淫蕩王ベルムハルト 作:ヒステリア
オリヴィエが聖王国に帰国してからわずか数日後。
数百年もの間、地下で眠っていた鋼鉄の戦船『聖王のゆりかご』がついに地上に姿を現した。
そして翌日、教会と中枢王家、聖老院の満場一致によって聖王に即位したオリヴィエ・G・L・ゼーゲブレヒトは、王都中の人々の喝采を受けながら『ゆりかご』に乗り込んだ。
先代以上の魔力を持つという若き新聖王と空に浮かぶ巨船を見て、誰もが戦乱の終わりと平和の訪れを確信した。
しかし、聖王最大の敵である『淫蕩王』がいるヘンディガンでも、『ゆりかご』に匹敵する
この日、“最後の晩餐”となる朝食を出されてすぐ、守護騎士四人は牢から出され、
その光景を前にして、騎士達はわずかほど抱いていた期待も引っ込め、覚悟を固めながら足を進める。
ベルムハルトは守護騎士達を目にするや、彼女らのもとまで近づいて告げた。
「さて、誠に心苦しいが、お前達との付き合いも今日が最後だ。『聖王のゆりかご』に対抗できる唯一の兵器『闇の書』を完成させるため、お前達には犠牲になってもらわなければならない。だが、お前達のおかげでヘンディガンをここまで発展させる事ができたのも確かだ。その功績に免じて、一つだけ願いを聞いてやろう。何でも言ってみろ」
ベルムハルトは意地の悪い笑みを浮かべながらそんな事を聞いてくる。今さら命乞いなどしたところで、適当な理屈を付けてはねつけられるだけだ。
ならばせめて――
「なにも……我らは『闇の書』を完成させるためだけの存在。我らが不要となったのなら遠慮なくお捨てください……」
ならばせめて、“騎士”の名に恥じない誇り高い最期を……。
それだけを思ってシグナムは目を閉ざし、シャマルとザフィーラもただその時を待つ。
ベルムハルトはヴィータに目をやる。騎士達の中でただ一人主に反抗的な態度を隠さなかった彼女も、何も言わず地面に顔を向けるだけだった。
それを見てベルムハルトはつまらなそうにため息を吐く。そして――
「そうか。じゃあせめて最後に“快楽”を与えてやるとしよう――」
そう言ってからベルムハルトは顎をしゃくる。それを見て、守護騎士達を連れてきた兵達は彼女らの体を押し出した。
「なにをする――んぅっ!」
「は、離せ――うわ!」
「きゃあああ!!」
「ぐっ――」
騎士達四人は強引に広場の中心まで押し出されると、顔や腕、足を拘束され、その場に固定される。そのままさらに服まで剥ぎ取られ、衆人達の前で生まれたままの姿を晒された。
それを眺めてから、ベルムハルトは広場中に声を張り上げる。
「これから一刻間だけ猶予をやる。それまでの間、ここに集まった者達と思う存分この世の悦楽を楽しむといい。――お前達も憐れな騎士達に情けをかけてやれ! これは国王命令だ!」
それを聞いて観衆達はつんざくほどの歓声をあげる。
そして彼らは我先に飛び出し、一糸まとわぬ騎士達に手を伸ばした。
「へへへ、一度あんたの体を思う存分堪能したいと思ってたんだ。処刑されちまう前に楽しませてもらうぜ」
「さ、さわるな――んああああっ!!」
「おねえちゃんのおまた、きもちいいよ。もっといっぱいやろう!」
「やめろ、お前のようなガキがこんなこと――やあああああ!!」
「やめて! もうむりぃ――んむ゛ううううう!!」
「これぐらいで音を上げんじゃねえよ。今までずっと王様と前の王様の相手をしてきたんだろう」
「ザフィーラ様、体だけじゃなくておちんちんも逞しい。でも、強そうな人ほどアナルは弱かったりするのよねー!」
「よせ、おなごがそのような真似を――んおおおおっ!!」
男根を模した
老若男女問わず、多くの者が騎士達の身体に群がり貪りつくす。今まで守ってきた民達に穢され蹂躙されていく四人をベルムハルトは愉悦の笑みを浮かべながら眺め、ファーレはぎゅっと目をつぶりながら顔をそむけた。
それからちょうど一刻後、ベルムハルトは群衆を散らばらせ、磔られたままの騎士達のもとに近づいてきた。
「最後の悦楽は楽しんでもらえたかな? 満足いかないならもう半刻ほど伸ばしてもいいが」
その問いに答えず四人は顔を伏せたまま荒い息をつく。もうやるならやってくれという思いだった。
それが伝わったのだろう、ベルムハルトは手にしていた『闇の書』を掲げ、命じた。
「――奪え」
『
「うっ――ぐあああああああっ!!」
書が告げた瞬間、騎士達の胸に激しい痛みが湧き上がり、口から唾液と醜い悲鳴を零しながら彼女達はもだえる。そして、痛みの発生源である胸から各々の魔力光と同色の球体――リンカーコアが浮き出てきた。そこからおびただしいほどの魔力が『闇の書』に向かって流れていき、守護騎士達の体もどんどん消失していく。それに反してベルムハルトが持つ書の頁はどんどん埋まっていった。
それらを眼前にして観衆達は慄きの声を上げる。今まで見てきた斬首や縛り首とは全く違う死に様に彼らは興奮の叫びをあげるどころか、この世ならざる光景にただ固唾を飲む。
