ダークエロよろず短編集2 作:カード読み込み
## 奉仕の宴
夕刻の微睡んだ陽光が差し込む書斎は、
贅を尽くした飾り細工で埋め尽くされていた。
壁面を覆う真紅のベルベットカーテンが外界の喧騒を遮断し、
部屋全体に密閉された空間独特の熱気が充満している。
大理石の暖炉にはまだ炎が燻り、
甘ったるい芳香とともにわずかな硝煙の匂いを放っていた──
今宵のために用意された媚香と銃火器が交錯する証だった。
伯爵は深々と革張りの椅子に沈み込み、ワイングラスを傾けている。
血潮のように赤い液面が指先で震え、
窓辺からの斜光を乱反射させて妖しい輝きを放つ。
その膝元で、金糸の刺繍が施されたブランケットの上に跪いているのがアルファ。
純白のドレスに身を包みながらも、
細やかなレース越しに浮かぶ肌が桃色に染まっている。
翡翠色の瞳は伏せられ、唇からは浅い呼吸だけが漏れていた。
向かいのソファに腰かけたベータは、
小さな本を開きつつも頁を追うことを諦めている。
頬杖をつく銀縁眼鏡の奥で蒼い瞳が憂鬱げに霞み、
胸元にかかる豊かな双丘の揺れが制服風のジャケットを押し上げていた。
彼女の左手には羽ペン、右手にはインク壺。
しかし紙面には文字のかわりに涙粒の跡が幾筋も滲んでいる。
二人とも口答えひとつしない。
それが今の彼女たちに許された自由なのだ。
半ば未意識に、躾けられたまま肉棒に舌を這わせるアルファ。
滑らかなピンクの口腔が時折窄まり、
硬直した男根を受け入れるたび喉奥から湿った呼気が洩れる。
同時に背後の卓上から取り出した硝子瓶の中身を数滴垂らし始める。
甘酸っぱい蜜が舌腹へ落ちると、伯爵は満足そうに咽喉を鳴らした。
「ほう? 脈絡もなくそんなものを与えられて喜べると思うのか」
嘲笑混じりの声音で言うと同時に片脚を振り上げる。
踵裏でアルファの肩を軽く蹴れば柔らかな身体は容易く横転する。
それでも少女は悲鳴ひとつあげない。
ただ潤んだ睫毛を一度瞬き、謝罪のように男の靴紐を解き始めた。
一連の動作を見てベータはペンを握る拳に汗を滲ませる。
友人が貶められているのに何もできない歯痒さ。
だが逆らえば次の矛先はこちらに向くことはわかっている。
だからこそ視線を逸らし、
ページの向こう側にあるはずの平和な世界へ逃避していた。
脱がせた靴と靴下を丁寧に畳み、汗で蒸れた指を丁寧にしゃぶる奴隷妻の作法。
アルファの桜色の唇が伯爵の太く節くれだった親指を含み、
喉奥まで吸い込むたびに耳朶まで朱に染まる。
唾液に濡れたレースグローブが指の股を撫でると、伯爵は嘲るように鼻を鳴らした。
「やはり褒賞を与えるべきか?」
紫水晶の指輪が煌めく指先でアルファの顎を掬い上げる。
翡翠の瞳は既に淫靡な翳りを宿し、
僅かに上下する白魚のような喉首が言葉を拒絶する沈黙を物語る。
扉の方で控えていた老執事が咳払いした。
「旦那様——お客人が」
刹那、アルファの睫毛が微かに震える。
伯爵の舌打ちと共に解放されると同時にベータの震える視界にも新たな靴音が映る。
「失礼いたします」
凍てつくような澄んだ声色。
月夜の帳のような濃藍の髪を二つ結びに束ねた少女が静かに入室する。
淡いクリーム色のスーツを纏いながらも
大胆に開かれた胸元はまさに実りの果樹園のごとし。
左右に吊るされた乳丘が深く凹む谷間に溶けかけた水滴を象り、
布地ごと揺れている。
ガンマ——「堅実」の異名を冠するその姿がそこにあった。
──-
### 希望の欠片
伯爵は露骨に嗤った。
「ほう? 七陰の第三席様がこんな汚らしい屋敷にお越しとは光栄の至りよ」
ガンマは寸分の隙も見せず一礼すると書机に近づく。
「私共が新規に興業いたしますミツゴシ商会について——
此方をご確認いただければ幸甚」
広げる羊皮紙には複利計算書、交易航路図が細密に記されている。
しかし伯爵の視線は紙面にはなく——むしろその上に載せたガンマの白皙の指、
そこから伸びる腕、さらにスーツで押さえきれず脈打つ双峰へと注がれていた。
「素晴らしい資料だ。ただし——」
老人はゆっくりと立ち上がる。
「出資には担保が必要だ。わかるな?」
ガンマの背後でアルファとベータが固唾を飲む気配が伝わる。
伯爵は懐から赤ワインの栓を抜き去るとそれをテーブルに投げ捨てた。
飛び散った赤褐色の雫がガンマのタイトスカートに斑紋を作る。
「私に必要なのは数字ではない」
伯爵はにやりと笑って続ける。
「私は君達が持つ“可能性”に投資したいのだよ。
特に——若い才媛ならば尚更だ」
突如として背後から伸びた手がガンマの腕を掴む。
