淫蕩王ベルムハルト 作:ヒステリア
(1)淫蕩戦士
「はぁ……ハルトさま、気持ちいいです……もっと――もっと突いて!」
暗がりの部屋の中で、金髪の美女は男に抱きつきながらさらなる快感を求めて激しく腰を揺らす。男も彼女の腰を掴みながら無言で腰を打ち続けている。
「もっと! もっと奥……ハルトさまの逞しいおちんちんでわたしの一番奥を突いてえええええ!!」
「ちっ……うっせぇな、毎晩毎晩」
隣の部屋からレティの喘ぎ声が上がった瞬間、ヴィータは寝返りを打ちながら舌打ちと文句を零す。それに対してシグナムもベッドに横になったまま返事を返した。
「仕方あるまい。主ハルトは女人を抱かねば眠れない性質なのだから。むしろレティが主のお相手を引き受けてくれているだけマシだろう。それに……」
ヴィータも結構大きな声を上げているぞ、とまでは口に出さずシグナムは言葉を飲み込む。
一方、夕方まで家事やハルトの相手をしていたシャマルは喘ぎなど気にせず、泥のように眠っていた。見た目に反して図太い神経の持ち主である。ちなみにザフィーラは狼の姿になって外で眠っている。
『闇の書』の起動と同時にこの世界に顕現して一年近く。
守護騎士、またはヴォルケンリッターと呼ばれる彼女達は、『闇の書の主』ハルトとともに各地を旅していた。
現在の主、ハルトは『リベルラント王国』出身の冒険者兼傭兵で、一年前まで同国の東端にある小村で暮らしていた。
彼の母親も同じ村で暮らしているが、父親はいない。周辺の村々を治める領主が父親だとも、国王との間にもうけた落胤とも耳にしたことがあるが、ハルトの母親は何も語らなかった。
そんな経緯があるためか、『闇の書』の起動と守護騎士が現れてから一月後、ハルトは騎士達とともに村を発ち、そのままリベルラントをも後にした。
それからハルトと守護騎士はリベルラントの北にある国へ向かい、その国で盗賊退治や戦に参加して多くの敵を打ち破り、その後仕官の話を受けながらもそれを一蹴して旅を続け、つい一月前までは『メルヴィン王国』にいた。
そこで拾ってきたのがメルヴィン王国の王女だった、レティシア・F・М・メルヴィンである。
全ての始まりはメルヴィンの公爵がレティシアの拉致を目論んだのがきっかけだった。周辺きっての美姫と言われるレティシアを手土産に反連合国に寝返ろうと目論んだらしい。
しかし、ふとした偶然からハルト達は公爵の手先からレティシアを救出し、公爵の圧政に苦しんでいた領民や公爵と敵対する貴族、そして事実を知った国王を味方につけ、公爵を打ち倒した。
その後、ハルト達は王宮に招かれて盛大な歓待を受け、宴の後、礼を言いに自分のもとを訪れたレティシアを言葉巧みに部屋に連れ込み、彼女の初めてを奪った。
鍛え上げられた男の肉体、初めての悦び、そしてハルトの巧みな性技にレティシアはすっかり骨抜きにされ、翌日、父や兄にも告げずハルト達の後を追う形で城を出て――今に至る。
この一月の間に、レティシアあらため『レティ』は大きな変化を見せるようになった。
およそ一週間で一通りの家事を習得し、ハルトが見繕った煽情的な鎧を人目も厭わず身に着け、『ダールグリュン家』所縁の戦闘能力を開花させて敵を圧倒し、ハルトの夜の相手も週の半分以上はレティが勤めるようになった。
まさかあの一夜がきっかけで彼女がここまでの変貌を遂げるとは、守護騎士達はもちろんハルトさえ予想だにしていなかっただろう……。
そして今日も、ハルト達は『闇の書』の頁を集めるため、戦いの気配がある地を求めて一路西に進んでいた。
盗賊や傭兵崩れなども出てこず、ある者は治安の高さに感心しながら、ある者は退屈を持て余しながら、ある者はハルトに自分の
集団の方はほとんどが武器を持っており、剣呑な空気が伝わってくる。
「あれは――盗賊に襲われているのか!」
「久しぶりに平和なところにこれたと思ってれば」
シグナムとヴィータは一言ずつこぼしながら待機形態の武具に手をかけ、ザフィーラも無言で拳を構える。一方、シャマルはまさかと思いながら主の様子を窺った。
案の定、襲われているのが男だとわかった途端、ハルトはどうでもよさそうに体の向きを戻し先へ進もうとしていた。主がやる気にならない以上、騎士達が勝手に助けに行くわけにもいかず、シグナム達は武具を構えながら、ザフィーラは拳を掲げたままの状態で立ち尽くす。
だが、そんな中レティはあちらを向いて目を見開き――
「リッド! どうしてあの子がこんなところに?」
「――えっ!?」
「レティの知り合いか?」
レティの一言にシグナムは彼女の方を振り向き、ハルトも問いを投げる。レティはハルトの方を向き、こくりと首を縦に振った。
