淫蕩王ベルムハルト 作:ヒステリア
――いったいいつから、
――なぜ、なにも生み出さない戦争などに、罪のない人々が苦しまなければならないのだろうか。
――なぜ君が、それを終わらせるための
「……クラウス、いい加減にそこを通していただけませんか。私は国へ帰らなければなりません」
敵国兵が放った火によって燃えさかる街の中、オリヴィエは真剣な声を放つ。そんな彼女にクラウスは拳を構えながら言った。
「行かせない――ここを行かせたら、僕は君を見殺しにすることになる」
“見殺し”という言葉を聞いても、オリヴィエは眉をぴくりとも動かさずに告げる。
「それでも、私は行かないといけません。私が『ゆりかごの聖王』になれば、ベルムハルトの侵略やベルカ中に広がってしまった戦を終わらせる事ができるかもしれない。だから――」
「
彼女の言葉をクラウスは自らの怒声で遮る。なぜなら――。
「『聖王』とは本来、『ゆりかご』を動かすための“生きた装置”――一度
クラウスは『聖王』と『ゆりかご』の正体を知っていた。初代聖王の忠臣にして親友だった、自らの始祖・騎士王イングヴァルトが聖王家の成り立ちについて記した文献を残していたからだ。いざという時、再び
そんな祖先の意志と彼が課した役割に背き、クラウスはオリヴィエの前に立ちはだかる。
“兄”として、たった一人の“妹”を守るために。
そんな思いを吐き出すクラウスに、オリヴィエは笑みを浮かべて……。
「もう覚悟は決めました……」
「覚悟などと――」
軽々しく言うな、と続ける代わりにクラウスは手刀を打ち込む。
しかし、魔力を帯びた――無数の敵兵を吹き飛ばしてきた手刀を、オリヴィエは丸っこい義手でやすやすと受け止める。そしてやんわりとした口調のまま言葉を続けた。
「誰かが『ゆりかご』に乗らない限り、戦の犠牲になる人はどんどん増えていくでしょう。そしてその間にベルムハルトは『闇の書』を完成させて、すべての地が彼の手に落ちてしまうか、あるいはベルカ自体が次元から消え去ってしまうかもしれません……。
だから私がやります! 幼い頃、事故で命を落としていたはずの私が『聖王核』に生かされたのは、きっとそのために違いないから」
もう片方の義手を、『聖王核』が埋め込まれている自身の胸の上に当てながらオリヴィエは言い続ける。だが――。
「――違う!!」
怒鳴りながらクラウスはもう片手の拳を握り、オリヴィエに殴りかかる。オリヴィエは握ったままの彼の腕を放し、クラウスの拳を弾きながら自らも硬い義手による拳激を繰り出す。それを拳で受けながらクラウスは声を張り上げた。
「『ゆりかご』なんかなくても、僕がベルムハルトや『闇の書』を止めてみせる! すべての力を出し尽くしてでもベルカの戦乱を収めてみせる! オリヴィエが犠牲になる必要なんてないんだ!!」
そう告げながらクラウスは、守るべき妹に拳を向ける。それに対して……
「……ありがとうクラウス。シュトゥラで、あなたやエレミア達と過ごした時間はもっとも幸せな時間でした――さよなら、“お兄さま”」
穏やかな笑みを浮かべたまま、オリヴィエも義手を構える。いつもの手合わせのように……。
そして二人は激しく己が拳をぶつけ合った。
その結果…………。
「――っ!」
その場面まできたところでクラウスは目を見開き、痛みにうめきながらベッドから起き上がる。そして部屋を見回し、次いで無数の包帯と湿布が貼られている自分の体を見下ろした。
「……そうか……僕はあの闘いの後、この城に運ばれたんだな……」
そう独りごちてから強く唇を噛み、どんと壁を殴る。その反動で壁に大きな亀裂が入るものの、クラウスは気に留める様子もなかった。
そこへ――
「クラウス殿下、お食事と新しい包帯を届けに参りました」
ノックとともに発せられる女の声が扉の向こうから響いてくる。
「…………」
クラウスは答えずただ沈黙を保つものの、向こうは構わず鍵を挿れ、奥から扉が開かれる。そして鮮やかな青髪を後ろにまとめた侍女、フローラが入ってきた。