悲鳴を飲み込んだ少女の耳元で伯爵は囁く。
「いいだろう、融資しよう。
ただし条件は単純明快だ——私の孫達の家庭教師になってもらう。
科目はもちろん……“淑女教育”全般をね」
振り返ったガンマの澄んだ空色の瞳に初めて恐怖の色が走る。
しかし既に選択肢はない。
彼女の袖口から零れ落ちた万年筆が床に当たって乾いた金属音を立てた。
それは希望が砕ける瞬間の不吉な鐘楼でもあった。
ベータが思わず膝を抱え俯く。
隣のアルファは唇を噛み締めたまま沈黙している——
いや、何かを決意したように静かに息を吸い込んだ。
「お願いします伯爵様」
凛とした声が空気を切り裂く。
「私も——償いは必要だと理解しております。
ですからどうか次のご命令をお願い致します」
跪くアルファの姿にガンマは瞠目する。
続いてベータも震える足で一歩前に出た。
「わたしも——協力させてください!」
三人の少女が並び立つさまを見据えながら伯爵は愉悦に歪む。
窓辺の薄暮が徐々に室内を覆い尽くし始め——
これから迎える饗宴の暗い幕が下りようとしている。
甘い花の香りの中に微かな鉄臭さが混ざったような錯覚。
運命の車輪は容赦なく軋みながら廻り続けていく。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
古木の階段を降りる足音が、屋敷の闇を数え上げていく。
燭台の火が揺れるたびに、壁に這う蔦の影が蠢き、
まるで生き物のように彼女たちの背を追った。
アルファは襟元をぎゅっと握りしめ、
ベータは額に貼り付いた前髪を払うこともできずに俯いている。
ガンマだけが毅然と歩を進めていたが、
その掌はハンカチを強く握りすぎて白くなっていた。
廊下の先に待つのは伯爵の"教室"——。
石畳の床に響く重厚な扉が開くと、
「遅かったじゃないか、母さんたち!」
甲高い少年たちの声が弾けて飛んだ。
広間には十数人が円陣を組んでいた。
年の頃は十四から三十前後といったところか。
誰もが貴族然とした端正な顔立ちでありながら、
口元には幼児のような残酷さが剥き出しになっていた。
「ごきげんよう……」
ガンマがかろうじて挨拶を発すると、
「へぇ〜?」
一人の青年が顎を突き出す。
「君がルーナさん? 伯父さんの婚約者たちより綺麗じゃん」
言い終える前に腕が伸びる。
ガンマのネクタイが引っ張られ、スーツのボタンがはじけ飛んだ。
「っ!」
小さな悲鳴が喉で詰まった。
露出した肌をすぐに別の手が這いずる。
冷たい指先が鎖骨を探り、
「動くなよ」
少年の声なのに有無を言わさぬ命令だった。
◆
一方でアルファはふたりの少年に押さえられていた。
金色の髪を掻き上げられるたびにピアノ線のような痛みが奔る。
「さぁ母さん、今日の授業は何にする?」
ひとりが頬を抓りながら尋ねると、
「このゲームでしょ」
別の子供が木箱を持ってきた。
中から現れたのは黒曜石でできたサイコロ——
だが面には淫猥な文字列が刻まれていた。
「まずは基本から」
アルファは突然体を回転させられた。
スカートがひるがえり、パンティが見えてしまう。
「ほぉー! お姉ちゃんセクシーな下着なんだね」
頬の熱を感じても表情一つ変えられない。
「さぁ座って」
彼女が膝を折ると同時だった。
頭の上に載せられたのは透明な硝子椀。
「こぼしたら罰だからね」
微笑む少年たちの輪の中で、アルファは裸足で体勢を支えた。
ほんの一滴でも床に落ちたら終わる。
——呼吸すら怖い。
◆
ベータはひとり離れた場所に正座させられていた。
目の前には古びた聖典があり、
羊皮紙には意味不明な呪句が延々と書き連ねてある。
「読めるか?」
低学年の少年が首を捻る。
ベータは怯えながら答えた。
「こ、これは古代精霊語で——」
「違うよ」
少年は急に不機嫌になった。
「俺は知らない漢字があると苛つくんだ。早く全部読んで」
指示の矛盾。
ベータの目に涙が溜まる。
わからない部分があると鞭が飛んできて、
「いけないな先生!」
細身のパドルで腿を叩かれるたびに短い悲鳴が漏れた。
何度も。何度も。
ベータの意志とは関係なく声帯が啼き続け、
「ほらほら声を止めないとまた罰が増えるぞ?」
囃す声が増え、天井に残響していく。
自分の声しか聞こえない世界——
◆
その間にガンマの周りは人数を減らした。
なぜなら青年たちが次々に彼女を囲むように密集し始め、
「すごい量ですね」
驚愕と好奇心が混ざった声をあげながら、
誰かがブラウスのボタンを摘まむと、
パチンッ!