「はい。ベルカ各地を巡っている学士で、メルヴィン王家やダールグリュン家、聖王家と親交のある子です。ヴィヴィの親友で、私もあの子を
レティの最後の一言を聞いた瞬間、ハルトはぴくりと耳を動かし再び脇道に体を向ける。そして自身の眼に視力強化の魔法をかけて、リッドという“少女”を見た。
男物の黒衣の服に身を包んでおり、膨らみに乏しい体形だ。だが顔立ちは結構整っており、ドレスなどで着飾ればかなり映えるだろう。レティやシグナムのような豊満な女や、ヴィータのような小児もどきも味わいすぎて食傷気味だったし、そろそろああいう“中間層”が欲しかったところだ。
そう思った途端、ハルトはリッド達の方に足を踏み出し――。
「よし、お前ら武器を取れ! あのリッドって奴を助けに行くぞ!」
「はっ!」
ハルトの号令に騎士達は返事を返し変形させた武具を手に取る。
一方、レティはその後ろで……
「あの子なら助ける必要なんてないと思いますけど」
と呟いていたが、その頃にはもうハルト達がリッドと集団がいる方に向かっているところだった。
「だから、いい加減そこを通してくれないかな。そろそろ村に入って一休みしたいところなんだ」
「いい加減にするのはお前の方だ。金目のものさえ出せば解放してやるって言ってんだろう。普段ならお前のようなガキ一人くらい見逃してやるところだが、最近誰もここを通らないせいで俺達も食いっぱぐれてんだよ」
「だったら盗賊なんかやめて、真面目に働くか畑でも作ったらいいじゃないか。ここで旅人を待ち伏せしてるより実入りがいいはずだよ」
「馬鹿言え! 戦争が始まったら仕事なんかなくなっちまうし畑だって潰されちまう。それに通行人をちょっと脅しただけで金が入ってくる商売、そう簡単にやめられるかよ。けっへっへ」
最後の一言と品のない笑い声を聞いてリッドは呆れた顔をする。正直戦争の話を出された時は虚を突かれた気になったが、しょせんただの屑か。
「さあ、わかったらさっさと有り金と持ち物全部出しな。でないとこいつが当たって嫁が来ない顔になっちまうぜ」
盗賊の一人が剣を持ち上げ、リッドの顔に近づける真似をしながら彼女を脅す。一方、リッドは恐れる様子など微塵も見せず。
「仕方ない。さっさと済ませて村に行くか――」
煩わしそうなため息をつきながらリッドは両腕を掲げる。頭の悪い盗賊達はそれを降参と見なしたのか、下卑た笑いを漏らしながら彼女ににじり寄る。
その時――。
「――はあっ!」
突然あらぬ方から黒い刃が飛んできて、盗賊は体を切り裂かれながら真横に吹き飛ぶ。そこで剣を振るってきた男が声をかけてきた。
「よぉ、危ないところだったな。たった一人を相手に十人以上の男が囲んでカツアゲとは、情けない奴らだ」
「あなたは――?」
リッドは驚きに目を見開きながらハルトに訊ねる。
そこで盗賊達が声を荒げた。
「てめえ、いきなりなにしやがる――ぐはあ!」
何ごとか喚いてるところで盗賊の頭に槍の柄が当たり、賊は地面に倒れこむ。その頭上から――
「ハルト様に汚い唾を飛ばさないでもらえるかしら」
斧頭のついた長い槍を振り回しながら叫ぶ女を見て、リッドは
「レティ様! どうしてあなたがここに――ていうかその格好は!?」
顔を赤くしながら叫ぶ妹分にレティは笑みを向けながら返事を返した。
「久しぶりね、リッド。余計なお世話かもしれないけど助けに来たわ。あいつらを片付けるまであなたはそこでじっとしてなさい」
「なめんじゃねえ、このあまぁぁ!!」
盗賊達は逆上しながらレティに襲いかかってくる。だが――
「『雷帝式九十一式・破軍斬滅』!」
レティは
その横でハルトも黒炎を纏った剣で賊を斬り捨てながら叫んだ。
「レティの言う通りだ。お前さんはそこでじっとしてな。すぐ片付けてやるからよ――はあっ!」
「はあああ!!」
シグナムが剣を振るうと、彼女の剣は連結状の刃になって複数の敵を切り刻む。
ヴィータが槌を振りかぶると、槌は薬莢を吐き出しながら先端を変形させて後ろ部分に穴が空いた形になる。続けてヴィータが槌を振った瞬間、その穴から炎が噴き出し、その推進力で彼女は盗賊達の元へ跳び――
「せやあああっ!!」
ヴィータは槌を振り回して、まわりにいる盗賊達を殴り倒していった。
「でやああっ!」
ザフィーラも太い拳を振り上げながら盗賊を蹴散らす。その勢いに圧され何人かの賊が逃げ出すが――
「逃がさん――はあぁぁ!」
ザフィーラが拳を地面に打ち付けた瞬間、逃げた賊のまわりに白い杭が突き出てきて、賊はそこに閉じ込められた。
「くっ、こいつら強いぞ。ここは誰か人質に取って――」
賊は舌打ちしながらあたりを見回し、非力そうなシャマルに見つけ彼女に襲いかかる。しかし、シャマルは右手を掲げ――