「クラウス様、失礼いたします」
一番上にクローシュを被せた食事とその下に新品の包帯や湿布を載せた燭台を引きながら、フローラはベッドの傍まで近づく。壁のヒビを見ても眉一つ動かさない。
そんな彼女を、クラウスは憮然とした表情のまま眺めていた。
「気がつかれたようですね。クラウス様は敵国の兵に傷を負わされ、城に運び込まれてから今までずっと気を失っていたんですよ」
彼女の言葉に耳にしながら、クラウスは『そういう事になったのか』と内心で呟く。
今さらクラウスが他国の雑兵ごときにこのような傷を負わされるわけがない。これはオリヴィエとの闘いでつけられた傷だ。
そして自分がこんなところで横になっていたということは……。
「オリヴィエは……彼女はどうしている? この城にいるのか?」
その問いにフローラは首を大きく横に振り……
「騎士達が駆けつけた時にはもうその場にいなかったみたいです。おそらく、もうお国へお戻りになっているのではないでしょうか」
それを聞いてあの闘いの後の記憶が蘇り、再びクラウスは唇を噛む。
そうだ。あの闘いで自分はオリヴィエに手も足も出せず、逆に動けなくなるまで打ちのめされ、あの場から立ち去る彼女を眺めるしかできなかった――。
「聖王国や連合から何か報せは届いたか? 僕がオリヴィエを止めようとしたことはあちらにも伝わっているはずだが……」
「今のところはなんとも。ただ、いきなり『ゆりかご』がシュトゥラを攻撃してくる事はないと思います。他国との交渉の前に、いたずらに同盟国を攻めるわけにはいかないでしょうから」
淡々と答えるフローラに、クラウスは内心で『だろうな』と頷く。
聖王連合は、主を得た『聖王のゆりかご』の力を背景に、ベルカ中の国々に連合との
なにより今の連合にとってもっとも優先するべきは、『淫蕩王』の征伐と『闇の書』の消滅であり、シュトゥラなどに手を患わせている暇はないはずだ。
「そろそろ包帯を替えましょう。その後お食事を……」
そう言って新しい包帯を手にしながらフローラはクラウスに近づく。だが――。
「いつまで猿芝居を続けるつもりだ。これ以上僕の相手なんかしてもろくな情報はとれないだろう」
あらぬ方を見たままクラウスが告げた瞬間、フローラはぴたりと動きを止める。しかし、彼女は笑みを深めて――
「あら、クラウス様までお気づきになっていましたの」
とぼけるそぶりもなくそう言ってのける“間者”に、クラウスは鋭く尖った眼を向ける。
「君と話している時のオリヴィエの様子が気になってな。それから色々調べてみたよ、君が侍女として働くようになった経緯やそれ以前の経歴など……そしてフローラ――
誤魔化しを許さない口調と視線で問いただしてくる王子を前に、フローラは不敵な笑みを浮かべたまま首を縦に振る。そして――。
「ええ。ベルムハルト様に命じられて数年前からこの国に潜り込み、この国を切り崩すための情報を収集していました。勤めの合間に城にいる文官や将の話に耳を傾けたり、彼らの話し相手を務めたり、時には……」
言葉の続きの意味を示すようにフローラはスカートを持ち上げる。クラウスはそれに一瞥もくれず……。
「皆すっかり骨抜きにされていたというわけだ……僕を含めて。一国を継ぐ身でありながら実に情けない」
そう言ってクラウスは片手で顔を覆う。それを眺めながらフローラは口元に手を当てて笑い声を漏らした。
「ふふ。そう嘆かないでください。重要な情報を漏らす方はほとんどいませんでしたから。ヘンディガンの周りにあった国々と違って、シュトゥラの文官や将の皆様は口が堅いですわね。それとも皆様も私を信用していなかったのでしょうか」
「……」
自嘲的な言葉に対してクラウスは大きなため息を返す。重要な事は漏らさなかったにせよ、王宮中の人間が彼女を信じ切っていたのは変えようのない事実だ。自身も、尊敬する父さえも……。