音と一緒に拘束が解除されてしまった。
露わになったデコルテには青い血管が浮かび、
「触っちゃダメ……!」
抗議も虚しく温もりのある掌が乳房を包む。
柔肌が波打ち、脂肪の海へ指が沈む。
そして別の手は裾から内腿を辿ってくる——
「離してくださ……」
言葉は途切れ、唇は塞がれた。
粘膜が触れ合う感触よりも先に、
侵入してくる舌が歯茎の裏側を蹂躙する。
ガンマの理性は必死で抵抗を試みるが、
舌に巻き込まれてしまえば負けだった。
唾液が行き来し、
「んぅ……ぁ」
わずかに洩れた喘ぎを聞き逃さなかった若い貴公子が興奮した声で叫んだ。
「やっぱり反応してる!」
嬉々として周囲を煽る。
触れる手が増え、揉み潰すような激しさに変わる。
ガンマは背中を壁に擦りつけながら崩れ落ちるまいと耐えた——
◆
時間は奇妙に引き伸ばされていった。
アルファの頭上のカップには少しずつ雫が増え、バランスを狂わせていく。
右端に寄る。
左足を移す。
その拍子に布が捲れ上がり、
「きゃあ!」
小さく跳ね上がった腰の動きで、
ついに水面が震えた。
透明な液体が零れ、
ポタ……
「あ」
慌てて掌を添えたが遅かった。
床に一滴落ちると、
「バレちゃったね母さん!」
楽しげな喝采。
少年たちは距離を縮めると、
アルファの両腕を掴んで立ち上がらせた。
スカートの下にはレースのショーツが丸見えになっている。
「お仕置きの準備はいい?」
首筋に冷たい指先が滑り込み、
ドレスのリボンを引っ張るとぱつんと切れる音がした。
布地が弛み、
「いや……!」
声にならない声を掻き消すように、
アルファは自らの顔を背けた。
涙ではない。嗚咽だった。
◆
「そろそろ交代しませんか?」
背後から重い足音が響くと、
ベータの正面に居た少年たちは退いた。
入れ替わりに現れたのは二十歳過ぎの大柄な孫で、
「さて文学担当は終わりにして次行きますか」
彼は大きなバッグから幾つかの器具を取り出した。
注射器に似たガラス管——
内部には怪しい琥珀色の液体。
「動かない方がいいですよ」
無造作に首筋へ針が当てられ、
「ちょっとだけですから」
ズブリと挿し込まれた。
熱が駆け昇り、血液が沸騰するような感覚。
「や……め……」
四肢に痺れが回り始めると同時に疼きも発生する。
全身が燃えながら氷漬けになる錯綜する幻覚。
視界の端でアルファが連れていかれるのが見え、
助けなければ—
思考がまとまらない。
◆
ガンマは壁際で四つん這いにされていた。
片手は口元を押さえ喘ぎを抑えようとし、
もう一方でスカートの裾を握りしめる。
後ろから襲い来る衝撃。
熱い杭が肉体を貫き、
乳房が床に押し付けられるたび揺れて擦れて痛い。
「痛いぃ……!」
呻きを漏らしてしまう自分を呪う。
こんな連中に屈服したくないのに、
「可愛い声出ましたね」
若い男が耳元で囁くと同時に動きが速くなる。
ガンマの意識は段階的に削られてゆき、
——何故?
——私は何をしている?