「クラールヴィント」
『Ja』
彼女の指に填め込まれた指輪状の武具が無機質な声を発した瞬間、彼女の前に小さな、盗賊の前に大きな渦が現れる。
思わず足を止める盗賊に向かって、シャマルは右手を振りかぶり――
「後方だからって……馬鹿にしないでよねえぇぇ!!」
彼女が自身の前に浮かぶ渦に腕を突き入れた瞬間、盗賊の前にある渦から巨大な拳が飛び出してくる。盗賊はよける事すらできず、驚きの混ざったうめき声を上げながらはるか遠くへ殴り飛ばされた。
「バカな、俺達がこんな奴ら――女子供がほとんどの連中に手も足も出ないでやられるだと」
やられていく仲間を見て残った盗賊は悲嘆の声を漏らしながら後ずさる。その横から彼女が言った。
「とんだ災難だったね、まさかあんな人達が現れるとは。僕も予想外だ」
「ふざけるな! あんな仲間どこに隠してやがった。俺達を倒させるためにどこかに潜ませてたんだろう!」
レティと話していたのを聞いていたのか、盗賊はそんな言いがかりを付けてくる。リッドは呆れながら首を横に振り。
「そんなわけないだろう。君達ぐらい僕一人でなんとかなったしね。それでどうする? 今のうちに降参した方がいいと思うけど」
「抜かせ! こうなったらてめえだけでも道連れだぁ!」
せめてもの悪あがきに盗賊は剣を振り上げながらリッドに襲いかかる。対して、リッドは驚くそぶりもなく腕を構えた。
「『鉄腕』解放……」
「死ねええええ!!」
リッドの両手に黒い手甲が装着される。それに気づかず賊は彼女に向かって剣を振り下ろした。
だが次の瞬間――。
「シュペーア・ファウスト!」
リッドは一瞬で相手の懐に潜り込み、彼の腹に黒い魔力を纏った右手を叩き入れる。
それを喰らった瞬間、相手は仰向けに地面に倒れ、体をピクピク痙攣させながら意識を失った。
リッドはそれを見下ろしながら横にいる盗賊に目を向け……
「まだやるかい?」
そう訊いた瞬間、盗賊は慌てて背中を向け――
「お、覚えてやがれ!」
ちんけな捨て台詞を吐きながら盗賊は逃げ去っていく。
それを眺めるリッドの後ろからひゅぅっと口笛が上がった。
「なかなかやるじゃねえか。余計なお節介しちまったかな?」
ハルトは背中に剣を担ぎながらそんな言葉を放つ。その後ろには守護騎士四人、そしてレティの姿もあった。彼女も含めて、皆怪我らしい怪我などしていない。
そんな彼らにリッドは笑みを浮かべながら言った。
「いえ、助かりました。あの人数だと不意打ちを受ける可能性もありましたし。ところであなた達は? レティシア様とお知り合いのようですが、メルヴィンの騎士様でしょうか?」
その問いにハルトはいやと首を横に振り。
「俺達は各地を旅してる流れもんだ。一言でいえば“冒険者”ってやつかな。レティとはメルヴィンにいた頃に知り合って、色々あってこいつも一緒に連れて行くことにした」
その言葉にリッドは驚きのあまり「えっ?」と声を漏らしながらレティを見る。そんな彼女にレティは笑みを向けながら大きく頷いた。
「はい。ハルト様にお願いして私もご一緒させていただくことにしました。王族としての地位も『レティシア』という名も捨てています。ですから今後私のことは『レティ』と呼んでください。様もいりません」
「はぁ……ちなみにその衣装は?」
リッドの問いに、レティは胸の形がくっきり浮き出た胸当てに手を乗せながら答えを返した。
「これはハルト様が私のために見立ててくださった鎧です。他にも数着予備があって、外に出ている時は常にこれを着ていますね」
「……」
露出度の高い鎧を誇らしげに自慢する姉分を、リッドはあんぐりした顔で眺め、そしてもの言いたげな目をハルトに向ける。その視線を涼しそうに受け流しながらハルトは言った。
「まっ、詳しい話は後にしようや。お前もこの先の村に行くんだろう。俺達と一緒に行こうぜ」
「ええ、ぜひそうしましょう。私も久しぶりにリッドとお話ししたいわ」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」
手を握りながら促してくるレティに、リッドはおずおずと返事を返す。
その一方で……
――レティ様、もしかしてハルトって男に騙されてるんじゃ。昔から騙されやすいところあったし。シュトゥラに帰るまでの間に、この人達と縁を切ってメルヴィンに帰るようレティ様を説得しないと。あるいは……。
リッドはレティの横を歩いているハルトを刺すような目つきで睨む。
――あるいはあの男をぼこぼこに叩きのめしてレティ様から引き剥がすか……。
ハルト達の後ろでひそかに右腕を持ち上げながら、ヴィルフリッド・エレミアはそう決意を固めていた。