やがて全ての魔力を奪われたシグナム、シャマル、ザフィーラの体は完全に消えてなくなり、ただ一人残るヴィータも上半身のみを残した状態で呻き続ける。しかし、彼女は苦悶に耐えながら……
「ベルム……ハルト…………お前、これから、なにをするつもりだ…………」
最後の力を振り絞って主を見上げ、ヴィータはそんな言葉を投げてくる。それに対してベルムハルトは口を吊り上げ……
「決まってるだろう。『闇の書』を完成させ、その力を思うがままに使う――こいつを支配していられる限り、存分にな」
「この、気狂いめ――あ゛あ゛ああああぁぁ――――」
最後の罵声と絶叫を残しながら、幼い姿の騎士も消えていく。それとともに『闇の書』の頁は完全に埋まった。
その瞬間、『闇の書』は黒い
『Sammlung komplett -- Starten Sie „Nachthimmel-Zauberbuch“<頁蒐集完了――『夜天の魔導書』を起動します>』
「うっ――ぐああああああああっ!」
魔導書の起動とともに、ファーレも胸と『支配紋』が刻まれている下半身を押さえながら絶叫をあげる。それに反して魔導書は無機質な声のまま続けた。
『Masterstudium, reduziert auf den Core-Modus. Fusion mit Meister<
『夜天の魔導書』がそう告げた瞬間、ファーレの体は闇に包まれ黒い球体と化し、吸い込まれるようにベルムハルトの体に入り込む。
その瞬間、ベルムハルトの口からもうめきが漏れる。それとともに彼の髪は真っ白に染まり、両眼の色も紅くなった。『魔女の森』で
守護騎士達とファーレという女の消滅、魔導書の完成、その直後に起きた王の変化、それらを前にしながら観衆はただ茫然と立ち尽くす。
その中心でベルムハルトは魔導書を掴み、声を張り上げた。
「見ての通り、俺はたった今、真の意味で『闇の書の主』となった! 聖王もゆりかごももはや恐るるに足りん! その証に、見よ――」
『闇の書』を持ったままベルムハルトは空中を指さす。
すると空中に三角の魔法陣が浮かび、雲に覆われた空を暗く染め上げる。その真下でベルムハルトは続けた。
「今の我に不可能な事などない! この力で聖王を破り、ベルカすべてを
――強要はせん、好きに選ぶがいい!!」
その宣布を聞いた瞬間、人々は皆その場で片膝あるいは両膝を地面につけ、王に忠誠を誓う。
『闇の書』を持つ王の勝利を疑う者は誰もいなかった。
「そ、空が、空が突然暗闇に包まれて――」
「もしかして、これが『闇の書』の力なのか?」
「もうベルカはおしまいだ!」
「聖王さま、どうかお助けください!!」
前触れもなく、突然空が暗みがかり、ベルカ中の人々が驚嘆の声を上げる。恐れのあまり、その場で両手を組み聖王に助けを乞う者まで現れていた。
その祈りが届いたかのように、『聖王のゆりかご』はヘンディガンに針路を向けまっすぐ進む。
いよいよ聖王と淫蕩王、『ゆりかご』と『闇の書』の戦いが始まる。
誰もがそう思った時だった――。
『悪辣王ベルムハルト、および奴に従うヘンディガン兵どもに告げる。過ぎた野心を捨て、ただちに投降せよ!』
突如空中から響いた青年の声に、人々は空を見上げる。
それはベルムハルトとオリヴィエも同様だった。この声は二人もよく知っている男の声だったからだ。
その男の名は……。
『私はシュトゥラ王国国王、クラウス・G・S・イングヴァルト。これ以上貴国の蛮行を見過ごすわけにはいかぬ。
悪辣王よ、もしわずかでも良心が残されているのなら、すみやかに自害し首を差し出すがいい! それが聞き入れられないというなら、聖王陛下の手を煩わせるまでもない――このクラウス自ら、貴様らの首を刈り取ってくれる!!』
その声とともに、剣を引き抜く音が響いてくる。
それを耳にして誰もがわかった。
これはヘンディガンに向けたシュトゥラ、いや、クラウスからの『再宣戦』に他ならない。
『我らは両国の国境にあるゼルディウス荒野で待つ。打ち破れる自信があるなら攻め込んでくるがいい。そこが貴様らの墓場になるだろう』
いまだ跪いたままの群衆に囲まれながら、クラウスからの宣戦を聞いてベルムハルトはくくっと笑う。
「『闇の書』が完成してるとわかっていて吹っかけてくるか。『青狐』になにか吹き込まれたんだろうが、まあいい、あの小娘とゆりかごを相手にする前に
そこまで言って、ベルムハルトは群衆を向かって言葉を放った。
「立てお前達! 俺達もこれからゼルディウス荒野へ向かう! そこを奴らの血で染めてやろうじゃないか!!」
王に続いて、群衆達も立ち上がりながら気勢をあげる。
かくして『征伐戦争』の第二戦にして最終戦の幕は上がった。
ヘンディガンとシュトゥラの国境にある『ゼルディウス荒野』。そこが淫蕩王ベルムハルトと覇王クラウスの決戦の舞台となる。