商談だった筈の時間が
何故こんな凌辱劇に変わってしまったのか。
疑問は泡のように生まれては破れ、
「気持ち良くしてくれれば出資は続けますよ?」
卑劣な提案を拒否しようと口を開けば、
「——はぁぁっ!」
また嬌声を搾り取られる。
◆
夜は更けて行く。
伯爵の屋敷の一角に灯る蝋燭は一向に減らず、
それどころか新しい炎が足されていくばかり。
アルファは柱に鎖で括りつけられ、
足首を持ち上げられた格好で晒されていた。
衣服は既に失われ、裸身に残るのは黒いチョーカーのみ。
「次は僕だよ!」
少年が跳びつき、乳首を弄り出すとアルファは顔を反らした。
もう耐えるしかない。反応すれば弄ばれる。
「我慢強いなぁ」
彼は苦笑しながら乳首を爪で弾き、
「だったらここはどうかな?」
下半身に伸びる指先。
敏感な突起を見つけ出すと、
「うっ……!」
思わず太腿を閉じかける。
だが手枷に繋がる鎖が邪魔をする。
「わぁホントに反応した!」
歓声が上がり、皆が集まってくる。
そして同時に始まる接触。
腋、臍、腿裏、臀部——
アルファは全身を玩具のように扱われた。
◆
ベータはもう抵抗する体力すら残っていない。
床に転がり涙と涎で顔を濡らしている。
彼女の白いワンピースは無惨に裂け、
「次の人お願いします……」
掠れた声で哀願するしかない。
それが彼女にとって最も苦しい罰であった事を孫たちは察している。
「自分で言えるなんて偉いねぇ」
彼らは笑い合い、再び鞭を拾う。
◆
ガンマは最後の砦だった理性が脆くなっていくのを感じていた。
眼前に迫る男の腰に合わせて生理的な快感が走る。
「くっ……ぅ……!」
どうしても声が出る。
悔しくて舌を噛みかける。
「ああ出そうだよルーナさん!」
唐突に男が告げると、
ガンマは本能的に身を捩り拒絶する。
「やめて……!」
叫んだつもりだった。
けれど実際に漏れたのは蕩けるような吐息だった。
「はぁあ……!」
刹那、熱い迸りが体内に注ぎ込まれる。
視界が白く塗り替えられ、
——終わった……
と思った矢先、新たな影が伸びてきた。
「交代です」
別の青年が位置を変え、
「まだまだ勉強してもらいますよ?」
不敵に笑う。
◆
遠くで時計の秒針が時を刻む音だけが現実を思い出させた。
どれくらい時間が経ったのか分からない。
蝋燭の芯が尽きるたび補充され、
部屋は常に同じ橙色に照らされている。
アルファは項垂れたまま視線だけを動かす。
すぐ近くにベータの華奢な肩が見える。
涙に濡れた睫毛を震わせながら眠るように意識を失いかけていた。
視線を反対へ向けるとガンマ。
両膝を抱え込んで蹲るその背中には幾筋もの赤い痕。
呼吸は荒く浅いが確実に生きている。
——耐えるしかない。
今はただその思いだけが、
バラバラになりそうな魂を辛うじて繋いでいた。
伯爵の目的は出資を盾に、
七陰の頂点達を"家族"として掌握する事なのだろう。
身体と矜恃を弄び、従属させる事こそ彼の愉しみなのだ。
——必ず報復する。
アルファは暗闇の中で誓った。
翡翠の瞳に宿る憎悪は薄れないが、
その炎がいつか仇を討つ刃になると信じて。
◆
深夜三刻を過ぎた頃、ようやく扉が開いた。
伯爵当人が悠然と歩み寄り、
「諸君、本日のレッスンはここまでだ」
嗄れた声が宣言する。
同時に孫たちは蜘蛛の子を散らすように退散して行った。
残された三人は衣服の残骸を被る余裕もなく寝台へ移され、
「明日からも続くので早めに休むといい」
伯爵は冷笑を残し去っていく。
扉が閉じると静寂が訪れ——
堰を切ったようにアルファが嗚咽を洩らした。
ベータはそれに気づき微かに手を伸ばす。
「だいじょうぶ……まだ……まだ終わっていないから……」
掠れた励まし。
ガンマも瞼を開け、二人を見て頷いた。
互いの体温を感じる事でなんとか精神を保つ夜——
それが七陰に課せられた最初の授業だった。
朝日が昇るころにはきっと新たな試練が始まっている。
けれど少なくとも今この瞬間は共有している。
苦しみも怒りも。
それが彼女たちの唯一の武器であり灯火だった。
◆
翌暁——
東雲の薄紅色がカーテンの隙間から忍び込む。
鳥の囀りと共にノックの音が聞こえ、
「起床の時間です」
昨日と同じ声。
同じ恐怖。
同じ日常。
三人は静かに起き上がると顔を見合わせた。
そこには僅かながらも決意の光があった。
今日もまた饗宴が始まる。
だが囚われ人は必ず囚われ人では済まない。
牙を研ぎ、爪を研磨し続ける限り、
——反撃の時は訪れる。
その想いだけを抱えて彼女たちは戦場となる部屋へと向かった。
遠くで鴉が一声鳴き、
「カァ——」
まるで号令のように不吉な音を落としていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
