見ていた先生が教室を指さして口だけを動かす。
「あはっ♡」
言われた通りに教室に戻って、私は変化の理由に思い至り頬を緩めた。いつの間にか広い教室に、発情した雌の匂いが籠っていたのだ。それを誰が発したかなど考えるまでもない。多分明日には消えている。けれどもしかしたら、ひょっとしたら少しだけ残って、誰かが匂いに気付くかもしれない。そして教室で何かがあったと思う子がいるかもしれない。そんな想像に私はパンツを愛液で濡らしながら、先生の背中を追いかけた。