「私が憎い、ですか……」
「当たり前だ。お前の、お前達のせいでオリヴィエはゆりかごなんかに乗ることになったんだぞ……」
クラウスは彼女を強く睨む。目の前の間者を殴りつけてやりたい気持ちをこらえ、拳を固く握りながら。
そんなクラウスを前にしてもフローラは笑みを浮かべたまま、また一歩彼に近づく。さらに顔と拳を固くする彼を前に、フローラは自らの衣に手をかけ白い肌を晒した。
「……なんのつもりだ」
問いに対して、フローラは笑みを浮かべたまま言う。
「その憎しみ、私の身体に直接ぶつけてみませんか。いまから一晩、私をどのようにしていただいてもかまいません。恨みや憂さを晴らすなり今まで抑えていた劣情を発散させるなり、どうぞあなた様のお好きなように」
そんな言葉と笑みを漏らしながら、フローラは自らのなだらかな身体を想い人に近づける。しかし……
「あいにくだが、お前なんかを抱く気はまったくない。見逃してやるからさっさと僕の前から消えてくれ! ――もう顔も見たくない!!」
激情を込めてクラウスは強く言い放つ。だが、フローラは臆さず彼の隣に腰かけ……
「“もう一人のクラウス様”はそうおっしゃっていないみたいですが。ここに集まってきた昂りを発散したくてたまらない様子……」
フローラはクラウスの下半身に手を伸ばし、肉竿をつうっとなぞる。彼女の言うとおり、クラウスの竿はフローラへの怒りと劣情からくる興奮で、ガチガチに硬く膨れ上がっていた。
クラウスは喉元からせり上がってくる呻きを懸命にこらえて――
「結構だと言ってるだろう! いい加減にここを去らないとお前を捕まえて――」
「私を抱いてくださったら、ベルムハルト様の弱点を教えてもいいですよ」
その言葉にクラウスは言葉を飲み込み、唖然とした顔で……
「なに……?」
思わず声を漏らすクラウスにフローラはふふっと笑みを浮かべて言った。
「『闇の書』はロストロギアと呼ばれるものの中でも最も強大な力を持つ魔導書。しかし、闇の書の主達は皆、書の完成直後に『闇の書』とともに姿を消しています。強大すぎる力の制御に失敗して魔導書に飲み込まれてしまったのではないか……とあの方が自らしたためた書付に書かれていましたね」
「主の目を盗んでそんなものまで盗み見ていたのか……そこまで知りながら、あの男はなぜ『闇の書』を完成させようとする? ここまできて自決を選ぶような奴じゃないだろう」
クラウスの問いにフローラはすぐに答えず、小さく開けた口から舌を出し、クラウスの首筋に這わせる。その刺激にクラウスは思わず口からうめきを漏らした。そんな彼の耳元にフローラは顔を寄せ……
「それを防ぐ鍵が、最後に闇の書から現れた『管制人格』です。あれを利用して『闇の書』を完全に支配しようと考えているみたいですね……隙ができてしまうのを承知のうえで」
「隙、だと……」
クラウスはまた怪訝な声を漏らす。それに対してフローラは淫靡な笑みを浮かべながら……
「それ以上はだぁめ♡ ここから先はクラウス様が私の望みをかなえてくださったら……クラウス様だってもう抑えられないんでしょう……」
「――っ」
再び肉竿をなぞられ、クラウスは言葉を飲みこむ。
その隙を突くように彼女はクラウスに抱きつき、彼の唇を自らの口で塞ぎ、舌を突き出す。クラウスはなすすべもなくそれを受け入れ、彼女と舌を絡ませあう。そしてついにクラウスは腕を伸ばし、フローラの胸を掴み取った。
「んっ――♪」
歓喜が混じったうめきを漏らす彼女から口を離し、クラウスは言った。
「いいだろう。お前を抱いてやる。その代わりに、あの男と『闇の書』について知っていることは洗いざらい吐いてもらうぞ。ただし――優しくしてもらえると思うな!」
「ええ……壊れるくらい、あなたのすべてをこめて、私をめちゃくちゃにして♡」
それを聞いた瞬間、クラウスは弾かれたように腕を伸ばし、彼女の黒い下着に手をかける。そしてそれを引き千切りながらフローラを押し倒した。