## 深淵の教室
朝靄が庭の薔薇に纏わりつく頃、三つの影が長い廊下を進んでいた。
アルファはすでに従順な歩調を身につけていた。
一歩ごとに首のチョーカーが鳴り、それが枷の音であることを再認識させる。
金の髪は昨夜の汗で艶を増し、白い頸筋に貼り付いている。
翡翠の瞳は虚空を映し、何かを見ているようで何も見ていない。
ベータは銀縁の眼鏡を失っていた。
視界がぼやけることで、
現実との距離を保とうとしているのかもしれない。
あるいはそれすら故意の策略か。
彼女は常に「観察者」であり、記録者である。
今この瞬間でさえ。破れたメモ帳を胸に抱え、
震える手で次の頁を探す素振りを見せる。
ガンマは二人の少し後ろを行く。
昨夜の暴虐による疲労で肩が下がり、瞳の焦点が定まっていない。
それでも彼女の足取りには何か意志が感じられた。
伯爵の孫たちに教えを請われる「家庭教師」という役割を受け入れる以上、
知略と知識だけは守り抜こうとする矜持。
三人は巨大な木製の扉の前に立った。
そこには「特別講義室」と金箔で彫られている。
──-
◆
扉の向こうは予想通りの光景だった。
円形に配置された講壇。中央には巨大なベッド。
天蓋から垂れるレースには薔薇の蔓が絡みつき、
床一面に散った花弁が窒息を促すような甘い匂いを放つ。
「お待ちしていましたよ、先生方」
最前列にいた少年——おそらく十五、六——が立ち上がり、恭しく礼をした。
だがその手には真珠で出来たペンダントが握られている。
それを目の前で弧を描くように振り、微笑む。
「今日は皆さんをお手本として恥部の研究をさせていただきたいと思います」
哄笑が起こる。
ベータが小さく息を呑む音がした。
──-
◆
アルファはまず「解剖学」の教材にされた。
少女たちは円卓を囲み、
医学生のように白衣を着せられたアルファを取り囲んだ。
だが講師役は彼らであって彼女ではない。
彼らは人体図譜を開き、「ここをどう考える?」と彼女に質問を浴びせる。
アルファは正確に回答するが、それが罠だった。
「実演しましょうか」
一番年長の青年が言った。
彼は「生殖機能に関する臨床実習」と題してアルファに下腹部を露出させた。
薬で麻痺させられた身体は思うように動かず、
銀のトレーに乗せられた様々な器具が順番に使われていく。
冷たい金属の感触。測定値を読み上げる声。
「直径」「深度」「反応速度」──
一切の人間性を排したデータが机の上に積み上がっていく。
アルファは歯を食いしばった。これが伯爵家の「教育」なのか。
羞恥心よりもまず「測られること」に対する反感が湧いた。
自分は数字では測れない。ましてや彼らのような愚者が。
「先生はここが特に敏感ですよね?」
青年の指が一点を掠めると、
意思に反して身体が跳ねた。
薬剤の副作用が神経過敏を引き起こしているのだ。
見開いた瞳に自分の情けない姿が映る。実験動物だ。
──-
◆
一方、ベータには「言語学」のカリキュラムが提示された。
講堂隅に置かれた古いタイプライターを前に彼女は腰掛ける。
最初の課題は「罵倒表現リストを作成すること」。
辞書を開きながらもベータの指は止まった。
これら言葉を使うためには前提がある──
自分が使用されることを意味する。
「遅いな」
監督役の少女が鞭をしならせた。
タイプライターの鍵盤が悲鳴を上げ、ベータの左手小指が血に濡れる。
「さあ続けましょう」
彼女は必死にキーを打ち始めた。
一文字ごとに過去の恋人への呼び名を書き換える行為に近い。
愛の詩を恥辱のリストに改竄する苦痛。
最終的には千を超える項目が完成し、
それを朗読させられる屈辱は想像を絶した。
読了後、彼らはリストをプリントアウトし、
一枚ずつ切り取ってベータの衣服に貼り付けていく。
羞恥的な言葉が白いブラウスを埋め尽くす光景は、
ひとつの作品として撮影された。
──-
◆
ガンマには数学と化学の授業が課せられた。
しかし内容は「媚薬の濃度調整問題」や
「拘束具の物理構造分析」といった倒錯したものばかり。
問題文を睨みながらもガンマの頭脳は明晰に働いてしまう。
解答を導き出すごとに拘束具の精度が上がり、
媚薬の効果範囲が狭められ──結果として被害者は増殖していく。
「素晴らしい計算速度です!」
生徒の称賛にガンマは微かに笑った。
だがその瞳は乾燥した湖面のように感情を映していない。
彼女は気づいていた。
ここでの成功は即ち敗北と同義だということを。
午後に及ぶと課題は実地テストへ移行した。
自作の媚薬を少量摂取し、成分分布を感知せよ──
ガンマは自ら薬を口に含み解析を開始した。
身体が灼ける。汗が噴き出す。息が弾む。
だが頭脳は平静を保ち、分子式を高速で組み立てていく。
その姿を見て生徒たちは息を呑んだ。
「完璧すぎる」という畏怖の念が芽生えたのだ。
──-
◆
夕刻。個別授業が一段落したあと、
三人は再度中央ホールへ集められた。
「本日の成果を鑑みて特別講義を設定しました」
伯爵本人が登場すると一同はざわめいた。
彼はワインボトルを掲げながら、
「膀胱管理学」
と言った。
瞬時にして空気が凍る。
アルファは昨日すでにトイレで恥辱を味わわされたばかりだった。
──-
◆
巨大な砂時計が設置された。
三時間のうちにトイレを利用することは禁止。
もし生理的限界を迎えた場合──
衆人環視の中で排尿を完了せねばならない。
少女たちはそれぞれ別々の檻に入れられた。
伯爵の顔に浮かぶ喜悦の皺をアルファは焼き付けていた。
──-
一時間後。
ベータの呼吸が乱れ始めた。緊張と不安で症状は加速する。
彼女は過去にもこうした局面を経験したことがある──
囚われた同志を助けるため、飢餓状態で情報を守り抜いた時期のことだ。
だが今回は条件が違う。守るべきものは自分自身だけ。
しかもその自分はすでに無防備である。
──-
二時間五十分。
ガンマは脳内でリフレインしていた。
ミツゴシ商会の事業プラン。株式の引き受け比率。債務不履行時のリスクヘッジ。
数字が浮かぶたび現実が希釈される──
そうやって意識を逸らしていた。だが限界はある。
──-
ちょうど三時間を示す鐘が鳴る瞬間、
ベータの悲鳴がこだました。
「だめ……!」
彼女は鉄柵を両手で掴み、全身を弓なりに反らせた。
羞恥も尊厳も一気に吹き飛ばす猛烈な解放感。
溢れ出る温かいものが檻の底を濡らし、
醜悪な匂いが空間に立ち込めると同時に黄色い液体が滴った。
哄笑と拍手が湧き起こる。
ベータは放心状態で檻の床に膝をついた。
震えながら涙を流すことしか出来ない。
顔を覆うことも許されず晒されたまま、
カメラのフラッシュが彼女の絶望を永遠のものに刻印していく。
──-
アルファも決壊したのはほぼ同時だった。
しかし彼女の場合、「耐えろ」という強烈な意思がギリギリまで作用した。
そのため最初の波が弾けた瞬間には理性の堤防は粉々になり、
迸る水流は見事な弧を描いて宙を舞った。
金色の髪から滴る汗と涙が混合し、
檻の壁に当たって鈍い音を立てる。
羞恥に堪えきれず背を向けたがその仕草すら見世物として消費される。
──-
ガンマだけは最後まで粘り続けた。
彼女は頭脳をフル稼働させ時間を超越しようと努めたが、
耐える表情がまた男心を擽り、嗜虐心を唆る。
伯爵の孫の一人が立ち上がり、
「もういいでしょう?」
と慈悲めいた声で告げた。
その声には明らかに「見届けたい」という下卑た期待が含まれていた。
ガンマは唇を噛み、観念した。
白磁のような太ももが震え、
ぴたりと閉じていた秘裂から一滴の雫が垂れる──
そして流れは徐々に大きな川となって床へ到達した。
熱い液体が足首を洗う感覚に眩暈を覚えながらも、
彼女は瞳を閉じず前を向いた。最後の矜持。
知性と理性で培ってきた己というイメージが砕け散っても、
──観察をやめてはならない──
その信念だけは崩さず。
──-
排泄の儀式が終わると三台の檻は撤去され、
伯爵はゆっくりと拍手した。
「見事な見識でしたよ諸君。
人間という種が如何に脆弱か──これで分かるはずです」
彼の言葉に生徒たちは恍惚とした表情で頷いた。
アルファ・ベータ・ガンマの三人は清掃された床の上で肩を寄せ合った。
もはや互い以外に信頼出来るものはない。
夜になると再び鎖と服飾品の取り換えが行われる。
それでも彼女たちは心中で誓っていた。
──いつの日か、この醜悪な光景を翻す瞬間が訪れる。
涙すら枯れた瞳に仄かな炎が灯る。
たとえ今は穢れても、魂までは渡さない。
深紅のカーテンが引き下ろされ、
夜会の支度が始まった。
遠雷のような伯爵の笑声がこだまし、
◆◆◆◆◆◆
◆伯爵邸 深夜の宴(ゲスト)
──-
薄闇を裂く鐘の音とともに大扉が開かれた。
招かれた招待客たちの衣擦れが絹鳴りを奏でる中、
最奥の玉座──実質的には王侯貴族すら羨む富者専用の席──
にて伯爵は優雅に盃を傾ける。
傍らには宝石のごとき三人の「ペット」──
アルファ、ベータ、ガンマ──を侍らせながら。
──-
### 序章―賓客の視線
──-
● アルファ
翡翠色の瞳を伏せ、葡萄棚の幹のように屹立する黄金の髪を撫でられている。
薔薇刺繍の極薄ベビードールが
ふくらはぎまでのラインを包むものの
肝心の部位はほとんど布がないに等しい。
背を弓なりに反らすと谷間が零れ、
客席から漏れる息遣いが酒より香った。
「おお……噂は本当だったのか」
「あのエルフの─────────」
好奇と侮蔑が交差する囁き。
それでもアルファは膝を深く折り
背後の客に向けて真白の双臀を軽く押し出す。
奉仕の所作である。
● ベータ
銀髪を乱したまま胸元に書冊を抱え
檀上の脚台に肘を預けている。
分厚い「淫辱の体系化」と題した謄写版──
昨夜彼女自身が殴り書いた論文だ──が客席に配られた。
客が該当箇所を開くたびに
ベータの喉から引き攣った嗤いが漏れる。
知性の殻を自ら割り、露出した脳髄を舐め回される屈辱。
けれど双眸は冴えわたり
一行ごとに修正点を脳内で積算する──
「ほう……?」
「理論武装まで出来るとは末恐ろしい」
感嘆と嫉妬が絡まり
ベータはその反応すら新たな羞恥の材料として咀嚼した。
● ガンマ
濃紺のハイゲージニットが鎖骨の窪みを露わにし
前屈みのたびに零れそうな双球を
紐一本が危うげに留めている。
客たちは彼女が握る試験管に目を凝らした。
赤褐色の溶液が照明を受けて揺らぐ。
「新作のお披露目ですか?」
「媚毒か、幻覚剤か……」
問いにガンマは淡々と応える。
「──どちらも要素を入れましたが
致死域まで引き下げておりますので
安心して御賞味くださいませ」
冷徹な科学者の声音で
己を曝く毒を献上する。
その姿に客は畏れ半分悦び半分で杯を掲げた。
──-
### 第一幕 ― 社交場の玩具
──-
#### 《舞》
ヴァイオリンが響き、アルファは伯爵の足許へ跪いたまま
掌中のブドウを房ごと頬張り汁を唇に含んで立ち上がる。
「さあ淑女方、踊り給え」
指揮者の一言で三台のクラヴィコードが重低音を奏で
蝋燭の焔が床に散る百合の影絵を歪める。
アルファは扇のように両腕を広げ
ステップを踏むたび乳丘が振幅し、白磁の肌が燭光を撥ねた。
ベータは袖の下で短鞭を振るい、自身の尻を戒めてテンポを刻む。
書籍の頁が風圧で捲れ
墨書きの「禁句リスト」が客に暴露された。
ガンマは円弧を描くように歩きながら
客の杯へ一滴ずつ新薬を落とす。
薬剤が虹彩を拡げるや、貴婦人たちの頬にうっすら桜色が射した。
──
#### 《談笑》
──
「あいも変わらず酔狂なお方だ」
「我が藩国で保護してやれば良かったな」
高慢な声が割り込む。
肥え太った伯爵領の同盟候補貴族。
彼らは伯爵の方針を「非効率だ」と断じる常連であった。
伯爵は薄笑いで杯を干し
アルファの腰を掴み前方へ差し出す。
「ご覧なさい。
“保護”という名目であれば
確かに安全かもしれない──ただし興は醒める」
そう言って指先で太股を抉ると
アルファは羞恥に頬を染めつつも
声を殺して反応した。
「儂は“咲きかけの蕾”を摘み取り
“実りかけた果実”を齧るのが好きでね。
彼女たちはいま熟す途中だ。だからこそ美しい」
貴族たちは得心の唸りを漏らす。
己の倫理基準ではなく
彼の美学で統治される世界──
それが伯爵邸における鉄則だった。
始まりの鐘。
伯爵は立ち上がると葡萄酒の赤を舌で転がし
静かに客へ視線を巡らせた。
「今宵は趣向を変えよう。
諸君が長らく求めていた“試験競技”を行う」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
暫し後─────────
蝋燭の列が廊下を蛇行し、やがて客間へ注がれた。
バロック時代を模した重厚な扉は伯爵家随一の工匠が彫り上げた薔薇門扉で、
その花弁はすべて人皮の鞣し革で縁取られているという──
誇張であろうが噂話は甘美なものだ。
広間の中心に据えられた半円型の舞台装置。
薄幕の向こうで三つの影が揺れている。
いずれも純白を基調とした舞踏衣裳でありながら──
要所を覆う布は最小限で、むしろ素肌の方が多く露出している。
伯爵が開宴の辞を述べる。
「諸君。本日の星は彼女たちだ」
声が終わると同時に幕が捲れ──
──-
### ■■■ アルファ ‘冷輝’の王笏(ワンド)
薄紫のスポットライトを背負い、
金糸の髪を揺らすアルファは微塵も乱れを見せなかった。
首元には翡翠の首輪。
袖口のレースが揺れるたびに双丘が波打ち、
乳頭を掠める細線のブラトップが濡れて透ける。
「最初はダンスよ」
伯爵が指揮棒を振ると弦楽四重奏が始まるが、
アルファが対峙するのは─────────
お披露目以来見せつけられ、お預けされ続け、飢えた老醜ども。
十数名。脂ぎった豚どもが舞台に殺到する。
「ほう? 焦らなくても良いぞ」
伯爵が指を鳴らす。
すると──
アルファの下腹部の熱が増す。
汗が肌を伝い、太腿の内側が湿り気を帯びてくる。
「効くであろう?」
伯爵は面白おかしく言いながら手近のボーイに琥珀色のリキュールを注がせる。
まるで宝物を鑑賞するように舐め取る視線。
アルファは唇を引き結び深呼吸一つで体勢を整える。
恐れるべきは感情の昂ぶりではない。均衡の喪失だ。
まずは攻撃ではなく防御。観察から入り相手を分断。
──踊り場の左側四人を牽制しつつ右端の老兵を固定して……
だが思考が追い付かぬ。足が滑る。
下着の中が湿っていて自重に負けるのだ。重心が狂う!
「ちょろいな!」
正面の若手貴族が覆い被さってくる。
アルファは咄嗟に肘で突き上げ──しかし腕力が弱い。
普段なら易々と制圧できる相手も媚薬により神経が撹乱され判断が鈍る。
「いや……!」
悲鳴に近い声。白い腕が捕まれ胸を乱暴に鷲掴まれる。
衣装が破れ乳頭があらわになり観客は歓声を上げた。
──-
### ■■■ ベータ ‘智慧’の坩堝(アンプル)
ベータは舞台背面の小間使い用円柱に磔にされ、
拘束具と化した書架板の間に鎖を通されていた。
本来『観察』する立場の自分が
見世物の一部となる屈辱──だが彼女の瞳孔は拡張し
視界に入る情報全てを保存し始める。
「まずは語らねばなるまい」
伯爵は椅子を引くと向き合う位置で肘掛けに腰を預けた。
目前にはベータの下着と呼ぶにはあまりに粗野な革紐が一条。
それを指で弾くと少女の腰が僅かに痙攣した。
「さあ『言語』講義だ。
正しい形容詞を使え。自分がどんな状況か叙述せい」
ベータは唇を嚙み血を滲ませながら言った。
「わ……私は……露出させられたまま……責められています……」
「ふむ」
伯爵はさらに指を押し込み膣口を割って前後に小刻みに往復させる。
「もう少し情緒的に──そうだな例え話を加えよう」
ベータは涙を拭うことなく続けた。
「それは……嵐のなか裸で漂う木片のようです。
助けを求めてもどこにも岸はありません──」
「良き譬えだ!」
伯爵は満足げに笑い二本の指を突き入れる。
途端ベータの下肢が跳ね上がり鎖が鳴った。
思考領域が白熱する。痛みと快感が脊椎を駆け抜ける。
──ダメ……語彙が曖昧に──
「ほらほら“嵐”だけでは不足であろう? “洪水”も加えるがいい」
耳許で囁かれた命令に逆らいきれずベータは震える声で叫んだ。
「私は……洪水の只中で……氾濫する悦楽に……浸されています!」
客席の嘲笑と拍手。
ベータは歯軋りし意識を遠ざけた。
──-
### ■■■ ガンマ ‘理’の牢獄(プリズナー)
一方ガンマは半身を拘束されたまま小机の前に立たされていた。
机上には大量の試験管──中身は無色透明から桃色まで様々。
そして小筆と万年筆。
伯爵の孫の一人──伯爵より僅かに幼い程度の壮年貴族──が問う。
「教授。あなたは己の身体化学的反応を完全に制御できますか?」
「不可能です」
ガンマは即答した。
「では証明しよう」
孫は机上の液体を二滴ほど口に含み吐瀉し
その残滓を指で掬ってガンマの頬に塗布した。
途端──焼けるような疼きが両乳房を中心に螺旋状に広がる。
ガンマは息を詰め耐えようとするが
着衣の下で乳首が肥大し生地を押し上げているのが自覚できた。
「次」
孫は万年筆を逆手に持ち
キャップで乳首を掠める──ほんの僅かな摩擦なのに
ガンマの膝が震え小机が軋む。
「数値で示せますか?
ガンマは朦朧とした頭で計算式を唱えながら言った。
「現在の平均脈拍──一分百四十。乳頭勃起角度九十八度──」
「結構!」
孫は満足げに立ち上がると伯爵に報告した。
「祖父様。これ以上の理系実習は不要でしょう。理性も溶け始めています」
伯爵は頷き、三人を見る。
──-
### ■■■ 共犯の幕 ──そして終焉へ
伯爵はゆっくりと杯を置き宣言した。
「本日の催しは佳境だ。
各自好きな玩具を選べ。時間は十二分に──」
客達は歓声と共に雪崩れ込む。
アルファは八名に囲まれ床に押し倒され
乳頭と花弁を交互に啄まれ
金糸の髪が白い胎盤のように広がった。
ベータは三脚の上に跨がらされ
指と舌と道具による多重刺激に晒され
涙と鼻水と涎で顔を泥のようにして喘ぎ続けた。
ガンマは乳首に小型吸引器を当てられ
机に向かい媚薬濃度曲線を必死に描き続けるうち
紙面上のグラフが自らの鼓動と同期していく幻視に陥った。
絶叫も啜り泣きも笑い声も──全てが同一の旋律に溶けていく。
蝋燭の芯が折れ
甘い松脂の臭いが舞踏室を満たした時、
──遠いところで鈴虫の羽音に似た静寂が生まれた。
──-
### 終焉の刹那
宴の喧噪が一旦引いた空白。
天井画の女神の眼差しが微かに揺れる──
アルファは床に這いつくばりながらなお理性の刀を鞘に戻さず
ベータは嗚咽の狭間で一句を呟き残し
ガンマは指先で紙面に最後のインクを滑らせた。
誰にも聞こえないほどの声音で──だが確かに──三人は誓う。
「必ず──
終わらせる」
伯爵は薄闇の中でゆっくりとワインを啜りながら、
「ああ……愉快な夜だ」
と独り言つ。
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